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3.変人な先輩

 大見得切ったはいいものの、いざ生徒会室を目の前にしたら足が竦むのは致し方ないことだろう。

 放課後、私は夕香に生徒会室に乗り込む旨を告げ、別れた。

 正直、付き添ってほしい思いもあったのだが、思い切り笑顔で「イ・ヤ」と断られてしまった。所詮、友情なんてそんなものである。

 改めて生徒会室の扉を眺める。はてさてどうしたものか。いつまでもこんなところで立ち往生していたら不審者扱いされてしまう。

「あれ、なんか不審者がいる」

 遅かった。すでに私は怪しさ全開だったらしい。

 恐る恐る後ろから聞こえた声の主に目をやれば、なんと。

 探し求めていた張本人……テンパ男ではないか(しまった、あまりの驚きに名前をど忘れした)。

 なんだか仏のような微笑みを向けられているのは、気のせいだろうか。

「そんなところで何してるの?」

「…………散歩を」

 って、アホか私!! そのまま彼に用件を伝えればいいものを! でもなんか、やっぱ言いにくいし!?

 私の胸中を知ってか知らずか、テンパ男は「ふ~ん」と言って、何か企んでそうな悪い笑みを浮かべた。

 さっきまでの微笑みはやはり見間違えだったのだろうか。

 しかしそんなことよりも、この先輩の名前を思い出さなくては。彼をしばしじっと見つめていると、

「オレに見惚れてるの?」

 急にスタスタと歩いて間近に迫って来られたので、思わず後退する。体勢を崩しそうになり、壁にぶつかった。逃げ場がない。彼は両手をポッケに突っ込んだまま、私を見下ろし、クスリと笑った。

「テンパ……いえ、センパイ、近いです」

 口が滑った。しかもかなり、しどろもどろである。

 すると、テンパ先輩は顔を思い切り近付けてきた。

「う~ん? なんか、オレの上半身の上層部を指した言葉が聞こえた気がするんだけど?」

 気のせいではないです。というか、恐い。仏の微笑みならぬ、悪魔の微笑みが恐い。そして顔が近すぎる。

 この状況、どうしたらいいんだ。

 ひたすら困っていると、先輩の手がポッケから私の両側の壁へと添えられた。何をするつもりなのかと彼を凝視すると、これ以上ないほどに顔を近付けられた。彼のふわふわした髪が私の頬を掠め……って、これ以上はキ……!?

 私が目をギュッとつむった瞬間、

 ガラリ。

 生徒会室の扉が開く。そこから姿を現したのは、眼鏡の男子生徒だった。彼はこちらに気付き、

「あ、神代。遅いと思ったらそんなところで何を……」

 そうだ、神代だ。なんて呑気に名前を思い出してスッキリしていると、眼鏡男子は顔を赤らめ、

「ナニをしてるんだ、神代!!」

 思い切り怒鳴られた。私にではないけど。

 神代先輩は私からスッと身を引き、不満気に口を尖らせる。

「ナニって、男女の睦みごと」

 いやいやいやいや!? ナニを言い出すんだ、この先輩は!

 というか、自分で振った人間にナニをやらかそうとしてるんだ!

 眼鏡男子は頭痛でもするのか、こめかみを押さえてこちらに視線を寄越してきた。なぜだかすごく哀れみの眼差しを向けられている気がする。

「うちの副会長がすまない。僕は前園。君は寺石さん、だよね」

 なぜ名前を知っているのか。疑問に思うこともないだろう。私の噂は校内全域に広められているのだから。

 とりあえず、この眼鏡男子は夕香の言っていた生徒会長らしい。私がこくりと頷くと、神代先輩が間に割って入ってくる。

「あんなにはっきり振ったのに、健気にオレに会いに来たから、可愛くなっちゃってね」

 そう言ってこちらに爽やかに微笑みかけるテンパ先輩。眼鏡先輩は呆れて物も言えないようだった。

 もう早く誤解を解きたくて堪らない。

「神代先輩、私があなたに宛てたラブレターを見せて頂けませんか」

「ようやく呼んでくれたね、オレの名前。もう忘れたらダメだよ」

 ……ばれていたか。

「で、なんで君の手紙を返却しなくちゃいけないわけ?」

「……はっきり言います。その手紙の差出人は私ではありません。私はその差出人を突き止めたいんです」

 ようやく本題に入ると、神代先輩は急に真顔に戻った。

「ふーん、面白いこと言うね」

「面白くもなんともありません! こっちは変な噂を立てられて迷惑してるんです!」

 つい勢いで言ってしまったけど、言い過ぎただろうか。神代先輩は悪くないわけだし。だけど一番被害を被っているのは私なんだから、仕様がない。

「事情はよくわかったよ、寺石さん」

 思わぬところから発せられた言葉は、眼鏡先輩こと前園先輩のものだった。

 そんなあっさりと。さすがは生徒会長、話が早いということなのだろうか?

「神代、もうこれ以上は……」

 会長が言い終わる前に、神代先輩はクルリと私達に背を向けた。

「寺石桐子さん、オレとゲームをしようか」

「へ?」

 突然の申し出に、すっとんきょうな声が出る。彼はこちらを振り返り、

「オレのブレザーのポケットに、君が欲しがっているラブレターを入れておこう。オレの隙をついて手に入れられたら、君の勝ち」

 そう言ってから少し悩むように唸りながら天を見上げ、そして思い付いたとでもいうように、こちらに向き直る。

「一週間、時間を与えよう。それで手紙を奪えなければ、オレの勝ち。オレが負けたら、君の言うことを信じ、噂は撤回してあげる」

「……どうやって?」

「オレ自ら真実を皆に伝えるだけさ。どう? 面白いと思うんだけど」

 どこがやねん。と言いたいくらい面倒な展開である。

「ただでは手紙を渡さないつもりですか」

「当然」

 彼は不敵な笑みを浮かべる。

 どうしてそんな面倒なことをしなくてはならないのか。答えは簡単。神代先輩は変人なのだ。もう、そう納得するしかない。

 私は深い深い溜め息をつき、

「受けて立ちましょう」

 開き直って言ってやった。

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