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破壊機械~白銀の四肢と世界の記憶~  作者: 祭 竜之介
第二位の仕事
4/48

【家族《ファミリー》】1

 マモル達の家には作業室と会議室を兼ねたガレージが存在する。というのも、彼らの家というのは岩壁にたまたまできた洞穴を埋める形で作られている。奥行きは十分あったため、60メートル四方の鉄製の施設ができた。その建物の真ん中、同じ鉄製の丸テーブルと四つの木製机を埋める人物たち。

「ふふふっ。マモルン、ズタボロっ」

もう少しで高笑いをしそうな勢いのハカセ、その視線はマモルに向けられており、彼の苛立ちも募る。

「…うるせー。とっとと会議を始めろ」

「「……ごめんなさい。」」

 肩を落とす二人の少女とそれを向かう少年とメガネ。そのうちのマモルは額やら頬に無数のひっかき傷や打撲痕、両頬には小さな、しかし色の濃いもみじが付いており、はっきりいってボロボロだった。

「いいよ、面白いことになったしね。ぷぷぷ」

「ハカセ、いい加減笑うのやめろ、はったおすぞ」

それに、お前が二人に浴室のロックの開け方教えたの知ってるからな!?マモルは声を荒げる。

「ごめんね、……でも今の君、相当、滑稽」

「…うっせー」

          ★

 そんなこんなで、マモルたちは机の周りに座っていた。ハカセは机の一角に電子キーボードを出すと、

「ゴホン」と一つ咳払い。「では今から、君たちの依頼の内容確認会議を始めるね」とメガネを一度押し上げた。ハカセの真面目な好青年ぶりとは裏腹に、「「はーい。」」という可愛らしい声がガレージに響いた。マモルも頷く程度で十分だった。

「じゃあ、その前に二人の義肢の修理からだね」

「「うん」」

 今は食事を済ませている二人、作業用義肢をいつまでも付けている必要はないため外している。小さな肩から覗くのは機械義肢を取り付けるための銀色の差し込み口だった。そしてこの場合、流石に双子の修理のために料金の発生はない。家族料金というよりもコミュニケーションの一環としての整備、くらいの認識だからである。

「じゃあ、測定はもう済ませてあったし、それなりに製作もしてるから最終的な神経接続はマモルンに任せるね」

「おう」と短い返事をすると立ち上がり、壁側面に備え付けられている作業台からすでにあった義肢を四本を抱えて再び鉄製丸テーブルに戻ってきた。

「まずはどっちからやる?」毎回この質問をするが、双子の応え方は決まっている。

「はーい!わたしわたしっ!わったしっからー!」

案の定真っ先に反応したコトネ。ココネの方は無邪気な姉の様子がいたく気に入っているようで、嬉しそうに「はい、お兄様。是非ともコトネからお願いします」といって最初を譲った。

「はいよ」

言うと、マモルはコトネのそばに寄り、義手で右手の切断部分を持ち上げた。

 切断面、と言っても生々しい傷跡があるわけではない。肩より向こうはないが、代わりに手術によって損傷個所周辺に皮膚との拒絶率が低い皮肢金属(ひしきんぞく)と呼ばれる現代素材を使用され覆っている。末梢神経に直接電極を貼り、皮肢金属でつなぐ。後は義肢所有者の骨にコンセントのような穴を開け、周りは同じく皮肢金属で覆う。義肢を繋ぐと電子基板の回路へ伸びていき接続は完了する。その際、義肢の感覚誤差をなくすため、最後の調節は本人の感覚とマモルたちの微調整で決まってくる。

「それじゃあ、入れるぞ」

「うん。優しくしてね」

「…変な言い方すんな」

そして頬を赤らめんな。とマモルはツッコミしつつ作業を続けた。少し視線を向ければ、ココネが小悪魔のように少し歯を見せて笑っている。こういう時、おおよそが彼女の悪巧みだった。

 ともかく、ガチャリ、と義手と断面は繋がり、同時に「ギニャん!」と声が漏れた。

「だから!おかしな声出すなやって!」

「だ、だってぇ兄ちゃん。優しくイれてくれないんだもん。」

「…。(なんで“い”だけ強調した?というか、あ、ヤバいなこれ…。)」

 マモルは背後からの禍々しい視線に気づいて冷や汗を流す。完全にココネが怒っている。肩を震わせ、うつむいている。両手は怒りのあまりか、こちらでも振動が伝わってくるのではないかというほど震えている。ここは計算通りではないことを示していた。

「お兄様」地の底から聞こえるような低い声、「あんまりおいたがすぎないように」徐々に顔を上げていくココネ「お願いしますね!」と、マモルと目を合わせたココネは、満面の笑みだった。その笑顔が逆に、不気味さを醸し出している。

「あ、ああ。わかってるし、今から調節するから、さらにこそばゆくなるぞ」

「う、うん」

口を両手で覆うことにしたコトネの了承を得ると、マモルは義肢の触診を始めた。

 マモルたちの作った義肢は、完全感覚相対義手(パーフェクション・アーティファル)と呼ばれ、手だけでなく二の腕ににあたる部分などすべての箇所で本人の感覚として伝わるようにできている。これは圧縮金属技術の応用であり、マモルとハカセが特許を取得している技術でもある。伝える感覚は用途によって調節することも可能で、例えば鍛冶屋などの熱を扱う現場で働く人物では感覚は鈍く設定し、また目の前の双子のようにある事情で危険が付き纏うような人物には感覚をなるべく鋭敏に設定している。この調節がなければ双子の場合はきっと無理をしてしまうからだ。

「それじゃあ、検査開始だ」

「うん」

 マモルは自身の義手を動かし同時に操って片方をコトネの義手へ、もう片方を義足へと運ぶ。切断面に近い方から順に撫で、外側を撫でたら今度は内側。そうして這うように指先で舐めるように検診を続けていく。この一連の作業は三年間続いているのだが、ココネはこうして撫でていくと毎回「あ、あはははははっ!はは、にいちゃん、ははは。」と耳元で大声で笑っている。そろそろ恋も経験してそうな年頃なのに大丈夫だろうか、と無用な親心抱きつつ、そろそろ聴覚の限界を伝える。

「いい加減にしてくれ…耳いてーんだけど」

「だって…あははは!」

まあでも、とマモルは義肢の指先まで到着して手を放した。

「これだけ笑うのなら神経接続は十分小さい誤差で済んでるな」

「うん、ははっ、そうだね」

机に身体を預け、熱を帯びた体内を休めるべく、ぐったりしだしたコトネ。汗の滲んだ肌と潤んだ瞳は(笑いで)、マモルを押しのけた妹には好感触だったようだ。脳内保存をすべく、目を皿のようにして見つめている。

マモルたちには既に見慣れたココネの『姉LOVEモード』、このまま彼女は話しかけなければ、二時間や三時間など延々と続けていることだろう。

 その様子にため息を一つ吐き、

「…じゃあ、次はココネな」

双子の姉妹という枠を軽く超えそうな勢いの愛情に呆れつつマモルは言う。

「はい」

ふり返った彼女は、どこか艶めかしい微笑みを浮かべていた。

          ★

 コトネは、見ての通りの活発女子であり、ほんのりと焼けた皮膚もアウトドアさを物語っている。運動神経もいいが、飽きっぽいところもあり、いい意味で素直な反応が出来ている。

 それに対しココネは、その大人しげな見た目からは想像もつかないが話してみたり何日か過ごせばわかる。彼女の妖艶て小悪魔的な魅力を、実際マモルの接続とその後の触診では、コトネとは大きく違う反応を見せた。

 まず、接続時。コトネは「ギニャん!」だったのに対してココネは「あぁん!♡」と言う反応だった。さらに触診時も度々「んっ…んん…ん。」という押し殺したような喘ぎ声が聞こえる。

「お、おいコラ…いい加減に、しろや。」

「? はて?何のことでしょう?」

頬を仄かに染め、指を噛むようにし、肌に汗を滲ませたかと思えば、マモルが話しかけた途端けろりと白をきる。

「…。」

 マモルは、コトネが決して嫌いではない。が、こういう人を試すような話口調が苦手ではあった。それは双方自覚している『互いを家族とは完全に思えない気持ち』の表れであると言える。それもそうだ。この二人は、もっと言えば、双子以外は全て、本当の家族とは言えないのだから。この時代、そんな例は決して珍しくなく、帰る家こそ同じだが、実際の血縁関係のない事例など数多ある。何しろ世界の人工の3分の2を占めていた成人と言う存在が一時的に亡くなり。残された子供たちは生き抜くために時に依存し、時に利用していくことでこの八年間を生き抜かねばならなかったのだから。

 話を戻し、今のマモルからしたら、ここでコトネの言動を指摘すれば、それこそ彼女の思うつぼだった。「なにを妹で(よこしま)なことを考えているのですか?変態ですか?ロリコンですか?」と怒涛の毒舌が飛び交うこと必至である(本人談)。

「なんでも、ねーよ。…よし!ここまで感覚誤差はないな!」

「はい。………まあ大丈夫です」

はい、と言った後から間があったのが気がかりだったが、そこは流す方向でいく。

「ならいい、…はあ…疲れた。」

 ドッ、っと席に着くと、「ふう…。」と体の力を抜いた。

「お疲れ、マモルン」

「ああ、ほんっと疲れた」

 自分でも信じられないほどの疲労感を感じ、マモルは机に突っ伏した。

「…あとはハカセに任せるよ。依頼内容はそっちで聞いて」

「はいよ。じゃあ、二人とも。仕事の話しよっか」

「「はーい」」

ここでは、双子を家族でとしてではなく"白の団の二人”として見る必要があった。

          ★

「それじゃあ、会議を始めるよ」

「ええ」

「といっても、わたしは何のことだか覚えてないんだけどね。」

出し抜けにそんなことをいうコトネ、しかしそれがまるでそう言うシナリオであったかのように、コトネが続く。「…と言うことなので、私がご説明いたしますね。」

「うん、大体わかってたよ。」

 ハカセはにこやかに答える。見た目通りの活発少女であり、脳は体を使った遊びのためにあるような少女のコトネは物覚えが悪かったので、このような重要な事案はコトネが話すことになっている。

「今回の依頼は、私たちの腕の故障にもつながってます」

「そうなんだ」

「はい、今回、私たちはその…ゲームを…行いまして」

「! なんだと!?」

ココネの発言を聞いて、マモルが体を起こした。その様子にハカセは驚いたが、双子は肩をビクつかせて怯えた。マモルの反応が予想通りで内心「やはりか」などと考えていた双子。「は、はい…」と渋々答えるココネと「いやぁー、ごめんね兄ちゃん。」と挨拶程度の謝罪を敢行するコトネ。ここでも双子の違いが出ていた。

「いや、大体予想はついてたけど、やっぱり無理したんだな。今回は『青の団』との演習だからケガはないはずだって言ってたのに」

「? 誰に聞いたの兄ちゃん?」

「え……あ」

 短く言葉を漏らしたマモル。やってしまったと言わんばかりに口元をピクピクさせている。

「ふふふーん。」

その様子をさも面白そうに口角を上げて見守るハカセは、二人の視線がこちらに注がれたのを機にやがて口を開いた。

「実はね、二人が分団長に就任したと知ってからね、マモルン『これからは二人がゲームをしたときは言うように』なんて商売の割引条件に加えたんだよ。ふふふ、兄バカだよねぇ。」

ここで、マモルが立派な建前を言おうものなら、何とか誤魔化すこともできただろう。しかし、血の繋がりはないとはいえ、流石は“コトネの兄”「あ、コラッ!ハカセ!」という焦りを隠さない反応を返した。

「「はああ…!お兄様!」兄ちゃん!」

 目をキラキラさせて、マモルを見つめる双子。マモルの反応から、その話が事実であったことが証明されたのだ。

          ★

 こんな会話があった。

 それは、双子が分団長に就任したという知らせを団長が直々に通話によってマモルに話したことによるものだった。

 通話画面は、義手に着けている携帯通話じゃなく、家に置かれている拳大のボタンのような電話機だ。電話がかかってきて中央のボタンを押すと通話してきた人物の等身大がホログラムで投影される。

 ほっそりとした好青年風の男が映し出される。団長は肩までかかる長い白髪で目や鼻が隠れていた。普段はそんな髪型をしていないため、なぜかと訊くマモルに対し、彼は風呂上がりだと答えた。

 そんな彼はマモルとハカセの二人と軽く世間話をしたあと、双子の分団長就任とその活動内容の説明が主で電話したのだと言ってきた。以下は説明を聞き終えたマモルとハカセの団長との会話だ。

『…つまり、分団長ってのは、それだけ注目されるのな?』

『そう、我々がやってるのはいわゆる大将がいる戦争ゲームみたいなものだからね。分団長っていうのはその時々で大将になったりするよ』

『それって…?』

大将の重要性がいまいち理解できていないマモルは訊くが、マモルの予想通り、曖昧な返事が返って来るだけだった。『キミもやってみればわかるさ』と。

『やらねーよ、それにしても、じゃあ分団長だけで動く場合って二人が狙われんのか?』

『説明した限りだとそうなるね』

『……。』

『? どうしたの?マモルン?』

傍で聞いていたハカセが、神妙な面持ちで通話画面を覗くマモルに話しかけた。

『ああ、いや、その…もしかして、かなり危険なのかなぁ、なんて」

『まあ、それなりにね』

『…そーなると、少なからずあいつらも傷つくよな』

『うん。でも、まあ彼女達が望んだことだから』

『…なら、取引しようぜ』

 マモルは、真っすぐそう言った。目の前の青年は視線で見ることは分からないが、「ふッ」っと口角を上げた気がした。

『取引、ってのは?」

『これから二人が戦うときは俺に情報をくれ、良いなら。代金を少しまけてやる』

『…オーケーだよ』

 それは互いに利のある、取引となった。

          ★

「それで通話が終わったあと、マモルンったらそれはもうホッとした風でね」

「…ハカセ、後で憶えてろよ。」

 マモルは怒りを押し殺してハカセを睨みつける。

 そして、この二人の話を聞いた双子は目を合わせると、一つ頷き、椅子を動かす。よいしょ、よいしょ、とテトテト歩く二人はそれぞれマモルの両サイドに陣取った。

「な、なんのつもりだ?」

「いえいえ、なんでもございませんよ。」

「そーだよ、大好きな兄ちゃんにご褒美だよ。」

「…言っとくけど、俺はあくまでお前たちがケガしそうなときに対処できるようにしただけだからな!治すのは最終的には俺たちなるわけだし?…ホントに…それだけ、だ」

 徐々に目を逸らしていくマモル。といっても、両サイドは二人が見ているため、視線は下に移動したのだが。マモルのその顔は耳まで真っ赤であり、照れているのが目に見えているので、三人の顔はついほころんでしまった。

「い、いいから!依頼を早く述べろ!」

「はーい。わかりました」

「じゃあ、君たちの話を総合すると、演習中にケガしちゃったの?でも、そんな本気になって戦うなんて大団体同士の演習らしくないよね?」

 『白』もそれから『青』もその筋では有名な大団体だったと記憶しているマモルとハカセ。少し頭に血が上ったにしても、頑丈なマモルたちの義手が壊れる程の負担はかからないはずだ。

「ええ、私たちは『青』との演習中に割り込んできた敵の部隊によって不意打ちにあい、双方ケガをしてしまったのです」

「!マジか。」

「それはさすがに驚いたね。君たちの行っているゲームは君たち二つの団の共有フィールドで行っているんでしょ?なら、そう簡単に割り込んでくるなんてこと、できるの?」

「ええ、普段は無理です。なのに、今回はそれが行われた。それについても不思議なのですが、…それはこちらで洗っています。それより、私たちがあなたたちに行ってほしい依頼と言うのは―――「空飛ぶ兵器作ってほしいの!」ココネの会話に割り込んできたコトネは、元気いっぱいに答えた。

「空飛ぶ…兵器?」

ここで疑問を持ったのはマモルだった。興味を持った、ともいえるかもしれない。

「うん!」

「…もう。コトネったら。まあいいよ、そこは憶えているんですね。」

「うん。青が演習で使ってた兵器の中に空飛ぶ兵器があってね。」

「ああ、それなら俺でも聞いたことあるぜ。青ってのは空中からの遠距離攻撃が得意な団体だって。」

「そうなんです。その飛行兵器はなんと、『羽ばたく』んです。」

「羽ばたく?鳥みたいに、ってこと?」

ハカセの質問に、答えるようにココネは続けた。

「はい。鳥みたいに羽が上下にしなるように羽ばたくんです。さらに、停滞(ホバリング)加速(アクセル)も可能な、言ってみればハチドリのような容姿でした」

「「ふむ」」

 二人はほぼ同時に顎に手を当て、考えを膨らませる。

「その画像ってある?」

「はい、演習内容はいつも動画で撮っています。残念ながらお互いの戦力等の情報流出を避けるために動画は持ち出しできませんが、画像はあります」

 といって、空中を横に切るように指を動かすと宙には連動して画像が表示された。

 それを見ると、確かにハチドリのような青い外見、長いくちばしのような操縦室、空気抵抗を受けずらいその長細い体格はさぞスピードが出せるだろうと画像越しでもわかる。

「なるほど、これは確かに、鳥だな。」

「うん、これで羽ばたく構造は…残念だけどわからないね。」

「ああ、だが…できる。」

「「え?」」

目を丸くした二人。一瞬見ただけで、構造の全てではないだろうが把握したようだ。ハカセはその様子に、面白そうに頬を緩ませた。

 マモルの画像を見ている目は、好きなことに夢中になる双子のように目を幼くしてキラキラさせている。

「いける。これの同様の機器の設計をすれば良くて、ハカセは俺の設計の試作機を作ってくれればいいだけだな?それが依頼なんだな?」

「うん。」「はい。」

「それで、製作期限は?」

 マモルは話を進めようと、二人に迫る。こうした依頼には、特に"白"からの依頼には必ず期限が設けられていた。が、二人の答えはマモルにとっては予想の斜め上の回答だった。

「…ありません。」「…ないよ!」

「…は?」

「ないです。今回の件は私たちの夏休み休暇を含んでいるそうなので。私たちをそっちにいる限り、期限は迫らない、とのことです。」

「「なるほど。」」

二人はすぐに理解した。どうやらこれは白の団長のからの『謝罪と償い』らしいことを。つまるところ「君たちからの預かっている人たちを危険にさらしてしまったから彼女たちの好きにさせてあげるよ」と言うことなのだろう。マモルたちからすれば、「この設計が終わったら文句言ってやる」くらいの気持ちでいたために、このような素直とは言い難い謝罪方法をとった彼には複雑な気持ちだった。小言くらいに勘弁してやろうという気にはなる。

「はあ、とにかく分かったよ。彼は相変わらずのようだね」

「そう、だな」

「それで、作った設計は直接届けて欲しいんですって!」

「「えええ……。」」

「そんな嫌そうな顔と声をしないでください」

習うべき人生の先輩たちの表情は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。「兄ちゃんたちもいい加減素直だよね」というコトネの意見ももっともだった。

「あはは、そうかも」

「じゃあ、これで依頼内容の確認は終了か?」

 さっさと部屋に戻って設計をしてみたいマモルは、すでにめんどくささがにじみ出ている。

 同時に、双子も会議終了を待ち遠しいと思っていた。なにせ今日は大切な兄の誕生日だ。

「うん、そうだよ!」机に手をついて立ち上がるコトネ、「では、まずは、今日のお兄様の誕生日のを祝ってパーティーを――」とコトネほどではないが立ち上がったココネもどこか浮き足だっていた、が、当のマモルは、「いや、俺部屋に戻るわ、じゃ。」といって、そそくさとガレージから家につながっている自動扉で出て行ってしまった。

「「……は?」」

 残された三人は呆気に取られて、マモルの去った扉を見つめた。

          ★

 四人が会議と称して依頼内容の確認を行っている間。四人の住む家を岩壁の底から覗く一つの影がある。 影は岩壁が通常平面になっているなか、棘のように区切られた縦の壁から半身で覗いている。

 その様子は景色と同化しているが、僅かにその人物の右手の包帯がちらつく。マモルは気が付かなかったがこの影こそが先ほどのマモルが探索作業中に気配を送った張本人だった。

「ハア」ため息、「やっぱり気が付きませんでしたか。あの人」

先ほどの少年が行っている作業には興味をそそられたが、話しかける気にはなれなかった。緊張していた、という方が正しい。

 誤解しないでほしいのは、この人物は決して人見知りなどではないと言うことだ。それ以外の感情で、話しかけることをしなかった。

「…ま、いいか!そのうち話しかける機会もあるでしょうし!それよりお腹すきましたなあ~っと!」

背伸びをして言うと、その人物はまさしく影のようにふわりと消えた。

          ☆

 静かな邂逅はやがて大きな物語へと進展していくが、今はまだ、マモルも“彼ら”も知ることはできなかった。

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