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6.生徒会長の助言

「え……それって、手紙の犯人も知っていた、ということですか!?」

 私の言葉に前園会長はこくりと頷いた。

「まさか、神代先輩も……?」

 会長は少し困った顔になる。

「僕から説明するのも気が引けるけど、神代じゃ寺石さんにまともな説明をしないだろうから、最初から話すよ」

「お、お願いします!」

 私は縋り付く勢いで頼んだ。

「そうだな……まずは佐倉田さんだけど、彼女は神代の元カノでね」

「……ええ!? そ、そうだったんですか……」

 あれ、なぜだか複雑な気持ち。

「まあ二、三ヶ月の短い付き合いだったけど、神代が彼女を振ったんだ」

 むしろ神代先輩が振られそうな気もするが、佐倉田先輩もなかなかどうして、振られるというのはありかもしれない。

「でも佐倉田さんは諦めなかった。何度もアタックしてたんだけど、神代の奴、全く相手にしなくて」

 アタックとはまた古い。会長はやれやれといった感じで、眼鏡を掛け直した。

「そこで、去年起きた君の同級生達の問題が浮上するんだな」

「というと、ミーハー集団のことでしょうか……?」

 苦笑いで返される。

 あの一件、生徒会にも筒抜けだったのだろうか。

「彼女達の行動が目に付くようになって、こっちも少し困ってはいたんだけど、佐倉田さん達が先に行動に移したみたいでね」

 神代先輩が好きな佐倉田先輩にとっては我慢ならなかったのだろうな。

「注意だけで終わればよかったんだけど、そのあとがひどかったろう?」

「……ですね」

 上履きが無くなったり、ノートが破られてたり。まあ小学生かと思うほど、幼稚なイジメを行っていたのだ。

「さすがに噂にもなったし、僕達生徒会もそれに気付いて止めようとしたんだけど」

 そこで彼はにっこり微笑んだ。

「寺石さんの活躍を目撃してね」

 うわ~、まさか見られていたのか。

「格好いいなと思ったよ、心の底からね」

「あ、ありがとうございます……」

 恥ずかしい。

「だけどね――」

 彼の眼鏡が曇った。

「神代もその現場を目撃したせいで、寺石さんに興味を持っちゃって」

「興味?」

「具体的にどんな興味か、というのは本人に直接聞いてほしい」

 あんまり聞きたくない気がする。

「とにかく佐倉田さんにもそれがバレて、今度はヤキモチの矛先が寺石さんに向かってしまったんだな」

 なんてわかりやすい行動なんだろう、佐倉田先輩は。

「でも、それでどうしてラブレターなんですか?」

 前園会長は顎に手を当て、首を少し傾げてみせた。

「寺石さんが振られたっていう噂も、調べてみたら佐倉田さんが吹聴したらしいんだよ。二人の関係を壊そうとしたんじゃないかな」

 本当にそうなら、なんてまわりくどいやり方だろう。そんなのすぐにバレるだろうし、私から神代先輩に接触してしまったではないか。

「……理由については、あくまでも僕の推測だから本心はわからないけど。佐倉田さんに問い詰めたわけでもないから」

「あれ、話してないんですか?」

「うん。話そうとすると、さっきみたいにすぐ逃げるんだよ。もうあの行動が、自ら犯人ですって言ってるようなものだけどね」

 困ったように笑い、会長は肩を竦めた。

 まあ確かにこれで、大体の謎は解けた。しかしあともう一つ、解せない疑問が残る。

「結局、神代先輩も最初から知ってたわけですよね。佐倉田先輩が犯人だって」

「……そうだね。あいつなら、手紙を見た時点で気付いてると思うよ」

「それなら、なんで神代先輩はわざわざ私を大衆の面前で振ったんでしょうね……」

 噂を実行するって、どういう腹積もりなんだろうか。

「神代のことだから……楽しんでるだけかも」

「そんなのありですか!」

 ありかもしれないけど。

「――僕はね、生徒会長になんてなるつもりはなかったんだ」

「はい?」

 いきなりどうした前園先輩? なんか遠くを見つめて、めちゃめちゃ哀愁漂ってますが。

「神代が、生徒会長はお前がなれ――と、勝手に票を集めやがってね」

 口調もなんだか、荒立たしいような。

「元々、神代が会長の有力候補だったのに」

 それは驚きだ。神代先輩って実は人望があるのだろうか。前園先輩の票を集められるくらいだし。

「理由を聞いたら、僕を気に入ったからだそうだ。そこで僕は諦めたね。もう卒業するまで、こいつに振り回されるしかないんだと」

 憂いを帯びた表情に、私は「御愁傷様です」と声を掛けるしかなかった。

 夕香が前園先輩には影があると言っていたが、その原因はほぼ神代先輩のせいなのかもしれない。

「……他人事だと思っているね」

「他人事だと思いたいのですが、違うんでしょうか…….?」

 前園会長は、フッと笑った。まるで何もわかってないなと言わんばかりである。

「よく考えてごらん。君が言った通り、神代も犯人が佐倉田さんだってことくらい知ってたんだ。それなのに君を大勢の前で振ったことはもちろん、変なゲームまで持ち掛けただろう? 寺石さんもすでにあいつの被害者なんだよ」

 確かにそうだ。面白がってやっただけな気がする。

「あいつなりに考えてはいるんだろうけど、やり方がな……」

 そもそも考えなんてあるのだろうか?

 会長は眼鏡をクイッと指で押し上げ、「さて――」と言って改めてこちらに向き直る。

「僕から説明できるのはここまで。あとは寺石さん次第だよ」

「そんな丸投げしないで下さい、会長」

「丸投げはしてないよ。あとは神代と佐倉田さんを煮るなり焼くなり好きにしたらいいさ」

「……他人事だと思ってますね」

「だって本当に他人事だからね」

 うわあ、いい笑顔。

「でもね、今後の仲間として健闘を祈っているから」

「何の仲間ですか!?」

「それじゃ、さようなら~!」

 今年一番の笑顔なんじゃないかと思わせるほど、清々しい笑顔であっという間に走り去る生徒会長。

 私はただ呆然と立ち尽くし、お腹空いたなと夕暮れの空を見上げたのだった。

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