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2話

「さて、アミエさんだったかな、一応、何があったのか、教えてもらっていいかな。」


私は、モヒカン達の移送後、連れてこられた小屋にて、クロード様に取調べを受けていました。


「一言で言いますと、ガラの悪い男達にからまれて、身の危険を感じましたので、必死に抵抗致しました。そして、私はアキツシマの人間ですので、アミエは家名になりますので、アリスとお呼び下さい。」


 いくらなんでも、異世界から来ましたとは言えません

 皆さん、私をアキツシマの人間だと思って下さっているようですので、それに乗っかっておきます。

 流石の私も、この世界が、もう夢の世界だとは思いません。

 あごひげの骨を砕いた感触や彼らが流した血の臭いは、いやがおうにも、『現実』を感じさせてくれました。

 どうやら、異世界トリップしてしまったと考えるのが妥当でしょう。

 であれば、無用な混乱は避けるべきです。

クロード様に嘘をつくのは心苦しいのですが、まだ、心を許せる味方のいない世界では、致し方ないことと、自分に言い聞かせます。


「家名持ちということは、お貴族様なのかい。」


「いいえ。家名があるというだけで、文字も読めませんし、その上、今は無一文です。そのような特別な人間ではありません。私からも1つお聞きしたいのですが、この建物は一体、何なのでしょうか。」


「ああ、この家は、俺が昔住んでいた家さ。まあ、今も持ち家だが。言い方は悪いが、身元のわからない人間を城の敷地内に入れる訳にはいかないんだ。汚いところで申し訳ない。」


「いえ、そんなことは……。」


そう言いかけたところで、ガブリエルちゃんが、お茶を持ってきてくれました。


「ありがとうございます。あれ、ガブリエルさんのはお湯なんですね。」


「はい。私はお薬をいただきますから……。」


「ガブリエル、薬を飲んだら、奥のベッドで少し休んでろ。終わったら呼ぶから。」


「では、お言葉に甘えて、休ませていただきますね。アリスさんも失礼致します。」


 薬を飲み終わったガブリエルちゃんは、少しふらふらしながら奥の部屋へと消えていきました。

 そういえば、彼女は病弱キャラでしたね。

 それでも彼女は、その名の通り、天使のようにクロード様を支え続けたことから、プレイヤーの中では真のヒロインといわれている娘です。


「あー、すまないが、話を戻そうか。リュンヌには何をしにきたんだい。」


 視線を奥に消えたガブリエルちゃんからクロード様に戻します。


「この国には、ゾンネから逃げてきました。この格好は着の身着のまま逃げてきたからです。」


「しかし、アキツシマは無血降伏したはずだろう。属国になったにしても、それほど酷いことはされないはずだが……。」


どうやら、この答えでは、クロード様には納得していただけないので、心は痛みますが、もう一押ししてみます。


「えーと、アキツシマにいたころに、どうやら偶然、ゾンネ兵から聞いてはいけない話を聞いてしまったようで、国にいられなくなったのです。」


「聞いてはいけない話?」


「はい。信じていただけるかわかりませんが、ゾンネ帝国の目的は各国の守護聖竜で、そのためにヴァネッサ姫が必要という話でした。」


この話は本当だったりします。

 各国の初代王は、自分とその子孫達が、守護聖竜の加護を受けられるよう、契約をしたそうです。

 この世界に存在する6国の内、ゾンネ、リュンヌ、ウラベノ、ソイル、ジャーマの5国は、各国の守護聖竜の名を冠し、それぞれ、国の唯一神として信仰されています。

 アキツシマのみは、自然信仰の多神教国家だったので、最も強大な力を持つ神として、ミヅハが崇められています。

 しかし、守護聖竜の加護は、血の濃さによって強さが変わり、現在、直系の王族はリュンヌのみなのです。

 そして、ゾンネ帝国皇帝ヴォルフガングは、傍系であり、圧政をしく前皇帝を倒して皇帝になった男です。

それでも、守護聖竜の『声』くらいは聞けるみたいですが……。

彼は、ゲームの中でも、ずっと守護聖竜達に執着しており、そのためにヴァネッサ姫の身柄を確保しようとするのです。

あ、ちなみに、ヴァネッサ姫というのは、リュンヌ王国のお姫様で、残念ながらこのゲームのヒロインです。


「あいつら、本気で姫様を狙っていたのか。てっきり、開戦のための口実かと思っていたが。しかし、守護聖竜と姫様がどう繋がるのかがわからん。」


「それは、国王陛下か、姫様に聞けば、何かご存知かもしれません。」


「まあ、裏をとるにはそれしかないか。

 ああ、それから、話は変わるが、アリスさんは今、文無しで困っているんだよな?」


「ええ、お恥ずかしながら、命からがら逃げてきましたので。」


「今は戦時中なのはわかるよな。だから、敵国ではないとはいえ、身元のはっきりしない他国人をふらふら歩かせる訳にはいかない。そこでだ、監視の意味もあるんだが、うちのおかかえの武器屋に、住み込みで働いてもらえないかな。」


ああ、やはり、クロード様はお優しい。

 身元のわからない私に衣食住ばかりか、職まで斡旋してくださるなんて。


「私などが、お役に立てるのでしたらよろこんで。しかし、本当によろしいのでしょうか。」


「ああ、実は先方に話は通してあるんだ。アリスさんに会う前は、その店に行くつもりだったんだ。先の戦いで消耗した武具や薬品を補充しないといけないからな。とりあえず、今から一緒に行くから、店主に話を聞いてみてくれ。」



それから数分後、クロード様と私は件のお店に向かって歩いていました。

 ガブリエルちゃんは、小屋を出るときに、まだ、気分がすぐれないそうで、クロード様の背で、少しうなされながら眠っています。

 クロード様におんぶ……、いいなあ。

 いけません。私のために魔法を使って、消耗しているのですから。


「ガブリエルさんは大丈夫でしょうか。」


「戦闘後はいつもこうなるんだ。アリスさんは気に病む必要はないさ。まあ、みてなって、店に着いたら、すぐに目を覚ますからさ。」


 クロード様は、何かいわくありげな顔をしながら、そう答えてくれました。


「お薬のにおい……。」


遠くにビンの絵が描かれた看板のお店がみえた辺りで、ガブリエルちゃんが目を覚ましました。


「クロードさんありがとうございます。ここまでで、結構ですから降ろしてください。」


 彼女の目は、しっかりと見開かれ、瞳には強い意志が宿っているように見えます。

 先ほどまで眠っていた人間とは思えません。


「クロードさん。お薬の補充は、私にお任せください。それではアリスさん、失礼致します。」


 そして、彼女はそそくさと、先ほど見えたお店に入っていきました。


「おどろいたかい。しかし、本当にガブリエルは薬好きだなあ。」


「ええ、まあ。」


 そういえば、彼女はお薬大好きキャラでもありましたね。

 落ち込んだりしたクロード様を、『いいお薬ありますよ』と、よく励ましていました。


「今、ガブリエルが入っていたのが、武器屋の奥さんがやっている薬屋で、裏に回ると武器屋があるんだ。」


 薬屋さんのあった通りの1つ裏の通りに入ると、今度は剣が×字に重なった看板がみえました。


「ほら、ここが件の武器屋さ。」


店の前まで来ると、私より頭1つ分は背の高い、がっしりとした体格の男性が、お店の中からでてきました。


「初めまして、お嬢さん。マティアス武具店へようこそ。店主のアルムです。よろしく。」


 握手を求められたので、その手を握り返しました。


「こちらこそ、お世話になります。アリスと申します。早速で、申し訳ないのですが、私はこの国の生活様式もわからないのですが、よろしいのでしょうか。」


「その辺は、こちらでお教えしますよ。私も妻も元々は行商人ですので、他国の人との交流には慣れていますから、問題ありません。」


「なるほど。それで仕事内容はどんなことをすればよいのでしょうか。」


「最初は家事などの簡単な雑用から、お願いしようと思っています。その後は、クロードさんから、アリスさんは剣術の心得もあるそうなので、採集作業も手伝ってもらえるとありがたいですね。」


「クロード様、気づいていたのですか。」


クロード様の方に向き直り尋ねます。


「いや、あれだけ大立ち回りできる人間が、素人だとは思わねーよ。それにあんた、本当は二刀流だろ。殺生はしたことがないみたいだが。」


そこまでお見通しとは、流石はクロード様です。

私が厨二病を患っていたときに、近所の神社の神主様が二刀流の使い手で、その方に教えていただきました。

え、剣道でいいじゃんて?

馬鹿をいってはいけません!

二刀流の剣術の方が、断然かっこいいにきまっています。


「おっしゃるとおり、私は自分の剣で殺生をしたことはありませんし、これからも、人を斬るつもりはありません。それでもよろしければ、よろしくお願いいたします。」


 こんどは、アルムさんの方へ向き直り、深くお辞儀をしました。


「もちろん、こちらとしても、あまり無茶なことをさせるつもりはないよ。」


 そう言うと、アルムさんは私にやさしく微笑みかけてくれました。

 こうして、私は商人としての第1歩を踏み出したのでした。

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