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26 誓約

 ルカを連れて館へ戻る。

 なんとしてでも救いたいが、フランさんやディッツさんは彼女のことを許してくれるだろうか……


「ルカ、信頼してるから絶対やることはないって分かってるが、念の為に命令させてくれ。今から出会うアルベルト家の方々や、給仕の方たちには一切危害を与えないでくれ」

「大丈夫だよ、それを言うことでキミが安心できるならなんでも言っておくれ」


 そのままアルベルト家の門前まで来てしまった。

 ここまで来たら腹をくくるしか無い。意を決して館へと入る。

 

「おかえりなさいませ、ユズル様。そちらの方は……お客様でしょうか?」


 レイシアが迎えてくれる。なるべく事を大きくしたくないので経緯などは一旦話さないようにしよう。


「俺の仲間のルカだ。彼女のことで話ししたいことがあるんだが、フランさんかディッツさんは今いるかな?」

「旦那様でしたら商会本部にいらっしゃるのですぐのご面会は厳しいですが、奥方様でしたら只今在宅しておりますのでご案内しますね」


 俺とルカはレイシアさんについていく。

 やけに静かな廊下に3人の足音が響く。ルカの方を見ると、不安からかずっと斜め下を見ている。

 耳も尻尾も完全に垂れてしまっている……


 以前リースと一緒に来たフランさんの執務室前のドアまで来た。

 レイシアさんがノックを三度行い入室する。それと一緒に俺とルカも入室する。


「あら、ユズルさんいらっしゃい。そちらにいるかたは……はじめましての方ね。」

「レイシアさんありがとう。ちょっと大事な話をするから席を外してもらってもいいですか?」

「畏まりました。また御用があればいつでもお呼びください」


 フランさんがただならない気配を察したのか、緊張した空気を出し始める。

 自分が今からやる行為は本当にアルベルト家から追放されてもおかしくない行為。

 嫌な汗がでてくる。言葉一つ出そうにも、詰まりそうになる。

 

「それで、ユズルさんお話というのは一体?」

「まず先に、彼女は現在俺の奴隷になっています。事前にアルベルト家の方に危害を与えるなと命令しているため、絶対に危害が及ばないことを先に保証致します。もし不安でしたら改めて命令を行います」


 俺は身分証をフランさんに提示する。

 身分証には「所有奴隷:ルカ(猫人族)」の文字が書かれている。


「奴隷とはなかなか大きな話ね。ただ、ユズルさんを信用していないわけでは無いんだけどちょっとテストさせてちょうだい。」

「テスト……ですか?」


 フランさんが立ち上がりこちらに近づいてくる。

 

「ルカさん。まず貴方の身分証を見せてもらっても良いかしら?」

「うん、疑いを晴らしてくれるなら何でもやるよ」


 身分証をしっかりと確認するフランさん。その後更に一言


「この身分証が本物かどうか、確認したいの。私が貴方に身分証決済で500ゼル渡すので受け取ってほしい」


 そういうとルカは身分証をフランさんの身分証に近づける。

 お互いの身分証がうっすらと光り、2人がなにやら小さく話ししている。話し声が終わったあと、徐々に身分証から光が消えてゆく。


「ルカさん本人のようね。最近ある出来事があったから見ず知らずの方には強く疑いをかけるところから入ってるから許してね」


 リースの護衛が逃げた出来事のことだろう。

 慎重すぎるくらいがちょうどいいのかもしれない。


 フランさんが「ふぅー」と言いながら自分の席に戻る。

  

「わかりました。レイシアを席から外したということはとても大事な話なのでしょう。お聞きします」

「ありがとうございます。彼女は……」


 彼女と出会ってからのことを全て話した。

 両親に売られて奴隷に落ちたこと、リース殺害が失敗に終わったことを恨んだヴォルフがルカを購入したこと、首に爆弾をつけられていたこと、俺を殺そうとしてきたこと、爆弾は俺の能力で回収出来たので心配がなくなったこと全てだ。


「……と話した通り、彼女は被害者とはいえ元ネイマール商会の人間だったものです。しかし話を聞く限り、俺は彼女を救いたいと思ってしまった。数日とはいえ、ネイマール商会の動きを見ていたので彼女の知ることは何でも提供します。ですので、どうかルカを、今回の件を見逃してやってはもらえないでしょうか?」


 今までに感じたことのない重い沈黙が流れる。

 フランさんは「やれやれ」といった表情でこちらに話しかけてくる。


「ユズルさん。私たちアルベルト家の人間からしたら貴方はもう私の家族のような人なの。家族が殺されそうになったと聞いて流石に怒らざるをえられない。ただ、あなたはルカさんが衛兵に連れて行かれてもおかしくない、そのリスクを負ってまでして私に、そしてアルベルト家に説明しようとしてくれました。

 本当なら黙っていれば私はルカさんの事を知らずにユズルさんのパーティ仲間だと判断出来てた。でもそれだとルカさんに遺恨がのこる。ユズルさんにも『私たちに嘘をついている』という負い目を感じてしまう。だったら奴隷にしてでも無理矢理この遺恨をなくそうとしてるのね。」


……図星だ。本来なら俺が納得しているのだから説明する責任はない。

 だがそれだとルカもそうだし、俺もそうだ。お世話になっているアルベルト家に嘘をつき続けることになってしまう。

 フランさんの推論というか、観察眼というか。

 本当に恐ろしいものを感じる。


「私が許す条件は3つあります。まず1つ。ユズルさんは彼女の奴隷を解消させないこと」


 もちろんだ。アルベルト家の方から許可を頂ける日が来るまでは絶対に奴隷にし続ける。

 ルカには申し訳ないが、我慢してもらおう。


「2つ目は……?」

 

 フランさんが何かを書き始める。

 書き終えた紙をフランさんから譲り受け、俺は全てを理解する。


「ここに書かれている文字を、ルカさんに今ここで命令してほしいの」


……流石フランさんだ。どんなイレギュラーが起きたとしても対応できるように、完璧な条文が用意されている。

 俺はフランさんの指示に従い、紙に書かれた誓約文をルカに読み上げた。


「いいか、よく聞いてくれ。これは俺とお前の『絶対の約束』だ」


 俺は一呼吸置き、紙の文字を追う。


「第一に。アルベルト家やアルベルト家に従事している者、およびその商会に関わる全ての人間への加害を禁ずる。これはいかなる理由があろうとも、たとえ主である俺が『攻撃命令』や『本命令の解除』を出したとしても、決して覆ることはない絶対の禁止事項とする」


 ルカが真剣な眼差しで頷くのを確認し、次を読み上げる。


「第二に。例外として『フラン・アルベルト、ディッツ・アルベルト、リース・アルベルト』のいずれかの許可がある場合。もしくは、ルカ自身の命に危険が及ぶ『正当防衛』の局面に限り、アルベルト家に従事しているものや商会に関わる人物への一時的に力の行使を認める。……ただし、その場合であっても『殺生』は禁ずるものとする」


 そこまで読み上げ、俺は紙から目を離してルカを見据えた。


「――それ以外の行動に関しては、全て主である俺、ユズルに一任すること。……以上だ」


「はい。必ず守ります」


 ルカの迷いのない返事を聞き届け、フランさんが口を開く。


「契約成立ね。……それじゃあ最後。いまユズルさんに渡した紙の一番下に名前を書く欄があるから、ルカさんそこにサインをお願い」


 紙をよく見ると一番下に線が書かれているのが見える。


「これはね、『神の誓約書』というマジックアイテムで、ここに書かれていることを破られると一番下に書かれた名前の人物が声を出せなくなり、耳も聞こえなくなるし嗅覚も無くなるという呪いがかかるの」

「そして一番上に私の名前がかかれているでしょう? この一番上に書かれている人物に許しを得られなければ一生そのままになります。少々重たいとは思いますが、ご了承いただけますか?」


 え、なにそれ奴隷にした意味ないじゃないか!?

 実質的に奴隷として扱える魔道具ということだよな……いや、でもあらかじめ奴隷にしていたからこそ話を聞いてくれた可能性もあるんだ。プラスに考えよう。


 ルカが名前を書き終えたようで、フランさんに返却する。


「はい、確かに受け取りました。主人にも話しておきますが、ここまでしているから多分大丈夫じゃないかしら。そもそも被害者のユズルさんが許してるんですから」

「すみません我儘言ってしまって。ルカを許していただいて、本当にありがとうございます……」

「いいのいいの。リースに正直に話すか話さないかはユズルさんに任せるわ」

「わかりました。お忙しい中時間取って頂きありがとうございました」


 フランさんがニコニコしながら手を振ってくれる。

 今まではのほほんと、ぽけぽけ~とした感じの方だと思ってたけど、思考回路の速さ、対応の柔軟さ……そういった仕事面での彼女の内面の手際に驚かされるばかりだ。


「とりあえず許してくれそうでよかったな、ルカ」

「ん。キミがあそこまで必死になってお願いしてくれたからだよ。ありがとう」


 二人で館の玄関に向かって歩く。

 ふと横を見ると、先程までずっと垂れ下がっていたルカの尻尾がゆらゆらと揺れており、落ち着いてきた事に安堵した。

読了いただきありがとうございます。

本編投稿は毎週月水金の3日、閑話投稿日は前話の翌日投稿となります。

詳しい投稿日時については活動報告書を参照ください。


投稿時間については全編一括18時半となります

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