シジュウカラと四十肩
これを書くために一応稲川淳二さんの話を聞きました。で、今、それが怖くて眠れない。
2016/3/9にヤフーニュースに『シジュウカラ、文を作る』というとんでもないニュースが乗った。
『人間以外で、文を作る生物は初、オラウータンでもしねえ』っていう『シジュウカラ賢い、もう人間と同等、いやむしろ人間超えた』みたいなニュースだった。
で、
「糞めが・・・」
僕はそのニュースを苦々しい気持ちで眺めていた。
その理由は、僕は子供の頃からシジュウカラという生物を嫌っているからである。
「ついに、きやがったな・・・」
僕はそのヤフーニュースを見て怖気を振るった。だからその後、すぐにねとらぼのニュースを眺める事にした。ねとらぼのしかもねこらぼのニュースを見て心をおちつける必要があった。
子供の頃、うちのじいさまが、僕に教えてくれた話があった。
僕が縁側で、かまいたちの夜のCMそのままの感じで「ねえ、じじいなんだから、なんか面白い話知っているべさ」と、じいさまに聞いたところ、じいさまは「おごお」と言って一回入れ歯を脱着させて、それから、
「しがたねえごと、んだば」
と言って、シジュウカラという鳥類の話をした。
しかし、それは昔話とかそういう子供の心が和むみたいなそういうのではなかった。いや普通、こういう時昔話じゃね?そういう時ってさ。シジュウカラを使った舌切り雀っぽい話でも、シジュウカラを使った鶴の恩返し的な話でも、よだかの星的な話でも、残雪っぽい話でも、サワンみたいな話でも、何でも良かったのだ。昔話的だったらなんでも。僕はただ、老人が知っている口伝チックな昔話を聞きたかっただけだったのだ。しかし、じじいがその時話したのは、なんだろ・・・なんか得体の知れない話だった。
「シジュウカラは四十肩に似ているだろう」
「え・・・あ・・・はい」
僕は子供だったので、四十肩って言うのがなんなのかはよく分からなかった。でもとにかく頷いた。じじいの話の腰を折って、また「がぼお」とか言って入れ歯を脱着されても困ったからだ。
「皆は四十歳になったから四十肩になると思っているが、違う。シジュウカラが肩に止まるから四十肩になるんだな」
じじいは、その時まるで怪談でも語るみたいに、雰囲気たっぷりに若干顔を俯けて、少し声のトーンも落として、何かを意識してそのような事を話した。
「これは、息子の、つまりお前の父親の浩太の話じゃ」
僕はじじいがリアルに『じゃ』とかって言うのをその時初めて聞いた。
「浩太はその日、外を歩いていた。どこかに向かっている最中だった。しかしどうもおかしい。浩太は思った。なんだろうなー、なんかおかしいなー、怖いなー、怖いなー」
おい、じじい!
「そこで浩太は、ふと気がついた。鳥だった。何かの鳥が、自分を見ていた。シジュウカラだった。最初はそんな鳥が自分を見ているなんて何かの間違いだろうって思った」
「でも違う。様子がおかしい。その鳥は移動している浩太を間違いなく見てる。移動しても木の枝を飛び移り、その鳥は、シジュウカラは浩太を見ていた」
「そのうち浩太はなんだか怖くなった。そこでふと気がついた。浩太はその日、四十歳の誕生日だった。大人になったら自分の誕生日なんて、特に男はそんなものどうでもよくなる。でも浩太は思い出した。どうしてこのタイミングで思い出したのか?それはわからない。でも思い出した。シジュウカラはまだ木の上で自分を見ていた。浩太もそれを見た。シジュウカラ・・・四十肩。浩太は気がついた。四十肩。シジュウカラ」
「その瞬間、その枝の上に止まっていた鳥が、その小さな鳥が、浩太にむかってバサバサバサッ・・・っと飛んできた。浩太は一瞬のことでうわっ!と思った。思わず手を顔の前に出すことくらいしかできなかった。しばらくして気が付くと、宏太の肩から声が『ピーツピ』という鳥の鳴き声が聞こえた。みると肩にシジュウカラがとまっていた」
「鳥はすぐに逃げてしまったが、でも浩太はそれから四十肩になって、手が上がらなくなってしまったそうだ」
じじいは、そう言って話を閉めた。
「いやいや、そんな馬鹿な・・・」
僕はじじいに言った。そんなわけねえ。そんなもんは子供でもわかるだろう。四十肩の意味がわからなくてもそれはわかるよ。
「でも、わしも同じ理由で四十肩になった」
じじいはそう言って笑った。
「・・・」
僕が黙っていると突然、
「ピーツピ」
鳥の鳴き声がした。その方をみると、生垣のところにシジュウカラがとまっていた。
そんなわけで僕は子供の頃から、シジュウカラが苦手だ。
自分ではトラウマなんてそんな大それた事考えてないんだけど、でも未だに覚えている以上、多分トラウマなんだろう。
「・・・っていう話なんだけど・・・」
喫茶店で、僕はそれをテーブルを挟んだ向かいに座っている未久さんに話した。
「そんな馬鹿な」
未久さんは言った。
「うん、わかる、僕もそう思う。でも・・・」
でも、その話を聞いてからというもの、僕は怖いんだ。シジュウカラをみると、いつでもどこでも手を振り回して肩にその鳥がとまらないようにしてしまうんだ。
「・・・じゃあさ、私もシジュウカラの話していい?」
「よくない」
え?今僕が話していた話聞いてた?
「まあいいじゃん、聞いてよ」
「・・・」
強引だ。どうするんだショック死とかしたらどうするんだ?
「シジュウカラは賢いの。とても賢い。超賢い。だから現代に生きる魔法使いとか魔女には、カラスよりもシジュウカラの方が人気があるのよ?」
「・・・そんな馬鹿な」
「うん。そうでしょ?」
未久さんはそう言って笑った。
僕もそれにつられて笑った。
でも、気をつける必要はあると思う。イルカやクジラに魅了されたシーシェパードという団体が存在するように、賢いシジュウカラが将来何かを魅了しないとは限らない。だから気を付けないといけない。僕はそう思うんだ。
実は前から考えていました。3月9日のニュースはそれを後押ししてくれました。