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破壊機械~白銀の四肢と世界の記憶~  作者: 祭 竜之介
火炎篇
16/48

【試験喧騒《テスト&ノイズ》】1

 ここで、もう少しマモルとハカセ。この二人の肩書きである、『設計士』と『技術士』という職について詳細を話そうと思う。どちらもカガク時代発展前から見られてきた言葉だが、この二つはカガク時代の末期になって、意味合いが少し異なっていった。

 まずは『技術士』。これはハカセが所属している資格だ。しかし、ハカセの持っている資格というのは他にもあり、マモルを救助した当時からある医師免許。建築士免許や溶接、放射線、工学系、などなど20を超える資格を保有している。そして、それらのカガク的知識にかかわらず製作技術の資格を有していることで初めて『技術士』という資格を持てる。主にその職を得たらやることは設計士の設計図の再現だ。問題なく機能するか、またより良い製作のため作ってみて補正を加える箇所はあるのかを確認する。

 そして『設計士』。こちらはマモルの所属する資格だが、マモルも設計士という資格以外に20以上の資格を持っている。薬物調合、力学系等、設計に直接関わるものを筆頭に生物や機械に関するあらゆる知識を修めている。主にその職を得たらやることは依頼通り設計をこなすこと、その後、設計士へ渡すことだ。

 要するに、どちらもいくつかの必要資格を持っていなければ受けることすらできない総合資格だった。

 そして、二人が生まれる半世紀ほど前にその二つの資格は他のどの資格とも異なるある制度が出来た。それが『ツーマンセル制』と『ランキング制』である。どちらの制度も文字通りの意味を持つ。ツーマンセル制は設計士と技術士が二人一組になって行動することであり、ランキング制は組んだ二人の功績に応じてランクが与えられることだ。

 もちろん、二つの制度にはいくつかの条件もあるし基準もある。例えばツーリング制はあくまで最低限であってそれ以上の人数でも最悪単独でも作図、製作は構わないとか。ランキング制は世界的な貢献によって振り分けられるため、それそのものがイコールで名声につながるとか。そういったものだ。

 単独でもいい。ならどうしてペアで組むのか。その答えとしては『共進化』だ。設計士がよりいいものを設計し、技術士がより設計図の内容を再現する。技術士が見つけた修正箇所を踏まえて、設計士が再び書く。そうして共進化していくことこそが、形質的ではなく精神的に知識的に進化していくことこそが、制度を考えた者の意図だった。

 ランキング制は世界的なもの。どうしてそのようにしたか。それは二つの職の『競争心』を煽るためだ。二つの職はカガク時代の末期にカガク者(化学も科学も)を振り分けるためにできた新たな意味合いをもつ職だった。しかし、何分カガク者は功績を残すには時間がかかる。幾たびの失敗や研究、実験を重ねようやく一握りの人間が未だ到達していない事象を観測できる。そんな長期的な職だ。そしてそんなカガクシャたちの進歩の停滞を招きかねなかったのが、長寿化が進んだ現在だった。功績を残すにはより研究に時間を要するようになったし、そもそも人々がカガクの進歩に興味を示さなくなっていた。それはいずれ人々の進化を止めてしまうのではないか、そう考えた半世紀前の人々はカガク者たちに焦りを、そして闘争心を覚えさせるためにこのような制度を設けた。

 結果はあった。カガク者は上へ上へと目指すようになり、なにより教育の効率化で子どもでありながら設計士と技術士を名乗る者がいるため、彼らの勝負意識は加速した。

 さて、それらの経緯を加味したうえで、今の現状はどうだろう?『大人』という存在が消え残された人たちはどうしただろう。カガク者の端くれである技術士、設計士の中には成功を手にし、裕福な生活を楽しんでいるものいる。そうした人々からしたら、不謹慎ではあるが「大人がいなくても大丈夫だ」とか「寧ろいない方が…」と考えた人がいてもおかしくない。彼らという存在が、人類の停滞を招いたのではと思考が進む人間も少なからずいただろう。現にマモルとハカセ、二人のカガクシャは、確実に技術の進歩を加速させていた。

          ★

「……よし!お片付け終わり!」

日も到着した当時より大分高く上がり、窓に差し込むようになってきた時間。

 それでもまだ薄暗い部屋でサンカは長机の前で生き生きと腰に手を当て、視界の映る限りを確認すると、今までやってきたことへの称賛を自分に送る。

「うん。頑張りました私!食材は冷蔵庫に大体押し込めましたし、薬品も…棚にあるのでおおよそ予測して入れれましたし!」

長机には今、マモルが運び入れたリュックがある。入れた当時は彼の倍ほどあった体積だが、サンカが詰め込めた物以外の何の素材かわからない金属片と機工パーツのみが入っている。そのため、下が膨れて上はただの布、というしなびた形になっている。

「…」

サンカは再び目線を水平に動かし、部屋全体を見回す。彼女がしたのはリュックの中身を整理しただけでなくその周辺、机の下の溝やテレビの裏、窓の桟といった普段ハカセが掃除しないようなところも拭いていた。ついでに二階にも足を延ばし、いろいろな部屋の確認を含め掃除をしていた。

「…」

呆けた顔で数分間椅子に腰かけているサンカ。自分が今いる環境を整理しようと思考を傾けた。

(今、わたしはお二人の『護衛』としてここにいるんですよね…。)

なんで……お留守番してるんでしょう…?

 そんなことをしばらく考えた後、数秒して――――「シャワーでも、浴びますか!」と勢いよく立ち上がった。

          ☆彡

 脱衣所の場所も、部屋を調べているうちに見つけていた。そして家の隅々まで掃除をしたサンカは、対象に汚れていた。綺麗だと思われていた部屋は所々手を入れる余地があった。掃除のし甲斐はあったがその代償に、自身の肌に埃を被っている感覚があったのだった。彼らの家は、男二人暮らしとは思えないほど綺麗であり(台所は特に)、客を通すには申し分ないが、サンカが気合を入れて掃除する必要はあった。服も昨日からのものであり、埃も被り着替えたいと思うのだった。

 そして脱衣所にて。サンカは電気をつけると、いそいそと服を脱ぎ始める。白を基調とした上下ワンピースの袖の部分を掴み、両手で手繰り寄せながら首を通す。その年の少女の平均体格とは少し細めの上半身が露わになった。体格が細めな分、少々小ぶりの両房も際立つものがある。ワンピースを脱ぎきると、今度は腰の辺りにある伸縮性のよい薄い布に指を通す。ゆっくり脱がしていかないと、さらに下に穿いている下着まで一緒に脱げてしまうからだった。ともかく、慎重に脱がしたために今度は黒い布地から白が主でピンクのリボン柄が散りばめられた下着が露出する。「ん…っく。よし、っと。……ん?」吐息を漏らしつつ脱衣をし、下着も脱ぎ切り浴槽へと続く扉を開くと、漂った湯気から変化に気が付く。浴槽には湯が張られていた。

「………これは…?」

結論はすぐに出た。テレビも見れる使用のモニター画面には、“遠隔湯焚き完了”の文字、つまりは彼らが気を使ってくれたのだ。

「お風呂に入っていいってことですか!」

シャワーで済ませようと考えていたサンカの目の輝きは一層増した。

          ★

 数分前だ。マモルたちが電話をしながら叫んだ後のことになる。

『マモルン!ボードカー出して!』

「わかってるよ。」

マモルは言うが早いか、ガレージへと続く扉を乱暴に開け、鉄製の外開き大扉の近くにある機械に乗り込む。一見して、カガク時代以前から流行していたスケボーのような長方形。その左右に青い半透明の球体が付随していた。スケボーのようと表現したが、その違いといえば人が乗れるほどの大きさで座席となるその二つの青い球体があるくらいだ。それがカガク時代末期に若者の間で一時期爆発的に流行った二人乗り用車両・軽量板型浮遊機体(ボードカー)である。直線、旋回、浮遊が行える機体で、未成年でも買えたというのが大きく、値段も車より安いため、コツを覚えればすぐに乗りこなせることも重なりかなり売れたものだった。

 球体の内の一つがマモルを感知すると同時に半球状に開いていき、マモルがそこに乗り込む。重量感知によって青い球体の側面に速度計やら気温計やら音楽アプリやらが半透明ながら表示される。エンジンパネルとブレーキパネル、それから目的地記号パネルを押すことで本格的にエンジンがかかる。マモルは空中に義手の手のひらをかざす。その動作を感知すると外へと続くガレージの大扉は開いていく、そこはマモル達の玄関正面から見て10メートル右側の岩壁だった。と、一気にボードカーが90cmほど浮き上がり――――後方で推進力となる空気を放出、一気にガレージを抜けるとそこには何もない空中だ。重力のままに落ちていくとその下にはサンカとハカセが並んでこちらを見上げていた。二人が距離を開けてボードカーを待ち構えると、ちょうどそこに収まるように地面ギリギリで着地。ゆっくりと右に旋回していくと、乗り込んだ時のように半球ほど開き、顔を上げる。

「サンカ!これ!」

マモルは義手を放ると、それに連動して紙のような仮想メッセージを送る。メッセージには単純に『HS0689』という文字が書かれているだけだった。

「なんですか…これ?」

「キー番号。それで玄関のロックが解除される。」

後のこと、頼んだぞ。

 マモルがサンカに説明している間に、ハカセはそそくさと後ろの球体を半分開き、乗り込んでいた。

「よし、乗ったよマモルン!」

「おう。……じゃ、サンカ!」

「は、はい!」

「行ってきます」

マモルのその言葉に、しばらくサンカは考えた。それを言うことで、マモルはサンカを連れて行かせないつもりだろうか…いや単純に、ついうっかり口から出た、というのが見て取れた。証拠に、当のマモルもさして気にしてはいないように表情が変わらない。しかしその言葉がマモルにとって、サンカを認めている証拠であることは理解できる。同時に二人が帰る場所を任せる存在として信頼していることも伝わる。だから、サンカが言う台詞(セリフ)はたった一言で、それだけで良かった。

「はい!行ってらっしゃい!」

          ★

「…よし。湯船はこれで設定したから、サンカも気づいて入るだろう」

仮想タッチパネルで遠隔操作し、住居の浴槽に湯を張る。後方ではハカセが感心したような、しかしどこか茶化すような口調で言う。

「マモルンも優しいね~。多分掃除しているであろうサンカちゃんのことを労うなんてさ。」

 ボードカーを全速力で進ませている間。常に自動操縦で目的地へと進んでいるため、両手は常に開いている。なにもない荒野を走っており、対向車の心配もなさそうだった。そのため二人とも、ここではさして気を引き締める必要がないと思い、少しばかり移動を楽しむ。

「べつに、そんなんじゃない。『護衛』っていうからには多分一緒に行きたかったんだろうが、俺たちの仕事に付き合わせても意味ねーし、お前も分かってるだろう?」

「そーだねー」

どことなく棒読みがうかがえるハカセ。肩越しに見えるその顔は茶化すような笑顔だ。

「……」

黙ったマモル。背後には、つまりハカセからしたら正面から、怒気を孕んだ気配が見え隠れする。

「ああ!怒らないでよ。僕はただ、彼女をやけに気に掛けるなあ、って思っただけだよ!」

「十分からかってるだろうが!」

あはは。そうかも。ハカセは歯を見せて笑っている。仕方がないので、マモルはそれ以上言わない。

「でも、本当に不思議ではあるんだよ。つい最近、というかようやく知り合って一日たったくらいの子になんでそんなに気に掛けるの?」

「んー…」

聞かれたが、正直マモルもすぐには答えられなかった。感覚としては理解しているが、言葉にすると少し難しいものがある。ボードカーはなおも進み続けるため、今は考えに集中できる。

「なんで…だろうなあ…。いろいろ理由はあると思う。だけど――――

考えを巡らせていると、不意にサンカの容姿が浮かぶ。

 黒い髪、飲み込まれそうなほど艶やかな。真っ赤な瞳、貫かれるような燃えるような。大きく真っすぐなその瞳は、異種眼(イレギュラー・アイ)の一つ《赤眼:再生能力者》のもの。目立たないが奥ゆかしさのある胸部、しなやかな腰。それらからどこか妖艶な大人のような風貌だが、しかしまだ少女のあどけなさは残るような彼女の(シルエット)が脳裏に映る。そんな少女ことをハカセが言う「彼女は暗部の出身」なのだと。彼女から直接聞いたわけではないから確証はないが、赤眼(レッドアイ)の人間は主に政府に保護という形で雇われ、様々な任務をこなさなくてはいけないらしい。その中には一般人では体験し得ない苦労もあるはずだ。なぜなら、彼らに求められるのは「強さ」だから。それを人類が求めた故に得られた"個人"だから。兵器にも、機械にも負けない人類になった彼らだった。

 それはつまり、強さに見合った「孤独」が用意されていることでもあった。あの時――――マモルたちと初めて会った時も彼女は独りでおり、同行するまで一人でいたのは、強いがゆえに危険だからであることが原因ではないか。速すぎる陸上選手が他を圧倒するように、孤独だったのではないか。マモルはそう考えていた。

 つまるところ、彼女に手を差し伸べてやりたかったのだ。少しでも孤独から解放され、人間の生の感情を与えてやりたかったのだ。それが同情や哀れみかと問われれば否定しずらいところもある。しかし、なにより彼女に―――――

「…俺は、あいつには笑っていてほしいっておもうんだよ…。」

「え?」

8年前からマモルは、家族が「わからなく」なった。それはおそらく、もう2度と戻ることは無い記憶だ。そういった面で、マモルは「孤独」になった――――――似ているのだ。サンカは強さゆえに、マモルは反対に当時何もできずに、だから――――

「だから、俺はサンカに気を許してんのかも…。」

「んんー??」

やはり一番しっくりくるのは“何となく”“感覚的に”というべき感情である以上、言葉にするのは難しく、ハカセは全く見当もついていない様子だ。

 しかし、マモルはそのことに少しも不安を抱かなかった。むしろ自身で考え、行き着いた答えに激しく納得した。ああ、そうだ、何となくだ。(はじめ)に人と関わりたいと思うのに、何となく以上の感覚など必要ないのだと、自身の感情をそう肯定した。

          ★

「ま、いいや。君がサンカちゃんに好意を向けるなら、僕は否定するつもりもないしね!」

それに先ほどから、サンカの話をするマモルは一貫して笑顔を崩さなかった。それもハカセがそれ以上聞かない理由になった。あくまで彼の保護者として、彼が幸せそうなら、例え考えがわからなくても構わないのだ。

「おう。それは助かる。」

マモルもハカセの同意に安心する。こういう時に必要以上に踏み込んでこないのも彼らの彼ららしい距離感だった。

「…話変わるけど…今何時?」

本当に180度ほど話を変えるハカセ。「んぇ?ああ…6時40分。」とマモルも多少間の抜けた声で答えた。そしてその時間はあるリミットをさしていた。

「開始っていつだっけ?」

「8時10分」

「目標到達時間って…いつだっけ?」右上の表示を見る。「ええっと…9時」

「間に合わないじゃん!」

「大声出すなよ…」

マモルも当然、わかっている。しかし、旧日本エリアの元東海地方の端から元北海道の樺太辺り(地続きになっているため正確には不明)まで、この小さい機体で突っ走って行かなければならない。

「…だ、大丈夫だ」

「え…?」

 青い半透明の球体が僅かにマモルの顔を反射させたため、ハカセは見ることができた―――――彼の企んでいるような顔を。冷や汗を一つ頬を伝わせながら、右の口角だけを上げている。

「な、なにするの?…マモルン?」

「俺たちは、この機体の所有者だ」

「え?…うん」

今さらでしょ、と思うが、彼の言いたいことは所有物であることではなかった。“世界第二位”が持っているということが重要だった。次にはマモルが「んで、俺たちはボードカー(これ)に様々な改造を施したよな?」と言ったことで、ハカセは理解できた。目の前の少年が何を考えているのかを。

「ま、さか…」

 このボードカーには、マモル設計、ハカセ改造のある機能が取り付けられている。後方にある噴出口で起こす推進力が市販のものより倍ほど大きのもそのせいである。

「おう。やるぞ。」

「まじ…で?」

マモルはゆっくりと球体の操作パネル中央にあるドクロマークに手を伸ばす。

「マジで!まじでやるの超加速(ブースター)!?」

「おう!」

景気よく義手が触れる。ピピ!という電子音―――とともに、噴出口からエンジンのかかる不気味な音がする。

「あ…ああ…」

ハカセの表情が悲痛に歪む。これから起こることは、ある種テーマパークの絶叫マシン並みだ。

「喋んなよハカセ!舌噛むぜ!」

「いーーーーーーーやあああああああーーーーーー!!」

叫びと同時に、エンジンは火を噴き、ボードカーは今までの速度がお遊びだったかのように―――加速した。

          ★

 薄暗い広間。

 そういうにふさわしい場所に確認できるだけで50人以上が集まっている。元大ホールであったその場所は床の至る所に四角形のハッチがある。かつてのそこは演劇ホールにも、巨大な避難所にもなれた。本来ハッチからは椅子が出る仕掛けだ。今は綿の飛び出た椅子がちらほらと地面に出ていたり、ステージには無数の穴が開いていたり、9割が壊れた照明ライトの内の一つも点滅をくり返しているといった状況だ。そんなほとんど廃墟と化している施設の中、壁や制御を失った椅子に腰かけながら、談笑や口論をしている団体が居た。

「おい。あと10分だぜ。間に合うのか?」

会話の中で誰かが言う。目線はステージ中央に乗せられた大きな液晶時計の時間を見ている。現在、8時50分を10秒ほど過ぎていた。彼の質問に対し、不安をほのめかす解答が帰ってくる。

「まさか噂の『ランキング狩り』にやられたのかも…。」

あくまでそれは、あってほしくないという思いも含んでの言葉だった。口にした本人も声が震えているのを自覚する。

「ええ!まさか。あいつら第二位だぜ。そんな簡単にいくかよ」

「でも、ここまで来る気配ないぞ。おかしくないか?」

「いい加減にしろ。」

弾む二人の会話を聞いて、ステージの端に腰を落ち着かせ立てズボンのポケットに両手を入れていた少年が声を張った。反響したその声により僅かにすべてのライトが揺れた。

「「…。」」

「いいか、あいつらは前回も遅かっただろう?確か…おい。9位。あいつらいつ来たっけ、前回?」

少年は肩越しに対角線上を見ると、視線の先にはスナック菓子の袋を片手にコクコクと頭を上下させまどろむ巨漢の男がいる。アゴのたるみで首が確認できず、XL以上であろう黄色い服ではそれでも彼の腹部のふくらみは隠せない。

「お、おい。9位?」

「……グースカ」

「んな風に寝るやつがいるかッ!」

「! な、なんでふか?ぼく、ちゃんと立ってましたよ」

「嘘つけ、立ってたけどちゃんとではなかっただろ!」

そんなことはいい。たるみで声出てねーし。少年は呆れ顔をつくりながらも、再度質問をしてみる。

「前回2位どもは何時に来たっけ?9位?」

聞かれた9位という巨漢は、「んあ?」という呑気な声の後、スナック菓子を一枚つまみ、言う。

「たしか…5分前?だったような」

「……。」

無言の少年の睨むような視線に、どことなく不気味さを感じ取った巨漢の男は「すみません。」と小さくなった。巨漢なので決して小さくはないが。

「…はあ、正解だよ。」

少年の言った言葉に、男は胸をなでおろした。そして安心する男を視界の隅に置き、少年は先ほどの二人に言う。

「そうだ。5分前でもあいつらは来たんだ。少しはじっとしてろ」

少年が言ったことで、最初に話していた人々も黙った。少年がいることの効果は抜群のようだ。会場全体が静まり返る。丁度、そうして会話が一段落した時だ。バタン!という大扉の開く音ともに二人の人間が顔からスライディングを決めて入ってきた。

「―――――――来たか」

口角を上げ、ステージに居た少年は言った。

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