第十六話(目覚め)
ピッピッピッ…と電子音がする。
「覚醒しました」と、誰かがパタパタと駆けていく音がする。
なんだ?アズミはどこへ行っちゃったんだ??
ぼくはわけがわからず、呆然としていた。
「行徳さん、わかります?」
と医師らしき人が、ぼくに尋ねる。
「あなたはご自宅で倒れているところを、警察官に発見されたんです」
「あなたの仕事先の人が、何度電話しても通じないって通報したんですよ。無茶はいけませんよ」
ぼくは、肺炎にかかっていた。
大量の薬が、気管支を通じて肺に入ってしまったのだ。ぼくは、はじめて、自分が死にそこねたことを知った。
「アズミが、まだ早いって言ったんだ…」
ぼくの口元に注目した看護師の女性に、ぼくは軽く首をふった。
ICUを出て一般病棟に移ると、窓の外から、太陽の下で燃える緑の木々が見えた。
「そういえば、胸が痛まないな…」
ぼくは、不思議な思いで、自分の胸を押さえてみた。
もちろん、肺炎の痛みはあったが、それといままでの激痛とは、まったく異なったものだった。
ぼくを長年、苦しめてきたあの痛み。
あの胸に突き刺さった壊れたガラスの破片が、肺炎と一緒にどこかへ流れてしまったのだろうか?
ぼくは結局、3ヶ月間入院していた。
「びっくりしたよ、もう。調子はどう?」
とサカキが見舞いに来てくれた。
「もうすぐ退院できるってさ」
「仕事の方は、続けてやれるようにしておいたからな。早く元気になって復活しろよ」
超忙しいくせに、サカキは面倒見のいいやつだ。ぼくは、彼にこころからお礼を言った。
窓の外からやってくる、さわやかな風が心地よい。
ぼくは、時折、”Tears in Heaven”をヘッドホンで聴いた。
これはアズミからのメッセージだ。
「ぼくは強くなくてはならない、
このまま生き続けなければならない」
そうだ、アズミ。
どんなことがあっても、ぼくは――。