6 嵐の到来
俺はリースに連れられて屋敷の中に同行する。屋敷に入るとリースの父親らしき人物の自画像、ピカピカな状態を維持している謎の甲冑、そして何より玄関を開けてすぐ正面には二階に上がるための大きな階段。想像していた通りの貴族の屋敷そのものだ。
あまりキョロキョロするのははしたないということは分かっているが……どうしたものか。とても気になってしまう。
「レイシア、後で応接室にお菓子とお茶をお願いね」
『畏まりました、リースお嬢様』と一言発し、レイシアは一礼して応じた。
「ユズル様。パン菓子と焼き菓子がございますが、お好みはございますでしょうか。甘すぎるものは苦手、などもございましたらお申し付けくださいませ」
「全部レイシアさんにおまかせします。特に苦手なものも無いので何でも大丈夫です」
「では後ほどお部屋へお持ち致します」
レイシアは別の方向へ歩き出し、俺はリースの後ろをついていく。
そういえばこちらの世界に来てから何かを食すのが初めてだ。
どういった物が出てくるのだろうか? 単純に考えればパン菓子はケーキ、焼き菓子はクッキーあたりだろうか。
長い廊下を歩いていると突如静寂が終わる。
「リースちゃんおかえりなさーい! テストお疲れ様! あら、そちらに居るのはどなたかしら? まさかもうボーイフレンド見つけてきたのね!?」
なにやらすごく愉快な方が出てきた。見た目は25歳くらいだろうか。
リースにお姉さんが居るのはしらなかったな……なんて考えていた俺は、次の瞬間に自分の認識を叩き壊されることになる。
「はじめまして、俺はユズルです。リースさんのお友達です」
軽く自己紹介だけするとリースが慌てて声をあげる。
「お母様ちょっとうるさいです。もう少し丁寧な振る舞いをしてください。ユズルさんに迷惑ですよ」
「え、お母様!?」
「ウフフ。はじめまして、リースちゃんの母親のフラン・アルベルトです。リースちゃんにはよくお世話になってるのかな? 実家だと思ってゆっくりしていってねー♪」
いやいやいやいや、どう見てもお母さんって見た目じゃねえぞ。
これはあれか。今流行りの美魔女というやつか? 実は本当は40超えて――
「あら、何か失礼なこと考えてらっしゃる?」
背筋が凍る。フランさんは笑ってるはずなのに全然笑っているように見えない。蛇に睨まれた蛙とはまさにこのことか。
「いえ、フランさんがあまりにも若い見た目していたので、てっきりリースのお姉さんかと思いまして。お母様であることを聞いて非常に驚いてました」
「ユズルさん……だったかしら。素敵な方ですね。いつ頃リースと結婚していただけるのかしら?」
「お母様!!もうわかりましたからあっち行っててください!!」
リースが慌てて両手をバタバタさせ、フランさんの暴走を止めようとする。
その姿を見て微笑ましいなと思いながらもこの親にしてこの子ありだな というのを感じた。
『このまま行くと本当にここが実家になるかもね~♪』と小声で言いながらフランさんはスキップして何処かに行ってしまった。いや、妄想するのはいいけどせめて聞こえないところで言ってほしい。
嵐のような人だったな。寡黙な人よりはありがたいけどね。
「どうぞ、こちらが応接室なのでゆっくりソファでくつろいでくださいね」
「ありがとう。リースのお母さんってなんというかすごい人だったな」
「自慢のお母様なのですが、少々元気が有りすぎるといいますか、騒がしいといいますか、鬱陶しいといいますか、煩いといいますか……」
続けてリースが喋りだす。
「あ、そういえばユズルさんってどの街から来たのでしょうか? トラックさんを見たこともなければ、過去に見たアーティファクトの文献に似たようなものがなかった記憶もあるので不思議で……」
うーん、日本から来た と言ってしまっても大丈夫なんだろうか?
ここは一旦言葉を濁しておこう。
「名前もないような小さい村だよ。それこそ地図にも載ってないと思う。凄く遠いところなんだ」
ユズルは転生のことを伏せて説明することにした。リースがユズルの目をしっかりと見て返事に応える。
「非常に長い旅をされていたのですね……。私で良ければなんでもお手伝いはさせていただきますので、困ったことがあったら気軽に言ってくださいね!」
リースがユズルの両手をそっと包み込むように握った。
人の温もりに触れたのはいつぶりだろうか。帰宅しても誰もいない暗い部屋。冷え切ったコンビニ弁当をレンジで温めるだけの味気ない生活。
そんな日々を過ごしてきた俺にとって、リースの手のひらは火傷しそうなほど熱く、そして心地よかった。
すると『コンッコンッコンッ』と扉を叩く控えめな音がした。
ユズルが視線を向けるより早く『失礼致します』と声がかかり、レイシアが入室してくる。
「リースお嬢様、ユズル様、お茶菓子と紅茶を……」
レイシアの目には手を握るリースと落ち着いた表情を見せるユズルの姿が。
「あらあら」
レイシアの言葉の意味に気が付き、ユズルはすぐに手を離した。少し気まずく、そして妙に甘酸っぱい空気が部屋中を漂う。
おいメイド。やめろ、変な勘違いするな。ニヤニヤするな。手で顔を隠しても口角上がってるのバレてんぞ。
「えっと、紅茶と焼き菓子になります。出来立てで温かいのでぜひお召し上がりくださいませ」
レイシアはそそくさと部屋を抜け、小走りで何処かに行くような足音が聞こえた。
遠くから『フラン様ー!!』というやけに楽しそうな声が聞こえた気がしたが気の所為であってほしい。
「なんか色々と本当にすみません⋯そういえばユズルさんはこれから王都で何をなさる予定なのでしょうか?」
流石リース。空気が読める子は大好きだ。
「一旦ギルドに行って冒険者登録をしようと思ってる。だがもう夕方だからギルドに集まる冒険者の数も多そうだし明日向かうことにするよ」
「そうなのですね、では本日はここでのんびりしていてくださいね」
なんとか楽しく異世界を過ごすことが出来そうだ。
読了いただきありがとうございます。
次回投稿日は2月3日18時半になります




