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勇者《アカツキ・シウ》

『パーティーから、出ていってくれアカツキ』

 ガバッと、大きな音を立てながら息を荒らげて起き上がる。そして、状況を認識すると


「最悪な夢を見た……」


 と吐き捨てる。

 目覚めた後も追放されたときの言葉が頭から離れない。

 そんな気持ちをリフレッシュするために立ち上がると向かったのは水源のある泉。顔を洗い、ふと泉を覗き込む。水面に映っていたのは、黒いくせ毛に赤い瞳を持つ少年の顔だった。青年と呼ぶには、まだ幼さの残る顔立ちだ。

 それが自分、アカツキ・シウだった。


『勇者』としてこの世界に転移した俺はもっと上手くやれると思っていた。仲間と一緒に苦渋を共にしながらもなんやかんや魔王を倒し、勇者として祭り上げられる自分。

 だが、蓋を開けてみれば辺境の地で洞窟生活をしている毎日。それに転移者だから文字の読み書きも少しずつ練習をしている。

 言葉に関しては普通に聞こえるどこか日本語と近いところがあるのだろうか。


「……腹減ったな」


 そして今は近くの村でご飯を貰って凌いでいる。泉に向かった足をそのままに村へ歩き出す。


「アッちゃん、おはよう。ご飯だよ」

「ありがとうございます、おじさん」


 村に着くと、宿ムラサメの主人であるおじいさんが迎えてくれた。アカツキも懇意にしてもらっている相手だ。

 おじいさんが、おにぎりを載せたトレイを持って歩いてくる。


「頂きます……はむっ」


 おにぎりを噛むと素朴な味に近くの山から取った岩塩が絶妙に効いている。アカツキも思わず顔を綻ばせてしまう。

 おじいさんはその様子を楽しそうに見て笑っている。


「どうだい?」

「美味しいです!」

「それは良かった」


 食べ終わるとトレイを片付ける。

 そしてアカツキは荷物を持って近くの草原へ向かう。ここ数日の日課だ、食事を提供してもらっている代わりに稲やらをダメにするスライムやゴブリンの討伐を受け持っている。


「ふんっ!」


 ナイフを逆手に持ち、勢いよく走り出す。ゴブリンは驚いたように武器(ウェポン)を持って対抗する。

 だが

 呆気なかった。──ゴブリンを狩ろうとしたらすってんころりんと綺麗に転んでしまったのだ。


「グハッ!」

『……グァー?』

「いっててて……」


 あまりの綺麗さにゴブリンも困惑を隠しきれていなかった。そして今日も負けてしまった。

 そう、ココ最近の日課になっているのはゴブリンをいつまでも倒せないのだ。ゴブリン自体はあまり生息するほうでもない。ここは草原だ、ゴブリン内部にある魔石も大きくない。

 だが、アカツキがそこまでゴブリンを倒せない理由。


「やっぱアンタ弱いわね」

「……うるさいな」


 単純に弱いのだ。そうこうしている内に、隣に立っていたのは村の子供のカテイーナ。気の強い性格でこの村で施しを貰うアカツキに絡んでは毒気を吐いていた。


「やっぱり、アンタが勇者なんて信じられないわ!」

「……へーへー、信じなくたって結構ですよっと」


 立ち上がるとまたゴブリンと向かい合う。ゴブリンはまだ動揺しているようだったが、先の一戦でアカツキが自分より格下だと認定したのだろう。

 次はゴブリンが先んじて武器を振り上げながら走って向かってくる。


『グァーーー!!!!』

「ハァッ!!」


 ゴブリンが武器を振り上げて突っ込んでくる。

 攻撃をパリイしようとする。だがゴブリンに力負けをしてしまい、ナイフの柄の部分が顔面にぶち当たって顔から地面へダイブ。


「グベッ」

「雑魚」


 顔の横にしゃがみ頬ずえをついて冷たく言い放つカテイーナ。流石の二連撃にアカツキのMPにクリティカルでヒットした。


「ま、まだまだ!」


 何回も何回も立ち向かった。

 時には鳥のフンが頭に落ちてきて気を取られているうちに武器で殴り飛ばされ。

 時には単純に武器で殴られたり、また時にはナイフが折れて予備を使う羽目になったり等、負け続けて日も落ちてきた。


「はぁ……はぁ……」


 体力的にもMP的にもラスト一回だった。

 そして、ゴブリンが振り上げながらこちらに走ってきている。


「ハァッ!」


 受け流そうとナイフを構えた、その瞬間だった。手元が狂った。

 ナイフはゴブリンの武器を受けるどころか、あらぬ方向へと飛んでいく。

 ──カツン。

 小さな音がした。次の瞬間、ゴブリンの魔石にひびが入り、砕け散った。


「……え?」

『グァ?』


 俺も、ゴブリンも、何が起きたのか分からなかった。

 惚け顔のまま灰となっていくゴブリン。侮蔑の眼差しを向けていたカテイーナも目を見開いて何が起こったか分からない様子だった。

 そして、一呼吸置いて


「「あははは!!」」


 二人で大爆笑した。

 不仲とか、侮辱とか、余所者とか全てを忘れて笑っていた。


「ちょ、ちょっと何よ今の!あはは!カ、カツンって……!」

「し、しらないってば……ははは……!」


 夕日に染まる草原には、何十分ものあいだ二人の笑い声が響いていたという。

 その後は何事も無かったように帰って行った。少しだけ距離が近かったことを除けばだが。

 アカツキとカテイーナの仲が少しだけ深まった一日である。


「ただいまー!お爺ちゃん!」

「おぉ、帰ったのかカテイーナ。おかえり。それと今日もありがとうねぇアッちゃんも」

「いえ、いつもご飯作ってもらっているのでそのお礼ですよ」


 宿ムラサメの扉を開けると先のおじいさんがアカツキとカテイーナを迎えてくれた。

 会話からもわかる通りカテイーナとおじいさんは血縁関係らしい。初めて聞いたアカツキはそれは似てなさすぎて驚いたのだという。


「今日のご飯何ー?」

「こらこら、少し待ちなさい……それと、暇なら少しは手伝いなさい」

「……はーい」


 渋々といった様子でカテイーナは手伝う。少しだけ心が暖かくなったアカツキ。


「よ、飲んでるかーい?若人よぉ!」

「うわ、酒臭ッ……」

「なあなぁ、カティーナと何があったんだーい?あん子が元気よく帰ってくるとか……いっつも苦虫を噛み潰したような顔だもんなぁ!なぁお前ら!」

「おう!」


 酔っぱらいの村人達に囲まれた。お酒も飲まされそうになったが遠慮した。根掘り葉掘り今日あったことを聞かれたせいでどっと疲れたアカツキ。

 そしてその日はご飯を貰い忙しそうだったので早めに宿を出た。


 ◇◆◇


 アイツは気に入らない。

 そう思っていた、いや今もそう思っている。


「これからよろしくお願いします!」


 と、突然やってきた異物(アカツキ)。そいつはこの村の近くの洞窟で夜を過ごしては昼にここにやって来てご飯を貰う魂胆らしい。


「気に入らない」


 としか思えなかった。

 偽善者ぶって、ご飯の対価としてモンスター退治を勝手出る。そいつは選ばれた勇者という話を聞いたので戦いを覗いて見たら。


 ゴブリンに負け続ける毎日。


 正直幻滅した。元々あった0の好感度がマイナスになった音がした気がしなくもない。

 ゴブリンなんて、子供でも数人で頑張れば倒せる。それなのに、アイツは成人くらいの年齢のくせにへっぴり腰で、負けている。


 私は、なんでこいつが勇者なんだと思った。私が勇者であれば……と何度考えたことか。


 だが、転機が訪れた。またその日もゴブリンに向き合っているとナイフが飛んで行ってゴブリンに突き刺さった。


 思わず、それを見て笑ってしまった。自分でも驚いたが、大笑いをしていたことだけ覚えている。そして、少しだけ考えてしまった。


 この諦めの悪さこそが、勇者に選ばれた理由の一つ……なのかもしれない。

 と、少し認めてあげたりあげ無かったり。


 今後要観察……と


「……っ!」


 ぽたぽたと涙が出て日記の上に落ち文字を濡らす。膝を着いて崩れるようにして泣いていたアカツキ。


 村(・)の(・)跡(・)地(・)が(・)あ(・)っ(・)た(・)荒(・)れ(・)た(・)荒(・)野(・)で一人、家家の残骸が並ぶその場所で、崩れ落ちるようにして日記を読んでいた。

 目の前にはカテイーナの亡骸が横たわっている。


「……アカツキ」


 残っていた村人達が泣き崩れるアカツキの元へ歩いてくる。


「村も……人もこんなになっちまってさ……お前も訳わかんねぇよなぁ」


 村人達は疲弊しきった様子にも関わらず、訳も分からずこうなった村に心を痛めているアカツキに事の詳細を教えてくれた。

 何故こうなったのか、遡ること数時間前。

 アカツキが出た後の宿は賑わいを見せ、カテイーナ達従業員は忙しそうに走っていた。

 その時、黒装束を纏った男たち数名が宿の扉を開けて入ってきた。


「ん?何あの人たち……」


 見慣れぬ格好に皆の視線はそちらに向いたが、直ぐに旅人だと結論付けた。だが、カテイーナだけは警戒していた。


「……お客さん、ご注文──」

「ここら辺で、若い勇者を見なかったか」


 カテイーナは訝しみながらも、その男達の元へ赴き対応しようと口を開くと男の一人がカテイーナの言葉を遮るように質問をした。


「!」

「……その様子、何か知っているな。吐け、勇者はどこにいる」

「……なんで、その勇者を探しているの」


 カテイーナは声を震わせながら男たちに問う。


「……なんでだと?……ふむ、ここは酒がうまいと聞く、酒のつまみにでも話してやろう」


 そして男達はそれぞれ注文を済ませて、品が届くとまるで吟遊詩人のように話し出した。


「我らは、西方教会の人間だ」

「……西方……」


 西方とは、帝国の反対側。西方諸国を取りまとめる大きな国のことだ。その中でも西方教会とは大きな意味合いを持つ。


 帝国が絶対的な勇者を求めている。

 西方は神を崇め、絶対的に信仰している。


 西方とは国交を結んではいるものの、帝国とは思想の違う西方。その西方教会がなぜこんな辺境に……?と警戒心をMAXまで高める。


「勇者とは、神が選んだ至高の存在。それは絶対であるべき者なのだ。」

「だが、その勇者が現れたと動向を探っていると……なんと勇者パーティーから追放された欠陥品だそうじゃないか」


 欠陥品。それがカテイーナの中で反響した気がした。そんなカテイーナの様子も気付かぬ様子で、彼等は話をすすめた。


「パーティーメンバーからも見捨てられた勇者なんぞ存在しているだけでもおこがましい。勇者を殺し、神々にもう一度判決をやり直すように訴えれば勇者は器じゃないと思われる」


 そう男が鼻で笑った瞬間、カテイーナは殴っていた。男の一人が床に転がる。


「何をする無礼者!」

「ふざっけんな!アイツは……たしかに弱くて……ゴブリンにも負けて、パーティーから追い出されたって笑ってたけど……!」


 男達に怒鳴られてもカテイーナは怯まずに言う。そのテーブルの騒ぎに他の客たちもそちらを見る。

 カテイーナはそれでも臆しなかった。


「けど、お前らなんかの外道に殺されるようなやつじゃないんだよ!!」


 その言葉には一瞬の沈黙が流れたが、男達は激昂しカテイーナを突き飛ばす。男達の間に住民も止めに入ったが男達には敵わなかった。

 ある老人が間に入る。

 そう、あのカテイーナのおじいさんだ。


「……孫を、どうか許してやってくれませんか」

「許すわけないだろう!そいつが先に手を出してきたのだ」

「見たところ国のお偉い方とお見受けします……こんな辺境で事を大きくしたくはないでしょう」


 だが、おじいさんがいくら説得しても聞く耳を持たなかった。

 どころか男達はアカツキが村を探してもいないと分かると「逃がした」と言いがかりをつけ、村に火を放った。


「おい、まさか本当に火をつける気か!?」


 誰かが叫んだ。


 男達は答えなかった。ただ、燃え上がる炎を見つめるその姿に、ためらいはなかった。


「みんな、裏から逃げろ!」


 誰かの声を合図に、村人達が一斉に動き出した。

 瞬く間に炎は広がり、住人は逃げようとしたが男達が出入口付近を塞いでいた。


「そこを退けっ!!ゲホッ、ゴホッ」

「退け?退いてくださいだろ」


 先頭の村人は男に怒鳴るが、足蹴にされる。

 男達の存在が決定打となり、逃げることもできず煙で肺が焼かれるように熱く、崩れ落ちた柱や屋根が落ちてきて混乱状態だった。

 そんな中、カテイーナは逃げ遅れながらも同じく逃げ遅れてしまった自分の祖父を家の外に投げる。


(……アカツキ……っ)


 おじいさんは気を失っていた。そして外に出されたおじいさんに気づいて一人の男の村人が担いでくれる。

 宿の板目の間にカテイーナがいることに気づいた。


「おい!カテイーナ!手を取れ!」

「……にげ……て……早く……っ!お爺ちゃんを……!」

「何言ってんだ!お前も爺さんも見捨てる義理はねぇ!そんなの男じゃねぇ!」


 だが、男とカテイーナを挟む屋根がまた崩れ救出は実質不可能な状態となった。


「クッソ、退け!邪魔だぁぁ!」


 男は炎が手を焼きながらも崩れ落ちた屋根を退かそうとするが、無理だった。

 このまま続けるとおじいさんに引火する危険性を考慮しておじいさんを先に安全地帯に逃がすことを決める。


「待ってろ!爺さん置いてきたら助けてやるからな!」


 ◇◆◇


「……それで、戻ってきたら男達も撤収してて……カテイーナも……」


 一部始終を聞いたアカツキは涙が止まる。日記を抱き抱えていた手がギリギリと音を立てて白く力が入る。


 ──なんだ、全部僕のせいじゃないか。 カテイーナが死んだのも、村が焼かれたのも、全部……全部。


「……どうして」


(屑、屑。勇者パーティーを降ろされた時から何も変わっていない。そりゃ、パーティーから出てけって言うよ。勇者として選ばれた日から何も救えていない。あまつさえ、その弱さのあまりに周りさえも危害を及ぼす底辺。どうして僕が生きて、カテイーナが死ぬんだよ。僕みたいなやつよりカテイーナのように他者のために何か成せるやつの方が……カテイーナが死ぬ理由なんてなかったのに、僕なんかを庇ったあまりにどうして……!!」

「そんな事言うなよ」


 心の中で言っていた自身への辛み事が途中で口に出ていたらしい。村人はアカツキの胸ぐらを掴む。


「お前……カテイーナを貶めるんじゃねぇ!アイツはそんな価値のないやつを助けたりしねぇ!アイツが認めたお前を!お前を認めたアイツを馬鹿にすんじゃねぇ!」

「おい!言い過ぎだぞ!冷静になれ!」


 他の村人達が諌めて何とかその場は収まる。胸ぐらを掴んでいた男は手を緩めてアカツキを見ずに。


「……すまん、カッとなった」

「……こちらこそごめんなさい」


 まだ居心地の悪そうな二人の間に割って入る村人達。アカツキに言い聞かせるように言う。


「……すまんな、こいつは昔から義理や人情を大事にしててな。今回の件と重なって積もってたのをお前さんにぶつけてしまったんだろう」

「……いえ」

「───けどな、少しだけ覚えててくれ」


 村人の青年は少し声色を変えて困惑や罪悪感よりも、真面目な声音がアカツキの心に響く。

 アカツキが少し顔を上げて目を合わせる。


「お前さんがどれだけ貶めても自己評価にしかならないんだ、それはお前さんを守る武器かもしれねぇが時には人を傷つける刃物になるかもしれねぇ。人間性っつーのは他の評価だろ?上げてこうぜ。そしたらお前はいつか自負できるような勇者になれるかもしれねぇ」


 青年の言葉を聞いて、少しだけ心の中でハマったものがあった。それがなにか言語化なんて出来ないけど。

 気づけば走り出していた。荷物もなんもかんも置いて、日記を握りしめて山の中を走った。まるであの時のように。


 だが、その時転けてしまう。


 立ち上がろうともアドレナリンが切れたようにピタリと動けなくなってしまった。いつの間にか空腹にもなっている。

 知らぬ間に走り続けていたのだアカツキは。


 ……まあ、いいか


 そして気絶するように寝た。その顔はどこかスッキリ憑き物が落ちたような顔だった。

 気絶したアカツキに二つの影が落ちる。


「──……を?……です……?」

「───さ、……だろ?……任……さ」


……だ、れ……

良ければコメントフォローお願いします!ドリコム大賞5に出す作品なので、本気で書いていきます!

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