014.裏世界より
門番の月2日。神々の選挙戦が終わり少しの日が過ぎた頃に、もうウォーデンとしては一人前だろうロドリコからいきなり詰め寄られる。「先輩、避けてまっすよね?」
自分はギクリとした、思い当たる節は二点。
1つ、お前は果たし状の件を忘れているだろう?それは否。
実際の所はこの問題の2つ目である、果たし状をの件をこなす為の最後の難関から逃げているのだ、それは自覚している。
だが心の準備が出来ていない、「な、なんの事だねロドリコ君!」と自分は見え透いた虚勢をこの獣人の後輩へ張った。
そんな意地っぱりな自分を見てロドリコは『先輩のいくじなし、まるで怯える豚ね。』みたいな目で見つめてまくし立てて来る「先輩、ボクもそこそこ戦えて足手まといにならないくらいになったと思うっす。」
「お、おう。お前の成長ぶりはたいしたものだよ、むしろ強すぎるんじゃないですか?と思うくらいだな。」こいつの成長速度は尋常じゃない、後輩をあまり持った事の無い自分でも分かるくらいだ。
「表の三国も回り尽くしたっす、ウォーデルタでも目標を捜したっす。しかもネタ的にも世間から果たし状の件も忘れさられそうっす。だけど、まだ旅立っていない場所があるじゃないっすか!」とロドリコは『空の彼方を指差す』モーションしながら「さあ、共に旅立つっすよ先輩!暗黒世界へ!」と言い放った。
フェーダワールド、その世界は表の鏡世界。
あそこには自勢力を守る城は皇帝城のみしかあらず、自分達で作った村や元々ある街を拠点とし、三国家の勢力ではなく参戦時に登録したギルド間で戦いを繰り広げられていて、仲間への誤射が存在し制圧地のNPCも村民NPCも売り子NPCも自分達で用意しなければならないサービスの欠片も無い土地。
そして、苦労してシムシティした街も村も敵対ギルドに襲われ負ければ人も村も灰に帰る。
「何事も経験だよ、逝って来な少年。」いつものギルドホーム雑談組であるチビパンさんが後ろから嫌な助言をしてくる。
それに倣いキールさんも「南方首都を手に入れたから多少安全に探せるだろ。何、死んでも表世界のコピー装備を少しはがされるだけさ。」とこちらもネガティブ方向な応援。
一方フェーダ篭りのSIVAさん曰く「シマムラァゴリラ連合とは休戦中。ノーザンライツとは連合中。『いんぺりある苦労する』には話が通じる。裏世界の三国史は山賊くらいの脅威しか今はないよ、探すなら今だぞ少年。」本当かよ、裏世界平穏なのか。ならば腹をくくる時が来たか。
「さあ、先輩行くっすよ。所でどうやって行くんすか?」とロドリコが急かしてくるも、フェーダワールドは初心者さんがうっかりこの修羅の世界へ行かない様に少しユーザーインターフェースの目立たない場所へジャンプメニューがある。
「ああ、まずはメニュー画面を開いてウォーデルタとデーモンズコロッセオの表示が出る画面の一番下に『フェーダワールドへ旅立つ』、というのを選択すると『参戦するギルドを選んで下さい』と出るので…」
「ああ、これっすね、所属ギルドは永久凍土でポチっとっす。」
「すると勢力は現実時間で1週間は変えれなくなるからな、ギルド抜けでの勢力変更対策もされているから寝ぼけて変な参戦ギルドを選ぶと面倒になるぞ。」
「ネットゲーは寝ぼけながらやると取り返しの付かない事多く起きるっすよね、ショップで一桁間違って売ったり買ったり。」「ああ、眠い時と風邪を引いてる時のネットゲーは本当にロクな事にならないからな。」こいつも過去に何かやらかしたんだろうなぁ、しんみり。
この選択から数秒後、二人はフェーダワールドへ吸い込まれて行った。
フェーダワールド南方首都フィルモア、支配ギルド『永久凍土』。表世界では何回か来た都市だが、こちらのフィルモアは紺碧色の布地にハンマーとクレバスのマークが入ったギルドマントに身を包んでいる衛兵NPCだらけだ。
永久凍土は規模こそは大きいがフェーダワールドの戦闘員は少ない。大体のフェーダ人はフェーダ専用ギルドに入り『ゴリラゴリラゴリラ』や『ノーザンライツ』や『いんぺりある苦労する』といった表裏列強ギルドと日夜しのぎを削っている。その為に大手ギルドはどこもかき集めた強力な財力を使い、制圧下の各都市の防衛はほぼNPCで維持されている。この世界は金貨と人手を無尽蔵に吸い尽くす。
到着して早々にロドリコがもはや懐かしいとも思える果たし状の定型文をゾーンチャットで流す。
その問いかけに、このサツバツワールドから少し反応があった。しかし、内容が
「まだ捜してるの?」
「フェーダにいるかねぇ。」と言った寂しい返事だったが、めげずにこれを続けなければならない。
ゾーンチャットはある程度ログが流れる範囲が区切られているので、ここからのゾーンチャットが届かない方角へ向かいまたゾーンチャットを流さなければいけない。二人はまず北西を目指す事にする。
西方王国方面。表の世界なら西方人達の土地であるが、今はゴリラとシマムラァ連合ギルドがおおかた制圧している。よく「ゴリラが裏の中原を取った。」と言われ天下ギルドの様に言われているが。世界の中心に有る難攻不落の皇帝城がある限り実際の皇帝位は変態達の玩具のままである。
フェーダの転送施設は『自ギルド及び同盟ギルドが保有している転送施設』同士でしか飛べなく、他の瞬間的交通手段は召喚魔法でのサモンポータルで詠唱者の村や所属都市へ飛べるくらいだ。
つまり、裏南方首都から裏西方王国への旅路は騎乗の歩みとなる。
ゴリラ及びシマムラァとは休戦状態であるものの、同盟ギルドではないので直通テレポートコアは現在無い。
自分はゲーム内金貨で買える栗毛の馬に跨り、ロドリコはボーンビーストから元の巨大リスに復活を果たしたバビエカへ跨る。
その道中に村を一つ見つけた、恐らくハウジング遊びか監視施設のどちらかだ。
位置的に恐らくは後者だろう。「先輩、燃やしちまいましょうか?」とロドリコがいきなり怖い事を言い出す。
そういう無闇にヘイトを増やすプレイは止めて頂きたいので「メッ!」とだけ言っておく。
遠巻きにその村を見ていると中からウータンが3匹飛び出しこちらへ向かってきた。
まずい、休戦が成立しているはずだがゴリラ系は信用出来ない。
あいつらは人でありながら人の道理は通じない獣なのだから。交戦の可能性は大。
「ロド、合図したら真っ直ぐ真西に走るぞ。」と強張った顔だろう自分に言い聞かせるのを含めてロドリコに即座行動の意思を示す。
「うっす。」ロドリコは短い返事をした。
恐らくウータン達はこちらをペアの山賊だと認識していた様だ、その証拠にウータン達が取った行動は地形改変魔法による防衛行動。
「ギャッキャアア!!『世界の合言葉は森!』」
目の前に青々とした森林が突如出現する。しかし、その地形改ざんスキルには大きな弱点がある。
孫子曰く『三十六計逃げるに如かず』らしい、今それを実践しよう。
「逃げるんだよおロドォ!」「うっす、待ってください先輩。」
ウータン達があの複合スキルをした時点で自分達の生存は確定した。
あの術が使えるという事は3人とも森神召喚天然だ、それを取ってしまえばトリッキーな戦い方は出来るが攻撃力か防御力を酷く落とす構成になる。
快走する自分達を見たゴリラはピクッっと一瞬固まった後に弓を構え始め弓スキル90『曲射クロスアロー』を放ち始めた、曲射クロスアローは敵の足元に矢を十字に突き刺し、対象がその矢に歩きながら当たるとノックダウンを受けるという引っ掛けトラップの一種だ。これはジャンプをするか盾スキルの逸らすスキルで回避できる、自分がロドリコを庇う様に動きロドリコがジャンプをし矢の足がらめを避ける。「先輩、横スクロールアクションっすよ!」と叫びながら走っているが今の自分に合いの手を入れる余裕は無い。
自分は戦術スキル0番の『戦術撤退』とスキル40の『中央突破の陣』を発動しグループの速度ボーナス70%を受けながら全力で逃げる。ウータン達は追いつけない、戦術撤退は武装解除しないと発動しない上に速度ボーナス50%だ。これに追いつく方法はまずない、あの防衛主体のスキル構成では無理だろう。
もし追いつけるなら戦った場合にスキル構成上で3対2でも勝算が出る。
森神戦術天然の組み合わせは防衛において無類の強さを誇るが、逃げながら戦う相手には不利である。
敵のCCを警戒しながら思い切り西へ向かうと小さな森があったのでそこへ逃げ込む。
あいつらは自分達の召喚した森林では滅法強いがこういう天然の森林だとあまり強くない。
諸説あるが、恐らく木の配置間隔が召喚魔法とは違うからだと思う。これで一息付いた。
「先輩、ここからどう向かいます?」とロドリコが基本的な質問をしてきた。
まず、休戦や話が通じるという事前情報は微妙に役立たなかった。
んー、と少し考えてから「ステルス重視で西方首都ローラントへ入る。NPC衛兵から攻撃は受けるだろうからしゃがみながら近寄りゾーンチャットを流す。今ここで一回流してみても良いと思う。ロド、頼んだ。」と自分は作戦をスニークアクションチャット垂れ流しゲームを想定し進む事に決めた。
「うっす先輩」とロドリコは答えてから例の果たし状定型句を流す。
すると隠れている森の北からエルフとオークとストライダーの軍勢がこちらに迫ってきた、まずいさっきのウータンから報告が流れて迎撃隊が来たか?轢き殺される!
その軍団のキャラ名の下には全て『シマムラァ』と書かれていた。彼らはこの森に入る手前でシャウトチャットにてこちらへ呼びかけてきた。
「果たし状の人よ!我々は王女陛下より貴殿の護衛を承った者達だ!まずはゴリラ達からの誤解を詫びるのと、騙し討ち無しでのローラントへ案内申し出をさせて頂きたい。」
大王様は人間が出来てるな。流石三国一人間が出来たエルフと言われるだけある。タイミングが良すぎるのはもしかしてウチのギルマスがまた裏で手を引いているかだろうか。
この裏世界では人の言葉は信じられない。
しかし、ここまで包囲されてしまっては打つ手はあまりない。時間もあまり掛けたくないので騙し討たれるのを覚悟してロドリコに目で合図をしてから前へと『手を上げる』モーションをしながら二人で森から歩み出る。
シャウトチャットで一応「騙まし討ちは無しだぞ?」念を入れながら進む。
「無論ですとも有名人!肩を揉もうか?それとも荷物を背負おうか?」とシャウトをしてきた頭目らしいストライダーがシャドウボクシングをしながら変な口調で喋りだした。
お前、いつぞやの罠エルフかよ。
「この変な言動は覚えがあるっすね。」とロドリコも気づいた様だ。
「じゃあ行こうか有名人、悪いけど西方でゾーンを流し終えたらもう護衛は出来ないよ。こっちもやる事が多いんだ、三国史化すると動員数が必要になるからね。」
と言ったストライダーは先導する為に馬に跨ると思ったら馬上に垂直で立ち、シャドウボクシングをしながら「ついて来て!」と言い、馬をそのまま走らせ始めた。
え?どうやんのそのバグ。
設定
・フェーダワールド その2
フェルッカもいいけどシャドウベインとジャンクメタルみたいなサツバツワールドの方がおもしろそうな設定かなと思えてきた。情け容赦ない同士討ち有り。勢力はギルド単位。死亡時の装備ドロップ少し。押し込み強盗可。都市焼き討ち有り。そうなるとMAP上のどこにでも村を作るシステムが欲しいな、それを採用しよう。
ハウジング機能もフェーダに入れよう、焼き討ち?無論あるよ「これから毎日家を焼こうぜ。」とか「お前がいるから街が燃えちゃうんだぁ!」とか叫べるゲームがまたプレイしたい。
・皇帝位について
1.表の戦争で皇帝城を保有しているギルドメンバー内から指名出来る、別にギルマス以外でも皇帝になれるので実績解除の為にコロコロ皇帝を変えれるが、週に一度しか指名出来ないとされている。指名者はギルドマスター。
2.フェーダワールドの皇帝位。これも表と同じ。ただし、フェーダワールドの皇帝はフェーダワールドのみしか効果が無く、表のウォーデルタ皇帝も表世界でしか効果が無い。実績名も微妙に違うのでこっちもよく皇帝位の実績解除回しをされる。
10/10 改定
・馬に垂直立ちして走る、馬も走る。
某MMORPGのベータから今まである不思議表示バグである。
お金もかけてるしこまめなパッチやバグフィックスをしていてもマヌケかつ個性的なバグを残す場合もあるんだなと痛感させてくれる。