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破壊機械~白銀の四肢と世界の記憶~  作者: 祭 竜之介
火炎篇
31/48

【破壊戦争《クラッシュゲーム》】4

 不思議なものだなあ、マモルは心中でそう語る。

 剣を握って、こうして対人するのは初の彼。人と人の命のやり取り、仮想現実(ゲーム)とはいえ、痛みも発生する以上ここは今までやってきたVS機械、VS危険生物とは同等の世界と考えて良い。そう思うマモル。

 機械が相対するときは、せいぜいそれを作った者の思いや背景が浮かぶだけだ。機械そのものは、危険とされている以上は説得、もしくは破壊しなくてはいけないから、比較的容赦なく知識をぶち込む必要がある。そこで弾丸ではなく、自らの頭脳がものをいうのがでかい。

 生物が相手の時は、それがなるべく傷つかないよう、注意を払う必要があった。とはいえ、相手は野生的で、必ずといってほど敵の命の最短を狙ってくる。だからチキンレースになるが、ギリギリで避ければ、それだけで反撃は可能だ。長年の経験から、そうした一方的な駆け引きでなんとかやってきていた。

 そして今回、相手はいよいよ人間だ。中でも守るものが非常に多い人間。そんな人間に剣を向ければ、“もっと重い”と思ってた。剣は確実に人の命を狩れる。にもかかわらず、だ。今マモルには微塵の恐怖も、そして重さも感じなかった。剣が自分と一体化するのが早かったとか、それになにより、マモルに狩る気がないからだろう…と自身の気持ちに結論づけた。

          ★

 銃声が鳴る度、コンマ数秒後にはそれを切り裂く金属音がなる。それが何十回と続いた。

「いい加減、こっちも近づかねーとな。」

コウエンの持っている銃の銃弾が切れたのを確認し、マモルはそう切り出す。

 すでに銃による攻撃、からの剣による牽制の図が4度を終えた。マモルは今までより数段大きくなった剣を二、三度振る。

(うん、射程は大体つかめてきた。今までよりかなり空気抵抗が大きくなったが、いい加減慣れたな。)

それじゃあ後は、実際に切る事かな?ま、しないが。

「こい、ぶちのめしてやる!」

挑発というよりは自身に課す為の宣言のようなその言葉。当然、マモルも断る必要はない。

(じゃ、行くか。)

義足の関節を曲げ、地を蹴る。

 近づいていくマモルを確認しながら、コウエンは「ふッ」と微笑む。

「くらえや!」

両手を地面と水平にして手のひらを下に、たちまち地面に大量の小さな三角形の障害物を召還する。

「!撒菱かッ!」

いや、いくら痛覚まで再現されてるとは言えな…。

「それ効かねーよ!!」

地面を這うように足を喫わせ、撒菱をコウエンに向けて蹴る。

「そうだったな―――――じゃあ!」

コウエンは回転するように撒菱かわすと、回転をそのままに両手持ちの鎌を召還。それはただの鎌でなく、柄を持った手を熱感知しそこ以外が刃物で構成され、外側の半円全てで切り裂くことが可能な刃物へと変わる仕様だ。

 回転による遠心力に任せ、コウエンは射程に入ったマモルに強力な一線を浴びせるはずだったが、それは空を切るだけになった。

 刃物を治め、再び銃に切り替える。すでに20メートル以上の距離をとっていたマモルに心ばかりの牽制を行った。

「やっぱはえーな、なんでそんなとこにいるんだよ!!」

もはや笑えて来る速さだ。

 一方、マモルの方も少しばかり警戒していた。

(俺は近づくしか能がないわけだが、他にも色々仕込んでるんだろうなあ。地雷系とかか…)

というか。

「さっきからどうやっていろいろな武器を出してんだ?これは超現実のゲームじゃないのか?」

気になっていた。まるでゲームのコマンドがあるかのように次々と武器が召喚される現実に。

 コウエンは繭型の機械に入る前は確かに腰に銃を提げていた。が、先ほどのガトリングや、火炎放射銃などは一切身に着けていなかったし、なにより機械の中に入れることができないはずだ。

「その辺りは《登録》で可能だ。お前は始めたばかりで知らないだろうからな。公平さを期すため教えといてやる。」

クラッシュゲームは超現実的なゲーム。だからないものは使うことができない、があるもの―――実在するものなら《登録》という形でいくつでも使用が可能だ。具体的には現実にある武器や薬品の写真なり資料(データ)なりをゲームに記録すると登録が完了する。

 ゲームをやるために現実で横になるときに携えているか、《登録》という機能で呼び出すかして、武器は召還される仕様だ。

「ちなみに、団長はその登録した武器の全てを召還できる。さっきから俺様がやってるみたいにな!」

「なんだそれ!ずりー!!」

「ずるくねーよ。さっきお前がそのゴーグル出した時みてーに召還には武器を強くイメージする必要があるんだよ!」

「お!まじか」

それじゃあ、こいつはさっきから召還する武器の規格を全てイメージしていたのか。よほど身に沁みついてないと召還できそうにないものだが…。

 マモルの考えは的を射ていた。通常は時間を置き、身に、肌に、そして手先や足先にその武器の形状や温度などを刻み込み、意識に刷り込んでようやく使用可能になるのが召還という行為だった。それを連続でそしてここまで容易くこなせるようなることがどれだけ困難な事か、破壊戦争(クラッシュゲーム)を行っているものなら誰だって理解できることだったが、マモルは今さらながら彼のすごさを理解した。

「そう言えば、《登録》なんて機能がなけりゃ、琴音と心音が“(ホワイト)巨兵(ゴーレム)”なんて使えねーだろうからな。」

「そんなわけだ。いい加減、この時間も終わりにしてーなぁ!!」

「おう…行くぞ!」

三度目の地を蹴るマモル。考えもなしに突っ込んでいるのが明白だ。

 そして、その向かってくる速度からコウエンも察する。

(こいつ、無意識かは分からないが速度を遅くしているな。一番最初の高速移動から今の今まで、こいつは多分、実験をしているだけ。見知らない世界の検証をしているだけなんだな…)

彼にとってここは戦場ではなく実験場。試験体(サンプル)はコウエンとマモル自身だった。

 もっとも、これは無自覚にやっていることだ。このような”命の危機”と”実験を行うこと”が等しい生活をしてきたからこそ、今の彼はこのコウエンの設定した戦場で淡々としていられるのだ。が、近づいてくれるのはコウエン自身ありがたかった。

 腕を伸ばし手のひらを下にして。今度も対陸戦闘用武器を召還した。さらにそのエリアの四方には捕獲用の電流発生装置を置く。

 地面にあるのは円盤型の地雷だった。しかしそれは何世代か前の踏まなくては爆発しない地雷ではなく物体が近づけば発動する仕掛けだった。よって地面に埋められている必要はなく、こうして設置されているだけで爆発は起こる。

「!」

気が付いた時にはすでに地雷のど真ん中。周辺の地雷がマモルを感知した瞬間、一気に爆炎が噴出した。同時に電流がマモルの体中を走る。身体の4割ほどが機械のマモルは電気伝導がすさまじく、効率的に体をめぐる仕様だ。当然、身動きはできないはずだった。

 コウエンはその時貝殻のようなシェルターを召還、身を守っていた。

 爆発の後、コウエンは煙幕が止まない中シェルターを剥がす。人の気配は地上にはなかった。

「ま、そう避けるよな」

上を向くと、居た。上空20メートル。5階建ての建物ほどの高さだ。

「やっぱ、飛ぶ前の筋肉の収縮やらは機械になってるからいらねーのかな、動きのラグがなくて、おっそろしくはえーや。」

それに電気に耐える頑丈さ。どうすりゃ身に着くんだ?

「そりゃどうも!」

素直に受け取っておくよ、スゲー痛かったし。

 んで。と一方のコウエンはライフルを召還。空中のマモルに向け5発放った。

 5度の金属音は、すべてライフからの銃弾に対応した音だった。最初の一つは脳に向けた一発、それを手刀のように縦に構えた剣で切った。次は左脇腹の一発、それを内側から外側へ弾く様に左手義手の甲で払う。右脇腹の一発は先ほど切った剣を素早く回して届かせた。四発目の心臓に向かった弾は右の義足を曲げながら近づけて間接駆動部分の装甲でかろうじて弾いた。最後、再び頭部に向かった弾は左手義手で受け止めた。

 一瞬だ。その一瞬の間にあった攻撃と、見事それを受け止めた防御はマモルの着地する直前には行われなかった。

          ★

「くそッ、今のでもダメかよ」

「いや、4発目は危なかった。それに…」

どの弾も正確に空中のマモルを狙っていた。最後と4発目はマモルを即死させることができるはずの狙いだった。今までの乱射のような形ではなく、正確な狙撃も行うことができるのだ。つくづく彼の才能に驚かされる。へたな軍での訓練を積んだ傭兵より、よっぽど対応の幅が広い。

 マモルはコウエンの才能に少し恐怖を感じていた。その証拠に、額に流れた汗は息の上がっていない彼の緊張の現れだった。改めてVS機械やVS危険性物との違いを思い知らされる。そして、ここまでの狙撃はそう何発も撃てるものではなく、マモルとは逆にコウエンからは疲労による汗が流れていた。

「これでも、ダメか!?」

召還したのはただのランチャーだった。それの標準機(スコープ)に目を通し、引き金を引いた。

 まっすぐに向かった弾、今まで見たどの弾より早いが大きな弾一発だけならマモルが切るのも容易かった。

 当然、切りつけるが、それは間違いだった。

 切った弾は空洞だった。正確には気体しか入っていない仕様だった。それが何かはマモルはすぐに分かったが、逆に言えば斬るまでは見当もつかなかった。

(あ!?これ、水爆じゃね!?)

酸素と反応して爆発を起こす気体。現実通りのゲーム世界であるそこは忠実にその破壊力が再現される場となった。

          ★

 数秒の爆炎。モニターから目を離していた四人はたちまち画面を注視した。

 真っ赤な炎と黒灰色の煙幕が広がる画面の中、その中心ではコウエンが肩で息をし、ランチャーの本体を地面に落としたところだった。

 四人はその後の様子を生唾を飲みながら観ることにした。

「……はあ、はあ、どうだ!!少しは効いたか!!?」

その叫びに応えるのは誰もいないはずだ、これが戦争ならこの破壊力歩兵200名が吹き飛ぶ、およそ一個中退規模の爆発を起こした。

「ああ!大分イテーよ!!」

それに対してあっけなく、炎の中からマモルは出てきた。左の服、左上腕義手と左大腿義足、そして肌を焦がしながらよろよろと歩いていた。

 爆発の直前、僅かに通り過ぎていた弾はマモルの背中数ミリ後方で爆発した。それを左半身を犠牲にするようにひねりながら防御することでダメージを最小限に止めた。その際、右手に掲げた大剣が大きく貢献した。

「痛そう、だな」

「ああ。八年で、対人では初めてここまでやられた」

 左半身は火傷とそれによる出血により痛みが襲っていた。が、まだ戦闘(ゲーム)が続いている以上強がりでもこちらが動くしかない。マモルは密かに義足を駆動させる。

「んじゃ、少し反撃だ!」

素早く蹴り出すマモル。予備動作の全くない蹴り出しにコウエンは対応が遅れる。目の前に彼が来るまで次の武器を召還できなかった。

「これは、ちょっといてーぞ!」

一瞬、コウエンの胸部を弾く発勁のように、義手で跳ねる。その一発によって遅れてコウエンの肺から空気が排出され、同時に激しい痛みが襲う。さらに遅れて、その余波が現れコウエンが吹き飛ぶ、3メートル後方に飛んだがその後は数メートル地を転がった。もし本気の一発ならそれでコウエン身体を貫いていたかもしれない、そう思わせるほどの余力を感じされるマモルの澄ました顔と、一瞬の張り手だった。

「くっそッ!」

何とか空中に飛ぶと、すぐに背中に六脚機械を召還。後ろの四本を脚のように動かす。後ろ足の役目を果たす足二本で流れていく体の方向とは逆向きに脚を斜めに地面へ突き刺し、前足の役目の方は少しでも衝撃を和らげようとこちらは後ろ足とは反対の角度で突き刺す。

 その後も微妙な足の操作でバランスを取り、マモルの攻撃による移動も含め30メートルほどの後方で止まった。

「おお。その機械バランスの調節が難しいんだぜ?よく操縦できるな」

「…。」

いい加減、マモルの余裕そうな態度が癇に障った。

 すぐに機械の足にあるローラーを回転、真っすぐマモルに向かう。

「やっぱ、それを使うとはやいな」

「…。」

コウエンは集中している。余った二本の脚に大剣とチェーンソーを装備、自身にも近接用の刃物の付いた拳銃を二丁装備、振り下ろす装備は万全だった。

「次は近接か――――良いぜ!」

嗤うマモル。つくづくこの戦闘で、彼の野生は掻き立てられているらしい。

 左からやって来るチェーンソーを左に身体をひねって避ける。そのタイミングを見計らってか交差するように今度は右から大剣が襲うが屈伸運動のように右義足を曲げながら左義足を伸ばし、結果右に移動して避けた。三段構えでコウエン自身が持った拳銃の片方が地面を這うように襲うが、曲げた右義足を伸ばし立ち上がるよう後方に飛んでやり過ごす。反撃としてすぐさま義足を駆動。一瞬の間にマモルは“(ブルー)大剣(ソード)”を構え、距離を積めると六脚機械の内の三本の脚を切りつけた。

「グワッ!」

機械の左脚が全て斬られたコウエンはバランスを崩し、同時に六脚機械の装備を解く。受け身のように二度回転すると、すぐに態勢を整えて地を蹴る。

「りゃああああああ!!」

両の甲に鉤爪(クロー)を装備、マモルに向け振り下げる。

 その後は、コウエンの剣戟をマモルが受け止めるという時間が続いた。

 コウエンはといえば、最初のクローから続いて刀、脇差、レイピア、三叉槍と間合いや攻撃形態を細かく変えて攻めたが、マモルの減速(スロモーション)機能の前に体勢を崩すことは敵わず、最後に巨大な鉄拳(グローブ)で地面に大穴と煙幕を作って距離をとった。

          ★

「スゴイ…紅炎は破壊戦争(クラッシュゲーム)では多種格闘者(バリエーション・モンク)の二つ名があるのですが。それが全く通用しない」

「そうなんだ…二つ名なんてあるんだ」

やっぱり格好良さ重視なのかな?あまり現実では意味がないように思えた。

「名前の通り、様々な種の武器を召還し、敵を屠るのですよ。ちなみに、あなたたちの暮らす白の領地の団長・白城白夜は《白昼夢(ホワイト)爆心者(ボマー)》、黒の団長は《放浪の獣騎士》なんて呼ばれてます。主に団長に付けられるのです」

「へ、へえ、時代だねぇ」

 ボーガンの解説にハカセは半ばいい加減に返した。あまりその辺の知識は詳しくない。

「にしても、マモルさん。やけに慎重ですね。見たところ一気に片を付けられそうな場面が多々ありましたよ。」

「多分マモルンの目的は、あの子の本気を全部を出させるつもりなんじゃないかなと思うよ。」

「?」

「あの子の銃撃力、近接格闘、そして気力。すべてを引き出せたうえで彼を倒すつもりらしい、今の戦いを見る限りね。」

「……。(確かに、拒絶の森でお二人にそういわれましたが、それでもそんな敵役、あなたが負わなくても)」

 心配がうかがえるサンカの顔を見て、ハカセは少なからず申し訳なく想う。

(ごめん、サンカちゃん。それは6割の理由で、残りは多分純粋に戦闘が楽しいからだよ、マモルン…。)

彼はそういう人だった。ここまで"体を動かす時間"は最近なかったからね。これからの展開をみきっているマモルからすれば、あくまでスポーツ感覚に近かった。

          ★

 煙が晴れた荒野。何もないとはいえ、一部が抉れていたり燃えているため戦闘が激しい事だけは分かる。

 対峙する二人の内の一人は肩で息をし、もう一人は余裕の表情が崩れていない。

「もう…いい。」

いい加減、実力差は分かった。

「最後に一つ教えてくれよ。お前はなぜそんな強い?」

半ば懇願するように訊くコウエン。表情も歪んでいる。

「強さなんて、いろいろ変わるけどさ。お前には悪いけど俺はいろいろ背負わされてるし、それに…。」

俺を信頼し、俺が信頼しているものがある。コウエンと違うのは今回のこの勝敗で背負っているものが、自分独りだけのものか他の人のものも含まれているかだった。

 拒絶の森でカブトとイクエの想いを受け取り、八年の義肢を使っている日々をマモル自身は信じており、それを作ってくれたハカセと自身の設計を信じて頼る。そして今回は、なによりサナエからもらったこの剣の丈夫さと切れ味を信頼していたしそれに込められた傷ついてほしくないという想いを受け取っていた。

(お前の努力は認めるがそれでも俺の”今まで”よりお前は多分……下だよ)

「…………分かったよ」

じゃあ、これで最後だ。

 右腕を伸ばし、武器を召還する。それがコウエンのもつ武器の中でも最大最速の攻撃を誇っているものだった。

          ★

 超電磁砲(レールガン)。銃弾は20センチの純鉄の塊。電磁誘導により音速以上の出力で飛ばせる砲撃最強の武器。地面へ固定するための器具は六本、標準眼鏡(ポイントグラス)は両目全体を包む仕様。二股に分かれた銃身から磁力が蓄積されていく。カガク班によって改造されたその威力はマッハ2まで到達する。

「これが俺様の――――俺様”達”の全力だッ!受けれるものなら、受けてみろよッ!」

充電する度、周りに電流が走っている。近づくのは危険だ。そして、距離などマッハの速度の前では意味はない。

「……良いぜ、ちょっと限界、越えてみたくなった!」

白髪部分を、叩いた。

『! マモルン!!』などとマモルのやろうとしていることに気が付いたハカセが焦るように叫んでいた。マモルはモニター越しでもそれは予想がついた。

 マモルが行ったのはいわゆる思考加速(ブースター)、脳に電撃を浴びせて生体電気の活性化と思考能力の上昇を可能にする機能。マモルは、脳の3分の1を機械化したことにより浴びることができる電気信号の上限が人より多くなっていた。が、それは今までの超高速移動で発揮されていた。それを越えての加速(ブースト)だ、8年前にハカセがやったことの倍以上の危険性(リスク)があった。しかしそれはこの際度外視する。とにかく今は、目の前の彼の、彼等の全力を受け止めるのが最優先だった。

          ★

―――――「遅っせーなあ、早く引き金引けって」

灰色の世界。色覚能力すら削り、止まったと錯覚してしまうほどゆっくりコウエンが動く。

―――――「思えば、お前には悪いことしちまったな」

引き金に指がかかりゆっくりと動いている。

―――――「俺も、お前の仲間に頼られてっからさ。勝ってくれって」

―――――「でも、それでも楽しかった。俺がこうして全力でやれるのが人生であと何回あるかわかんねーし」

ようやく引き金が引き絞られた。マモルの感覚であと数秒、それで弾丸は発射される。

―――――「マッハ…か、なかなかこういう場じゃないと味わえないよな」

「!」

その弾は、加速した視覚情報から見たマモルでようやく、100㎞/hとなっていた。

          ★

「……。」

全力だった。これがこの赤の領地・火炎団の最大最強の武器だった。そして、それすら受け止められれば、手の内は残っていない、そう思っていた。

「ハア…ハア…ハア……」

目の前の少年は、剣を前に出していた。

 切ったのだ。マッハを、音速を優に超える速度、それによって放たれた弾丸の軌道を変える程完璧に切った、コウエンにはそう感じた。

「…。」

確かな手応え。マッハに到達した武器に対することでようやくスポーツ並みの駆け引きを生むことがわかった。しかし、その結果切った弾丸の微調整はかなわず、中心よりもかなり外側を切る結果となった。弾道を逸らせたといってもわずかだった。

「……まだ、調節が必要か…」

「は?」

「何でもないよ。さてと…。」

真っすぐとコウエンを見る。見られたコウエンも悟るように超電磁砲の装備を解いた。

「終わりにしようか。」

「おう。俺様もいい加減終わりたい。」

全力でやった。出せるもの全部出した。それでも全く敵わなかった。清々しほど、手が届かなかった。それらの経験は子供ながらに、楽しかった。俺様もまだまだだった。と反省の色が現れるほどに。でも、絶対に強くなってみせる、お前に届くように。そう思えるほどに目標となった。

「じゃ、行くぞ…!」

抜刀するように、居合をするように、剣を対側の腰に当てて、反対の義手を添える。

「行くぞ《この剣はお前を――――お前達の思いを守る、剣になる》」

マモルは地を、蹴った――――――――――。

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