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幼馴染は……助けに来る

押さえつけられて身動きが取れない。

そして口を塞がれているので声も出せない。

鼻は琴管の手で覆われていないから息は出来る。

だけど、この状態が辛いのは変らない。

これはもう近くにいる五里さんに助けを求めるしかないと、手足で音を立てようとしたがそれを察知した琴管に絡め取られてしまった。

くそ、この野郎。

病弱であまり運動しない私には日々喧嘩しまくっているという噂のコイツには手も足も出ない。

私の抵抗なんぞ軽く押さえ込めるという事か。

こんなイベントあったっけと思う。


だって琴管のイベントはそう、喧嘩して相手をなぎ倒している所に警官が着ちゃって、コイツが逃げれるように手助けするっていうのだったはず。

手助けしないと琴管ルートは潰れるっていう仕様で、多少悪人にならないと琴管は攻略出来ない。

グッドエンド見ると多少更正した琴管が見れるけどそれまではずっと不良だった。

雨の日に子犬を懐に入れて連れ帰るなんて優しさのあるタイプではないのだ、コイツは。

こうファンタジーとかにある敵方の悪人ってわけじゃないけど日常生活の中では悪みたいな感じ。

草子の男性恐怖症も中学の時にコイツがした事が原因だったわけだし。


ゲームの中では琴管と明言されていなかった。

それに特に草子と琴管の間に確執みたいなのも描かれず、接点は無かったはず。

だから男性恐怖症に至る出来事が起きたときに相手が琴管で結構驚いた。

え、お前?みたいな感じで。

てっきり名も無きモブによる犯行だと予想してたから。

そんで「余裕そうだな、お前」って言われたんだ。

まあ内容自体はゲームで草子が語ってたのを知っていたからそれほど怖くなかった。

あんなの犬にかまれたのと同じような物。

聞いたのと実際に体験したのとでは印象は違ったけど。


「お前、余裕だな」


耳元でささやかれる。

うつ伏せにされているから琴管がどんな顔をしているのかは分からないけど、どこか楽しげ。

五里さんはまだいるんだろうか。

イベントが起こるとわかっているのだったらこのまま待っていてくれるかもしれない。

そして中々こない私を不審に思って様子を見に来てくれるだろうか。

でも私達は隠れている。

私は琴管に拘束されて動けないし、ていうか何時までこのままにしておくつもりだコイツ。

何を思って裏門付近で私を捕まえたんだよとツッコミたい。

五里さんもいるってのに。

いや、五里さんがいたからか?

もしかしたら帰宅途中を狙うつもりだったのかも。

だけど何故か私は裏門に行くし、裏門では五里さんがいるしで仕方なくみたいな。


でも五里さんと私は話した事が無いのだ。

私はイベントだって知ってるけど、琴管は分からないはず。

それとも琴管にもこれがゲームだという既視感があるのだろうか。

こう、よくわからない流れを感じているのかもしれない。

でも私は琴管に拘束されるこのイベントは知らない。


「ようやく五里が行ったぜ」


その言葉と共にうつ伏せから仰向けにされた。

だけど口は塞がれたまま。

器用なもんだ。

琴管は私の上に乗っている、重いんですけど。


「お前は本当に運が悪いな。まあ、これも不運な自分を恨みな」


ニヤっと笑う。

これぞ小悪党って感じ。

悪党といえば、まああれだ。

草子になってからは見たことないけど原黒だろう。

なんてたって男性恐怖症の原因だし。

まあ草子は知らないっていう設定だけどね。

何をされるのだろうと身構えていたらシャツを強引に引きちぎられた。

ボタンがはじけ飛んで、無残に床にぽとぽと落ちる。

これどうやって帰ればいいの。

いや、下に冷えるからってTシャツ着てるから帰れるっちゃ帰れるけど……っ!


「むぐぅ!むぐ!」

「何言ってるかわかんねーよ」


それはお前が口を塞いでいるからだ!

なんだこの野郎、私のTシャツをハサミで切りやがった。

ちくしょう、どうやって帰れってんだ。

そしてなんだこのイベントは!

私、知らない。


「不思議そうな顔してるな。何されるかわかんないのか?前もされたのに」


琴管の表情を窺えば、どこかばつが悪そう?

この行動に罪悪感でも感じてるのか。

そんなキャラじゃなかったのに。

いや、ただの気のせいか?

しかし何だ。

このままでは男性恐怖症になるイベント再び!になってしまう。

信じられない、今日は厄日か。

原黒から意味の分からないセクハラを受けたと思ったら琴管に絡まれるとか。

何故こんな日に原黒はいない。

こういう日にいるべきだろう、幼馴染。

いやあんなライバルイベントするから気まずくて一緒に帰れないなんて自体になるんだ。

私は悪くないはず、悪いのは全面的に原黒だ。

この責任は奴がとるべきとだと、ポッケに入れた携帯で電話しよう。

話せなくとも着信があれば気になるはず。

そして私が家に帰っていないと分かれば、心配して学校まで様子を見に来てくれるはずだ!


手の拘束はされていない。

だけど琴管に対する抵抗は力の差から無意味。

私は抵抗は諦めました、みたいな体で手を不自然じゃないように下に持っていく。

そろ~とポッケに手をつっこむ。

この間、琴管は私のブラジャーもハサミで切りやがった。

ニヤニヤの小悪党顔に戻っていてなんかムカつく。

携帯、携帯……。

反対側だっけ?

そろ~と右手を出して、左側のポッケに手を突っ込、……左側にポッケなかった!


「左手、何すかすかさせてんだ?助けでも呼びたいのか?」

「!」


ど、どうしよう。

携帯がない。

バッグか?

バッグの中に入ってるのか?

いつもはスカートのポッケに入れてるのにな。

可笑しいな。

助けを呼ぶ手立てが無くなって、途端あせってきた。

手汗が酷い。

気持ち悪くなってきた。

もう形振り構わずコイツを振り払い所だけど、頭がぐわんぐわんする。

このままでは無抵抗のままコイツに良い様にされてしまうではないか。

気絶は良くない。

原黒には有効だったけど、コイツはそのまま続行しそうだし、ああ!

どうしたら!


「なんか顔色わりぃな。お前、体弱いもんなぁ」


顔を近づけてくる。

横に向けてせめてもの抵抗をしようと思ってるのに、口を塞いだ手に戻された。

何この馬鹿力。

至近距離にいる琴管。

体は密着してて、いやだ。

コイツの体は嫌に冷たいな。

手も湿ってて、手汗が酷い。

……もしかして緊張してる?

何に?

この暴行にか?


「まあ。最後まではしねぇから、そう震えんなよ」


耳元で囁く琴管。

それを言われて私は自分の体が震えているのに気付いた。

ああ、最後までされないのならここで気絶してしまってもいいかも、なんて思って意識を飛ばそうとした時。


「何してるっ!」


原黒の声がした。

そして上に乗っていた琴管が飛んだ。

急な事に驚く私、うずくまってる琴管。

そして明らかに怒った顔をしてる原黒。


「草子!」

「……あ、爽君……」


駆け寄られて、抱きしめられて、持ち上げられた。

手際がいいなぁとしみじみ思う。

さすが慣れているだけの事はあるな。

私の格好に気付いて自分のブレザーを貸してくれるあたり、高ポイントですよ。

他の女の子ならな。


「草子、草子、俺、ごめんな」

「いえ……それより琴管君が……」

「あんな奴、草子が心配する事無い!」

「でも、可哀想だわ」


原黒に殴られて未だに立ち上がれない琴管。

それを心配する私。

さっきまで絶対絶命だったわりに余裕が出てきた。


「琴管君、大丈夫?」

「はあ?お前頭可笑しいのかよ」


原黒から降りて、琴管にハンカチを手渡す。

ポケットに携帯は入っていなかったが、ハンカチは入っていた。

水に濡らしてこようかなんて、気遣いの言葉をかけると琴管は照れくさそうな顔を見せた。

けど、すぐ表情を変えて、私を横に突き飛ばした。


「きゃあっ!」

「…………琴管」

「原黒、お前何やろうとしてるんだよっ!」


いった!

体を打ち付けてすごく痛い。

なんか琴管のあせった声が聞こえるけど、何?

原黒は……ハサミ持ってる。

さっき琴管が持ってた奴かな、危ないから拾ったんだろうか。


「草子、琴管は酷い奴だよな。親切にしたお前を突き飛ばすなんて。こんな奴に気を使う必要ないよ」

「そうだ、俺は気を使ってもらうような男じゃない」


原黒は笑ってるけどなんか怖い。

琴管が脅えているような顔してるのはなんか新鮮。

この感じ、なんか見たことあるな。

たしか、何かのイベント。

何て言うんだっけ。

ええっと、そう。

確か。



「琴管君は悪い人何かじゃない。爽君は間違っているわ」



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