始節
『知らずに生きる気かい? 〝知らない〟とは、真実を知らず平穏に浸れることだが、万事において何事にも対応できなくなるということだよ』
ある男に言われた言葉、それを思い返す。
凡ゆる局面においてでも、知っていて行動する事と、知らないまま行動するとではだいぶ話が変わってくる。対処法を知らぬままでいれば、きっと先に待つことは後悔のみだと。
その言葉に、何も言い返せなかった。
言い返す理由もないが、言われたままであることもまた癪だ。何も行動をせず、自身の知能だけを頼りにすることも無謀だ。
何よりも、自身の一番を……また失うことこそ嫌だ。
だからこそ、彼は知るためにその地を訪ねる。
少年は、歩く。
悲劇を見て、感じて、知ってきた少年が、悲劇を止めるべく踏み出したもう一つの、新たな一歩。
誰も、彼を知らず、
誰も、彼の願いを見ない。
未来永劫永年孤高であり続け、自己犠牲こそを自身の人生と肯定付てきた少年が、その犠牲を纏う術を探して歩く。歩む足音は乾いて響き、空っぽの空洞となった心の穴を胸に歩く。
かつて、英知を追い求めた少年が、新たな世界に足を踏み入れる。
そして、出会う。
邂逅するはずもなかった存在同士が、相容れぬ背を向けたような存在たちが。
今宵、その地にて対面するのだ。
この出会いは、一体どんな出会いになるのだろう……。