雨宿り、恋やどり。
春の雨は
涙よりもやさしく
私たちを包み
笑うよりも静かに
黒い髪を濡らしていく
まだ冷たい風に
そっと背中を押されて
大きな木の傘に駆け込む
びっしょりの肩と肩が
軽く触れて
少しだけ距離を取った
桜の香りが
雨雫に混ざって揺れている
隣のあなたは
すんと匂いを嗅いで
柔らかな笑みを浮かべた
呼吸をする音
それに合わせて擦れる衣服
艶やかな黒髪
まばたきする音すら
聞こえてしまいそうなほどに
近い近い距離
なんだかくすぐったい
「雨、止みませんね」
あなたのことばは
まだ咲かぬ蕾
胸の奥の奥で
ゆっくりと膨らんでいく
「そうですね。
夜まで、続くでしょうか」
葉に落ちて
ぽたぽたと聞こえる音は
不思議と心地いい
隣のあなたは
静かに雨を見つめている
何処か遠くで
歌詠鳥の声がした
長い鳴き声は
まるで私を応援してくれているような
そんな気がした
「……明日は、晴れるでしょうか」
春を告げるように
この恋を伝えるように
まっすぐ
空まで伸びる鳴き声
「ええ。
きっと雲ひとつない快晴で、
夜の月はとても綺麗でしょう」
あなたの声は
春の雫のように
心の真ん中に落ちていく
大きな木の傘の下
触れそうで触れない距離のまま
止まない雨も
たまにはいいかな
「もし明日晴れたら──
一緒に桜を見に行きませんか」
あなたからのお誘いは
春の雨よりも
やさしく私を抱きしめて
「……ええ、ぜひ」
ご覧いただきありがとうございました。
雨宿り、恋やどり、鳴くは歌詠鳥。
誰かに届きますように。




