暗殺者?
連載再開します。
私がマティアス武具店に身を寄せることになった翌日、私はアルムさんに武器庫に案内されました。
「最初にも言いましたが、いずれは素材採集の方もお願いするつもりですからね。アリスさんに装備を選んでもらいたんですよ。」
「私は構いませんが、私に武器を渡してもよろしいのですか。」
「ここは、武器屋ですよ。あなたがその気になれば、凶器などいつでも手に入れられます。それに、これでも私は元騎士ですから、流石に婦女子には遅れをとりませんよ。アリスさんは二刀も使えるとお聞きしましたので、このような武器はいかがでしょうか?」
そういうとアルムさんは、棚から2本の小振りの刀を持ってきてくれました。
「これはですね、アキツシマに行ったときに一目惚れしましてね。二刀用の刀らしくて、『二本刀』というらしいですよ。」
「二本刀?」
「はい、二つの刀で運用するために打ったから『二本刀』だと、鍛冶職人はいっていましたよ。」
確かに、片手で扱いやすいように、柄が短くなっていますし、重さも手ごろなので、ふざけた名前の割には、よくできているようです。
長さも、自分が稽古で使っていたものとほぼ同じです。
西洋風ファンタジーの世界で、自分が使い慣れたものと、これだけ酷似しているのですから、即決してもいいような気がしますが、問題は手入れです。
「この刀の手入れ道具などは、アルムさんはお持ちですか?」
「鍛冶職人が、おまけに、つけてくれたものがありますよ。」
「その手入れ道具も、見せていただいてよろしいですか。」
「はい、こちらなのですが……。」
アルムさんが取り出した木箱の中を見ると、ちゃんと一通り、必要なものは入っているようです。
「とりあえず、刀とこちらを一式お借りしてもよろしいでしょうか。これなら手入れも自分でできますので。」
「ではそちらで。気にいっていただけてよかったです。倉庫で腐らせておくには惜しいと、常々思っていましたから。あ、ソードホルダーは、よろしければ、こちらをお使い下さい。」
「これは?」
「クロードさんが2、3年前に使っていたものです。自分には小さくなって窮屈で使わないから、欲しい人がいたらあげてくれと言われましてね。引き取ったものの、二刀剣士などそうそういるものではありませんから、ずっと武器庫で眠っていたのですよ。」
その黒いソードホルダーは、所々、すれた跡や、細かい傷はあるものの、まだまだ充分に使えそうです。
そして、なにより、クロード様のお下がりです。
これは、是非ともゲットしなくてはなりません。
「本当にお借りしてもよろしいのですか?」
「もちろん。」
「謹んで、使わせていただきます。」
私は頭を垂れ、ソードホルダーを胸に抱きます。
「気にいっていただけて何よりです。獲物はこれで決まりましたから、次は防具なのですが……。」
「それなら、軽装歩兵の方が着るような、動きやすくて、そこそこ防御力のある軽鎧はありますか。」
「武具店として、誠にお恥ずかしい限りなのですが、アリスさんの体格に合うような鎧は、今、在庫がないのですよ。戦時中で、防具も不足していますし……。」
アルムさんが、こちらを見ながら、気まずそうに答えます。
オブラートに包んだような表現をしてくれていますが、その視線を受けて、合点がいきました。
ずばり、『胸』ですね。
この世界の女性達は2つの大きなメロンを標準装備しています。
今、着ている服は、ジャージ姿は目立つということで、アルムさんの奥さんである、マリアさんにお借りしているのですが、10年以上も前に着ていた物だそうです。
私は日本人としては、それなりにあるほうだと思っていたのですが、この世界の女性達には、遠く及びません。
私自身は、とくに胸のサイズにはこだわりがなかったので、まさかこのような弊害があろうとは、思いもしませんでした。
考えてみれば、2次元世界の女性たちは総じて巨乳です。
貧乳キャラといわれる存在でさえ、日本人の感覚からいえば、普通か、十分ある女性がほとんどです。
まあ、ないものは仕方ありません。
「それでは、『防刃ローブ』はありますか?」
この世界では、ローブ系は魔法防御重視の防具で、魔法攻撃力もあがるのですが、物理防御力は気休め程度です。
ただし、この『防刃ローブ』は違います。
魔法攻撃力はあがらないものの、物理攻撃を半減する効果をもっています。
とはいっても、元の防御力が大して高くないので、総合的には、序盤の軽鎧より、少し劣る程度になります。
「ああ、それなら、ご用意できますよ。店頭にたくさん並んでいますので、何着かお持ちしましょう。」
そういって、アルムさんが、うれしそうに、武器庫から出て行きます。
たくさんといっていましたから、やはり、『防刃ローブ』は人気のない装備のようです。
元々、魔法使いは遠距離から、お互い魔法で撃ち合うことが多いので、物理攻撃にさらされることはあまりありません。
ですので、せっかくの物理攻撃半減効果も宝の持ち腐れと、とらえられているのでしょう。
それなら、魔法攻撃力もあがる普通のローブを、と考えるのはわからない話ではありません。
それでも私は、底上げしにくい魔法使いの防御力をあげてくれる『防刃ローブ』派ですが……
そんなことを考えていたら、アルムさんが戻ってきました。
「お待たせしました。色はこちらの黒、白、赤の3色になりますが、どちらがよろしいですか。」
「黒でおねがいします。」
理由は、単純に、汚れが目立ちにくいからです。
「即答ですね。」
アルムさんが少し驚いたような表情をしています。
女性は物を選ぶのに、時間がかかるものだと思っていたのでしょうか。
私は物を選ぶ前にはある程度、方向性を決めているので、あまり悩んだことはありません。
「それでは、他に欲しい物はありますか。」
「そうですね。あとは『お守リボン』と、なにか籠手か。手甲はありますか。」
『お守リボン』は状態異常全てを25%の確率で防いでくれるアクセサリーです。
名前はちょっとアレですが、魔法防御も若干あがります。
籠手や手甲は小手対策です。
「『お守リボン』は赤、青、黄色、黒、白の5色になりますが、どちらがよろしいですか。」
「赤でお願いします。」
「それで、手甲なのですが、こちらのガントレットを試していただけませんか?」
前腕部を覆う手袋を、鎖帷子でコーティングして、さらにその上から鉄板を、要所、要所に貼り付けたような形状をしています。
「これはですね。軽くて、盾と同等の防御力を持たせられないかと開発したガントレットです。クロードさんやアリスさんのような2刀剣士は盾が持てませんから、そんな人たちのためにですね……」
「つまり、これを私が身につけることが、クロード様のためになると?」
ガントレットを実際にはめてみて、指を動かしてみますが、動きを阻害する感じもなく、着け心地も悪くないです。
私の負傷により、ガントレットの問題が浮き彫りになり、改良をされ、それを身に着けたクロード様が、より安全になるというのであれば、腕の1本や2本惜しくはありません。
それに腕くらいなら、わりと簡単に回復魔法でつなぐことができるのは、モヒカン男が身をもって証明してくれました。
「? ええ、まあ。」
「わかりました。こちらを使わせていただきます。」
「それでは、一度、全てを身に着けていただけますか?それから細かい調整などを行います。必要であれば、マリアを呼びましょう。」
「いえ、上に着るだけですから、それには及びません。」
「では、私は外に出ていますので何かあれば、私かマリアに声を掛けてください。」
アルムさんが出て行ったあと、まず、『防刃ローブ』を身に着けることにしました。
ポンチョのように頭からかぶって、腕を通すだけなので簡単です。
次に『お守リボン』で髪を後ろに纏めます。
そして、ソードホルダーを腰に巻いて、両サイドに刀をセットします。
ああ、クロード様に抱き締められている……
いけません。
気を取り直して、最後に、ガントレットを装着。
しかし、この状態では左のブレスレットが使えなくなりますね。
まあ、今はどちらにしても使えないので、いずれ、アルムさんに相談しましょう。
さて、姿見で確認したところ、全身黒ずくめの上、両腰に刀、両腕は物々しい機械の義腕にみえます。
これでフードを被ったらと思ったので、被ってみます。
どうみても暗殺者です。
ありがとうございました。