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11/12

放課後……デート?

何故になんの関わりもないはずの尾谷外と一緒に帰らなければならないんだ。

いつもは迎えに来てくれるはずの原黒も来ないし、私は退学の文字が頭をちらつき抵抗できずに尾谷外の車に乗せられてしまった。

隣にはふんぞり返って座る尾谷外。

そして私は出来るだけ離れて座っている。

運転手付とか、さすが金持ちは違うな。


「んひゃっ!!」


離れていた私に手を伸ばしてて太ももをがっしと掴まれた。

そのまま揉むようにわきわきされる。

だが貧弱な私は肉付きも悪い。

そんな事をされても痛いだけだ。


「お前全然肉ねぇなあ。どこがいいんだ、こんな鶏がらの」

「……」


失礼な男だ。

私の体を無断で触っておきながら貶してくるだなんて。

デリカシーのかけらも無い男だ。

ゲーム通り。


太ももだけでなくわき腹、くすっぐたい、胸、完全にセクハラ、背中など触れる。

もう骨に当たって痛いんですけど!

あまりの事に声が出ず、忘れがちだが私には男性恐怖症という属性がついている、されるがままの私。

それをいい事に人の眼鏡をとって顔をペチペチとしてくる。


「ふぅん、顔はまあまあだな」

「……」


そりゃあ、これでも一応はゲームの攻略キャラのはずだし。

造詣は悪くないと思う。

目が悪くて、眼鏡をかけていない顔はイマイチ分からないけど。


こいつの顔は、さすが俺様というかなんというか整っている。

お坊ちゃんの割りにワイルド系?で、にやっとすると発達した犬歯が見える。

肌も健康的に日に焼けていて、青白い私の肌と比べると同じ人種か?と問いたいくらいには違う。

羨ましいぜ、ちくしょう。

私もゲームが好きだったとはいえ、昔はもっと健康的なだった気がするんだけどな。

少なくとも日差しを浴びてすぐに熱射病になるとかは無かった。


馬鹿みたいに熱い日にも外に出て焼けるなんてザラだった。

そう考えると私は草子なんだなって思う。


「お前、全然抵抗しねぇのな」

「……だって」


だってコイツに歯向かうといい事は無いし。

まあもっと際どい所を触りだしたら非難の声をあげるつもりだった。


「そんなんだから、あのちょっとばかしスポーツの出来る奴に付きまとわれるんだぜ?」

「え?」

「自覚無しか?お前、今日俺に突っかってきた命知らずに付きまとわれてるだろ」


尾谷外に突っかかった命しらず、っていうのは原黒の事だよな。

付きまとわれていると勘違いされているの?


「爽君はいつも私を助けてくれるんです」


私の言葉に、尾谷外は不快だとでも言うように顔をしかめた。

何だって言うの?

体調不良で倒れる私を、いつも保健室や家まで運んでくれるのは他でもない原黒だ。

むしろ原黒しかしていない。

そりゃあ、友達である女の子達は普通に大丈夫って声をかけてくれるけど、私を運ぶほどの力は無い。

だからいつも、助けてくるのは原黒だけ。


それ以外の男の子は私に手を差し伸べてくれないのに。


「ふふん、今日は板井野がアイツの足止めしてるけどよ。そうじゃなきゃお前、ずっとアイツに付きまとわれたまんまだぜ」


好代ちゃんが足止め、どういう事なの?

こいつと好代ちゃんはペアではないはず。

係わり合いなんてほとんど無いはずじゃ?

だってあの子は、琴管と付き合うかもしれない相手だし。


尾谷外の相手は、別の子だ。

それに原黒と好代ちゃんも直接関わるようなイベントは無かった、と思う。

ゲームはかなりやり込んでいたけど見逃したのもあるかもしれないし。

でも攻略サイトでも分からない事があったのかもしれない。


攻略本は出なかった。

だからこのよく分からない状況も、実はゲームの中に組み込まれていたものだという事も考えられる。

ああ、それとも私がヤンデレを回避したいと強く願っている事が、ゲームに影響を与えてしまっているとか?


「お前って鈍いんだな」


うわあああああ。

尾谷外、近いっ!近いすぎる!

なんなの、なんなの、この距離感。

私は車の端に。

隣に座る尾谷外が距離を縮め、私の後ろの窓ガラスに手を、って。

これはあれか、噂に聞く壁ドン。


うっわ、こんなスチルとかあったっけ?

絶対これ、ゲームだったらスチルある奴じゃん。

こんなイベント知らない!


っていうか何故にヒロインが此処にいない。

私はヒロインではないぞ。


そんな事を思っていたら尾谷外がさらに顔まで近づけてくる。

もう無理です。

恥ずかしい。


私は手で顔を隠すようにした。

なんだ、尾谷外はそこまで好きなキャラでは無かったはずだがシュチュエーションが問題なのか距離が問題なのか、ものすごく恥ずかしい。


そんな私の事を気にした様子も無く、尾谷外は私の耳元で囁いた。


「お前、このままだと死ぬぜ」

「え?」


何を言っているんだ。

まさか、私がヒーローとイベントを進めていくと死ぬルートがある事を知っているのか。

しかし何故そんな事をという思いが勝り、尾谷外の顔を窺う。

だって知っているはず、無い。


病弱だろうがなんだろうが、直ちに命の危険は無いという診断を受けているのだ。

たとえ金持ちゆえの特権だか何だかで私の健康診断結果を知っていようと、それはまだ予測できないことのはず。


「違う」

「何が、ですか?」


尾谷外が、否定の言葉を私に告げる。

何が違うの。


「病気で死ぬんじゃない。お前は殺されるんだ」

「……殺される?」


何を物騒な事を。

この世界は確かにリアルな感じがするし、日々流れるニュースでは殺人事件のニュースが取りざたされる事もある。

だけどそれはあくまで、リアルさを追求するためのものに過ぎない。


この町は平和だし、連続殺人犯がいるとかいう話も聞かない。

第一ゲームの中で殺される人はいない。

私がヤンデレてちょっと、アレな事件は起こすが、未遂だ。


実際に殺しはしなかった。

ヒロインを殺すとか、怖いわ。


「自覚ないんだなぁ、ある意味幸せかもしれないが」

「…………」

「草子、可哀想なお前を俺様が救ってやるよ。おい、スピードを上げろ!」


尾谷外が運転手に命令すると、その言葉の通り車はスピードをあげて走り出した。

流れる景色が早くなり、ビュンビュンと過ぎ去る。


「なんのつもりなんですか?」

「殺されないようにしてやるのさ。俺様の別荘にでも匿ってやるよ」


殺されるって誰に殺されるというんだ。

そんな物騒なキャラいたっけ?

あれかな琴管とか?

アイツはかなりの悪だし、暴力の果てに、とかそういう感じなのかも。


「違うな。琴管はお前を殺さない」

「……え」


何で分かった。

既に尾谷外は、私から離れていた。

高速に乗ったらしく私はシートベルトを着用する。

尾谷外も、例に漏れない。

意外と律儀なの奴なのかな。


琴管ではないのなら、一体誰が私を殺すんだ。

名も無き人物?

そうか、ヒロインを危ない目に合わせる私だ。

私以外にもファンがこの世界にはいて、危険人物である私を排除しようとしているのかもしれない。


「草子は何も覚えていないのか?怪しい奴がいるだろう」

「怪しい奴……」


何だろう。

思い浮かぶような、浮かばないような。

もしかして此処のところ、寝起きが悪いのは何か原因があったとか。


物凄く体調が悪い日はあるけど、それ時折はある事だ。

別に不思議ではない。

だって草子だし。


入学式とかで倒れるのはデフォだし。


「無意識のうちにそうでは無いと思い込んでいるのかもしれないな。お前と奴の付き合いは長い」

「付き合いが長いって」

「そうだ。お前が今、思い浮かべた奴だ。そいつが草子、お前を殺す」

「……嘘」


信じられない。

付き合いの長い奴って。


「ついたぜ。俺の家所有の別荘だ」


私の思考がまとまる前に、車は目的地に到着した。





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