7 屋敷でほのぼの
それからリースと、他愛もない話をした。
頂いたクッキーと紅茶も日本で食べてたようなものと同じで安心できた。食生活が地球と似ているのだろうか?
その流れで、この世界の貨幣についても教えてもらう。
「大白金貨一枚で、100万ゼルなのか。安い家なら買えるくらいの額だな」
思わず声が出た。
金貨が1万ゼル、小金貨で1000ゼル。銀貨や銅貨も細かく分かれていて、感覚としては随分と日本の貨幣価値に近い。
「じゃあ、その大白金貨でも足りない買い物はどうするんだ?」
そう聞くと、リースは丁寧に教えてくれた。
「身分証を使って直接送金するようになりますね。これは売り手と買い手、双方の同意があれば例え少額の買い物でも現金は不要なんです」
続けて説明してくれる。
「ただし身分証決済を行うときは決済金額の5%分多く支払いする必要がありまして、自動で決済されるようになるので計算はいらないようになってるんです。そのうちの4%は国への資金となり、1%はギルドの活動資金になりますね!」
キャッシュレス、という言葉が頭をよぎる。
まさか異世界でこの単語を思い出すとは思わなかった。そして消費税もあるのか。消費税払いたくなければ現金で支払えと言うことかな?
そして盗まれたり落とした場合どうなるんだろう。そのあたりのセキュリティーガバガバじゃないか?
「ちなみに身分証を落としたり盗まれた場合はどうなる?身分証決済使われる恐れはあるのか?」
「盗難対策として身分証決済するときは魔力照合が必須なので、本人以外は絶対に使えないようになってます。ギルドで登録するときに魔力鑑定をするのですぐわかるとおもいます!」
その後詳しく聞くと、魔法が使えない人間でも魔力そのものは持っているらしい。
つまり、誰でも使えるということだ。
「便利だな」
思わず呟くと、リースは少しだけ得意げに笑った。
「そろそろ食事の時間になりますので食堂に行きましょう」
二人は応接室を後にした
・・・
食堂に着くと、既に様々な料理が並んでいる。
どれを見ても本当に美味しそうなものばかりだ。
食については日本と文化の違いがあるかもしれないと覚悟していたが杞憂に終わってよかった。
「さ、ユズルさんはこちらの席にどうぞ!」
案内されたのはリースの正面の席だった。先程のハプニングもあり少々気恥ずかしいが悪い気はしなかった。
するとフランさんも食堂に来てこのまま3人で食事をすることに。
「あれ、レイシアさんはこちらで食事はされないのですか?」
メイドのレイシアさんがいない状態で食事を始めることとなったのでフランさんに聞いてみることにした。
「レイシアちゃん?一緒に食べよ~って何度も声はかけてるんだけどね。『私はお世話係ですから、皆さんがお済みになってからで十分です』って、にこにこしながら下がっちゃうのよ~」
「仕事熱心な方なんですね。だからこそみなさんがレイシアさんを慕ってるんだなっていうのも感じて素敵な関係だと思います」
思ったことをそのまま口にした。庭でのリースとのやり取りみてたり、フランさんのこの言葉を聞いたりしてる限り本当に良好な関係なんだなとこちらまでほっこりしてしまう。
「私の方からもお食事に誘っているのですが同じように仕事を優先してしまうので・・」
メイドさんにはメイドさんにしか無い仕事もあるだろうし、一緒に食事していて何かを取りに行ったりしたときにホコリが舞ったりすることをきにしているのだろう。プロというものを考えさせられるな。
とここでフランさんが口を開く。
「ところでリースちゃん、ユズルさんと先程お手々繋いでたのって本当なのかしら」
フランさんが凄くニコニコしながら聞いてくる。やましい気持ちは無いがやはり小っ恥ずかしくなる。
「確かに繋いでましたが、私は私の行いに恥じるようなことをしたとは思っておりません。困ってる人がいたら助けたい、悲しんでる人がいたら慰めたい。命の恩人にそういった考え持つことは邪道なのでしょうか?」
あまりにも予想外な返事がリースから出て驚いたと同時に、リースをからかおうと聞いただけのフランさんも拍子抜けしている。
その刹那、フランさんの顔が険しくなる。
「命の恩人?テストのときに何があったのか説明してちょうだい。護衛を雇っていたはずだし、あの森に凶悪な魔物はいないはずよ」
リースは淡々と答えた。王都へ帰宅中にゴブリンの群れが出てきたこと、そのタイミングで護衛が全員逃げたこと、襲われそうになった時ユズルが助けに来てくれたこと、ユズルはこの世界の常識に疎いこと諸々全部。
「リースちゃんが無事で本当に良かった。ユズルさん、リースを助けていただいて本当にありがとうございました」
恐怖なのか、焦りなのか、不安なのか。フランさんの表情はとても複雑なものとなっていた。
「リース、ちょっと急用を思い出しました。一緒に食事出来なくてごめんなさい」
そう言いフランさんは急いで食堂を後にした。恐らく護衛が逃げたことやそのあたりについての話し合いを父親とするのだろう。
リースは『やれやれ』といった表情で食事を再開する。
さっきの手を繋いでいたことに対する回答についてリースに聞いてみることにした。
「てっきりフランさんはからかうような感じで手を繋いでた事について聞いてきたと思ったからあのような返事が返ってきたことにびっくりしたよ。聞かれたらあの回答しようと考えてたのか?」
「いえ、あれは紛れもなく私の本心です。ユズルさんに命を救ってもらい、怖い思いから解放もしてくださいました。そんなユズルさんが困ってることを知ってしまったので、私もあの時抱きしめてくださった時のようにはいかずとも、人の体に触れることで安心してほしい、ユズルさんの居場所になってほしい……そういう思いを込めての握手です。この行為が恥じるべき行動だという教えなのでしたら私はアルベルトの名を捨てるつもりでいました」
子どもとは思えない返答が返ってきた。ユズルは照れ隠ししつつ『そっか、ありがとう』と一言お礼を言い食事を終えた。
「ユズルさん、お風呂入られますよね?」
そう言われて、ユズルは一瞬だけ思考が止まった。お風呂がある?この世界にもお風呂があるのか!?
二つ返事で『入りたい』と伝えたところ、近くで控えていたレイシアが一歩前に出た。
「では、私がご案内いたします」
淡々とした口調だったが、その言葉に余計な含みはない。
ユズルは礼を言い、レイシアの後に続いた。リースも『いってらっしゃい』と笑顔で送り出してくれた。
(今日は、色々ありすぎたな)
そう思いながら、ユズルは静かに歩を進めた。
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次回投稿日は2月6日18時半になります




