勇者様パーティにおける遊び人の役割
育てば育つほど役に立たなくなる不思議な存在、遊び人。
その無駄な遊びが時として幸運を招くこともあるが、パーティメンバー枠を1つ消費するにはあまりに……あまりに微妙極まらん存在である。
しかしそれはあくまでRPGゲーム基準の話だ。
数有る職業からあえて遊び人を選んで、危険な冒険の旅に参加するおかしなヤツ。それがただの凡人であるはずがない。
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「戦えよバカーッッ!!」
「同意。つか何で俺らこんなの連れて旅してるじゃん……?」
勇者様の叱責も日常茶飯事だった。
その日も遊び人ことフリークはボス戦の大事なところで、急に一人棒倒しゲームがしたくなって砂遊びにこうじていた。
ギリギリの戦いが終わると男戦士を含むメンバーたちが、コイツなにやってんだと呆れ見下ろしてくる。
「そうか済まなかった……。なら次は勇者ちゃん様の番だ、大胆に崩してもらってかまわないっ!」
「誰が棒倒しゲームに参加したいとか言ったよっ!! こ、こんなものっ! こうだっ!」
「とか言いながら参加しちゃうんじゃん勇者様……」
女勇者様は自分まで一緒にしゃがみ込んで、えげつない大胆さで盛り土を崩し奪ってゆく。
そんな無邪気さを残した自然な姿に、戦士もニヒルな笑いを浮かべる他なかった。
「次お前な」
「……おいおいおいおいおい、何でそういうことになってるじゃん? つーか無理だろコレ」
遊び人フリークが男戦士を指さす。
勇者ちゃん様もうんうんうなづいていた。
立っているのが不思議不可思議ミステリーなほどに、棒はギリギリの盛り土だけで立たされている。
「……あ」
「やーいやーい! お前の負けーっ、ワハハハハッ!!」
「うん、戦士の負けだなっ、あはははっ!」
結果は見えていた。苦難のボス戦後とは思えぬほどに勇者(16)の笑いが華やかに上がる。
パーティ紅一点かつ最年少の彼女がそうやって笑ってくれると、誰もが和まずにはいられない。
「……なあ、もう一回やるじゃん?」
「いいよっ、やろうよ戦士!」
悔しくなったのか敗北者がゲームの再開を持ちかける。勇者ちゃんはニコニコと楽しそうだった。
「そんじゃ負けたヤツが今夜の酒代持つってことでどうだ。……もちろん全員参加で」
「お前、あんだけ戦闘サボっておいてよく言えるじゃん……その口どうなってるんだよ、だし……」
勇者様一行の旅路は今日も山あり谷ありながら平和だった。
「あははっ、戦士の負けーっ♪」
「や、やっちまったじゃん……連敗かよぉ……」
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その晩、戦士の財布を生け贄に酒の席が盛大に賑わっていた。
だが遊び人フリークの姿が無いことに女勇者が気づく。
「あれ、アイツは……?」
「なにか悪いものでも食べたのではないですかな。トイレに行ったっきりですぞ」
仲間の僧侶に問いかけるも興味がなさそうだった。
僧侶からすれば戦わぬ前衛など回復魔法かけてやりたくもない邪魔な存在だ。
……かけるほどフリークが前に立とうともしないので、嫌がらせしようもないのだが。
「ふーん……アイツ何か多いよね、こういうこと」
「そうですな。元々集団行動を好む男でもない様子……何をしに我々に付いてきてるのやら……理解できません」
その遊び人、姿を消したかと思えば現れる。
再度旅立とうとするとまるでうっかり八○衛のように、待って下さいよ勇者様~~と再加入するのである。怪しい。
「いいんじゃないかな。一応がんばってくれてるし」
「勇者様がそうおっしゃるなら、私からは特にありません」
酒場の夜がゆっくりと更けようとしていた。
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一方その女勇者の姿が町外れで見つかっていた。
同時に存在するはずのない存在が、闇夜の街の一角で無数の騎士に囲まれている。
あの無邪気な女勇者とは思えぬほど、その容姿にはどことない老成と自信にあふれていた。
「偽勇者アルリースだな?」
「おやおや偽者とは酷い言いがかりだ。僕アルリースこそ本物の勇者だよ」
口調もだいぶ違う。どう見ても別人だった。
「黙れ! 勝手に勇者を名乗るもの全てが偽勇者にあたる! よって貴様は偽勇者だ!」
「そんな手前勝手な理屈並べられてもね……我思う、故に我勇者なり、としか言い返せないね」
反論に騎士たちが剣を身構えた。
勇者もそれにあわせて、ただし気だるそうに武器を構える。……それがなんとただの棒きれだった。
「どこまで我々を愚弄するっ!!」
「いや愚弄ってわけじゃ、というよりこれしか買ってもらえてないっていうか……。フッ、このヒノキ・ロッドでお相手しよう!」
「こ、このっ、ええいもう殺せェェッッ!!」
たちまち始まる闇夜の殺陣、殺陣と書いてタテ。
飛びかう剣を舞踊るように偽勇者がかわす。
ヒノキ・ロッドで鎧の隙間より目を突き、喉を突き、確実に敵を戦闘不能にしてゆく。
「話と違うぞ……何だこの動きは……もはや達人のものではないか……!」
「ど、どうします隊長っ?!」
「決まっている、撤退は許されん討ち取れェッ!」
卑怯な攻撃さえ防げばきっと勝てる。
騎士たちが戦法を変え、きっちりと盾を身構えなら剣で偽勇者アルリースを突いた。
ひのきの棒ではとても盾や鎧にかなわない。
「死ねっ偽勇者!」
ついに彼女は建物を背に追い込まれ、騎士たち一斉の突きが彼女に殺到した。
「……ストンスキン」
勇者がぽつりと呪文をつぶやく。
肌が超硬質の岩へと変わり、剣という剣を無傷でへし追った。
「た、隊長っ!?」
「お、落ち着けっ、ななな、何だコイツ?! 本当に勇者なのかっ?! ……あっ!!?」
ストンスキンの効果が切れると偽勇者の肌が元へと戻った。
ただしそれは別人の、何とあの遊び人フリークの姿を形どっていた。
「あーあ、変装解けるの忘れてた。ま、冥土のお土産ってやつだと思うといい」
「貴様、一体何者ッッ、ウッウワアアッッ?!!」
たちまち大恐慌が起きた。
一斉に騎士団の利き手が石へと変わり始めたのだ。
石化はストーンスキン化したフリークを媒介として彼らに感染した。
「い、石にっ、身体が石にっ、アアアアアアーッッ!!」
「もっと容赦なく言い換えれば生かしては返せないということだ。勇者ちゃんと愉快な御一行に手を出すヤツは、石にでもなんにでもなっちまえ。……なんてね?」
おどけに返事を返す者などいない。
石化の力が騎士たちの全身を飲み込み、もはや動かぬ石像へと変えていた。
それをフリークが容赦なく砕く。
作業を終えると再び我が身を魔法で変化させ、フリークは偽勇者アルリースへと巻き戻った。
「あ~~肩凝った、これだから遊び人は大変だ……」
遊び人フリークが大通りへと去ってゆく。皆の居る酒場の方角ではなかった。
残念ながら勇者アルリースを狙う勢力は一つや二つではない。
だから彼女が本当の勇者として立つその日まで、遊び人はその陰として戦い続けるのだ。
育てば育つほど役に立たなくなるのではない。勇者たちを手助けする理由が無くなってゆくだけなのだ。
遊び人はいつだって勇者を見守っている。
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追記。
巷の噂によると遊び人は無条件で賢者になれるそうだ。
だがそれも解釈の違いに他ならない。
遊び人とは賢者であり、賢者が遊び人をしているだけなのだ。
少なくともこの勇者様と愉快な一行の中では、それこそが真実である。
ドラクエ3は勇者・武道家・僧侶編成の3人だけプレイで遊びます。
魔法使いは入れません。コマンドめんどくさいので!