第二節
「そういえば、これ」
ルナは、シャドウに羽織っていたコートを取って渡す。
「もういいのか?」
「うん、この中、だいぶあったかいから」
「まあ、そうだよな」
高所に存在する洞窟よりも、鍾乳洞は段違いと思ってしまうほどには暖かかった。地中近くに存在する鍾乳洞は外気も流れ込まない上に、地中近くの地熱に近いために外よりも過ごしやすかった。
シャドウは受け取ったコートを改めて着込む。
所々衝撃でほつれてはいるが、その程度で済んだことのほうが奇跡だろう。持っていた武器や道具一式も元あった場所にしまい込むと、再び周りを見渡して吐き捨てた。
「外へ出る道は分からないが、少なからず外には出られるだろう。まずはここから出ることに専念するか」
「……自分から落ちたくせに」
「下に遺跡があると思ったんだよ」
「……無責任」
「はいはいそーですね」
軽く受け流すように言い放ち、彼らはその鍾乳洞を歩き始める。
光源あるおかげで、迷うこともないが、そもそもどちらに行けば正解かなんてわからない。結局のところ、足を使って探すしかない。
だが。
(違和感はまだある。あの洞窟で掘り当てたあれが確かに遺跡の一部だとすれば、ここはその下だ。つまり、遺跡ごと貫いてきたのか? なんにせよ、状況が状況だ。まずは脱出を考えるか)
シャドウは、一度思考の放棄を決意した。
退路がないままでは遭難も必然だ。何よりも彼にはルナを巻き込んでしまった責任があった。今だけは彼女を地上に送り返すことだけを考えなければいけない。それに、この一件で或る可能性は見えたと感じていた。
「しかし、ここは本当に大きいな」
「こんなの、初めて観る」
「そうか? 俺は……ある意味初めてかもな」
「行ったことあるの?」
「まぁ、な……」
「?」
コテンッと首をかしげるルナ。その純粋無垢な視線をぶつけられて、謎の焦りがこみ上げ、無性にむず痒くなり、最終的には「あー……」と根を上げてしまうシャドウだった。
「何だろうな、色々あるんだよ。だからそんな目で見ないでくれ」
「??」
「無自覚なのが一番辛い……」
小さく戯言のような何気ない会話であった。
そんな会話が他にも何回か紡がれ、その挙句にシャドウ折れて言葉を放つ。彼女の子供のような探究心を持った視線が妙に痛々しく感じていたのだ。ここで黙っていては何かいけないような、そんな疑心に駆られる彼であった。
「……? ねぇ、アレ」
「ん? ……或れは」
二人が歩いていると、或る場所でまるで秘密の通路のようにポッカリと空いた下域への階段が在った。
「此処?」
「……、」
「どうしたの?」
「あいや……何でもない。行ってみるか」