第四話(アズミとぼくとギター仲間と)
3日後、アズミがぼくらのチャットルームにやって来た。
彼女のハンドルネームは、xxazumixxだった。
ぼくがアズミを紹介すると、常連たちがさっそく詮索を始めた。
『オオォォ━ヽ(*゜Д゜)ノ━ォォオオ 亮平のリア友!!』
『・:*:・ヽ(*´∀`*)ノ・:*:・ヨロスク >アズミ 』
『もしかして彼女?>亮平』
『え まじか?亮平』
『違うって;;』
『ちがいますよー』
ぼくとアズミは、同時に恋人関係を否定した。
だが、ぼくのあたまのなかは、アズミのことでいっぱいだった。
xxazumixxのハンドルネームが、ぼくには光ってみえた。
『なんか弾いたら?>亮平』
ケンタにうながされ、ぼくは、イーグルスの”Hotel California”を弾き語りした。
『888888888』とみんなと一緒に拍手をしてくれたあとで、アズミは、
『予想外に上手い』
とぼくをほめてくれた。それから、
『ねえ、コージさんがなんか言ってくるんだけど』
とぼくにプライベートメッセージを送ってきた。
『コージが?なにを??』
『なんか…ナンパみたいなの。無視していい?』
『いい、いい。コージはサヤの彼氏だよ。冗談なんだってw』
『リョーカイ』
アズミと毎日のように接することが出来るのは、ぼくにとって最大の楽しみだった。
『亮平の歌声、わたし好きだよ』
『ありがとー』
『そのこと、サヤにも話したんだ』
『サヤとプライベートメッセージ?仲いいんだね』
『うん。このまえ、みんなの前で私のイギリス留学の話したでしょ?そしたらサヤさん、自分もいたことあるって』
『へーー?』
『ちっちゃい頃だったから、英語だいぶ忘れたらしいけどw』
『でもたしかに、発音いいよね』
『うん。サヤさん、イギリスを懐かしがってた。』
『教えてあげれば?』
『うん!じつは住んでた場所も近いんだ』
『へー。ロンドンって狭いんだな』
そのとき、ぼくのパソコン画面に、サヤからのプライベートメッセージがパッと出現した。
『ハローッ!!』
『どったの?サヤ』
『今日、病院行って薬変えてきた』
『睡眠薬?』
『うん。でも、コージが車で連れてってくれて楽だったよ』
『いいなあ。ぼくなんかいつも一人で淋しいよ』
『アズミ、誘えばいいじゃん』
『えっ』
『聞いたよ。あの子も、精神科通いしてるんだってね』
『そこまで話したのか、あいつ』
『うちら、仲良しだもんねー(@´▽`)人(^▽^◎)』
『どこまで知ってるんだよ…』
『女同士の内緒だよー』
『なんか怖いな』
『そんなことないよ。アタシ、亮平のモトカノのことなんか言わないもんね』
『信じてるけど』
『アズミ、いい子じゃん。亮平、モノにしちゃえー』
『なんだよ、そのモノって』
『カノジョにしちゃえー』
そのとき、アズミが再びメッセージを送ってきた。
『ちょっとお母さんに呼ばれたから、落ちるね』
xxazumixxのハンドルネームが、パソコン画面から消えた。
ぼくは、かなり残念だった。いつものことだけれど。
『アズミ、落ちちゃったね』
サヤから再びログが流れてきた。
『うん』
『身体、しんどいのかなー』
『え?』
『アズミ、すごく悪いんでしょ?このまえ、飲んでる薬の量聞いてビックリしたよ』
ぼくは、なにをどこまで言っていいのかわからなかった。
『やめさせないと。いつか死ぬよ。ふつうの人が飲んだら卒倒する量じゃん?』
『そうだけど…』
『病院ハシゴなんてよくないよ。アズミ、頭いいからそのくらいのこと、わかってるだろうに』
『うん…』
そう言われると、ぼくはキュッと胸が締めつけられるようだった。
<それでもわたし、眠れなくてほんとうに辛いの。――わかってくれる?>
初めて会った日の、アズミの真剣なまなざしを思い出した。
そこまで飲まなきゃ、眠れない苦しい日々を、いったいどれだけの人が送ったことがあるだろう。
ぼくは、アズミの苦しみは、ぼくにしか受け止められないのかも知れないと思った。