第二話(光と暗闇のなかで)
アズミと出会ったその夜、ぼくは部屋でパソコンの前にいた。
《ギター大好き!!の集まり》
ぼくは、そのチャットルームの常連で、そこでみんなとギターを演奏したり、近況をログで話し合ったりしていた。
『つぎ、わたしが弾いてもいい?(´・ω・)ノ』
『ドゾー』
『コージと一緒に弾くよ?』
『おkですー』
ハンドルネーム:saya_xxxとkoji2000は、ここでカップルになり、一緒に住んでいる。
二人は、サヤとコージと呼ばれていた。
『888888』
演奏が終わると、みんなで拍手した。
『つぎ、誰?』
『ぼく、いいですかー?』とkenta404(ケンタ)が書き込んでくる。
ケンタがラブソングを弾き語り始めたので、
『彼氏ほしーよ〜・゜(*つд<*)゜・。』とmilk_hime701(ミルク)が泣いた。
そのとき、サヤがぼくにそっとプライベートメッセージを送ってきた。
『亮平。ミルクが誘ってるよ』
『なんだよ、それー』
『ミルク、こないだ亮平に会ってみたいって言ってたから』
『あいつ、誰にでもそう言うんじゃないか?』
『それはないでしょ』
『そうかな』
『でも、オフ会したら絶対来るよ、あの子』
『オフの予定あるの?』
『ないけどwww』
サヤがにやっと笑うのが想像できた。
『でもさ、亮平の胸の痛み、カノジョできたら消えるかもよ?』
ぼくは、アズミのことを思ってドキッとした。
『彼女がいるいないは関係ないってば;;』
『でもモトカノと別れたときからなんでしょ?その痛み』
『モトカノのことはもう忘れた』
『チャンスなのにー』
『チャンスじゃないよ』
『どして?会えば気が変わるかもよ?』
いや、いまのぼくにそれはない。
『サヤとコージみたいに、誰もが上手くいくわけじゃないだろ』
『イヤイヤ。。それがね(´;ω・`)』
『なんかあるの?』
『コージ、誰かと浮気してるって噂あんの。。』
『まさかー。嘘だろ』
『ならいいケド』
そのとき、ケンタの弾き語りが終わり、みんなで8888と拍手した。
『いいね〜』
『+。Σd(・∀・)゜+。・.。*イイ☆』
『アリガト━━(@゜∇゜@)━━━゜♪゜』
次々ログが流れていく。
『よかったよー>ケンタ』とぼくも書き込んだ。
ラブソング…、カノジョか…。
アズミとは、また病院でばったり会えるんだろうか。
『――さて、ぼくもがんばって練習しよっと』
『あれ?落ちるんですか>亮平』
『うん、明日早いからな』
ぼくは、嘘をついた。
さっきから、胸の痛みが、ズキズキとひどくなり始めていたのだ。
***
ぼくは、胸の痛みと格闘していた。
ズキンズキンズキン…。
苦しい。誰か、助けてくれ。
でも、誰もぼくの苦しみをわかってくれる人なんていない。
ぼくは、テーブルにあったRを飲んだ。
これだけが、ぼくの痛みを2・3時間癒してくれる薬だった。
「――薬物依存ってやつ?」
アズミの言葉が思い出される。そうかも知れない。
そのとき、深夜だというのに、ケータイが鳴った。
「R、足りてます?余ってますけど…」
「いくら?」
「10粒8000円ではどうですか〜?」
電話の相手は、見も知らぬ女の子だ。精神科関係のチャットルームで偶然知り合った。
「高いな」
「え〜、そうですか〜?」
「いま足りてるから要らないよ」
「じゃ、また今度ですねー」
電話の相手は用がすむとすぐ切った。希薄な関係だ…。
ぼくは、寝返りを打ちつつ、いろんなことを考えた。
将来のこと。
ぼくは本来、IT関連企業に勤めていたが、それもいまは就労できない状態だった。
さらに一錠睡眠薬を飲んで、何度も寝返りを打ったあげく、ぼくはついに近所のコンビニへ行くことにした。
「眠れないときは、少し動いた方がいいんだ…」
コンビニへ着くと、ぼくは慣れた足取りで、雑誌コーナーへ向かった。
すると、そこには――、
奇跡のように、
アズミの姿があった。