003.魔術ギルドで会った人だろ?
西暦2036年、エーテロギア暦第2期956年熱風の月29日。西方王国連合ローラント市内にそのゾーンとシャウトチャットを織り交ぜたログが響き渡る。
<<この者、東方所属「B太」は西方所属の『コラーダ』様に対しデルタでの再戦を希望しています。快いお返事をお待ちしております、これは果たし状です。>>
この発言はここリアル3日間のコアタイムに一定間隔で流している。さすがに自分でこれを言うのはちょっとと思ったビータであったが、ギルマスが「ロドリコはその為に付けた、恥ずかしいチャットや捜査は任せてしまえ。」という訳で文字チャットログの発信者はロドリコである。
話はリアル三日前に戻る。
このゲームではウォーデルタ地帯以外の渡航は自由である、東方から西方へ入るには首都デイハンから竜船という飛行路を使い西方首都ローラントへ入る事が出来る。一応海路でも西方へ入国出来るのだが、そのルートは船自体がレイドクエスト『シーサーペントフェス』という野良(無関係な人)でもわいわい楽しめるコンテンツなのでまず参加しないし使わない。余談だが、西方から東方へ向かう船は『幽霊船討伐』というレイドクエストになる。
その竜船に揺られながらロドリコが言った「先輩先輩!今ウォーデルタの真上ですけど、こっから爆弾落としたら攻城とか余裕なんじゃないですかね。」と夢の無い事を言うのでこいつに夢を与えてやる。
「世界設定の人竜共生協定の中に、竜使役に際して揚陸空挺と爆撃は禁止とするという設定があるんだ、そこはちゃんと竜の竜権を尊重してやるべきじゃないか?」と諭してやるが、
ロドリコは興奮しながら「でもあいつらNPCっすよ!Mobっすよ!経験値っすよ!」と生意気な事を言出だす。
よくわからない興奮をするロドリコを自分は窘める、「竜はわざわざ南方の果てのサーバの限界山脈(正式名称忘れた)から来ているってことになっているんだ、つまり出張サービスだよ派遣社員だよ、そこで竜のブラック使役はいかんでしょ。」
そのブラックという古来より伝わる暗黒ワードに気おされたロドリコはしょんぼりしながら「大人の世界はわかりませぬ…。」と呟いた。
「いや、俺だって知らないよ、まだ現役の学生だし。」としょげるロドリコをフォローしようとするが、
ロドリコは突如ぱっと明るい顔をして目を輝かせる。実に表情豊かな奴だ、例えそれが獣人の顔でもよくわかる、現実だって犬猫にも表情があり飼っていればそれが分かる、そんな感じだろう。
「先輩も学生だったんですね!僕もまだ学生でさぁ。」と言うが、このキャラでいい歳の人だったら今後の旅路がきつい。
「うん。しかし、このゲームの環境を揃えるには学生はとても苦労するな、子供向けのゲームじゃないからユーザーは年長者ばかりになり、その結果が今の現状に繋がるということだなあ。」はぁと自分は本気で溜め息を付いた。
「先輩、その溜め息めっちゃリアルっす。」「本当に溜め息付いてるんだよ。」
ほどなくして墜落イベントも無く竜船がローラントの空港へ到着した。
西方王国首都ローラントの人口は多い、西方東方南方で分けると西方は最大のプレイヤー数が所属しており、その首都ローラントは更に人口密度が高い。
その人混みに対して「うへぇ。」と自分は気後れする。よくウォーデルタ戦争にて西方王国は他国の年長者達に「ホルかよwww」と言われるくらいの物量戦略を誇る、が、弱い。ただし、このゲームのウォーデルタ地帯は200vs200vs200の大戦も耐えれる強固なサーバな為に、ほぼ常にMAXの200ユーザーを戦地へ投入してくる西方は他国にとって実に脅威である。コアタイム外の時間はまず西方がその物量差で勝ちに来るからだ。
更に驚くのは西方勢力で選択出来る種族のローランダーという人間種である。このローランダーは体が大きく身長も高いそして一番多い、これに対する種族は東方だとトロル、南方だとオークといった具合に人間種では一番のパワー型である。
あの時戦ったコラーダも長身ではあったが、あれは恐らくローランダー女の最小のボディ設定だと思う。それに比べてビータは種族がノーマッド、三国の人間種では一番バランスの取れた戦闘型だ。
しかし、種族による補正も真面目に検討しないといけないな、人間辞めてトロルかドワーフの物理特化にしようかなとも思う。でもノーマッドの魔法戦士は実に捨て難い。
あれこれ考えている内に横にいたロドリコが例の定型句チャットをゾーンとシャウトのチャンネルで発信した。するとすぐに数件の囁きチャット(特定の人間に対するチャット)が来たらしい。
曰く、「我等ピータンパーズもお姫様の行方を捜しているんだよぉ↑。」これは恐らくにょっきり大臣だろう。他に「突然消えたのだからゲーム外からの捜索もありじゃないかなsympaxiとかは調べた?」「女性の私生活を調べるのはアレですが、私達も手を尽くして探しています。」等である。
こういった情報を受け取ったらしいロドリコは素朴な疑問をする。「冷静に考えると4日5日ログインしないなんて普通にありなんじゃないですかね、リアルで忙しいとか。」
その可能性も考えたが自分なりの考えで答える「いや、コラーダという人は毎日ウォーに来るウォージャンキーで、しかも周囲との連絡やPvEもマメに手伝っていたと聞くから前置き無しでいなくなるような人物ではないかな、それも所属しているギルドのマスターにに一言も言わずにだ。」
そして続ける、「ただ、これといって本当に親しい人物が一人もいないらしい、これが一番の問題だ。スパイの話によると元々は仲良し弱小ギルドが解体してからやる気に火が付き本気を出したらしいからな。」
「つまり、人間関係での足かせはまったく無く、突如引退してもおかしくないとですか?」
「うん、それと別の話になるが、ゾーンチャットは結構な範囲で聞こえるのでローラント周辺でロドリコ、君のスキル上げをしながら果たし状の発信でも良くはないか?」と自分は効率的な提案をする。
「お、オイラのスキル上げっすか、ありがとうございます先輩!」深々と頭を下げるロドリコに対して少し戸惑うが。
「君のサポートもギルマスから頼まれている、とりあえずトータルスキルMAXの700まで有用なものを上げていこう。せめてウォーデルタに出れて、もしかするとフェーダワールドも探さなければならないのだからなぁ…。」ああああ、あそこに行く可能性もあるのかよ!と自分は天を仰いだ。
「噂に聞く、「表道でも修羅道を歩むと修羅の国へ誘われる。」という奴ですね、フェーダワールドとかちょーおっかねえっす!」ロドリコがプルプル震えるモーションを取ったが実にあざとい。
ローラント周辺の穀倉地帯で虫系のモンスターとロドリコが衝突している。曰く「オイラは格闘と天然と召喚と信仰ってのを上げるっす。弓と強化魔法と戦術と罠と暗闘と耐性もどこまで取るか悩むとこっすよね!」自分はその珍しくない構成に答えを投げかける。
「複合クラスのウォーデン狙いか、確かに獣人でウォーデンは一番相性がいいかもしれないな、初心者ながらによく辿り着いた目標だ。」と自分が言うとロドリコは『照れる』のモーションを使い「えへへ。」と言った。
ロドリコのスキル上げをしていたら、ロドリコのアイテム欄がいっぱいになったらしいので街へ戻りNPCへ売りに行く。そこで突然後ろからボイスチャットで話しかけられた。
「B太さん、あんたそうさ魔術ギルドで会った人だろ?間違いないさ!」その声に振り返り「誰だお前は。」と答えそうになったがその発言は「だ」で止まった。
その半裸のコスチュームでノーマッド種だろう男は、その見える装備がバシネットという兜を頭にかぶっただけの状態で立っていた。こいつは知っている、「東方の有名人TOP10」に入る変人だ、名を『Sevenscar』といい彼は自分の事を『心に七つの傷を持つ男』と自称していて、東方最強のギルド『ノーザンライツ』に所属している超強い変人だ。
やっべ、あかんやつに目を付けられたと思った。ロドリコは目をパチクリしながらその変人を見つめているがそれに自分は「見ちゃいけません。」とグループチャットで呟いた。
記憶を掘り返してみる。魔術ギルドクエストは確かにやった、そこで彼との接点はなんだろう?その答えは目の前の本人から出てきた。「魔術ギルドクエの最後の星3ボスを一緒に倒しただろおお兄弟ぃ!お兄ちゃんはお前だぁぁ!お前がお兄ちゃんになるんだよ!」と喚いているが、こいつぁ噂通り狂ってる。
ギルド『ノーザンライツ』は恐らく三国最強の精鋭ギルドである、無論最強の理由にはフェードワールドと表ウォーデルタの『皇帝』位を大体独占しているギルドだからだ。寡兵(少ない兵力の事)の時は永久凍土等の巨大ギルドと同盟を組み、フェーダワールドでは頭のおかしい戦術をいくつも編み出す、実際活動はフェーダワールドの方が多いらしい。
廃人集団であると同時にゲーム内金融ゴロでもあり、ユーザー側のデバッカーでもある、無職率100%とも噂される闇の深い集団だ。誘い文句は「お前も失業者にしてやろうか!」だとか。
魔術ギルドクエのラスボスは特殊マップのパブリックボスだったので、クエストを同じ所まで進めていれば野良でも共闘が出来る。ソロだとよほどPvEに特化した構成じゃないと勝てない難関であった、それを二人で撃破した記憶はあるが、まさか相方がこいつだったとは思わなかった。
「な、なんでしょうか。」出来るだけ下手に出る、顔と名前を覚えられる事すら避けたい相手だ。
その変態はいきなりカパっと開けたバシネットヘルメットから顔を半分だけ出す。そして、めっちゃ真顔かつ普通の喋り方で語り始めた、お前真面目に喋れたのかよ。
「はい、先日のコラーダ嬢と貴殿の戦いの動画を見ました、荒削りなれど実に良い戦いだったと思います。そしてお二人の身辺について調べ、ギルドやフレンド内の人間関係の結束がゆるそうだったら是非我がギルド『ノーザンライツ』へのギルド加入枠のお一つを加えてみませんか?と、コラーダ嬢とB太様お二人にお声を掛けたく思い参上しました。」
変態紳士は続ける「我がギルドは無職100%と言われておりますが、実際は学生と無職と不労所得者が主体です。」やっぱり無職じゃねえか。「コラーダ嬢とビータさんは学生だとこちらからの調べが付いております、学生ゲーマーは良いですよね、人生で一番反応速度が早い10代から20代前半をゲームへ向けれるのですから。無論、今回はただの勧誘ですので貴方のその胸に一つこの誘いの花を挿して頂ければと思い参じました。貴重なお時間を取り失礼しました。ではいつかどこかの戦場でまた!」と言いながら半裸バシネットの男は人ごみをすり抜け空港方面へ全力で走っていった。
ロドリコが呟く「フェーダワールドって怖い所っすね。」それに自分も呟いた「同感だ。」
設定
・東方草原帝国のギルド
『永久凍土』東方最多数のメンバー数を誇る、戦争もPvEもよくやるが「内政ギルド」と揶揄されている。他には戦争中にギルマスとその親衛隊が「ボイスチャットで歌いだす。」というパフォーマンスをする、その集団は見た者が信者になるかドン引きするかの二択だと言われている。
『ノーザンライツ』東方及び三国最強の対人ギルド。精鋭なそのメンバーに癖はあるも、戦争という共通意識がある為に結束はとても強い。よく他国から離間の計の為に優れたスパイ戦士を送り込まれるが、逆にそのまま取り込まれてノーザンメンバー化するパターンは多い。このギルドメンバーは皆バシネットという大きな鳥のくちばしが顔面に付いた様な兜か、ペスト医師マスクという頭装備をしている。ちなに首からしたは大体半裸のコスチューム(ビキニ水着や腰みの、ふんどし装備である)である。
・西方王国連合のギルド
『ピータンパーズ』行動派ギルマス『にょっきり大臣』が強く引っ張る中規模ギルド、大臣は本当に「王国の大臣、丞相様」と言われるくらいのカリスマと行動力を持つ。大臣を倒せば王国のZerg集団は壊滅するとも言われている。
『いんぺりある苦労する』中級者の多い最大手ギルドである、このギルドは日夜皇帝位を得る為に苦労している。よくノーザンライツに蹴散らされているが別に弱くはない。たまにコアタイム外で『皇帝』がギルメンから出るもやっぱりすぐノーザンライツに奪い返される。外交ギルドとも揶揄さている。
ギルマスはLa-Ryo-O。いつも仮面をしている戦士、恐らく人類最強クラスでルックスもイケメンだ!
・南方森林同盟のギルド
『シマムラァ』南方最強のギルドである、その地形改変魔法を利用したゲリラ戦術の前には他国からの進行をそこそこ抑えている、そもそも南方はプレイヤー数が最小なのでこのギルドは胃に穴が開くような戦いをいつも強いられている。ギルドマスターは『エールート』その渾名は『森の女王(男)』
・補足:南方のプレイヤー不足の原因は「エルフ使う奴はゲーム飽きるの早い。」からだとか。
『ゴリラゴリラゴリラ』
森林同盟ユニーク種族であるウータンという種族のみで構成されたギルド、シマムラァの地形援護から投擲や弓や格闘、召喚、天然、といった森林地形では優位な戦術をメインとして戦う。このギルドの恐ろしいところは、ギルドメンバーが本当に猿の様にプレイをしていて、その人相は猿同様になり、時折リアルでも「ウホ」とか「ウキー」とか言い出してしまうほどであるという。更にその一番の恐ろしさはその特殊なプレイスタイルを戦場で合間見えた敵が「あのプレイいいなあ!」と惚れ込み同盟のウータンへ鞍替えしてしまう「猿の転向」と呼ばれる現象である。ギルマスは『ゴリラ5号』ギルマス自体にあまり個性は無い。
・設定『人竜共生協定』
太古に人類覇王軍と竜種率いる魔王軍々が争った時代があり、その戦いで人類文明の利器に後れを取った、主に亜竜と呼ばれる種族は大魔王も排出した名門のモンスター群であったが人類に乱獲され、その肉体を兵器に転用され有効活用された上に神々の参戦により戦争の敗北を悟り、竜種は魔王軍から身を引き人類の一部人種に対し不平等条約を締結し人類同士と竜以外の種族で争わせる事に成功した。
魔王軍敗北の理由には『神々の争い』を参照。
その後、しつこい人間種に本気で滅ぼされそうになった亜竜達は竜神から授けられた人間の生息域外の地を得て少子化を目指しながら人類の世界外でひっそり暮らしたり時折労役をしに人の世界へ訪れる。
竜の肉体を利用した利器は『竜炉』『竜心爆弾』『反応竜鱗装備』等があるが、マギラ2の時代世界ではもはやそれを精製が不可能にまで文明が後退している。
亜竜の他には竜人と呼ばれる種族も存在したが、彼等は人との交配が可能だった為に人の血、主にローランダーの血に潜んだと伝えられる。
ローランダーは竜人と交わる以前にはノースマンと呼ばれる種族であった。
マギラペディアより。
・『神々の争い』
太古に人類とそれに寄生する種族が組した覇王軍と、魔王率いる魔王軍の戦いがあり。人類側の環境汚染兵器『竜心爆弾』の乱発とそれを数と暴力で押し込む魔王軍により神々がせっかく作った大地は不毛の地と化した。
これに怒りを覚えた火の神は人類から文明を奪い、利器の神である機械神と対話と和平と司る湖神と激しく対立。
魔王軍を支援する火の神、竜神、死神、天空神と対して機械神、湖神、策神、氷神、歌神が連合を組み抵抗。光と血と夜と果ての神はこの争いを静観。
結果は火と湖と氷がぶつかり合い封じられ、山神や星神等が生まれる事になる。
竜神以外の神もその戦いの影響で戦や運命、時空といった神々へ変異した。
古来のモンスターや人類は皆共通語を喋れたが、歌神により一部のモンスターや人類を除いて『会話』の力を封じられる、これにより滅びた人種もモンスターも多い。
汚染された大地はエルフやオークの使用する最上位森林魔法『環境変転魔法ユグドラズル』により汚染除去に成功。
これにより森林魔法を得意とし敵対関係であったオークとエルフの間に同盟が生まれる。
しかし、汚染を吸収しすぎ暴走したユグドラズルはその後、自我を持ち森神の位を得るまでに力を付けるが皮肉にも守ったはずの人類の手によってその肉体である大木を切り倒される。
マギラペディアより。