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白の物語  作者: 甘味しゃど
第五章 静寂 ???.
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第七節

 正に、一瞬だった。

 悪手がルナへと近づいていた時だった。


 ばぎばぎばぎばぎばぎばぎばぎばぎばぎばぎばぎばぎばぎっっっ!!!!

 地面に、亀裂が走る。

 ある一点から、その大穴から、その部屋全体に走るかのような大きな亀裂たちが、一気に走り廻る。

「……なにッ!?」

 突如、ルナとゾンビの間にある足元により大きなクモの巣の模様をした亀裂が入る。


 ゴガァァッッ!!

 亀裂は辺りに飛び散り、底から姿を現したのは、銀色の長髪にロングコートを着たシャドウだった。

「っっらぁっ!!!!」


 ゴバァッ! と、ゾンビの顎元を蹴り上げる。

 大規模なその部屋の空洞の天井に衝突する。

 衝突と同時に天井を抜け、その体は天高く突き上がっていた。

 そう、まるで、聖人に匹敵する力で……。


「しゃ、どう?」

「……ハァ…けほっ」

 多少咽せ返しながらも、彼は振り返った。

 ルナが見たのは、確かにシャドウ本人ではあるが、先程までとは打って変わった風貌になっていた彼だった。

 まず第一に変わったのは、目元あたりに黒い筋隈が出来ていた。更には灰色の瞳だった彼の目が明らかに爛々と赤くなっていたのだ。更に袖から出た手の甲にも蛇が体を動いたような黒模様。

 何かが、確かに変わっていた。

「悪い、待たせた」

「それは……何?」

「説明しておきたいが、後だ。どうやら上は丁度山の斜面だったらしいな。ゾンビが外に出ちまった」

 シャドウは視線を上に上げる。

 上に開いた大穴を覗くと、星が煌めいて見える。

「時間もないな……行くぞ!」

「ふぇっ?!」

 シャドウはルナを抱えると、グンッと足を曲げ、力を込める。

「……っ!!」


 バゴッ!!

 地面に亀裂が入った時には、既に二人はそこにいなかった。

 彼らがいたのは遺跡を抜け、既に山道を遥か抜けた空中だった。

 上空高く浮遊している二人が目にしたのは、山頂辺りで此方を観ているゾンビだった。どうやら出てくることを待っていたのか、ジッと彼らを見つめていた。

「ルナ、鎖で足ば作れるか?」

「え、うっ、うん」

 とっさの声に、ルナは数本の鎖を出現させ足跡の足場を作る。

「でも、どうするの?」

「正直言って正攻法で勝てるとは思えないさ、だが、力押しでもなんでもしないといけないらしいしな……」

「ゴリ押し戦法?」

「押し方は考えるって……」

 彼女を鎖の上に下ろす。

 シャドウは彼女を下ろすと、もう一度また別の試験管を取り出した。

「それは?」

「魔力原液とでも言うかな? 高濃度の魔力を原液化したものだ。俺はこれがないと魔力特化の戦闘ができないからな」

「え?」

「……深く聞くのは後だ。それよりも、来るぞ!」

「!?」

 ゾンビはグオンッとこちらへ近づいてくる。

 対しシャドウは、直ぐにその液体を飲み干し、彼女の背をポンッと叩く。

「どんな攻撃でもいい、隙は必ず有るからな……それと」

「へっ!?」

 突如、彼女の背にブワリッと何か大きなものが出現する。

 それは、まるで天使のような翼そのものだった。

「こ、これは……」

「ま、俺から行う降霊術や増力術の一種だ。空中戦だったらソレがあれば良い方だろ?」

 彼はそう告げると、その場から一気に加速しゾンビへと向かう。


 轟ッッッ!!


 腕と腕が重なり衝突する。

 シャドウは激突直後、気を緩むことはしなかった。直様ゾンビの腕を掴みギュルンッと回転しながら地面に衝突させた。


 ゴオォォンッッ!! という爆音。

 山にはクレーターができ、その中心にゾンビは立っていた。

 それでも、シャドウは緩めない。

 落下を利用し、両の拳をつなぎ合わせ、殴りつける。


 ゴガァァッッ!!

 頭にクリーンヒットすると、ゾンビの頭はガクンッと下へと打ち付けられた。


「……なっ!?」

 頭を打ち付けたシャドウの腕には、ゾンビの手がギッシリッと掴んでいた。

「……ッッ!!」

 その腕を掴み、ゾンビは乱暴に振り回し始める。


 ガギィッ! ゴギュッ! ゴバァッ! ドゴォッッ!

 まるで鞭か何かのように、彼の体を振り上げては地面に叩きつけ、振り上げては地面に叩きつける。

「ガッ……ァアッッ!!」

 何度か叩きつけられている其の中で、シャドウは体制を戻しそのまま地面に着地するように綺麗に足を着くと、腰元に隠したナイフを取り出しゾンビへと突き刺しかかる。

「―――!」

 ゾンビの肩にグシャリッと不快な音が響いた。

 肩には彼の持っていたナイフが突き刺さり、対しゾンビはシャドウの腕を掴み睨み合いの状態になる。

「それでいい」

 シャドウは、仄めかす様に言った。

 彼は、この一瞬を逃さずに待っていた。

 来るのを待っていたのだ。

 最高のタイミングで、最大を放つ者を。


 ―――砂煙、その中から現れる、〝天界の両翼を授かりし者〟を。


「……!」

 ルナは、上空から接近していた。

 銃口を一点に向け、魔力を十分に蓄えた弾丸を放つために。そして、今のルナは今までの魔力比を遥かに超えた量の魔弾をその銃に宿していた。

「ああ……、脳天からお見舞いしてやれ」


 引き金が引かれた。

 銃弾は、脳天を直線に打ち抜く。

 そして、ゾンビの体の中心深くまで抉り込むと……、


 直後、ゾンビの体を内側から焼き尽くすほどの、強大な力が襲いかかった。

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