6日目(中編)
都内の何処かにある今にも崩れそうなボロアパート葛麗荘。
白川 聡美はこのアパートに部屋を借りて住んでいる。
俺はそのボロアパートを一目見て口にした。
「まんまだな」
「そんな事言ったら管理人さんに失礼ですよ?」
「そうだな」
白川は俺の返事を聞くや否や、ボロアパートのロビーに入り、エレベーターのボタンを押して乗り込んだ。
俺も白川に続いてロビーに入り、エレベーターに乗り込んだ。
白川はそれを確認すると5階のボタンを押してドアを閉めるボタンを押した。
ドアが閉まり、エレベーターのカゴが上昇して5階で止まってドアが開く。
「こっち」と白川が俺の手を取ってエレベーターから降り、一番端っこの509の前に立った。
白川が鍵を取り出し、穴に差して鍵をレリーズする。
「先輩、お先にどうぞ」
と、白川が俺を促す。
そう言えば女の子の部屋って楓ん家以来だな。
ガチャ──白川がドアを閉めて施錠した。
「何で閉めんだ?」
俺が訊ねると白川は答えた。
「先輩、今日は帰しませんよ」
ニパッと微笑む白川。
俺は首を傾げて疑問符を浮かべた。
「さ、奥へ行って下さい」
白川はそう言って俺をリビング迄押す。
「ちょっ、押すなよ」
「じゃ、お茶煎れますので座って待ってて下さい」
俺の話しを聞いちゃいない彼女は、キッチンに入って行った。さて。
俺は近くのソファに腰掛けた。
同時に、白川が湯飲みを二つ、お盆に載せてやって来て俺の前のテーブルに一つ、自分の所に一つ置いてお盆を脇に避けた。
「あの、先輩に大事な話しがあるんです」
白川は真剣な眼差しで言った。
「大事な話し?」
頷く白川。
「あの、聞いても怒らないですか?」
「怒んねえよ、泣かれたら面倒だから」
「先輩酷い。まあ良いや。話しってのは、その、柊沢先輩の事なんですが・・・」
「楓の事?」
「はい。その、柊沢さんがあの日亡くなられたの、本当は事故じゃないんです。計画的に行われた殺人だったんです」
何ですと?──俺は目を丸くした。
「私が先輩の事、大好きなの知ってますよね?」
引いて良い?
「でも先輩には既に柊沢さんがいました」
で?
「だから、私は計画しました。邪魔な奴は消そう。そして先輩を私だけの物にしようって」
されたくないな。
「で、ある日、孝之先輩に相談したの。そしたら先輩、柊沢さんを殺すって言ってあの日、無免許で車運転して糸色先輩を庇って飛び出した柊沢さんを轢き殺したんです」
今白川は何と言った?楓は事故じゃなくて、轢き殺された?それって殺人じゃん!
「それに、孝之先輩は柊沢さんに殺意を抱いてたから好都合だ、って・・・。あ、誤解してるかもしれないから言っておきますけど、私は殺せなんて言ってませんからね」
孝之が殺意を?しかし何故?
「なあ、一つ気になるんだが、何故孝之は捕まらないんだ?」
「それは、彼の父が警察庁の長官だから・・・」
成る程、それだったら圧力掛けて事故として処理出来るな。
「白川、俺帰るわ」
俺はそう言って席を外し、鞄を持って玄関に向かった。
すると白川が直ぐに追い掛けてきて、
「先輩、先刻言いましたよね?今日は帰さないって」
「はぁ?」
俺は振り向いた。その先には包丁を持った白川が、笑みを浮かべていた。
「一歩でも外へ出たらこれで刺しますよ?」
「そんな脅しが俺に通用すると思うか?つうかそれ、100均で手に入る刃先が引っ込む玩具だろ?」
俺はそう言って白川はから包丁を奪取して刃先を柄に向かって押した。
刃先が引っ込んだ。
「ほらな。じゃ、帰るわ」
俺は玩具の包丁を白川に返しておさらばした。
楓の奴、どうしてる哉、疑問符。
俺は帰り道、ずっと楓の事だけを考えて家路に着いた。
「ただい・・・!?」
俺が自宅の玄関に入った瞬間、「遅い!どんだけ待たしてんだ!?」と、楓の飛び蹴りが飛来した。
「うわっ!」
俺は間一髪の所でかわした。
バコン!──楓が玄関のドアを破壊して外に飛び出した。
避けて正解だったな。「望くん、今まで何処ほっつき歩いてたの?」
「ふうん。あたしなんかより他の女の子が良いんだ?」
そう言って不適に笑みながら引き攣らせ、徐に歩み寄る楓。
「一寸待て!落ち着け!」
俺は楓を宥めようとしたが、問答無用で殴り掛かって来た。
ガスン!──楓の拳が俺の顔面にクリティカルヒットして顔面が内側へ潰れた。
「白川さんと何してた訳?」
「お話しだ」
「どんな?」
「お前が轢死した日の話しだ」
「へっ?」
楓が疑問符を浮かべ、拳を顔から退かした。
「私の?」
俺は頷いた。
「どうやら、あれは事故じゃないらしいんだ」
「どう言う事?」
「実は、孝之の奴が・・・」
俺は楓にあの日の事を洗いざらい話した。
「えっ、あいつが計画して私を殺したの!?しかも親が警察庁の長官で事故として処理した!?信じらんない!」
怒った楓は、外に出た。
「何処行くんだ?まさか、孝之に仕返に行くつもりじゃねえだろうな?」
「行くわよ!地獄に堕っことしてやるんだから!」
楓はそう言って孝之の家に向かった。
楓を止めなきゃ。
俺は慌てて楓を追った。




