【拒絶の森《レジェクト・フォレスト》】1
画面の人物は深々と頭を下げていた。ボードカーに映し出された映像の最初の数秒はそれだった。
『えー…ゴホン。悪いな、多分このメッセージ送られて来る頃には、多分、俺が死んでいるんだと思う』
顔を上げた人物・黄海織はそう語り出した。
『そんで、俺の血の繋がらない弟が一人になっているんだと思う。…不甲斐ないことにな』
目を背け、苦痛の表情を作るシキ。言葉にも悔しさがにじみ出ている。
『だから、俺はお前ら二人に頼みたい。俺の弟・黄海快人を、よろしく頼む。まだ8歳だが、知識量は一級だ』
『あいつを守ってやってくれ。そして、ついででいいんだけど、あいつに技術を仕込んでやってくれ』
『これは通信じゃなくてメッセージだから、お前らの反応は見えねぇ。だから、勝手に思ってたことを言うし、勝手に信頼する。お前らは、俺の知る中で最も頼りになるやつだ。設計士としても、人間としても』
『もちろん。これは頼みではあるが、人道支援じゃねぇ。…このメッセージが届いたと同時に、俺の個人的に作った口座の金全額がお前らに送信されるようにしておいた。だから、これは依頼だと思ってくれていい』
『改めて、頼む。快人を、任せる』
「快人を」といった段階でオレンジがかったサングラスをかけたのはなぜかと思ったが、何のことは無い、涙をこらえようと力を込めている目を見えずらくするためだった。しかしそれでも最後は真っすぐに画面を見つめ―――――――切れた。
★
シキのメッセージが終わったあと、マモルたちはしばらく何も言わないでいた。
「…勝手に信頼、か」
マモルが言う。
「ここまで自分勝手なやつ、周りにいたか?」
誇らしげに、ハカセに問う。
「さあ、でも、あんな風に家族思いの人なら、身近にいるから。少し、わかるよ」
「……そっか」
誰だ?とは、言わない。ハカセの指す人物が誰か、わかっているから。
「にしても、金を全額入れてまでやり通したい依頼ね。誰が好き好んでやるんだよ。絶対危険すぎるやつだろ。事実、あいつが殺されてるんだぞ」
言葉のわりに恐怖が伝わってこない。心にもないことを言っているのだとわかるハカセはつい、頬が上がる。
「あいつ、俺たちとあんまり関わりねーし。助ける理由がね―じゃん」
「そーだねー」
ハカセも、言葉こそ返すが微塵も思っていない棒読みだ。
「だから、金なんて要らねーよな。そんで…さ。ハカセ」
「ん、なに?」
聞き返すが、ハカセは疑問を持っていない。これから彼の言うことが、おおよそ見当がつくからだ。
「方向、変えるぞ」
「うん」
知ってた。来た道を戻るボードカーの速度は、倍以上に上がったいた。
★
「なん…で?」
探す。そうテツに伝え、会場を後にしようとしていた。が、目的の人物たちはあっさりと目の前にいた。直後に現れたその疑問ももっともだと思う。
「よ」
「さっき別れた後に君のお兄さんから僕ら宛てにメッセージが入ってね。君を預かるように言われたんだ。」
ハカセの説明にカイトは納得した。死後も連絡をくれるような過保護な兄だ。当然相手に承諾をするくらいのことはする。しかし、それをその日に受けてくれるとは思ってもいなかった様子のカイト。
「これからお前がどうするかは知らないがでも、任されたいじょう、俺はお前を連れていく」
シキが託し残したものへ、マモルはその決意を明確に伝える。
「でも、俺はお前の望むような家族にはなれないかもしれない」
それでもいいか?とマモルは真っすぐにカイトを見る。彼の本心が知りたいからだ。そこにシキが残したからだとか、金をもらっていたからとか、そんなことは問題ではなかった。カイトが自分の意思でここに来ることを望んでいるのだ。
「兄貴は元々ボクの本当の兄貴じゃなかったんですけどね。でも、あの人はボクの全てだった……お願いします。ボクは、行きたいし、生きたい。兄貴の分まで。そしてあなたたちの技術を、学びたい。」
「……よしッ!そうこなくっちゃな!」
マモルは心底ほっとした。もはや断ることなど考えもしなかった。
★
ボードカーの後部でハカセとともに座ったカイトはその後、家に着くまですすり泣いていた。
無理もないことだと、膝の上に乗せたハカセはその間ずっと頭を撫でていた。
やがて家に着き、ガレージにボードカーを止めるときには彼はすっかり眠っていた。ハカセはカイトを背中にのせ、ソファーへと運んでいく。
「サンカーー!?」
一方、各部屋を覗きマモルはサンカを探した。
居間、キッチン、二階の部屋一つ一つ、トイレ――はノックで確認した。が、どれもどこも反応はない。しかし、やけに部屋全体がキラキラして見えたのは気のせいだろうか、とマモルは疑問を持った。
「くっそー。あいついねぇ~。いい加減シャワー浴びてーんだけど」
マモルは愚痴をこぼし、ガレージに置いてあったタオルを首に掛けていく。
「入っておきなよ。風邪ひくよ。カイト君はあんまり濡れてないようだったし、僕もあとでいいからさ。」
マモルはテレビ前にあるソファに目線を送る。今、そこにはカイトが眠っている。毛布も掛けているしハカセの言ったように濡れていないので安らかなものだった。
「んー、わかった。じゃ、入るわ。」
「うん。でも、ごめんねニュウスイくんは今日はお休みにしよう。」
「え?」
突然の発言に、困惑するマモル。今までニュウスイくんはお風呂場での必需品になっている。八年間、一度たりとも休んだとこは無かった。
「いつもは試験後にしばらくしてからメンテを行ってるからさ。でも、今回は、多分君すぐ出かけるでしょ」
「ああ…。(流石ハカセ、お見通しか。)」
少なからず感心するマモル。今後の方針を既に把握しているようだ。
「そうだな。わかった。じゃあ、保護フィルムを貼って入ることにするわ。」
「うん。行ってらっしゃい。」
「……クフッ…」
「ん?」
何かソファの方で音がした気がした。
★
脱衣所に入ると、服を脱ぐ。
布の上からではわからないが、筋肉質な胴を軸に、四肢の切れ目がはっきりとわかる。両腕はどちらも同じように肩の少し先から金属でできている。両脚は股関節から少し先からが機械のそれだ。
「…よし。ここに保護フィルム、と」
手にもっていた透明な膜をゆっくりと義肢に被せていく。
保護フィルム。最新型の化学繊維に電気的なミクロ機械がはめ込まれている。それにより、熱と水の感触を装着者に伝えることができる。
「んじゃ、入って行きますか…。」
マモルが扉を開ける。同時に脱衣所へ出入りする扉から開いた音がしたが、そこは気のせいだと思い気にしない。
「よ…っと。………………………………………え?」
浴槽ではサンカが―――――寝ていた。
★
サンカが寝ていた。別に不思議なことではない。生物として当然だ。ただ、それが立ったままであることと全裸で、そして浴室だったこと以外は――。
「あ…がッ…さ、サン…カ?」
「むにゃ、……………へ?」
目を開けたサンカだが、扉にいるマモルを見た瞬間、稲妻が落ちるような衝撃が走った顔をする。
湯けむりが濃いが、はっきりと見える。控えめだが整っている両房、腰つきが細い分なおのこと際立って見える白い肌と桃色の先端も健康的で若々しさを際立たせる。また、肌と黒い髪が湯気と水滴で艶やかに映える。腰に伝うお湯。引き締まった臀部。そして、局部、脚。どれをとってもしなやかで、しばらくは記憶に焼き付くだろう衝撃を脳に与える。
「え…っと……?」
時が止まったように二人が立ち尽くすが、ガチャリと音を立てて、背後の扉は閉まる。その音でようやく状況が理解できたのかサンカは絶叫する。
胸と局部を隠し湯船に勢いよく入ると、それがマモルの現状を理解する材料になった。
「うお!おお!、おお!悪かった、悪かったよ!でも、なんでお前、はだ、裸で寝てんだ!?」
サンカに背を向け、扉の方を向くマモル。心臓が派手に跳ねているのを実感する。
「すすすす、すみません!あれからお荷物の整理とかお部屋の掃除とかいろいろしてまして、その…疲れていたのかもしれません。昨日は夜通し歩いていましたし…。」
徐々に湯船に沈んでいきながら、サンカはやがてブクブクと声が消えまで体を沈める。状況を理解したマモルはそれ以上ここにいることが許されなかった。
「ああ…それで。わかったよ。じゃ、俺は出るから、もう少しゆっくりな。…それと、今度は座ったままでは寝るなよ。溺れるぞ。」
「わ、わかりました」
赤面しているサンカを察しつつ、マモルは浴槽を後にしようと取っ手に手を掛ける――――が。
「あ、あれ?」
開かなかった。
扉は省エネのため手動式にしている。壊せば簡単に開けられるが、それもどうかと思う。しかし、問題はそこではなかった。
「俺の設計で、八年で壊れるわけないのにな…。ってことは…人為的、か!」
ハカセかな!?マモルは後でひっぱたくことを決意しつつ、とりあえずこの状況の改善策を考える。
(出て行くのは…スモークガラスを開けて家の外へ出れるけど、外は寒いしな…。でも、どうしよ。ここにいつまでもいるわけにも……)
「あ、あの?」
出て行かないマモルに、サンカが怪訝そうに聞く。それに対し、状況を冷静に説明する。
「悪い、多分ハカセの悪ふざけなんだろうけど…開かなくなった。」
「ええ…。大丈夫なんですか?」
「ああ、もし長くここに置かれるようなら俺がこの扉ぶっ壊すから。」
「え」
「大丈夫、前回もそうやって抜けたから、ハカセもわかってるよ。」
「え…前回も、って?」
サンカの興味本位の質問に、マモルは遠い目をして応える。呆れている様子が伝わって来るサンカは何となくそれがくだらないことだと察した。
「ああ…『マーモルン!頑張ってみてね!☆』なんてパズル形式の四重ロックをされて、七時間後…この家の居間にはボコボコにされたハカセの姿が……、な。」
怪談話のように語るマモルはそれ以上、言わなかった。
「あ、…大変だったん、ですね。」
お互いに。とまでは言わなかった。
★
「やっぱりやりすぎですかね…戻しましょうか。」
カイトは脱衣所の前で手を上げて、戻そうとする―――直後だ。
「なーにしてるのかな?」
肩にゆっくりとかかったその手、大きく、包み込むように覆う。
「!」
振り返ると、頬を上げたニコやかなハカセがいた。この状況でさわやかな笑顔が、なおのこと不気味だった。
「は、ハカセさん…。」
軽いいたずらのつもりだった。すぐに解くつもりでいた。
「い、今すぐ戻しますから。ごめんなさい。」
「…ごめんな、さい?」
「…。」
緊張が走るカイト。冷や汗が頬を伝う。
「……なあに、言ってるのさ!」
「…へ?」
ハカセは裏表のない笑顔だった。カイトがそう驚くのももっともだ。
「マモルンが困っているのが手に取るように伝わるよ!グフフ。まさか彼らが二人っきりになるなんて、こんな機会そうそう無いからねッ!」
「は、はあ…(ハカセさん…嬉しそうすぎる…)」
これからは、このハカセを『Sハカセ』と呼ぼうと心に決めた。
「でも、こう言ったら悪いんだけど、もっと落ち込んでるかと思ったよ。」
つい数時間前に家族を失ったばかり、もう少し引きずっていると思った。
「ええ、十分落ち込んでます。でも、それを皆に伝染させるよりは、何か楽しいハプニングがあった方がいいかなと。」
「おおお!大ッ賛成ッ!そうだよね楽しい方がいいよね。マモルンももっと楽しめばいいのにね」
「ええ、そうっすね!」
がっちりと手を組み合わせる二人だった。いたずらっ子な同盟が誕生した瞬間だった。
★
「……。」
ど、どうしてこうなった…?マモルは動揺を悟られないように必死に背中を丸める。そうして顔を赤くしているうちに、背中には泡立てた布を当て上下に動かしているサンカがいる。
「うんしょ。うんしょ。ふふふ」
それも、割とノリノリで。
一度遠慮しようとしたらそれはもう、シュン(;ㇸ;)という音が背後に見えるほど、肩を落として落ち込んでいた。しばらく沈黙が流れたが、渋々了解し、今に至っている。
「マモルさん。大きいんですね」
「はぇえ!?な、なにが…!?」
「? 背中、ですよ?」
「ああ…うん。ごめん」
「? なぜ謝るんです?」
ホントごめん。マモルは心底後悔した。
「大きい、つもりはないがな。」
「いやいや、大きいですよ。筋肉もついていますし、マモルさんって運動とかしてないんですよね?」
「ああ。最近は運動とかは何もしてないよ。」
「そう、ですか」
応えたものの、サンカは背中越しに見えるマモルの四肢を注視する。背中の筋肉は筋肉トレーニングだけをしている風ではない、日常の生活で自然につくような筋肉だ。柔軟で、それでいて強固。深く荒れた山の中で生活するように日々過酷な環境に身を置かなければ身に付かないようなものだ。そして目立つのが、四肢の筋肉。正確には四肢と機械のつなぎ目の筋肉だった。それは、一般人より発達しているようで――――
「? サンカ?」
「あ、すみません。見とれてました」
「お、おう。……え?」
「ああっ!いや。なんでもないです!……あ、そうだ。マモルさん?」
「ん?なに?」
思いついたように訊いてきた。そのサンカの質問がどうであれ、マモルは答えるつもりでいた。
もっとサンカのことを知りたかったし、どういったことに興味を持つかもわかりたかった。
「マモルさんって、八年前以前のこと、どれくらい覚えていますか?」
「!」
予想外だった。彼女の興味が今の『マモル』のことではなく、それになる前の存在を気にしているとは思っていなかった。しかし――――
「悪いな。それは全く思い出せん。ハカセに聞いてるかもだが、俺の記憶は―――」
「知っています。その白髪のことですよね。でも、何とか思い出せるものがあるかも…なんて」
「ああ…かもな。例えば俺の昔のことを知る誰かがいれば、俺の記憶を刺激できるかもだが……なんて。」
「……。」
「俺は多分、両親を守ることができなかった、と思う」
記憶は思い出せないが、それでもある程度予想がつく。壊機械暴動事件はそういう事件だったからだ。後悔を匂わせる表情を作るが、それも仕方がないとサンカは思う。
「それに、もしかしたら俺には、兄弟がいたかもしれない、兄や弟、姉妹がな」
「でも、今はこの家にいませんが、あのお二人がいるじゃないですか。ほら、双子みたいな身長の」
「ああ、あの二人も確かに大切な家族だよ。でも、本当の妹じゃなくて、義妹なんだよ。」
「へえ、そうなんですか」
(あれ、言ってなかったっけ?)
「そう考えると、おかしな人たちですね」
「まあ、な」
少し、自慢げに応対したマモルだった。おかしな家族でもこうしてしっかり絆は深められるものだとわかるからだ。
★
「背中、流しますね」
「おう。ありがとな」
肌に心地がいい、温かいお湯が背中に沿って流れていく。
「いえいえ。……護衛と言っておきながら、留守番しかできないようなダメ人間ですから」
「え、悪い。そういうつもりじゃなくてさ。…サンカを、他の研究者の目に留めたくなくてさ。」
「………え?」
本心だった。
研究者間では、異質な種族である異種眼の赤眼。人権は当然あり、同意を得ずに人体実験などを強行するようなら罪に問われる。しかし、暴動事件のあと政府がほぼ壊滅してからというもの、人権などお構いなしで実験する者が増えたという。マモルたちは今までにそういうことをしたことは無い。むしろ、何度かそういう輩を懲らしめたことがあるくらいだが、そういう現実を知っている以上敢えて危険が増える場所に彼女を連れて行きたくなかったのだった。
「カガク者全員とは言わないが、不用意にあいつらには接触させたくなくてな」
「はあ」
何となくだが理解したサンカ。危険性が分かったと同時に「なんだか、嫉妬している彼氏みたいだな」と言うことも考えてしまう。マモルには気が付かれないように、下をむきつつ、頬を赤くする。
が、そうした気の緩みがどことなく危険な気がしたため、再び気を張るサンカ。
「それじゃ、俺は湯船に入るが、お前はどうする?」
「私は、もう上がりますね。……クチっ!」
「……。」
「……。(今の、くしゃみだよな?)お前も入るか?」
「え、ええ…。」
ここまで、たじたじだった。互いにここまでの関係性は初だったからだ。
★
「さ、流石に、狭いですね」
「お、おう」
背中越しに伝わる、お互いの体温。
決して熱くはない。しかし、頬が蒸気するくらいの温度の湯船。
環境管理システムが作動し湿気が程よく肌を潤し、先ほどの使った泡の香りが鼻孔を撫でる。
「……。(やっべー。無言だぞおい。)」
「……。(どうしよう。聞くことないです。)」
動揺する二人。しかし、マモルの方はすぐに思考を別の所に向けることができた。
(そういえば、こんなとこあの双子に見られたらどうなるんだろ。)
(きっと、『ああー!兄ちゃん私たちより密着してる』とか、『私たちよりドキドキしてるんじゃないですか?お兄様?』なんて、後でズタボロにされるんだろうなあ…)
それらが頭をよぎった、が、やがて扉から声が聞こえて来る。
「おおい。ふたりとも、そろそろ出なよ。開けておいたからさ。」
ハカセの声だった。
「「……なんだ、ただの自首か。」ですか。」
二人は声を揃えて言った。マモルは拳を握り、その後に備えた。
★
「……。」
「……。」
「「…す、すみません」」
居間にて、二人の影が正座させられていた。理由は明確、先ほどのプチ監禁についてだった。
「主犯が、というかやらかしたのがカイトなのはわかった。だがハカセ、お前がノリノリだったのがなによりも腹立つ」
居間にて、二人の影が腕組をしていた。理由は(略
ハカセはいつも通り白衣にジーパン。カイトはネコミミ付きの茶色いパーカーに灰色の短パン。
マモルは無地のTシャツ(胸元にポケット)に布の黒い丈長のズボン。サンカはYシャツに下はピンクと白の短い丈のショートスカート。
「私としては、ほぼ初対面の相手に閉じ込められたことになるんですよね。」
そんな風に愚痴をこぼすサンカ。
カイトは飄々と答える。
「いやあ。家にはすでに『黒髪で綺麗で健気そうな女の子がいるから』と事前に聞いていたので、一波乱あってもいいかなと。」
カイトの言葉にサンカは反応を示す。カイトは他にもボードカーの中で様々なことを聞いた。これからの二人の予定も説明された。落ち込む感情を隠すための小粋なサプライズだったため、悪意は微塵もなかった様子だ。
「そ、それは言ったのは誰が?」
サンカは褒めてくれた相手が誰か探ろうとしている。
別段嘘を吐く必要のないカイトは首を傾げると言う。
「? マモル兄貴ですけど?」
名前が判明したとたん、パッとサンカは隣に視線を移す。
「………。」
視線の本人は無言だった。否定はしていないいじょう言ったとこは本心ととらえていいだろう。
三人から背を向け「よしっ!」と小声で喜び小さくガッツポーズまでするサンカ。喜びを察した正座組二人は互いに耳打ちする。
「やっぱり、サンカちゃんは何かマモルンを意識してるよね。」
「はい。でも、マモルさんもどことなく満更でもない、カモです。」
「うんうん」
「ごっほん!」
マモルが話を進めようと声を上げる。
「とにかく、次やったらひっぱたくからな。」
「「は、はい」」
「それじゃあ、この話はこれで終わりでいいか。じゃ、次だ。俺はこれから赤の領地に行って紅炎と戦うわけだが、その前にやるべきことがある。」
カイト、それからサンカは分かっていないように首を傾げるが「うん。そうだね。」とハカセだけは頷いている。
「俺には今、武器がねーんだよ。」
「え。そうなんですか?」
カイトが聞き返す。二位として今まで数々の修羅場をくぐったはずである彼に今まで武器といえる武器がないことが意外だったようだ。
「ああ。俺が作ってもいいんだが、あいにく剣とかに使われる素材はいくつか知ってても、専門じゃねーんだよな。」
「つまり、それに関しては専門家の知識が必要だ、ってことだね。」
「ああ。その目星はついてる。だから、一度シロの領地の元日本エリア太平洋区。現在の白の領地最南端に行く。」
「あの、それだと目的地の赤の領地からはかなり離れますよね?」
カイトが手をあげつつ言う。『団』というのは、現在の国に等しい扱いであり、三位である以上その辺りの情報も把握しているようだ。そして、赤の領地があるのはかつての九州があったところだった。距離的には確かに遠い。
「まあ、な。でもそれはしょうがねーだろ。期限が限られてるから、今日中に出発するぞ。」
「「「はい!」」」
★
日がまだ鈍角な位置にある出発直前。玄関にて、サンカが聞きたいことがあると切り出してきた。
「それで、目星というのは?」
とのことだった。
「え?…ああ。それか、俺の幼馴染の女子に会うんだよ。名前は石創早苗。機械剣を作れる鍛冶師だ。」
「……。」
会話に参加していない二人は分かった。サンカの目が、鋭くなったことに。




