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第二話 side Nightmare

登場人物の視点で書いてあります。

苦手な方は注意してください。

side Nightmare



 

 

 目を開けると、光と、ぼんやりとした白い玉が見えた。

 眩しい。ここは…ベッドの中?

「カタカタカタカタ」

 白い玉が音をたてて揺れている。

「ケタケタケタケタ」

 もう一つ白い玉が現れた。

「カタカタカタ」

「ケケケタ」

「ケタカタカタ」

「カタタ」

 何これ? 恐る恐る手を伸ばし、白い玉をぺしぺし触ってみた。

「カタッ、ケタケタ」

「ケカケタカタ」

 …硬くて冷たくて完全な球体ではない白い玉。窪んだ場所に指を突っ込んでみた。

「カタッ!?」

 もしかして、これ…驚いてる!? 絶対にやるなと言われればやりたくなってしまうのが人の性。反応されてしまうともっと試してみたくなるのも人の性。ということで、

「えい」

窪みに拳を突っ込んでみた。

「ガグッ!?」

 ちょっと力が強かったらしく、白い玉がコツンと墜落。

「あ…ごめん」

「カカカッ…」

 ボスッという軟らかい衝撃を顔の横に感じた。

 横の白い玉は…いや、これって…この形って…この独特の窪み…二つの大きな穴と…白い欠片が横に並ぶこの物体…

「骸…骨ぅ!?」

 私は声にならない叫びを上げて飛び起きた! 動く骸骨スケルトン!? 何故にスケルトン!? どうすんの!? な、ん、で、こんなことになってんの!?

「カッ、ケッ!」

 呆然としてたらスケルトンの頭が飛び跳ねながらこっちへ向かってくる! 私が一体何したって……スケルトンの顔面殴ったんだった…。

「カタッ、カケェッ!」

「お、怒ってる? そりゃ顔面殴ったのは悪かったと思ってるけど「ごめん」って謝ったんだから許してよ!」

「ケッ! カタカケタッケタカタカタケタ!」

 スケルトン語でいえば「はぁ!? ごめんで済むなら警察は要らねーよ!」といったところか。というよりそっちも私が言ってることわかってんの?

 とにかく許して貰えそうも無い。

「カタッ!!」

「うわ!?」

 スケルトンが頭だけで跳びあがり、手に噛み付こうとしたところをかわす! スケルトンはベッドにボスッと着地。

 うん、やっぱりスケルトンは話してわかりあえるような相手じゃないね。こういう場合は、むこうにもこっちにも被害が少ない最善の方法「逃げる」に限る。さっきまで寝ていたベッドを飛び出し、前方に確認した扉に向かってダッシュで…

「ガガッ!!」

「!?」

 ガッシャーン、という音と共に前に立ちはだかろうとしたもう一匹(もう一人?)のスケルトンに正面激突! こっちは全然痛くなかったけど激突されたほうは、哀れ、足元でバラバラになってしまった。

「カケタッ!?」

 さっき噛み付こうとしたスケルトン(頭)が叫ぶ。関係ないけど、「カケタ」っていうのはバラバラになったスケルトンの名前だろうか? 

 ますます険悪なムードになりそうだったので

「いやあ…わざとやったんじゃあ、ないからね? あの」

「カァァァケェェェ!!」

「……」

…弁解の余地無し。事態はますます悪い方向に…。

 スケルトン(頭)がみるみるうちに赤くなっていく。スケルトンも怒ったら赤くなるんだ…。

「カタカタカタカタ…」

 音がした足元を見るとバラバラになったスケルトン(カケタ?)が早くも復活しようとしていた。

「カッカッカッ…!」

 スケルトン(頭)もコツコツ飛び跳ねながらこっちへ向かってくる。これ以上ここにいるとスケルトンたちの逆襲を受けることになってしまいそうだ。

 黙らせるなり殺すなりしてもいいけど今の状況がわからない限り手荒な目立ったことはしたくない。

 静かにドアを開き、外に出、閉める。途中でスケルトン(カケタ?)の散らばった骨を踏んだらしく

『ボキッ』

「ガギィィィッ!?」

という音と声がした。でもこれは私の責任じゃない。「踏んでください」とでも言うように足元に散らばった方に原因はある! カルシウム不足も原因の一つ。私、そんなに重くないってば!

 

 ま…そんなことは置いといて。スケルトンたちが出て来れないように扉に寄りかかって、目を閉じ、自分を落ち着かせ、色々と頭の中で整理してみる。



 まず、ここはどこか? …わからない。

 何故ベッドに寝ていたか? …不明。

 何時からここにいるか? …さぁ。

 何故目覚めたらスケルトンがいたのか? …知らない。

 何故ここにいるか? …知るわけない。

 ここに来る前何をしていたか? 正確には何をしようとしていたか? …憶えてない、全然。

 結論…全て不明…。

 でも、絶望のどん底というわけじゃない。自分の名前も年齢も職業も緊急連絡先も忘れてないから、全くの無知で記憶喪失ということじゃない。これだけあれば十分。何もできないわけじゃない!

 結論2! ここから出れば全てがわかる…と思う。



 行動は決まった。

 目を開ける。

 さっきはよく見なかったけどここは廊下らしい。目の前には石造りの壁があり、そこにランタンが設置されている。床は赤い絨毯が敷かれている。関係ないけどなかなかの高級品っぽい。寄りかかっている扉の左右には背中に翼を生やした不細工な犬みたいな石像が一対。動く石像『ガーゴイル』かと思って触ってみようとしたけど、やっぱやめといた。「触らぬ神に祟りなし」!

 『神』…あれ? 神? 何かが頭の中できらめいた。でも思い出せない。

 背中の扉から、スケルトンたちが懸命に体当たりをしている衝撃が伝わってくる。骸骨だからそんなに強い衝撃じゃないけど。

 よし、これで周囲の状況は一応把握した。

 …根拠は無いけど右に行ってみることにしよう。呼吸を整えて、一…二の…三っ!右に向かって全速力で走り出す!暗殺は逃げ足が命!後ろで

「ケタァッ!?」

「カタァッ!?」

『ガッシャーン』

という音と間抜けな声が廊下に響いた。体当たりしていたスケルトンたちが勢いよく廊下に飛び出し、バラバラになったらしい。あいつらがどうなろうと別にいいけど今の音で誰かが――敵が気づいたかもしれない。余計なことをやってくれる。

 さ、これ以上面倒が起こらないようにとっとと逃げよう。

「カタカタカタカタァッ!!」

 スケルトンの叫びが廊下に響く。思わず足を止めた。

 なーんか嫌な予感を感じて後ろを振り返る。すると…面倒が早速起こっていた。スケルトーン、なんて事をしてくれたよー…。

 後方に大蛇が…上半身が人間っぽくて下半身が青黒い蛇の輩が、ニュルニュルとどこからともなく現れた! その手には槍が握られていて、話せばわかるという雰囲気じゃ無い。もっとも、こっちだって話し合いでわかりあいたくもないけど!

「カケカケッ! カタァッ! カタァッ!」とスケルトン。

 「曲者だ! 出会え! 出会え!」と言っているのだろうか? 

 その声に反応して大蛇がニュルニュルと無言で迫ってくる。しかしスピードは遅い。

 しめた、これなら逃げ切れる! 暗殺者の逃げ足舐めるな!


 と思った…が…再び走り出そうと、前方を向いて赤黒い鱗が見えたときにはもう遅かった。

「ぐっ!」

 何時の間に、どこから現れたのか、赤黒い大蛇の一群の先頭に激突し吹っ飛ばされる。

「カタッ! ケタカタタ!」

 挟み撃ち。後にも先にも行かせないということ。

 やってくれるじゃない。さて、どうしよう?

 ゆっくりと、しかし確実に赤と青の大蛇が迫る。吹き飛ばされた衝撃で少しぐらぐらする頭を使って考える。

 そうしているうちにも赤と青が迫ってきた。鱗が床にすれる音が聞こえる。

「……」

 手荒なこと、してしまおうか。

 足元が少しおぼつかないけど、立ち上がった。顔を上げると右に赤の大蛇、左に青の大蛇が見える。

「カタッタケタケタ!」

 「勘弁しろ」? 生憎だけど私はこんなところで勘弁はしない。

 力を少しずつ解放し、外の空気に集約。





「轟けっ!!」





 一瞬の静寂の後、解き放った力が爆発。空気を雷鳴で震わせ、視界を白く染める!白い視界の中に一瞬だけ、赤と青が蠢くのが見えた。



 視界が元に戻ったとき、周囲には赤と青の大蛇が黒くなって床を埋めていた。

 死んでんだか生きてんだかわからないけど、もう動けないだろう。前に進む事はできそうだ。

「悪いけど、止まるわけにはいかないから…」

 さっきの大声で今までの状況からくるストレスが解消できた。ざまあみろっ!


 そうして、前に進もうとしたその時

『………ォ…ン…』

 …どこからか、何かの音が聞こえた。急いで大蛇たちの身体を踏み越え、走り出す。

『オ……ォォン…』

 新たな追手? そう思って一旦止まり、耳を澄ました。

『オオ…ォォン…』

 音は前方から。回れ右して元来た道を戻る。

『オオォォォン…』

「なんで…!?」

 音はさっきまで反対方向に聞こえていたはずなのに…また前方に聞こえる。

『オオオォォォン!』

 音が一層大きくなった!前から聞こえているんじゃなくって、まるでこの場所自体が音を出しているような…。

『オオオオォォォンッ!』

 何だかわからないけど、とにかく、危険を感じた。逃げ切れそうも無い。

 止まって、いつでも音の主が現れてもいいようにいつも隠し持っている武器…一対のダガーを両手に構える。仕事によく使う、小さいけれど相手に死を与える、私の一番使い慣れた相棒。

 来るなら来い!

『……』

 音が、突然止まった。空気の振動が止まる。あまりの静けさに、耳が鳴る。


『オオオオオオオオォォォォンンッッ!!』


 来た! 足元一帯が黒く、巨大な影と重なる。

「上っ!」

 その場を飛び退き、同時に短剣が閃く!

 閃く!




 …閃く!


 ……閃く…?


 あれ…閃いて…ない…?


 理由は…短剣を持った私の両手首の先が…黒くって、ザラザラして、びちょびちょしたものの中に、すっぽり納まっていたから!

「…え…え…!? えええ!?」

 手を引っ込めようとしたが抜けない。手は、その黒い物体の中でぬるぬる踊っているようだった。

 き、気持ち悪っ! 何これっ!?

 魔法で吹き飛ばそうとした、その時



「フェンリル、もうよい」



 突然低い声が響いた。


 同時にパチンと指を鳴らす音がして、廊下の形が歪みはじめた。足元がゆらゆらする。もしかして、次元を操っている…!?

 歪みが消えたとき、周りは薄暗い広間に変わっていた。床は大理石のように白くぼうっと光っている。天井も壁も扉もなく周囲に広がるのは、全てを飲み込むような深淵の闇だけ。赤い絨毯が真っ直ぐ続く、一段高くなった玉座。

 そして…玉座には…二本の大きな角を生やした者がいた。

 魔王。

 

 全ては思い出された。







PROFILE


偽名 ナイトメア

性別 女

年齢 半永久の15歳?

特技 暗殺・一言詠唱魔法

職業 傭兵(時々暗殺者)

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