これは……イベント
琴管一狼が隣の席になった事を原黒が大層心配して毎休み時間私のクラスに来るようになった。
そして私をクラスから連れ出す。
辛いだろう、可哀想にって、毎回同情されるけど。
言わないけど、そう何度も言ったらむしろ不安を煽られる気がする。
大丈夫だからと毎回言うのも疲れた。
そして原黒といるとき視線を感じる。
もしかしたら原黒の事が好きな女子か?
それともあの、五里真千代さんか?
やっぱりあのスチルで見たことのあるような後頭部の主はヒロインだったようだ。
編入生に可愛い子がいると評判になっている。
でも私は関わっていない。
うかつに関わると危険だから。
女王さんが珍しいのねって私に話しかけてきたくらいには私は五里さんを避けている。
しかしゴリマッチョ、うかつに私がヤンデレ行為をしたら返り討ちにあいそうである。
そして何だかスカート履いてない女の子がいるなぁと思ったら、どうやらその子はヒーローだったようだ。
どういうこっちゃ?
あの子は薔薇ルート一直線の子なんだろうかと、不安だ。
大抵の男は男性恐怖症という触れ込みをされてる私にあえて近づいてこないものなので、避けるまでも無いが一応。
原黒にもそれとなーく接触しないように言ってるけど、クラスが同じだからちょっと心配してる。
まあ原黒は休み時間ごとに私のクラスに来るし一緒に帰ってるからそれは杞憂というものかな。
「どうしたの草子。考え事?」
「うん。爽君の事を考えてたの」
心配するように顔を覗き込んで、私の答えを聞くと嬉しそう笑う。
うーん、まさかこいつとのイベントが進んでいるんだろうか?
でも攻略キャラであるライバルキャラである私とコイツのイベントが進むには主人公(ヒロイン、ヒーロー)が私か原黒との好感度をあげてイベントを進めている必要があった気がする。
私は主人公とはまだ接触さえしてないから、この場合原黒が?
どこかから私達を見ているのか、知らないうちにイベントが進行中とか怖い。
「急にキョロキョロしてどうしたんだ?」
「あっ、誰かに見られている気がしたの」
「ふうん」
私の返答を聞いて原黒が座っている距離をつめる。
今までは接触していなかったのに今ではみっちりくっついてる。
いきなりどうしたんだコイツ。
「あ、あの……爽君」
「嫌?」
いやじゃないけど、意味がわからない。
これはあれか?
見ているヒロインもしくはヒーローを嫉妬させようとしているのか。
イベントでこんなのあったっけ?
こういうライバルイベントはスチルとか無いし、そんなに見たいものでもなかったから1回しか見なかった気がする。
でも最終イベントで「これから私達お付き合いする事になったの!」って言われるぐらいでこんなイチャイチャ?していなかったような思い出があるんだけど。
「ひゃうっ!」
「……」
ちょ、ちょ、ちょ!
何、私の太ももに手を置いてるの?
しかも無言とか何だよお前、怖いわ。
仮にも男性恐怖症である幼馴染に対してなんだ。
真剣な顔したって騙されないぞ、お前は今セクハラをしているんだ。
訴えるように原黒を見たって何も言わない。
私の顔を見てはいるのに、なんか視線があってない。
「……草子」
「なん……っ!」
おええぇ。
気持ち悪い。
何しやがるコイツ。
私は男性恐怖症だぞ!
しっかし、草子はそうだけど自分は男性恐怖症ではないと思ってたけど、改めよう。
鳥肌が!
吐き気もする!
ついでに言えば全身が震えている!
「草子、ごめんな」
「……うぇ」
そんな悲しそうな顔をしてもお前が原因だからな、この吐き気。
体調不良には慣れているけど唐突の幼馴染からのキスは予想外すぎて拒絶反応が酷い。
もう気を失おうと思えば失えそう。
吐くのも大変だしこのまま気を失ってしまうおうかな。
そうしたら原黒の顔見なくてもすむし、このよく分からない状況からも解放されるだろう。
目を覚ました時には原黒も冷静になって、謝罪を入れてくるに違いない。
だからとりあえず幼馴染としていつものように倒れた私を保健室に運んでね。
……、白い天井だ。
ここは保健室か。
いつものように原黒が運んでくれたんだろう。
本当にいつも迷惑をかける。
しかし今回に限っていえばアイツが原因なんだから私が感謝するのも謝る事も必要ないだろう。
何を思ってあんな事をしたのかはよく分からないけど、きっとライバルイベントなんだな。
内容覚えてなかったけど。
時計を見ればもう放課後、それも結構立っている。
もう少し目が覚めなければ、先生に起こされているなって時間。
あれ?
鞄が置いてある。
なんかメモみたいなのも付いてる。
謝罪と今日は一緒に帰れないと、まあそうだろうな。
あんな事をしておいて何気ない顔で一緒に帰れるわけがない。
私としてもアイツとしても。
っていうかこんなメモなんてしないでメールでもなんでもすればいいのに。
何故にこんな古典的な物で連絡をと思ったが、まあいっか。
メモを適当にポケットに入れて、カーテンを開けた。
「目が覚めたのね、川井さん。調子はどう?」
「大丈夫です」
「原黒君が一緒に帰られないですって。お家の人呼ぶ?」
「もう体調もいいので1人で帰ります」
少し待っていれば自分が送ろうかとも提案してくれたが、たまには1人で帰るのも悪くない気がしている。
何かしらイベントが置きそうな、使命感みたいなのを感じてる。
こういうのを感じると自分がゲームの攻略キャラなんだなっていう気がしてくる。
まあ五里さんも天使さんも記憶の中の主人公とは全然違うんだけどね。
どんなイベントが起きるのかな?
何か思い出しそうで思い出せない。
そんなジレンマを感じつつ帰ろうとしてたら下駄箱で女王さんに出くわした。
相変わらず美人で豪そうだ。
もう女王ですけど、何か?ってオーラを放ちまくり。
「川井さんこれから帰るのね、気をつけてね?」
何をって言う前に颯爽と女王さんは去っていってしまった。
気をつける。
さっき倒れたからまた倒れないようにねって事か?
それともこの後起きるであろうイベントの事か?
でも女王さんはイベントとか知らないだろうし、そう考えれば体調の事かな。
五里さんか天使さんのどちらかとイベントを起こすんだろうけど、そんな衝撃的な事は起きないだろう。
草子は女子はともかく男子はかなりじれじれな展開だった。
まあ男性恐怖症っていうのが影響してるんだけど。
出会いは入学式で成立しない場合はどんなだったかな?
委員会が一緒になるとか、草子は図書委員、部活が一緒になるとか、草子は文芸部。
とりあえず男子は何かしら一緒ではないとイベントが起きない気がしてきた。
となるとこれから起きるのはヒロイン、つまり五里さんとのイベントって事か。
え、あのゴリマッチョとのイベント?
何それ怖い。
どうしようもし五里さんが原黒狙いで私に対してライバル心的なものを持っていたとしたら。
ベンチに座ってるときも視線を感じてたし、あるかもしれない。
となるこれから起きるイベントはライバル宣言イベント?
一気に逃げたくなってきた。
でも私の足は裏門へ一直線だ。
ちくしょう、憎い。
この体が憎い!
裏門なんて普段使わないのに、なのに裏門に体が行ってしまう。
あああぁ、どうしよう、どんどん裏門に近づいてく。
そして門の前には背の高い体格のいいスチルでみた後頭部の女子、つまり五里さんが佇んでいらっしゃる。
もう五里さんが後ろを振り返ったら私に気付いてしまう距離まで来てしまった。
覚悟を決めるしかないと思ったその時、口をふさがれ横にある茂みに引きずり込まれた。
「静かにしてろよ、川井」
私は覆いかぶさるように押さえつけられた。
耳元で低い声でささやかれぎょっとする。
琴管だ!