6日目(前編)
いきなり6日目の放課後、俺は屋上に置かれた一個の椅子に座らされ、拘束されていた。
目の前には楓と白川が睨み合う様に立っている。
「さあ掛かってらっしゃい。ボコボコにしてあげるわ」
楓はそう言って白川を挑発した。
因みにやる種目はただのケンカだ。
「随分と余裕ですね。本気出さないと私には勝てませんよ?」
白川はそう言って、シュインッと擬音を立てて消え、楓の後ろに出現した。
出た、白川の特技・高速移動。
この技は、1秒間に足を100回動かす事に因り加速機能を発動した某ライダーと同じ速さで移動する事が出来る移動方法である。その動きはハイスピードカメラで撮影しない限り絶対に認識する事が出来ない。
「消えた!?」
楓が驚いた顔で辺りを見回す。
後ろだ!──そう叫びたいが、俺の口はテープで塞がれている為に声を出す事が出来ない。
「こっちです」
楓はその声の方を振り向いた。
すると白川の回し蹴りが顔面に直撃し、楓は吹っ飛んでフェンスにぶつかった。
ダン!──とフェンスが音を立てる。
白川って、楓より強いのか?
「強いのね、白川さん。あなたになら本気出しても良さそうだわ」
本気って、俺を殴る時は加減してたのか?
俺は全身が震え、鳥肌が立った。
怖えよ楓。
「私にケンカを売った事、後悔しないでよ」
楓はそう言ってDBの如く「はあ・・・!」と気を溜め始めた。
辺りのコンクリやフェンスが破壊され、宙に浮かび上がる。
あなた何者ですか!?
「そんなコケ脅しで私がビビると思いですか?」
白川はそう言って高速移動を発動して飛び蹴りを放った、が、楓に弾き飛ばされ、宙に舞った。
「どうして?」
「あなたの動きが遅すぎなのよ」
楓はそう言うとシュインッと消えて白川の真上に出現し、両手を組んで叩き付けた。
白川は真下に落下してコンクリを破壊し、下の教室の床に背中を打ち付けた。
何ですかこのバトルは!?ケンカの領域超えてますよ!
楓はコンクリに着地をすると、「手応え無いわね」と言って俺の下へやって来た。
「望くんは私の物。誰にも渡さない・・・」
楓はそう呟きながら俺の口からテープを剥がし、縄を解く。
はぁ──俺は安堵の溜め息を吐いた。
やっと自由に為った。
「待って下さいですわ・・・!」
刹那、下からコンクリを破壊して白川が現れた。
「先輩は私の物です!そうですよね!?」
「否、誰のでも無いです」
「やっぱり私の物じゃないですか」
「お前どう言う耳してんだ!?」
「駄目よ。あなたは私に負けたの。これ以上私の望くんに付き纏わないで」
楓はそう言って俺の腕を取った。
「駄目!」
と、白川が反対の腕を取る。
そして互いに、俺を引っ張る。
「いててててっ、腕が千切れる!放せ!」
俺はあまりの痛みに涙目に成ってしまった。
「あっ、ごめんなさい!」
白川は慌てて俺を放した。
その為、俺は楓にぶつかって倒れ、上に重なった。
何だこのプニプニする物は?
俺は顔を上げた。
楓の胸が目の前にある。
成る程、倒れた拍子に楓の胸に顔が埋まった訳だ。
「退いて」
楓が睨みながら言った。
俺は無意識に楓の胸に手を置き、立ち上がろうとする。
「何処触ってんのよ!?」
頬を赤らめた楓のビンタが俺の頬に迫る。
「一寸待て!」
だが時既に遅し。俺は楓の平手打ちを喰らい、吹っ飛んでフェンスにぶつかった。
「不可抗力だっつーの」
「知らないわよ!それよりどっちが勝ったの?」
「勝ったって何が?」
「腕引っ張った時よ。白川さん途中で放したでしょ?」
「白川かな」
何言ってんだ俺?
「やったー!」
白川は喜んで飛び跳ねた。
「何で白川さんなのよ!?あの綱引き、私の勝ちでしょ!?」
綱引き!?俺は運動会の種目用具ですか!?
「否、白川の勝ちだ」
「何で!?」
「白川が放した理由、お前に解るか?」
楓は首を数回、横に振った。
「俺、二人に引っ張られて痛いと言ったよな?」
首を縦に振る楓。
「白川は痛がる俺を心配して放したんだ」
「その通りなのです」
白川はニパッと笑った。
「だが、お前は放さなかった。つまりお前は俺の事を何とも思っちゃいねえんだ!」
すると楓は立ち上がり、俺を睨み付けた。
「酷い・・・。酷いよ望くん!」
楓はそう言って、泣きながら去って行った。
あれ、一寸言い過ぎた?
俺は「一寸待て!」と追おうとするが、白川が俺の腕を掴んで止めた。
「先輩の事、何とも思って無い人なんて放っておきましょう。それより私と一緒に帰りませんか?」
楓の奴、帰ってれば良いんだが・・・。
「解った。一緒に帰ってやるから校門で待ってろ」
俺はそう言って教室に行き、帰り支度をして校門に向かった。
校門に着くと、既に支度を終えた白川がいた。
が、俺はスルーした。
「先輩、無視ですか?」
あー、ウゼェ。
「待って下さいよ先輩」
白川が駆けて来て横に着いた。
そして徐に手を繋ぐ。
「なっ、何だよ!?」
俺は頬を赤らめ、キョロキョロと辺りを見回した。
「誤解されるだろ?」
「別に良いですよ。私、先輩の事好きですから」
はぁ・・・──溜め息を吐く俺。
一人に為りたい。
一応言っておくが、俺は白川が苦手だ。
「どうしたんですか?」
俺が困った顔でいると、白川がそう訊ねた。
「何でも無い!」
「そうですか。所で、この後って用事ありますか?」
「用事?別に無いけど」
「じゃあこれから私ん家来ませんか?」
「行かない!」
「そっ、そんなぁ。私ショックですぅ」
白川は涙目に成った。
「解った解った、行ってやるよ」
白川は涙を拭いて笑顔に成った。
「本当ですか!?」




