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破壊機械~白銀の四肢と世界の記憶~  作者: 祭 竜之介
火炎篇
34/48

【戦う理由《バトルズ・リーズン》】3

 赤の領地地下にも当然研究施設や整備施設、医療施設はある。戦闘を観戦もしくは実際に行っていたマモルら一行はその中で医療施設へと足を運んだ。

「――――――ってのが、俺たちの前の隊長たちの話だ。」

西洋風の街とは似つかわしくない真っ白な壁でできた最新の建物。凸型の建物のてっぺんには真っ赤な十字の形、いわゆる赤十字。その建物の中を移動しながら、マモルたちはコウエンとボーガンにこれまでにあった経緯と前任者と別れた経緯を聞いていた。

 もちろん一同が真剣に聞くことで、この医療施設で何が待っているのかを予想することもできた。

「ここだ。」

灯りのついてない廊下の先の壁に突如としてガラス窓が現れた。覗いてみると真っ白な広い空間にただ一つベッドが置かれていた。そのベッドに横たわり眠るように目を閉じているの人物は先ほど話しに出てきた火炎団の前任者・間宮勢(まみやせい)その人だった。

 両腕は四角い鉄のような金属で覆われている。聞くところによると腐食を抑える液体が中に入っており、常時繋がれたホースで入れ替わっている。そして、胸の真ん中から伸びている四本の管の先には壁際に数値を移すモニターに繋がっている。他にもベッドの周りに様々な薬品、器具が並べられているが全て大型の人口心臓に関係する治療器具だと素人目には思うだろう。

「…。」

「……これは、ひどいね。」

ハカセの落胆する声。それに疑問を感じコウエンは質問する。聞かれたハカセは戸惑いつつも応えることを選択した。

「ええっとね。この周りの器具とか薬品とか、全部が全部じゃあないんだけど、実験に使うつもりのものがほとんどだよ。」

「「……え?」」

これにはボーガンも驚き声を上げる。当然だ、マモルたちのような専門知識なしではただ正確な治療が行われているようにしか見えない並びであり、なにより身内が知らぬ間に実験に使われているなど許せるはずが無い、これを行った人物のカモフラージュが伺える。

「君たちには悪いけど、この治療を担当しているのが君らのカガク班の誰かだとしたら、辞めてもらった方が良いよ。」

意識のない患者で無理やり実験を行うなど、とてもじゃないが非人道的すぎる。ハカセの助言にコウエンも信じられない思いがあるのか、しばらくじっとガラス窓のさきを見つめるが、やがて口を開く。

「冗談じゃ、ないよな?」

「ああ、この状況でわざわざ嘘を吐くほど、俺たちは意地悪くないつもりだ。」

「そうか…」

でも、

「安心しろ、そいつが勢さんの治療に関わることは、もうない。」

「「?」」

「お前らが来る前まで、8年間この状態を保たせてたのは、『一位・我村陸(がむらりく)』だよ。」

「! まじか!?」

あのやろう、俺らにあんな友好的な態度とっておいてこんなことしてやがったのか!?一位、仮にもこの世界でトップのカガク力を誇る人間が依頼者の意図を無視して人体実験。これが八年前なら大スキャンダルにも発展しかねない事態だった。

「俺様たちが勢さんの延命のために医者を転々としていると、あいつが事件から半年くらい前にやってきてな。『治療させてくれ』なんて言うから任せてたが…一向に良くならなくてな。」

「確かに、俺たちなら切断したり剥がすなりして腐食をまず取り除く。一位であるあいつなら思いつかないはずもないんだけどな。真面目に治療する気なら。」

「…ああ、いや。そこは俺様たちが原因でもある、はずだ。」

「?」

「俺様たちはあいつに行ったんだよ。『なるべく切ったりせず、毒を抜いたりして対処してくれ』って。」

「なるほどな。」

マモルはいつからその地位に着いたのかは覚えていないが、少なくとも彼が設計士の道を志した時からリクは一位という肩書を持っていた。そんな彼ならコウエンの要求もかなえられたかもしれない。それだけの実力は確かにある。が、そうはしなかった。

「ん?じゃあ俺たちにも同じ要求をするのか?」

なるべく外傷を与えずに、無傷の生還を。マモルの問いに対し、コウエンは首を横に振り言う。

「いや、お前らに頼みたいのは迅速性だ。なにせ時間がないからな。」

「お、そういう話だと今まで何らかの対処法があったんだよね?」

事実、目の前の青年は昏睡状態から目覚めないにしろ、八年の間生かされている。

 両手は毒におかされ、心臓の機能も補助が必要な人物の形状をここまで維持してきた。いくら無許可の実験を行っていたにしろそこは褒めるべきだろう。そして、彼の行った対処法はといえば。

「ああ、陸はこの錠剤を飲ませるよう私たちに命令をしました。それが最善だというのだから断る理由がなかった。そしてそれを渡し次第、彼は姿をくらませました。」

ボーガンは仮想モニターに錠剤の画像を映した。ボタン電池ほどの大きさだが、すり潰して水に溶かせば投与という形で服用できるだろう。

「ほほう。で、残りは後いくつあるんだ?」

「……もうない、せいぜいあと2錠だ」

「まじか。」

「それを飲まないとどうなるんだい?」

「約半日後に心臓の動きが鈍くなる。一度投与を止めてみたときはそれで心臓の循環が悪くなり、院内が一時大騒ぎだった。」

「ほう。どれどれ?ちょっと見してみ?」

顎に義手を当てつつ、マモルはボーガンのモニターを凝視する。

「ふーん。細胞の動きを活発にさせる成分が入ってんな。それに、血液量を増やすやつも。…これ、簡単に言えば興奮剤みたいなものだな。」

数秒で答えを出した。

「後は周りにある器具だけど、うん、こっちは人工心臓と手の装置以外はいらない機械だな。今すぐ抜いてもいいよ。」

「「ま、まじか…。」」

この八年、自分たちはいったいいくつ無駄なことをしていたのだろう。さっきの戦闘もそうだが…。二人はこの数年を否定された気がして、若干ながら肩を落とした。

「さ、後は実際に毒の成分をみてみるぞ!中に入ってもいいんだよな?」

「「あ、ああ…」」

「ん?なんでちょっとテンション低いの?」

          ★

 部屋に入る前に、白衣に着替える。ハカセは常備その格好だからいいとして、マモルはその必要があった。

「こんな時のために、持ってきてよかったね!」

「?俺は最初からそのつもりだったけど?」

「そうらしいね!」

この間、ハカセとマモルは更衣室へ。カイトはすでに自分の白衣を着用済みであり、サンカと一緒に扉の前で待っていた。コウエンとボーガンは、一度病院の外に出て近くにいる団の人間に今までの経緯(イキサツ)を説明して回るっていた。

「マモルさーん、何か私にできることありますかね?」

扉越しにそう言うサンカ。先の戦闘、そしてこれから恐らくするであろう治療に自分が力になれることはなさそうな気がしたからだ。

「ああ!当然あるぜ。」

マモルの回答はそんなサンカの予想を外れ、肯定的だった。なんだかうれしくなる。

「多分、というか絶対、どう治療するにしても俺は設計を書かなくちゃいけなくなる。その間に、ハカセが隣で見てるから、持って来ていない材料をサンカに報告する。それで買って来て欲しいんだよ。それを頼む!」

「はい!(頼まれた~!)私、物覚えは良いですから!」

「マモルンのことなら特に?」

「な、なに言ってんですか!!?」

サンカの顔は真っ赤だが、壁越しには伝わらない。カイトにはバレバレだが。

「地図を暗記してきますので、少々お待ちを!!」

乱暴な足取りで、サンカが出て行くのを感じた。

「……からかうなよ。」

明らかに怒っているのを悟ったマモルは、ハカセに注意をする。

「ごめんごめん。ついね」

この畜生が。

「にしても(…じゃないけど)意外だったね。我村くん」

「なぁにが以外だよ。」

「んん?」

誤魔化すな、といいたげなマモル。白衣に袖を通しながら視線を向けた。

「それにこの際問題視するべきなのは”なんで無許可で行ったか”じゃなく、”なんで間宮勢を選んだか”だと思ぞ。」

「確かに」

激しく同意する。八年前に困っていた火炎団にたまたま会っただけならついこの前までの八年間も一緒にいる必要はない。あらかじめセイの状況を掴んでいたと考えられそうだった。

「行方をくらませたとも言ってたな。」

と言うことは、あの会場であった時には全て片が付いてたんだよな。あんにゃろう

「うん。」

「姿を消したのは実験をやり切ったからだとして、そもそも実験に至った経緯は多分二つのうちどっちか、だろうな。」

「二つ?」

「”治療する前に勢くんと陸くんは何か契約を交わしていた”か”偶然見つけた勢くんに興味がわいた”。前者なら火炎団と出会った経緯まで説明できるわけだ。」

「なるほど。」

八年前から知り合いだったという前提が含まれているけれど、大筋はそれで理解できた。

「ま、人が人を実験対象にする理由なんてもっとあるだろうし、俺の考えが全く的を射ていないかもしれないからな。おい、背中のジッパーあげてくれ。」

「はーいよ」

言われたと通り上へ止めながらハカセは考える。

(君は、前者の方を信じたいんだろうね。)

 カガクシャは物事を合理的に判断する傾向があるが、同時に自身の探求欲を満たしたいという理性的な一面もある。簡単に完全に完璧に、人のことなど理解できないのだ。

          ☆

――――――なあ、陸さんよ。俺が死ぬようなことがあればしばらくでいい、あいつらを見てくれないか?科学者たちに知恵を授けてやってくれ。その代わり―――――。

 その先は思い出せない、思い出さない。

 周りを石で囲まれただだっ広い洞窟の中、頭の周辺を飛び回る浮遊ライトからの青白い光で状況を理解する。

(ああ、寝ちまったのか。)

相変わらず、危機感がない。己がここにいる理由もここへ来た手段も忘れて、悠々寝ていようとは。

(そんな場合じゃないのにな。)

丁度、体を起こそうとした直後だ。広いだけの洞窟はまともな消音効果など望むべくもなく、寝起きの頭を覚ますような咆哮が轟く。それをまっていたリクは、目を光らせる。

「来たか…。」

立ち上がりながら、一つ思い出す。それは、裏切る形になった元戦友のことだった。

(悪かったな、勢。餓鬼どもに教えるなんて、俺には無理だったし、あんたを餓鬼どもの望むようにあんたを救うこともできなかった。代わりに金はとってねーから、それで簡便な。)

そんなことで許してもらおうとするなど、間違っているのは理解していた。

「思えば俺は、いつも間違ってばかりだな…。」

思って、言葉にして、笑いがこぼれた。

 洞窟内で地鳴りが響き、目標としていた獲物は姿を現した。

          ★

「そ、それじゃあ、勢さんの病室のカギをやるから…ハア、ハア、ついてこい。」

「その前に、なんだその泥だらけの体は…?」

「ここへ来る前に、団の子供たちにもみくちゃにされたのですよ。朝方、稽古の話をしていたのを覚えていたのでしょう。」

「な、なるほどね…、」

ハカセも呆れ顔だ。カイトが口を挟む。

「しかし、その格好は…」

こちらも当然、あきれ顔だった。

「「「シャワー浴びて来い」ッス」ね?」

これから、患者と対面し診断するというこの状況で、その汚れは不潔すぎた。

「あぁ……じゃあ待っててくれ、勢さんの診察なら俺様も立ち会いたいからな!」

マモル達を敬う気持ちはあるが、しかしこの場合は引き下がるわけにはいかない。今回の主治医は彼らであり万全な体制で臨みたい、何より時間がない。

「紅炎、彼らはお客人でしたがここでは彼らが一番上です、立場上ね。だから私が案内しますので、貴方はシャワーを浴びてきてください」

「………。」

しばらく不機嫌そうな顔をする。が、セイには時間がないのだ。無駄な問答は省くに限る。

「……分かった」

シャワー中にも状況がわかるよう小型のモニターをボーガンに渡し、足早に浴室へとむかった。

          ★

 ボーガンの網膜承認を得てドアが開けられ、ベッドのセイを診る。

 窓ガラス越しに見たときは分からなかったが、実際にケガの具合を見てみると酷い有様だった。

 心臓を巻き込み背中まで貫かれたケガは恐らく、鈍器のようなものを高速で叩きつけことで与えられたもののようだ。凹んでいるどころか、円形に開かれている。

 腕の毒に浸食は液体を抜いてから取り出して確認する。骨まで数センチという所で症状は抑えられてこそいるが、皮膚は完全に腐り落ちるような爛れ方をしている。骨も密度計で計測すれば麩菓子かと思うほどスカスカ。恐らく、皮膚を義膜にしても骨の具合から日常生活は送れそうにない。

「こりゃ、やっぱり切った方がいいな。」

「うん。でもその前に」

ハカセがセイの首筋に狙いを定め、注射をする。数世紀前からあるミクロレベルでの霧散注射だ。この場合意味があるかわからないが、痛みもない仕様である。

「? 中身は何なのです?」

「本来は心臓と脳の動きを止め、ヘモグロビンの劣化を防ぐ薬品だよ。今回はすでに心臓は人工物になっているから、そこだけ効果ないけど。」

「え?じゃあ…。」

「うん。もうじき、彼は死ぬよ。」

 直後、脳波計が電子音を鳴らし、ゼロの値を示した。

「えええ!!?」

「落ち着いて、ここ病院だよ?大声出さないの。大丈夫、効果は二日だから、それを過ぎればまた動き出すよ。」

「ほ、本当ですか!?」

「全く、ここまで来たら、僕らを信じてほしいね。」

勝手に仮死薬を注射しておいて、無茶な話だった。しかし、これまでの薬を使う延命より、確実なものになった。

「…そういえば」

マモルが口を開く。それを待ってましたと言わんばかりにハカセが振り向く。

「体内へと流れた毒素の治療手段、確立してるんだろ?」

「え…?」

疑問の声を発するボーガンがハカセに目線を移す。マスクをしていながら、目元からにんまりと笑う様子が伺える。「うん!」と一言うなずくとその後すぐに職人の顔になる。

「ボーガンくん。君に撃たれた毒の種類、塩基配列や発症が予想される症状に見覚えがあったんだよ。」

「なるほど、それで治療はここに来るまでしなかったんすね。」

「? どういうことです??」

マモルは当然として、幼いカイトまで理解している状況だがボーガンは理解が追い付かない様子で聞いた。

「この一週間、誰の作ったものかは知らなかったけど、僕の体内でじーっくり分析、検証を行った。今回の勢くんに含まれている毒素と僕に打ち込まれたものは酷似していたんだ。」

「はい、それは私の"蜂"は第一位から贈られたものなので。恐らく、勢から入手したものだろうとは思っていました。」

「うん。そして、僕は体内の塩基配列をいじって解毒を終えているし、その毒素の派生、変異、変質のパターン分析を終えているんだ。」

「じゃ、じゃあ!!」

「うん。すでに腐っている腕はともかく、陸くんがどんな実験を行っていたとしても、勢くんの体内の毒素は100%除去できるよ!」

「なっ……!」

「さあてと、それじゃあ、ちゃっちゃとやりますか!」

          ★

「おい…これは…どうなってる?」

シャワーから出たあと、汗をかかないようにしながらも急いで来たコウエン。

 ドアを開けると目の前に広がっている光景に口を開けっぱなしとなった。現在、セイの病室では以下のような光景が広がっていたからである。

 まず、この部屋にいる誰もが思考ネットを見える設定にしたカイトが、自分達(第3位)のこれまでの診療製作書(カルテ)をマモルに見せている。あくまで名前と具体的な住所を伏せたそれを書類状にし、高さがまちまちの山積みになっているが、それは一瞬で消化されていく。理由は簡単、マモルが積まれ、まとめられ積まれた直後から目を通し、一瞬とは形容できないほどの速読でその書類の束を全て読み切っているからだった。

 そして、読んだ資料を基に設計を構成し、更正。確定している部分なのか赤い丸で囲んだ部品設計がある。

 ハカセはその囲まれた箇所の構成される材料をボーガンから渡されたマップを見ながら電話で入手するよう指示していた。相手はおそらくここにいないサンカだろうとコウエンも予想できる。「○○が必要で××屋さんに売ってるだろうから見てきて」というメッセージを送る。数分後には「良かった」などと言っているから、おそらく買えたのだろう。

 コウエンがボーガンに聞いたところそんな流れが続くこと、早40分らしい。

「ど、どういう方針で決まった?」

「心臓は半人工のものに、そして義手を付けるそうです。」

「そうか…」

マモルの判断だ。異議を唱える必要性など、皆無だった。

『にしても、臓器(これ)は…一から人工物オンリーで作ると面倒か?それじゃあちょっとアレンジ加えるか?』

『それが良いね。折角、二位三位(ぼくら)がいるんだし』

『じゃ、じゃあ!ボクの設計を使ってくれないっすか!』

『お、なんだ?いいのがあるのか?』

『はい。ボクらはある研究をしてました。もっとも性格には、シキ兄貴と、といった方がいいのでしょうけど』

『ほう』

『大した伏線じゃないので言っときますが、ボクらのやっていたのは”疑似蘇生(シミル・アライフ)”いわゆる死者復活技術です。』

『『……。』』

その言葉は、かなり二人心に突き刺さるのもがあった。詳細が気になるし、なぜそれをシキにはしなかったのかも当然気になった。が、カガクシャとして追求したいのと、カイトの気持ちを汲みたいのでは後者が勝る。そうしてこの話に深くは突っ込まないでいると、カイトはある設計を取り出した。

『これが、ボクの設計です。左右の心室を機械、心房を人間本来の細胞と薬品による強化を加えるようにした半機械、半生体の人工心臓です。』

『おお!重い上に複雑な全機械化や時間のかかる全培養の良いところをとった設計だな!よし、採用!』

『ええ!?いいんですか?そんな簡単に決めちゃって!?』

『いんだよ。時間が惜しい。義手のデザインは考えてるから、カイト!それに関する資料をくれ!!』

 そんな会話で今のような作業の工程が組まれていた。

「――――しゃああ!!設計終わり。あと何分でサンカ来る?」

「うん。最後に向かったのがここから一番近いお菓子屋さんだから、もうくるよ!」

3分も経たずに、サンカが扉をノックした。開けると、両手に素材となる金属やら薬品やらを持ち、背中にも背負われている。

「それ…全部そうか?」

コウエンが驚きの表情を作る。扉の幅ギリギリの質量だった。

「うん。これを使って、今度は僕が頑張る番かなぁ。」

「サンカお疲れ。悪いな、パシラせちまって」

「いえいえ!はい、栄養ドリンクです!」

自身も疲れているのは気にせず労うサンカ。マモルは手渡されたものをすばやく開けて、一気に流し込む。

「っふう~~。最高!」

「それは良かったです!」

「ほらほらぁ~コウエン君もボーガン君も、部屋から出てった出てった!このまま手術に移るからね!」

「え?もう?」

「今回はまだ二日あるとはいえ、時間との勝負だからね。手早くやるよ」

「おう。ハカセ、ミスんなよ~。」

軽口をたたく。それくらいハカセの技術を信用しているし、確信していた。

「で、どれくらい待てばいいとか、目安はあるのか?一時間か?二時間か?」

 これはコウエンの心構えの問題でもあった。言ってしまえば、薬が効いているというその時間いっぱいまで待つことも覚悟できていた。そんなものいつ目が覚めるのか分からなかった8年間に比べると容易い待ち時間であること。そして必ず目覚めるのがわかっていることが何より安心できた。だから目の前の彼が二時間待てと言うなら、じっと扉の前で待つ覚悟はできていた。そしてそのハカセの答えは――――――――――「え?15分だけど?」

「……はあああああああ!!?」

コウエンの叫び。真の前でそれを喰らったハカセだけでなくマモルも呆れたのか、耳を塞いでいた。

 当のハカセはといえば、既に背中に六本の機械腕(アーム)を展開させていた。

「この子達が全力(フル)で動いてくれるからね。すでに培養しているとはいえ、15分も”かかっちゃう”のは僕も残念だよ」

じゃ、またね。

 そう言ってドアを閉めたハカセ。今から上の階に上ってガラス窓を覗こうとすると既に15分経っている、そんな時間だ。一瞬、ほんの一瞬で今までの八年が報われる。

 それが極めてうれしい事であり、また脱力を禁じ得ない事だった。

 ドアの前で、二人の男はゆっくり膝をついた。安堵なのか疲労なのか、はたまた呆気なのか、とにかく、あと二日で彼は目が覚める。八年の眠りから、覚めるのだった。

「ま、後は宴の準備でもしろよ。二日間をそのための準備期間にしとけ!」

          ☆彡☆ミ

――――――二日後。

(……誰だ?)

声が聞こえている。温かい場所で、包まれるようなにぎやかな声。

―――――っだから!勢さんは昔から炭酸好きだったろって!忘れちまったのかよ紅炎!

紅炎?……そっか、お前が近くにいるのか…。大きくなったのかな。背はどれくらい伸びたかな?あの赤毛は今も顕在か?早く会いてーなぁ。

―――――いやいや、病み上がりに飲ませるもんじゃねーだろうが兜ごらぁ!

―――――あんたら、静かにしとけよ。勢さんが起きたとき、そんな態度でいいのかよ?

―――――三人とも、話は良いが、前から泣き崩れてたせいで、顔が腫れているぞ?そんなんで勢に会って大丈夫か?

―――――「「「お前もだよ!!」」」

お前らな…うるせーって…の。」

 って、あれ?

「声、出てるな…」

あれあれれ?

「目、開けれるな…」

白い天井、初めて見る場所。しかし、今はそんなものを見たいわけではない。

 何とか首を動かす。……なんだ、結構、動けんじゃん。そんで―――――

「……なんだ、体…大きくなっても……結構、わかるじゃん。誰が誰か、よ。」

「あ、起きた!!」

兜…お前まだそれ被ったのか。昔俺があげたヤツ。不格好な手作りの兜。

「ほら。紅炎!挨拶しろ……って、なに泣いてんの?バカっ」

育江…お前はその髪型以外も似合うんだから、ちょっとはおしゃれしてみろって、最初に俺が編んだその三つ編みばかりじゃなくよ。ったく。

「う、うるせー!ボーガン。おめーもなんか言ってやれ!この寝坊助の隊長にさ!」

……紅炎。泣き虫なところ変わんねーのな。そんなとこも大好きだったぞ。

「おはよう。まずはそれだけ言うでいいじゃないか、なあ、勢?」

「…………ああ、おはよう。お前ら」

八年たっても、馬鹿ばっかだよな。馬鹿で、煩くて、最高な、俺の、家族達(だいすきなやつら)

「また、……会えて嬉しいぞ、バカヤロウども。」

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