第六節
地中深く。
その男、銀霊シャドウは埋もれていた。
「……ッ」
四肢が動かなかった。
全身に未だ走る激痛に、土砂と瓦礫で圧迫されたその身体は、まるでコンクリートにでも漬けられたような錯覚を覚えた。
上の方では、微かに轟音が響いていた。
(桁違いだ……)
思った。
その一撃だけでも、きっと全力ではないのだろう。
それだけで、彼は聖人と云う者の片鱗を深く体に味わった。
だが、彼に残っていたのは恐怖ではなかった。
(真正面に戦ってもまず勝ち目はないんだろうな……だが、逃げれば復活するのか……)
敵に何の意思があって転生し、何故目につくものを破壊し始めたのかは知らない。
だが、それでも後に響きうる破滅を防ぐに越したことはないと、ただ淡々と彼は結論を出しているだけだった。
問題はそこからだった。
どうやって倒すか。
方法はない。
だが、倒せないという事実が肯定されたわけではない。
(ここで手を抜くのは……後悔するな)
圧迫されていた右腕を、強引に動かし始める。
傷からは血が噴き出し、瓦礫の突起でさらに傷が付くも、それを無視してでも服の中に手を突っ込み、或る物を取り出していた。
それは一つの、液体の入った試験管だった。
(持ってくれよ……)
口へと運び、蓋を空け、飲み干す。
一気に躊躇いもなく、微かに入ってくる土も無視して、飲み干した。
四肢が、肉が、躍動し始める。
彼の体に、再度力が漲る。
(……さて、死を覚悟しようか)




