ヒロインは……ゴリマッチョ
原黒がこっちに来ようしていたので、真千代ちゃんの手を引いて体育館へ急ごうと手をひいた。
だが、びくともしない。
「草子ちゃん、急がなくってもいいよ。疲れちゃうしね?」
何か意味ありげに笑っている真千代ちゃん。
そうだな、真千代ちゃんに隠れていれば原黒も私の事は見えないだろう。
なんかこう、思ってたのと違う。
主人公って確かにゲーム後頭部しかスチルに移ってなかったけど、こ、こんなんなの?
私の記憶って当てにならないのかも。
もしかしたら本当にゲームっていうのはただの妄想なのかも?
でも真千代ちゃんに話しかけなきゃという訳の分からない使命感もあったし、やっぱりゲームの世界なのかも。
なんか考えるのが面倒くさい。
ええい、なるようになるさ!
でも原黒とはなるべく係わり合いにならないでね!
入学式の会場に付く。
真千代ちゃんとクラスは残念ながら一緒だった。
幸いなことに原黒は一緒ではなかった。
よっしゃ!と思ったけど、高校は3年あるから今年離れたからって気は抜けない。
「同じクラスだね、私嬉しいな」
微笑む真千代ちゃん。
背筋がぞわっとする。
はっ、いつまで手を握ってるんだ私は。
ここまで手をつないだままで来てしまった事にようやく気付き、手を離そうとする。
手をつないでいるというよりは、なんか握られているような感じだけど。
「あ、ここまで手つないじゃったね?嫌じゃなかったかな」
「平気」
「ならよかった」
安心したのか真千代ちゃんはふふっと笑って手を離してくれた。
そりゃあ、私は男性恐怖症という設定があるけれど別に実際に恐いわけではない。
恐がっている振りというか、そもそも男子が近づいてこないから心配する必要もないだけだけど。
真千代ちゃんは女の子だから何も恐れることはないのだ。
そう、たとえ真千代ちゃんがゴリマッチョだとしても。
これがヒロインでいいの、このゲーム。
あくまで平均的な身長はあるはずの私と頭1つ分高いし、横だって原黒の倍はありそうだよ?
しかも日に焼けている。
確かにスチルで見たような気はする髪形はしてるし、顔もむしろ可愛いんだけど、体格との釣り合いが取れてないせいでなんかシュール。
つか恐い。
さっきから微笑まれるとそのギャップにビビッてしまう。
厳しい顔してた方が似合うんじゃないかな、このヒロイン。
この子相手にヤンデレ行為とか返り討ちでしょ、普通に。
だって私の腕の何倍の太さがあると思ってんだよ。
予想外すぎて困るよ。
でもさっきの声をかけないといけない使命感が沸いたのを考えれば、もしこの子が原黒とのイベントを進めると私のヤンデレフラグが立ってしまう!
それは危険すぎる。
わが身が大事だ。
危険回避能力を高めなければ。
もしかしたら真千代ちゃんは原黒に興味があるのかもしれないけど、ここは私は他の攻略キャラを薦めてなんとか原黒ルートは回避しよう。
大丈夫、他にもカッコいいキャラクターは居たはずだ。
えーとなんだっけな?
俺様とか一匹狼とか先生とか学園のアイドルとか?
草子は男性恐怖症であるため男キャラとの関わりがないせいであまり思い出せない!
女キャラとは結構交流があるほうなんだけど。
どうしたら、これでは薦められないではないか。
「草子、先に行くから心配したよ?そっちの子は?」
「……あ、爽君。こっちは五里真千代ちゃん。編入生なんだって」
原黒が着てしまった、こっち来んな馬鹿!
ヤンデレフラグに脅えちょっとだけ震える。
まあ草子は病弱キャラなので多少驚きやすい所もあるから平気平気。
真千代ちゃんがすっと私の前にでて、原黒とよろしくと挨拶を交わす。
よろしくしなくていいよー、むしろ係わり合いにならないでほしいよー。
でももしかしなくても真千代ちゃんは攻略キャラで初めてあったのが原黒になってしまうのでは?
そうなると原黒が初めのうちは優遇されてしまうからさらに危険。
「草子、顔色が悪いよ。外の空気吸ってきた方がいいんじゃないか?」
「なら私も一緒に」
「いいよ。五里さんは編入生だろ?早くクラスの所に行ってなじんだほうがいいよ」
「私も、そう思います」
少し悪いなと思いながら、相手はどんなビジュアルであれ一応ヒロインだし、原黒と親しくなって欲しくないという思いから自分もお前は残れよというような事を言った。
真千代ちゃんは、少しショックみたいな顔をしてたけどごめんね。
原黒に手を引かれて私は体育館を出て少し人けのないところのベンチで休む。
「あの、私は大丈夫だから……爽君は入学式に行って?」
「まだ時間的にも平気だよ。どう具合は?保健室に行こうか」
「そんなに悪くないの、だから心配しなくても大丈夫だよ」
病弱アピールは中学の時に既にしてあるから初日を保健室で過ごしても特に問題ないはず。
だけど保健室に行くほど具合も悪くないし、戻るか。
「もういいのか?」
「うん。真千代ちゃんも心配だし」
確かゲームでは声をかけたキャラがこの学校の説明をするという役割だったはずだ。
私の場合、体育館に行くまでに多少説明はしたが。
それに入学式ではイベントがあった気が。私は入学式の真っ最中に倒れて、それを原黒が助ける。みたいな奴。
これを見て主人公が私と原黒との仲を知るんだったとかそんなかんじ。
戻る気満々の私を、原黒が心配そうに見てくる。
「草子、無理するなよ?さっきあの五里って奴に脅えてたんじゃないのか?」
「え、どうして?真千代ちゃん、いい子じゃない」
「確かに見た目は可愛い感じだったけど、草子が脅えるって事は何かあるんだろ?」
み、見た目可愛い?
あれが?
いや、確かに顔は可愛かったけど、体はゴリマッチョだったよ?
ギャップでむしろ恐いわ!
「ほら、やっぱり五里の事苦手なんだな。大丈夫だよ、草子の事は俺が守ってあげる」
「や、やめて!私、真千代ちゃんとは仲良くしたいって思ってるの」
私を遠ざけて原黒と真千代ちゃんだけが接触したらそりゃあ、ヤンデレまっしぐらな気がする。
「2人だけでいつも何してるの?」みたいな感じで私が包丁持ってるシーンを頭で思い描いてしまった。
それはまずい。
私達2人とも真千代ちゃんと関わらないのがベストなんだけど、初めて接触したキャラであるためか仲良くしなきゃという使命感も生まれている。
仲良くしたいなんてさっきまで思ってなかったのに!
「草子、無理はするなよ?どうしても仲良くなりたいなら俺が間にはいろうか?」
「やめて!」
ヤンデレは勘弁だと、意外と大きな声が出てしまった。
草子って大きな声でるんだ。
今のちょっとヤンデレっぽくなってない?
やっぱりヒロインと原黒の接触はまずいんだ。
原黒も珍しい私の大声にびっくりして目を丸くしてるし。
「どうした?草子」
「あ、あ、あの……私、その……ごめんなさい」
やばいよ、ヤンデレでてたと恐くなって自然と俯く。
普通にヤンデレっていうのもまずいのに、どういう病み方かは思い出せないけど、相手はあのゴリマッチョだ。
なんかもう仮に包丁を持っていたとしても刺す前に取られそう、もしくは刺す前に包丁も跳ね返しそうなレベルのムキムキ。
どうなってんの、真千代ちゃん。
想像したら恐くて震えてきた。
!
「草子が言うなら俺は五里さんと仲良くしないよ。でも何かあったらちゃんと言うんだぞ?」
「あ、ありがとう」
「震えてる。落ち着くまで、少しまとうな」
抱きしめられてる。
落ち着かせるように背中を撫でるオプションつき。
仮にも男性恐怖症である草子に大してこのボディタッチ。
これが幼馴染のなせる技か。
まあぶっ倒れた私を運ぶのはコイツの仕事だからか。
「大丈夫、俺は草子を恐がらせることなんてしないよ」
「え?」
もう落ち着いたかななんて体を離された。
体育館に戻る事になったけど、何故に手をつなぐ?
これを見てもし真千代ちゃんが私と原黒の中を勘違いして嫉妬してきたらどうする!
勝てる気がしないぞ、あんな体格のと。
ただでさえ私は病弱なのに、あんなゴリマッチョに襲われたらどうしてくれる。
「あ、草子ちゃん!大丈夫?」
「うん。少し休んだら平気になったわ」
体育館の入り口で真千代ちゃんは私の事を待っていたようだ。
教師からは座るように注意を受けてたが待ってる子がいるんですと断っている姿を見て悪い事をしちゃったなと思う。
時間ぎりぎりでほぼ皆席についていた。
席は自由だけど前の方からつめるように座っていたので、後ろの開いている席に原黒、私、真千代ちゃんの順に座る。
真千代ちゃんが私が真ん中ではないようにしようとしたけど、断った。
お友達と並んでいたいのなんてちょっと可愛いこと言ってみたけど。
病弱で華奢な体付きの私にはあまりまくるパイプ椅子だけど、真千代ちゃんほど優れた体格をしていると足が窮屈そうだ。
深くは座れず浅く座り、足を通路側に少しだしてようやくといった所。
並ぶとその逞しい体つきが際立つ。
足なんてパンパンじゃないか、タイヤか!
私達が入ってすぐに式は始まった。
思っていた通り私が式の最中に倒れるというイベントは起きた。
校歌斉唱の最中、視界が白くなった私をがっしと受け止めた腕は妙に安定感があった所までは覚えている。