6日目(後編)
楓を追い掛けて数分、俺たちは斉藤 孝之の自宅に辿り着いた。
彼の家は一軒家で、お袋さんと二人暮らし。親父さんは小さい頃に他界した。
「望くん、これから起こる事は他言無用よ」
言って楓は、斉藤家の敷地に進入を試みた。
「待て!」
と楓を捕縛する俺。
「望くん放して!」
「嫌だ!」
「放さないとあんたから先に殺すわよ!?」
その時、鞄を持った制服姿の孝之がやって来た。今帰りらしい。
「オースッ、人ん家の前で女の子とイチャイチャしている糸色くん」
拙い。何とかして此奴を何処かへやらなくては。
俺は孝之の方に顔を向け、逃げる様、必死放いて説得をした。
だがしかしである。孝之は俺の言う事を全く聞かず、不意に楓の前に出てそのまま斎藤家の敷地に入った。そこ迄は良い。問題は此処からなのだ。
足が自由になっている楓が、孝之に強力な不意打ちを繰り出した。
背中に楓のメガトンキックを喰らった孝之は、ボキボキッと背骨が砕けてしまった。
その場に崩れ落ちる孝之。その姿はとても惨めだ。
「痛え〜!」
テンポ遅いよ、孝之・・・。
「さて、トドメ刺しますか」
楓はそう言って、俺の呪縛から抜け出し、孝之にトドメを刺そうとしたが、既の所で孝之のお袋さんが家から出て来た。
「一寸、うちの子に何やってるの?」
楓は舌打ちをして「何でも無いわよ」と作り笑顔で言った。
「嘘仰い!あなた今、孝之を虐めてたでしょ!?見てたわよ!」
(否、虐めてたんじゃなくて殺そうとしてたんだよ)
と内心突っ込む俺。
「ママ、この女に背骨砕かれた!」
孝之はマザコンだった。
「何ですって!?」
お袋さんは孝之の背中に手を置いた。
「あら大変!直ぐ救急車呼ばなくちゃ!」
言って立ち上がると、お袋さんは楓を睨み付けた。
「あんたうちの孝之に何の恨みがあるの!?」
「ふんっ、クソババアには関係無いわよ」
「キーッ、クソババアですって!?巫座戯んじゃないわよクソ餓鬼が!」
その言葉に楓はピキッと怒りマークを額に出現させた。
「楓、落ち着け」
俺は楓を宥めるが、言う事を聞かない。
どうしたら良い、疑問符。
「どうやら死にたい様ね。良いわ、お望み通り地獄へ送ってあげる」
うわー拙い!楓が殺戮マシーンに変貌した!こうなっては誰も手に負えない。例え俺でも。
楓は地面を蹴り、前に跳んでお袋さんの顔面に拳をヒットさせた。
「おぶっ!」
お袋さんは勢いよく吹っ飛び、ドアにぶつかって破壊し、廊下に横たわった。
「へっ、手応え無いわね」
「ママー!」
「五月蝿いわよ!」
楓は叫ぶ孝之の頭を掴んでコンクリに強打させた。
「うっ!」
孝之は白眼を剥いて気絶した。
このままじゃマジで拙いよ!孝之死んじゃうよ!
「あ、あのさ、楓?もう十分なんじゃない哉?」
しかし楓は聞く耳を持たず、孝之に跨って彼の頭をボカスカ殴る。
「いい加減にしろ!」
俺は楓の項を掴み、思いっ切り引き寄せた。
楓は驚いて目を真ん丸にしている。
「望・・・くん?」
と楓は俺の方に顔を向けた。
「駄目だこんな事しちゃ」
「何で!?孝之はあたしを殺したんだよ!?仕返しして何が悪いの!?」
「全てだ」
「全・て・・・?」
俺は頷いた。
「だからさ、こんな事はもうやめて帰ろう?」
楓は少し躊躇いがちに応える。
「望くんが言うなら、やめるわ」
ホッとした俺は、ふう、と安堵の溜め息。
「その代わり」
疑問符を浮かべる俺。
何か嫌な予感。
「望くんにはサンドバックになって貰うから」
やっぱり?
俺は「嫌だー!」と叫んでその場から逃げ出した。
「待ちなさーい!」
と後ろから楓が物凄い形相で追い掛けて来る。
「死んでも待たねえ!」
俺は必死放いて追っ手から逃げる。
だがしかし、楓の速さからは逃れられる訳も無く、到頭俺は捕まってしまった。
そして俺はサンドバックにされ、全身に沢山の痣が出来、血まみれに成る迄殴られ続けた。
けど、不思議と嫌な気はしない。寧ろ気持良い。だって俺Mだもん、楓に対してだけ。
ビバッ、楓の暴力!
楓帰還迄後1日!




