3日目
3日目。俺は学校に登校した。それはまだ良い。問題は、楓が一緒に登校して来ていると言う事だ。幸い、クラスメートは楓の事をただの転校生だと思っていた。
俺が窓際の最後列に座っていると、背丈が俺と同じくらいで特徴と言う特徴が殆ど無い男が声を掛けて来た。
「糸色、この娘は誰だぁ?」
と、俺の隣に座っている楓の事を聞くのは、斉藤 孝幸だ。こいつは以前、楓に告白する直前に振られた男である。
「これですが何か?」
俺はそう言って、孝幸に小指を突き立てて見せた。
「何、お前楓ちゃんが死んだってのにもう作ったのかよ!?」
「否、こいつは楓だ」
刹那、楓が俺の足を踏み潰した。俺は痛いのを我慢して、
「じゃなかった、楓の双子の妹だ。今日転校して来たんだ」
と、慌てて言い直した。
「斉藤 孝幸です。以後、お見知りおきを」
と、楓に握手を求める孝幸。
「ふん」
楓は孝幸の手を振り払い、そっぽを向いた。どうやら彼には興味を示さない様だ。
「何こいつ?楓ちゃんと全く同じ事しやがった」
「残念だったな孝幸、気に入って貰えんで」
「五月蠅え!そう言うお前はどうなんだよ!?」
「望くん、この目障りな奴何処か連れてって」
楓がそう言いうと、孝幸はショックを受けて去って行った。
「楓、今のは酷いんじゃねえか?」
俺は小声でそう言った。
「私は望くん以外興味無いから」
と、振り向いて微笑む楓。その表情が、とても可愛い。
「俺はお前以外にも興味あるぞ?」
「駄目だよ望くん。私以外に興味持っちゃ」
「要するに、他の奴好きに為っちゃ駄目って事だよな?」
「駄目。為ったら殺るよ?」
と、微笑を崩さず言う楓。その顔で言うのはやめて欲しい。マジで怖い。
午前の授業が終わって昼休み。俺は購買へ足を運んだ。此処で売ってる牛丼はとても美味しい。だが、今日はその牛丼が売り切れてしまっていた。
俺がどうしようかと思っていると、楓が牛丼の箱を2つ持って現れた。
「望くん、牛丼譲って貰ったから一緒に食べよう?」
「ああ。てか譲って貰ったって誰に?」
「3年の松下」
3年の松下と言えば校内では学校一の不良で直ぐに暴力を振るうと言う事で評判だ。そんな奴から、楓は牛丼を奪って来たらしい。
「どうやって譲って貰ったんだ?」
「丁度3つ持ってたから喧嘩売って叩きのめして2つ奪って来た」
「手加減、したよな?」
「そりゃするに決まってるでしょ。だって手加減しなきゃ死んじゃうもん」
「後で謝っとけよ?」
「面倒だから嫌。じゃ、私先に屋上行ってるね」
楓はそう言って去って行った。
「一寸待てよ」
と言う俺を無視して・・・。
「先輩」
と、やって来たのは、1年の白川 聡美。白川は俺のパシリで、メールで恋文を打って来た奴だ。彼女は若干、楓にそっくりでよく見ないと間違えてしまう。
「さっき話してた娘、お亡くなりになられた柊沢先輩にそっくりでしたけど?」
「楓本人だ」
「先輩、死んだ人間は蘇りませんよ?」
「帰れ。教室に」
俺はそう言い放ち、屋上へ向かった。
「先輩、待って下さい」
と、白川が追って来る。だが俺は無視を続けつつ、屋上に辿り着いた。
「先輩、私を無視するなんて酷いです」
白川が何か言ってるが、俺は気にせず辺りを見回した。
「望くん、此処」
と、右の方で楓が手招きしている。俺はそっちに向き、徐に歩いて行った。
「遅いよ望くん。その娘は?」
「悪い。こいつは俺のパシリだ」
「白川 聡美です」
「聡美・・・そう言えば望くんのメールの恋文も聡美だったよね・・・」
「それこいつ」
と、白川を指差す俺。楓は白川に眼を飛ばした。
「先輩、怖いです」
「気にするな白川。こいつは俺に好意を持ってる奴には必ず眼を飛ばすんだ」
「成る程。このお方と私はライバル、と言う事ですか」
白川はそう言うと、楓に向かって眼を飛ばした。御互いの眼から黄色の細い線が飛び出し、バチバチと火花を散らす。
「こんな所にいたか。捜したぞ?」
と、そこへ現れたのは、如何程、不良と言う雰囲気を釀し出した男・・・3年の松下である。
「そこのお前、さっきはよくもやってくれたな」
松下は楓を睨み付けながら近付いて来る。
「やっぱ仕返に来ちゃった」
楓は食べ掛けの牛丼を置き、松下に歩み寄って行く。
「牛丼を返して貰おうか」
「私に勝てたら返してあげても良いけど?」
「生意気な女目!」
松下は楓の顔面目掛けて拳を突き出した。が、楓はスッとしゃがみ、足払いを掛けた。
「うお?」
刹那、松下は引っくり返った。
「はい、私の勝ち」
楓はそう言って、松下の頭に足を乗せた。
「トドメ、刺して良い?」
待て待て、何をする気だ楓?ま、まさか頭踏み潰すんじゃあるまいな?
「返事が無いって事は、トドメ刺して欲しいって事だよね?」
「止せ!」
俺は叫んだ。
「大丈夫だよ、殺しゃしないから」
「そう言う問題じゃねえ!」
って、聞いてねえし・・・。
「さて松下、何か言う事は?」
呼び捨てだー!
「その汚い足を退けろ」
ピキッ!──楓の額に怒りマーク出現。
「死ね!」
楓は足を軽く上げ、思いっ切り降ろした。コンクリに頭を叩き付けられた松下は、白眼を剥いて気絶した。
「可哀想、松下先輩・・・」
と、白川。
「やり過ぎだぞお前」
「松下が悪いんだもん」
楓はそう言って、元の場所に戻って食べ掛けの牛丼を手に取り、食べ始めた。
「望くん、食べないと時間が」
そうだった。俺は慌てて牛丼を取り、完食した。
「さて、教室戻るか」
そう言って俺が教室へ戻ろうとすると、楓が俺の裾を掴んだ。
「やっぱサボろう」
「な、何言ってんだよ?」
「良いから良いから、座って?」
楓がそう言うので、俺は仕方なく座った。白川はいつの間にかいなくなっている。
「そう言えば、望くんと初めて逢ったのって、此処だったよね」
「ああ、そうだったな」
「私達、付き合い始めてもう一年になるんだね」
「そうだな。きっかけは『私の彼氏になりなさい』って命令だった。で、命令に背いたら半殺しにされたっけな」
途端、俺は震えた。
「思い出してみると物凄く怖い・・・」
「でもさ、私のお陰だよ?望くんがいじめられなくなったのは」
「そう言えばお前、俺をいじめっ子から救ってくれたな。確か、楓と逢った次の日の放課後、俺がクラスメートの何人かに教室でいじめられてて、俺に会いに来たお前がいじめっ子を問答無用で叩きのめしたんだよな。それ以来いじめは無くなって・・・」
「でもさ、私がいなくなったら、またいじめられるんじゃ?」
「じゃあ逝くなよ」
「ごめん、それだけは出来ないの」
「また借りれば良いんじゃないの?」
「無理だよ!いくらすると思ってんの!?」
「えっ、金掛かるの?」
「1,000万ソウル」
「って、いくら?」
「1ソウル100円」
「そ、そんなにすんの!?」
俺は驚きのあまり眼球が飛び出した。
「だからね、次来れるのは何時になるか・・・」
「そうか・・・」
俺は肩を落とした。
それから暫くして、授業終了のチャイムが鳴った。
「授業、終わったな」
「そうだね」
「じゃ、帰ろうか」
「うん」
俺達は屋上を跡にし、教室に戻った。すると、
「お、戻って来たな」
と、俺を待っていたのか、孝幸が声を掛けて来た。
「何だよ?」
「あのさ、お前嘘吐いたろ?」
「何の話しだ?」
「楓ちゃんの双子の妹の件。さっき確認したんだが、楓ちゃんは一人っ子だよ」
「家に掛けたのか?」
「まあな」
「掛けてんじゃないよ、死ね」
と、孝幸の横を通り過ぎながら言う楓。相当嫌われている様だ。一体何があったのだろう?「孝幸、楓に嫌われていた様だが、生前のあいつと何かあったのか?」
「小学校の時に車の前に突き飛ばされたのよ」
そう言う楓に対し、孝幸は振り向き、
「なっ、何故知ってる!?」
楓は慌てて口を手で塞いだ。
「成る程、だから嫌われてたのか。で、その後どうなったんだ?」
「撥ねられた。意識不明の重体で病院に運ばれた」
それを聞いた俺は、孝幸をぶっ飛ばした。
「ちょっ、こっち飛ばさないで!」
と、楓が飛来する孝幸に回し蹴りを放つ。孝幸は黒板に向かって吹っ飛び、教卓に突っ込んだ。
「な、何で俺がこんな目に・・・?」
「楓の恨み」
と、俺。
「ちょっと良いかな、望くん」
「何?」
「今さ、殴って吹っ飛んだよね?何で?」
「そう言えば吹っ飛んだ。何でだ?」
「望くん、一寸私の事思いっ切り殴ってみて?」
そう言って俺の下に来る楓。
「何で?」
「良いから」
と、真剣な表情になる楓。
「何処を殴れば良い?」
「殴り易い所で良いよ。あっ、待った。廊下の方が良いかも」
そう言って廊下に出る楓に続いて出る俺。
「思いっ切り行くよ?」
俺はそう言って、思いっ切りぶん殴った。
「嘘!?」
俺は驚いた。何故なら、楓が隣のクラスの入り口付近まで飛んだからだ。
「望くん、お目出度う」
俺は疑問符を浮かべた。
「望くんは、私との修行で強くなりました。これで、私がいなくても、いじめられないよ」
「修行なんてした覚え・・・」
「ある、と言うか無理矢理教え込んだじゃない。私が死ぬ少し前に」
「そう言われれば、鍛えられた気がする・・・」
「これでまともに喧嘩出来るね」
「したくない」
「しようよ、喧嘩」
「じゃあその気にさせてあげる!」
次の瞬間、楓は目にも留まらぬ速度で俺の背後に回り込んだ。
「させるか!」
俺はすかさず前に飛び退いて構えた。
「楓、マジでやるつもりか?俺じゃお前に敵わない事くらい知ってんだろ?」
「望くんなら大丈夫だよ。先刻孝幸ぶっ飛ばせたんだから」
「仮にそうだとしても楓と喧嘩なんて出来ない」
楓は肩を落として溜め息を吐いた。
「そう?あくまで平和主義?」
そう言った後、楓は少し間を置き、
「面白くないから帰ろ」
そう言って一人で帰って行った。俺にはあいつが何を考えているのか全然解らん。
俺は教室に入り、帰り支度をして帰宅した。
家に入ると俺は、
「ただいまあ」
すると楓がすっ飛んで来て俺に抱きついた。
「お帰り、望くん」
何だこの感じは・・・?こいつノーブラ?
俺は頬が赤く成った。
「あっ!」
どうやら楓も気付いたらしく、頬を赤くした。
「の、のの、望くん?顔が赤く成ってるよ?」
楓は顔を引き攣らせながら言った。
「ストップ楓!抑えるんだ!」
だが、楓は俺の言葉を無視して背負い投げをした。
ダンッ!──俺は背中を廊下に叩き付けられた。が、不思議と痛みは感じなかった。
「ご、ゴメン望くん!」
「オーケー、痛くない」
そう言って俺は立ち上がり、
「昇○拳!」
を放った。
「えっ、マジ!?」
楓は宙に舞い、落下して背中を打った。
「お返しだ」
「やったわね!?」
飛び起きて襲い掛かる楓。
「どわっ!」
俺は楓の飛び蹴りをもろに受け、吹っ飛んだ。「カウンターだ!」
体勢を立て直した俺は飛び蹴りを放った。
「キャッ!」
楓は吹っ飛び、空中で角度を変えて着地。
「なかなかだよ、望くん」
それから俺達のバトルは数時間程続いた。そして、決着が着かず夜を迎えた。
「引き分けだね」
と、床に倒れ込む楓と俺。
「だな。しかし、この戦いは何の意味も無いと思うが?」
「確かに・・・。でも楽しけりゃ良いじゃん」
俺達は笑った。
「またやろうね、望くん」
「いや、それは遠慮しとく」
「そっか・・・」
楓帰るまで、後4日!




