第十一話(同棲生活・2)
ぼくらは幸せに暮らしていたが、二人とも、これといった収入がなかった。
ぼくは、いままで、わずかな貯金と年金で暮らしてきた。
二人で生活すれば、そのうち貯金もなくなってしまうだろう。
「わたし、バイトすることに決めたわ」とアズミが宣言した。
「病気なのに、大丈夫なの?」
「大丈夫。わたしが働くから、亮平は家事をして。わたし、いままで全部お母さんにやってもらってたから、まともに料理も出来ないし」
アズミはさっそくバイトを始めたが、ぼくは、彼女の身体が心配でたまらなかった。
ある休日の午後、アズミは死んだように青い顔で、畳の床に転がっていた。
ぼくは、異常なものを感じて、「アズミ?!」と大声をあげて彼女を揺さぶった。
アズミは、目を半分開いて起きた。
「…あ…、寝てた……。どうしたの?亮平」
ぼくはホッしたが、心臓はドキドキしたままだった。
「アズミ…。バイト無理してんじゃないか?ばくもバイト探すから、少し休めよ」
「駄目だって。二人ともつぶれたら、おしまいじゃない」
「そりゃそうだけど」
「大丈夫。これでもわたし、バイト先で重宝されてるのよ。英語が出来るからね」
でも、日増しに彼女の薬はどんどんと増えていき、その量はぼくが見てもものすごいものになってきた。ゴミ箱をのぞくと、そこは数々の薬のシートであふれかえっていた。
「アズミ、限界だよ。もうバイトやめろよ」
「いいの。亮平と一緒にいるためだもん。わたし、がんばるから」
「でも、アズミ…、このままじゃ死んじゃうよ?」
ぼくは真剣に心配していた。
「やだぁ、亮平。死ぬわけなんかないじゃない」
アズミは弱々しく笑った。でも…、ほんとうにこのままでいいのか?
<やめさせないと。いつか死ぬよ。>
ぼくは、サヤが生前、ぼくに言った言葉を思い出す。
ぼくは、ぼくのなかで、不安の波が徐々に拡がっていくのを感じていた。――