第六話(禁じられた遊び)
ぼくら二人は、まるで悪だくみをして遊んでいる子どものようだった。
病院でお互いの視線を見つめあい、手をつないで薬局へ歩いていく。
二人でおずおずと。禁断の甘い蜜への道のりを。
ある日、ぼくらは最後の薬局を出てから、いつものように手をつないで歩いていた。すると、アズミが突然言った。
「ねぇ、ちょっとカラオケにでも行かない?」
「カラオケ?」
「たまには、わたしにも歌わせてよ」
「それもそうだな」
「ちょっと、見せたいものもあるし」
「へぇ。なんだろ」
ぼくは呑気に彼女についていった。そしてぼくらは、駅前にあった一軒のカラオケ屋に入っていった。
部屋のソファに座ると、アズミはさっそく、《見せたいもの》をバッグから取り出してきた。
「なにこれ?」
「スニッフ。スニッフの道具だよ」
ぼくは、目を大きく見開いた。
「アズミ――、なんでこんなもの、持ってるの?」
「なんでって。ネットで売ってたから」
「おまえ、それ自分で使う気で買ったの?」
「えっ……」
ぼくは、激しく動揺した。
「――っ、おまえ、バカか?!」
思わず、ぼくは大声で叫んでいた。
「バカって」
「こんなもんで、薬吸うつもりでここに来たのかよ!!」
アズミの身体が、ビクッと響いた。
「だって…、鼻から吸うと、薬が長持ちするって書いてあったから…」
「怒ったの?亮平」
「当たり前だ!!」
「わたし…、わたしたちが、少しでも薬を減らせたらと思って」
アズミは、もう、半泣きだった。声がぶるぶる震えていた。
ぼくは、悲しさを抑えきれず、その道具を荒々しく壁へ投げつけてやった。ガシャンと音がして、それらは床に無残に散らばった。
「ごめん…。亮平。ごめん」
アズミの目から、涙がぽろぽろこぼれた。
「アズミ、もう二度とこんなことしないって、ぼくに約束してくれる?」
「うん」
「頼むから」
「ごめんね…亮平」
アズミは、泣きやまなかった。ぼくは、やりすぎたかなと思い、彼女に謝りたい気持ちになってきた。
「…アズミ。もう怒ってないから」
「亮平」
突然、アズミの両手がぼくの腕をつかんだ。
「亮平、お願い。わたしを嫌いにならないで」
「嫌いになったりなんかしないよ、アズミのことは、絶対。…」
それは、ほとんど告白だった。ぼくらはお互いに見つめあった。アズミの瞳がうるんでいた。
ぼくは、アズミの手を、ぼくの腕からそっとほどき、ぼくの両腕で彼女の肩を包み込んだ。
やがて、アズミの顔をこちらに向かせると、震える身体を落ち着かせるように、ぼくは彼女に口づけた。――