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 急ごしらえで運任せながらも平塚の作戦は上手く機能しているようであった。加代が覗いてみた時には入り口を塞いでいた人の波は今は、五十メートルほど離れたところに移動していた。

 一箇所で固まって動かないように見えるのは、時折位置を変えながら爆ぜるオレンジ色の閃光と轟音が彼らの動きを翻弄して動きを飽和状態にしているからだろう。


「急がなきゃ」


 国防隊員で身体を鍛えているといっても、平塚があの状況をいつまで保てるか分からない以上、私たちが急ぐしかない。

 倉庫に駆け込む加代と奏。倉庫の中には何人か正気を失っている人の姿があった。彼らは周囲の状況に構わず自傷行為に耽っているかただ静かにどこか一点見つめているかだった。倉庫内に残っていたことは驚きであったが、それ以上に目にしたことのない光景に加代は息を飲んでいた。


「これが、特車……」

 

 それもそのはず、全高九メートル近くはあろうかという人工物が左右に一列ずつ並んでいるのだ。人の背丈ほどはある履帯の上には人を模したらしい人型の上半身が据わっている。その様相はギリシャ神話に伝わる半獣半人の獣、ケンタウロスを想起させた。


「––っと。呆けてる場合じゃないね」


 同じく口を半開きにさせていた奏に加代は言うと、再び指定された特車へと向かう。「右手側の奥から二番目」と呟きながら奏も走ってついてくる。

 倉庫は思ったよりも広かった。向こう側の壁は見えているのに一向に距離が狭まる気配はない。特車を無意識のうちに視線でなぞりながら加代は走る。

 並んでいる特車は重機関銃やら擲弾筒やらを乗せ、いかにも兵器然とした雰囲気を醸し出していたが、目的の機体にほど近くなったところで唐突にその装備の系統が変わった。

 銃などの目立った火器の類いがなく、代わりに腕部に棒状の槍のようなものや前部にブルドーザーのブレードに似たものを装備している。それは戦闘用というより土木用といった方が正しい見た目だ。


「ねえ加代、これやない?」


 観察の目を飛ばしてしまっていた加代とは違い、目的の機体に真っしぐらであった奏はいつの間にか加代を追い越して、機体の前に立っていた。


「コックピットは……」

「ハンガーに登った先にあるって言ってた」


 平塚の言葉通りならばそこにコックピットはあるはずだ。ハンガーの上へと続く階段を見つけた加代は、そこを指で奏に示しつつ駆け寄って登り始める。

 金属製のハンガーの階段は、勢いよく足を乗せる度にガシガシとやかましい音を鳴らす。格納倉庫の中ということもあって思いの外響く。ちらと彼らのことを考えて索敵の視線を飛ばそうとするが、走りっぱなしの身体に余計な動作をさせる余裕は、か弱い女子高生にはなかった。

 やっとの思いでハンガーの一番上まで辿りつき、そこにハッチが解放されたコックピットの存在を認める。

 着いた、という感慨を抱く暇もないままに加代は手にしていた自動拳銃のセーフティを外し、遊底を引く。初弾が薬室に送り込まれる音を確かめると、映画の見よう見まねで構えて平塚に言われた通り静かに引き金を引いた。

 乾いた、しかし脳髄ごと頭蓋を揺らす発砲音。聴覚が麻痺しながらも続けて二射。計三発の弾を撃っただけで、加代の骨身は衝撃に悲鳴をあげる。合図が届いてくれたことを祈り、それ以上の射撃を断念した加代はコックピットに向かう。


「せっま……」


 事前に指示された通り二つ席のあるコックピットのうちの一つに加代と奏の二人で収まる––女子二人程度なら大丈夫だろうと勝手に判断していたが、結構な圧迫感が襲ってくる。

 ともあれ後は平塚を待つのみ。指先が白くなるほど握りしめられていた奏の両の拳をそれぞれ手のひらで包み込み、加代は倉庫に飛び込んでくる平塚の姿を待った。

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