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9/12

先生と……一緒

目が覚める。

時計を確認すれば、もうすぐ目覚まし時計がなる時間。

我ながらちょうどいい時間に起きたものだと感心した。

二度寝する事無く、支度を済ませ下の階に行く。


お母さんが既に朝食をテーブルに並べていた。


「おはよう、草子ちゃん。1人で起きてこられるなんて今日は体調がいいのね!」

「うん。昨日しっかり寝たから」


顔色もいいみたいと嬉しそうにしているお母さんを見て、私も嬉しくなる。

今日は本当に体調がいいと自分でもわかった。

鏡に映っていた自分も、いつもより血色がいいように思えたし。

いい気分でお母さんと朝ごはんを食べて、そろそろ家を出ようかなと思っていた所でチャイムが鳴った。

原黒かな。

ちょうど良いから、もう登校しようと通学鞄を持って玄関に行く。

お母さんに行ってきますと伝えて、ドアを開く。


「おはよう。草子ちゃん」

「……おばさん、おはようございます」


そこにいたのは原黒じゃなくて、原黒のお母さんだった。

もしかして原黒は今日お休みなんだろうか。

昨日も見なかったし、先に帰っていたのかも。


「ごめんなさい。草子ちゃん。爽ったら今日は先に学校に行ってしまったの」

申し訳なさそうにしているおばさん。

そんな顔しなくてもいいのに。

原黒はスポーツが出来る。

部活には入っていないけれど、助っ人として試合に呼ばれることもある。

そういう時、一時的に練習に参加して一緒に行けない日もあった。

今日もそういう事なんだろう。

具合が悪くて休みとかじゃなくてよかったと、思った。

私がほっとしたのがわかったのか、おばさんが申し訳なさそうな顔になる。

何だろう。


言おうと言わまいか迷っているような感じ。

口に手を当てて、こっそり話す素振りを見せたから私も耳を近づける。

実はね、と意味ありげに話し出す。


「今朝、女の子が迎えに来て爽ったら、その子と行ってしまったの」

「え……?」

「全く爽ったら、何をしているのかしらね!草子ちゃんがいるのに」


おばさんは怒ったような素振りする。

女の子?

私じゃなくて?

別の?

ちょっとおばさんが何言ってるのかわからない。

いや分かりたくない。

もしかして、もしかして、原黒を攻略しようとしてるのか!?

ヒロインが!

って事は私がヤンデレへの道を歩み始めてしまうじゃないか!


「まあ草子ちゃん大丈夫?顔色が悪いみたいよ。まったく爽ったら何を考えているのかしら?」


私の顔色が悪くなったのを原黒が他の女の子と登校したせいだとおばさんは勘違いしたみたいだ。

草子ちゃんがいるのにと原黒に対して怒り出した。

確かに原黒が私では無い女子と登校したせいで気分が悪くなったが、別に色恋的なことじゃない。

私を娘にしたいとよく言ってるおばさんには悪いけどね。

それより問題なのは私がヤンデレになってしまう事だ。

眼鏡とか黒髪とかそういう属性は別にかまわない。

病弱っていうのはちょっと困るけど、ルートにさえ進まなければ健康とは言いがたいが若死にする事も無いはず。

男性恐怖症だって、まあ色々面倒くさい所もあるけどそれほど問題ない。

私は戦闘能力が高くないから、条件反射で男性に攻撃することもないし。まだ可愛いほうだ。

だけどヤンデレは問題大有りだ。


なぜならヤンデレだけは人様に迷惑をかけ、私が加害者になる可能性のある属性だからだ。

これはまずいぞ、と。


ああ、なんだか具合が悪くなってきた気がする。

元々、病弱っていうスキルっていうか属性があるせいですっきりとした気分の日なんて滅多にないし。

気分が悪い気がするといったらいつもだ。


このまま学校に言ったら原黒とヒロインのイベント、とか、イベントまでは行かなくても好感度あげようとして話してるの見たりとかしちゃって、ヤンデレ的な素質が開花してしまうかもしれないし。

休もう。

無理はいけないから。


「大変!草子ちゃんの顔色が悪いわ!」

「え、どうしたの?!草子ちゃん、大丈夫?」

「お母さん、なんだか具合が悪いの……」


せっかく自主的に起きてきたけど、ベッドに逆戻りの私。

もちろん制服からパジャマに着替えた。

お母さんが学校に欠席すると連絡を入れてくれたお陰でもう私は一日ベッドで生活する権利を得た。

中学の時も散々休んだし学校側も心得ている。

単位は、まあ大丈夫だろう。


ゲームの中で死ぬルートでも単位がどうとか、こうとかそういう話は無くて普通に3年生になってたし。

ヒーローから「一緒に卒業するんだろ!」みたいな事を言われていた気がするし。


ああ、どうか原黒とヒロインが仲良くなってませんように……!


………


ううん。

誰かが私の頭を撫でている気がする。

この間は先生だったな。

今日もか?


「だれ?」

よし、この間よりは舌足らずじゃない。

恥ずかしくないぞ。

撫でる手は止まらない。

「先生?」

「はい。気分はどうですか?川井さん」


起き上がろうとする私に、寝てていいですよって言ってくれる。

だから眼鏡だけとってかける。

これで視界がはっきりする。

先生だ。


「あれ?」

「どうしたんですか?」

「先生……眼鏡はどうしたんですか?」


音波先生といえば眼鏡。

草子と並ぶ眼鏡キャラだったはずなのに、なのにかけてない。

属性を捨てているとな?


「ああ、昨日ぶつけて壊してしまったんです。なので今日はかけてないんですよ。一応生活に問題ないくらいは見えるので大丈夫ですよ」

「そうなんですか……」


なにそれ羨ましい。

私なんて全然見えないのに。

もうかけないと全然駄目。

先生は草子と同じ眼鏡キャラなのに、意外と視力悪くないんだな。


「今日休まれたので心配しました。何かありましたか?」

「いえ、特には。体調が悪くて……ごめんなさい」


正直学校に行きたくなくて自分から具合を悪くしたようなものだから、先生が心配そうにしているのを見て申し訳ない気持ちになってくる。

明日は学校に行こう。

だって先生が心配しちゃうし。

毎回お見舞いに来てもらうの悪いし。


……本当はちょっと気分いいけど。

何だか大事にされている感じがして。

先生の相手は圭ちゃんかヒロインだけど、お気に入りのキャラクターでもあった先生にこんな風に扱ってもらうのは悪くない。

ヒロインも原黒なんかじゃなくて先生を狙えばいいのに。

そしたら私は心配する事なく学校に行けて、先生を見る事が出来るのに。


「何か心配事があるんですか?」

「大丈夫です」

「もし、嫌なことが学校にあるのだったら先生に遠慮なく言ってくださいね」

「はい」


先生は優しい。

私に向けてくれている微笑はもう保存しておきたいくらい。

かっこいいなぁ。

それから先生と話して、楽しくって沢山話した。

けど途中から眠気に勝てず寝てしまった。



………


頭を撫でられている。

寝ちゃったみたいだけど、まだ先生がいるのかな。


「先生?」


頭を撫でる手は止まらない。

眼鏡は何時の間にか外されているみたいで目を開けても良く見えない。

でも先生なんだろな。

だってお見舞いのたびに頭を撫でているんだもん。

ずっと撫でている手。

どうして何も言わないだろう。

眼鏡をかけようと手を伸ばそうとしたら、遮られた。


「どうしたんですか、先生?」


頭を撫でていた手が離れる。


「どうして、俺以外の男に触られてるってわかってるのに拒否しないの?」


聞こえてきた声は原黒の声だった。

震えて、聞き取りにくい。

泣いてるの?

爽君、と呼びかけようとしたけど、声にならなかった。

顔に水滴が落ちてきて、首に手をかけられた。

徐々に締める力が強くなって、顔にぼたぼた水が落ちてくるのを感じる。

苦しい!


そこで意識が途切れた。



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