第三節
轟ッッ!!
直後に激突したのは、目に見えぬ速さで動いたゾンビとシャドウだった。
互の拳が轟音を立てて激突する。
「……!!」
シャドウは、激突した瞬時にもう片方の手に持ったナイフをゾンビの腕に突き刺す。
腕に深く突き刺さったそのナイフを握り締め、彼はグオンッと引っ張り近寄らせる。体の体制を前のめりに崩されたゾンビに、再度振りかざされた彼の拳が炸裂する。
ゴンッ!!
「ッ!?」
炸裂した拳は、ゾンビの無事な腕で防がれた。
だが、それでよかった。
「今だ!」
「……ッ!」
その声に、ルナが反応する。
瞬間、ゾンビは気がついた。銀霊シャドウの腕に巻き付いた鎖の存在を、たった今認識した。
だが、
「遅い」
ルナの声とともに、シャドウは防御された拳で直様ゾンビの腕を掴む。
瞬間、彼らの体はその鎖によって一気に後方へと投げ飛ばされていった。
「―――ッッ!?」
ズゴォォンッ!!
シャドウの体は鎖によって回収されたが、ゾンビの方はといえば入り口付近に吹き飛び石壁に勢いよく衝突した。
「ガハッ……ハァ、ハァ……」
「無茶、し過ぎじゃない?」
「いや、正直これで良かった、わかったことを説明するよ」
シャドウは、安心しきれない表情の中で、いくつかのことについて説明を始めた。そこで、確かにルナはこの現状とどれだけの窮地に立たされているのかを認識させられた。
「まず、第一にアイツの能力だ。手っ取り早く言えば先読みだが、まだ使えないらしい」
「まだ?」
「要は、あいつはまだ再生の途中段階。手っ取り早く言えば、肉体の回復も意思の回復も不完全の状態ってことだ……だが、ナイフを突き刺した瞬間、既に血液が通い始めていた」
「ッ!?」
「ミイラだった奴に血液なんか乾いて残ってないって言いたいが……確かに、そして着実に完成体になり始めている」
もはや朽ちた体が再生すると言うのもおかしな話だろう。だが、現にそのイレギュラーが目の前で起きているのだ。
「……早めに、やらなきゃ」
「まあな、それともう一つ」
彼はヒタリと汗をたらしながら、自分の腕を見せる。
それは、最初に拳を合わせた瞬間の腕だったのだが、既にその拳からは血が噴き出し、その傷は余りにも痛々しかった。
「ただ直接ぶつかっただけでコレだ……真っ向勝負は避けたいが、如何せん隙ができないと反撃ができないからな」
「……大丈夫?」
「まだ大丈夫だ……それに、最後に懸念することといえば……」
ドゴォォンッッ!!
悠長に話していられる時間などないと、彼らは思い知らされる。
突然粉塵舞う壁の方から投げ捨てられた一つの大岩。そして、その煙の中から姿を現した、正真正銘の怪物。
ゆっくりと奴は、此方へと足を進めてきていた。
「……最後に一つ。アイツの聖人としての力を、絶対に復活させてはいけないということだ」
「聖人としての能力……」
「ああ、奴の能力は〝未来託宣〟……だとは思う」
「未来……託宣……? 予知、じゃないの?」
「いや、どうやらアイツの能力には幾つかの限定的なものしか見えないらしい。謂わば大事な未来。歴史そのものに残るような物であれば見れるって所だろうな。それが大事であれば、書物に書かれていなくても予知できる」
(そう言えばそうなんだ、あの壁画がそうであったように……)
シャドウは、目の前から迫り来る脅威に向けてもう一度構える。
そして、ルナは……。
「……、」
「……ルナ?」
ルナは静かに彼の前に歩みだす。
「……大丈夫、もう出し惜しみはしない」
「……そうか」
彼女の両手に、二丁拳銃が現れる。そして、その両手に持った拳銃を敵に立ち構えた。
相変わらずの静かな瞳で、ジッと敵を見据えて……。
ふと、その一瞬だった。
シャドウは、ある光景を見ていた。
それは、きっと彼にとって既視感のあるものだったのだろう。
嘗ての思い出か、それとも……。
ただ、わかるのは、
―――その背中は嘘をつかない。
ただそれだけだった。




