第一節
月が真上に在る、ある夜の日。
風が木々を揺らし、ざわめいている。
ただ、それは自然が起こす風ではなかった。
―――。
風に乗り、颯爽と木々を抜けて行く何かが、そこにはいた。
月明かりに照らされて見える影は四つ。
後追うように駆ける三つの黒い獣の様なもの。
その前には、ローブのような物を靡かせて駆ける一人の少女。
その少女は、袖なしのパーカーに上腕部の真ん中辺りから手が隠れそうな程有る付け袖を装着している。隙間から露出した肩と腕は白くで華奢なもので、月明かりに照らされてか、より一層白く見える。パーカーとは別にハット帽を深くかぶっているが、その帽子から出た長く伸びた純白のロングヘアが煌びやかに映る。
黒を基調とした服に、純白に染まる肌と髪。
まるで相なす二つを持つその者は、華奢な肉体に似合わず木々を足場代わりに足蹴して颯爽と駆け抜ける。
少女を含めた四つの影とも、視認できるような速さではない。サーフィンの波に乗るごとく、彼らは風に乗り木々生い茂る山の中を駆けていたのだ。
三匹の黒く塗りつぶされた狼のような獣達は、眼前の標的を狙うだけであった。そのうちの一頭が彼女に向かって突進しようと地面を蹴ると、その獣はまるで体を液状化させたように、槍を突き刺すかのような変形を見せ襲いかかる。
ザスッ!!
獣は少女を捉えたかと思った瞬間、自身の体が木を貫通していたことに気がつく。何が起こったのかは理解できず、とりあえずとスルリッと木から元の獣の姿に戻ろうとしている―――その瞬間だった。
姿が消えたはずの少女が、獣の真上の木の茂みから獣の頭上に落下し、どこからともなく取りだした銃を向け、
パンッ!!
発泡する。
一頭は悲鳴も苦しむ声も上げず死滅したが、刹那にもう二頭の獣が挟み込むように襲いかかる。
彼女は落下途中でありながらも、すぐさま体勢をグルリッと変え近場の木を足場にする。
そして。
ダンッ!
木を思い切り踏み抜く。その速さは脱兎の如き動きで、獣達の攻撃を回避したのだ。
獣はすかさず標的を追おうと向き直ったが、振り向いてもそこに少女の姿はなかった。
「どこに行ったのだ?」と、獣達は互いに互の目を見合わせた、その時だった。
彼ら獣の見つめ合うはずの視界の間に、異物が交じる。
パパンッ!!
乾いた音が、静かな森に響いた。
少女は、獣達の視線の中間に現れ、瞬く間に二匹の眉間に拳銃を発泡したのだ。
獣達はうめき声も上げず、その場に倒れ、先程やられた一体と同様にドロドロと液状になって死滅していった。
「……、」
勝者となった少女は、何も言わずにその場を立ち去る。
月明かりの中を、純白と黒の混じった者が駆ける。
……そして、もう一つ。
その場所から数十キロも離れた場所で、もう一つの動きがあった。
「……、」
そいつも、何も喋らない。
だが、周りにある木のなかでも多少大きい木に登り、あたりをグルリッと見渡していた。
その者は、前者と同じくして黒いロングコートに黒のズボンに身を包み、白銀の髪を風にたなびかせる一人の人物だった。
サッ
瞬間。
その者は、その場から消ていた。
ある夜。
ある土地の二箇所で、確かに動きがあった。
それは些細なことだが、確かにあったのだ。