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白の物語  作者: 甘味しゃど
第五章 静寂 ???.
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第一節

 シャドウは、もう一度すべての壁画を眺め直した。

 その全てを見て、彼はルナに一言、言った。

「これは、歴史画だ」

「歴史画……?」

「正確には今までの歴史の一部を絵にして残す。古典的だけど、まあ、昔の人間がする事ともなれば納得がいく」

「なら、なんでさっき、あんなに動揺してたの?」

「……、」

 大きく息を吐き捨てる。

 唾を飲み込み、呼吸を再度整える。

「これら全てが、未来で起こりうる現象を描いたものだったからだよ」

「……ど、どういうこと?」

 さすがのルナも、少なからず動揺した。

 だが、その反応が解っていたかのように、彼は説明を続けだした。

「いや、正確には、過去の時代にとっての未来。俺達からしてみれば数年前の出来事だけどな」

「?」

「スマン。もうちょっと分かりやすく説明するよ。この遺跡たちは目測でも数十世紀も昔に作成させられた遺跡だ。つまり、それだけの昔の時代に何者かの為か、何者か本人が作った遺跡だった。そしてそこらへんの壁画は、今からこの遺跡建設時以降から、現在近くまでの歴史を模した壁画だってことだ」

 つまり、と彼は自分の中で点を付ける。

 彼が求めていた『聖人』の持つ能力。そして、それがどれほどの規格外さを秘めていたのかも、ある一言で完結づいた。

「未来視の能力……か」

「み、未来視?」

「そ。でも、少し特殊な未来視だ。多分、この聖人の観る未来は〝その瞬間の中で最も大きな出来事を観測する〟ことなのだろうな」

「……なんで、わかるの?」

「……まあ、そうだな。そうでならないと当てはまらないというか……」

(アレを見せ付けられて、そう思わない方がおかしいよな)

「……、」

「……、」

 静寂があった。

 互いにその現状を深く思案していた。


 根底的に規格外の出来事に鉢合わせてしまったため。そして、シャドウはさらにその先に起こりうる事象への推測。

 ただそれだけの事柄を考えるだけの時間が、今その静寂と共に欲しかった。

 ただ、静かな中で考えようとしていた。


 ―――だが、その沈黙を許さないそれは、彼らの状況を大きく狂わせた。


 ガコンッ!


 音がした。

 一寸、確かに音がした。


 ルナとシャドウは同時に振り返る。

 それは、祭壇の上にある柩の中から聞こえてきたのだ。……いや、正確には柩の蓋が冷たい地面に落ちゆく瞬間を、確かに彼らは目にしていたのだ。


 ぐらり、ぐらり、と。

 何かがその柩の中から姿を現そうとしていた。

 それは、余りにも彼らの認識を超えた何かだった。

 確かにそれは、柩の中から枯れた手を伸ばし、端を掴む。肉のない腕に力を込め、ぐらり、と体を起こし上げる。

 遠目からでも、その枯れ果てた姿は何かを認識した。

 肉は皺しかなく、骨が露出して見えるかも知れないと思うほどの細さ。それはやせ細り過ぎと言っても過言ではなく、確かにそれは枯れた何かだった。


 そう、既に動くはずもない、枯れ果てた死体が。

 動くはずもない肉体が、ゆっくりと視線の先で動き出していたのだ。


「……ッッ!?」

「有り得て、いいのか? こんなことが……ッッ!!」


 もし、そんな魔術があったなら、どこにその仕掛けがあっただろうか?

 もし、生きていたと仮定しても、あの体で動けるだろうか?


 ありえない。

 この言葉が今言葉にして表すのであれば、どれほど状況にあった言葉だろうと思ったほど……。


 動き始めた死体は、柩を出るとその場で立ち上がる。

 指を動かすだけで、コキコキッという骨の擦れる音が遠くとも耳に入った。

「ゾ、ゾンビ?」

「さあ、どうだろうな」


 シャドウとルナは今現在の距離から、彼を見続けた。


 どう動く?

 攻撃するか?

 ここから逃げるか?

 何をするつもりだ?


 疑惑があった。

 初手を探っていた。


 だが、その刹那。


 ……ブオンッ!!

 音を置きざるように目の前から動く死体は消え、音が後からやってきた。

 ただ、認識したときには遅かった。


 奴は……ゾンビは、既にシャドウの懐にまで近づき……、

「なっ?!」

 構えた拳を彼に叩きつけた。


 ドゴォォォンッッッ!!

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