第九節
目の前に立つ、強大な力。
身体が炎上しながらも、その立ち尽くす様はある種の強大な圧力になっていた。
が。
ボロッ……
「!?」
シャドウが見たのは、ゾンビの体が崩れ始めていたところだった。
「……、」
ゾンビは、もう動かない。
体がボロボロと、崩れ始めていたのだ。
きっと、これが奴の第二の生の最期なのだろう。
ただ、シャドウは無様だとは思わなかった。
自分たちに立ち向かい、挑みかかってくる雄姿は忘れることはない。
彼には何か理由があったのだろうか、
彼には何か目的があったのだろうか、
その理由はもう問うこともできないだろう。
「……、」
「……シャドウ?」
「終わったよ」
「え、あ……」
ルナも、その最期となるゾンビの姿を目にしていた。
既に、腕も足もボロボロに崩れかけていた。
きっと、その体にはもう魂は入っていないのだろう。
「……、」
シャドウは、ただそれが、崩れ落ちるまで見ていた。
敵だった、強敵だった。
だが、彼はどんな敵にでもその戦う理由があると知っていた。現世で戦う者たちが、それぞれ抱える理由がある事を知っていた。
だから、そんな彼らを侮辱することは、きっとしない。
強くあり続け、その目的のために過去から築き上げた奴を侮辱せず、今はその最期を唯見届けよう、そう、彼は誓っていた。
灰が残り、肉は消えた。
長いような戦いが終わった。
ただその結末は、劇的でも、感動的でもなく。
―――ただ、静かに終わったのだった。