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Ⅵ 白い男。

 一読いかがですかい?

 歩く廊下はとても暗かった。

 外も暗く。夕日の空が黒に染まりきる直前に止まった外の世界は、廊下よりも幾分かは明るかった事を思い出す。

 まぁ、俺からすれば中も外もそう変わりはしなかった。

 進まない時間。動かない人々。

 ただ一つ。動いて進むのは俺という人間一人だけ、自分の家の中を血眼になって走り回っていた時には、寂しいだとか怖いだとかって感情がまだ、俺の中に存在していたけれど。

 今となっては、そんな感情はどこかに消え去ってしまって、とても真面まともとは思えない程に冷静だ。

 もしかすると、こういう事を悟りが開いたと言うのだろうか。


 止まった世界で、ただ一つだけ評価できるものがある。

 それは、とても静かだということだ。雑音一つしない。

 それどころか森に根を生やした木々の擦れあう音や、野良犬の鳴き声も。

 おまけに人間の声もしない。

 この屋敷に来るまでに様々なことを考えた。そして俺の今の心情を一言で表すとすれば、それは虚無感と言うべきだろう。


「さてと、そろそろ隠れんぼの終わりが見えてきたかな。見つけたとして心配なのが、彼女が俺の事を覚えているのかっていうことだな」


 言いながら扉を開ける。

 木造りのそれの中へと視線を送ってみると、今まで回ってきた部屋と同じ様にベッドや置時計。

 窓には綺麗な白色をしたカーテンがかけられていた。


「これで二十部屋目……お邪魔しましたー」


 言いながら扉を閉めた。

 俺は玄関にあった幅の広い階段を上がり、まず右の廊下を進んだ。

 そして今開けた部屋と同様に一部屋、一部屋、確認して回ったんだ。

 右の廊下の端まで行ってみたけれど、彼女はいなかった。

 そして左の廊下。進む道の所々にある扉を開いてゆく。

 俺の歩く廊下は、横に大人が五人くらい並べそうな程の幅を有していた。

 それから、ある一定の間隔をもって存在している扉と同じ様に大きな天窓があり、そこから外の薄ら明かりが廊下に入ってきて、少し目を凝らせば廊下の少し先を見ることができた。


「あと三部屋かぁ。もし、これで彼女がいなかったら……?」


 独り言。

 その言葉への答えを俺は知らない。


「こいつは重症だぁ。独り言が癖みたいになってきたな」


 言いながら歩みを進めて、次の部屋の扉を開けた。


「……頼むよ」


 部屋の中が無人であることを確認、扉を閉めて次の部屋へ。


「お願いだから……さ」


 二部屋目。扉を開けて視線を中にやるが、やはりそこには人気の無い空間が広がっていた。

 そっと扉をしめて、最後の部屋への歩みを進める。

 力なく進められる両脚。自然と歩幅が縮まって、そして最後の扉の前で足が止まった。


 ――十八時。


「えっ? なんだって?」

 止まった両脚。最後の扉へと手を伸ばした瞬間だ。

 声が聞こえた……気がした。

 俺は伸ばした手を降ろして、俺が歩いてきた暗い廊下の先を見た。

 廊下は一本道だ。暗くて、天窓からの光を借りても、見える視界はかなり限られてしまう。


 ――十八時。


 再び聞こえた。

 そして聞こえた声が、声ではなくて頭の中に直接浮かび上がる文字なのだと理解する。


「十八時? 時間のことか? だけど、どうして」


 戸惑いの声が漏れる。浮かび上がる数字は恐らく、時間を指し示しているんだ。


「わからない……それを理解するためにここに来たんじゃないか」


 言いながら最後の扉に手を伸してドアノブを回した。


「どうしてだ?」


 開いた扉の先の空間へと視線を送る。

 部屋の中には誰もいなかった。

 俺の求めている人はいない。どこにもいないんだ。


「これは……絶望的だなぁー。どうすればいい?」


 身体からだ全体から力が抜ける、膝から崩れるようにして床に手をついた。


「わからないな」


 ため息交じりに出た言葉。わからない、それから自然と涙が出てきた。


「どうして泣いているのかなぁ?」

「涙の理由は悲しいからだろう……え?」


 床に手をついて、両の瞳からは涙を零して俺は悲しいという感情を久しぶりに体感したような気がする。

 そして、それらの動作が起きた直後、一つの声が聞こえた。


「人探しぃ? 手伝おうかぁ?」

「……あぁっと、それはありがたい。えっとですねぇ、綺麗な黒髪の長髪で、胸はボンッ! っと大きくて……あんた誰さ?」

「こいつは失礼。自己紹介するね! 僕は、ユー・トワイト・クウェイカー。ユークで構わないよ」


 白のコートに銀色の髪をした。真っ白の男がムカつく程に輝いた満面の笑みを携えながらそう言った。


 おつかりさまぁー。

 

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