3 雨降って地固まる
2 はじめての異世界と出会い にて、「ユズルがトラックの鍵を開ける描写」を一部変更と、トラック収納術では生物を収納出来ない旨の記載漏れがあったため追加しました。
さて、なんと説明したことか。
「大丈夫、あれは俺の……うーん、なんて言えばいいだろう。俺の召喚獣みたいなものだ。つまり味方だな」
「え、味方……?あんなに大きい召喚獣を従えてるんですか!?すごいですね!!」
少女の表情は不安そうな顔から安堵した表情へと変わったと同時に怪訝な顔でこちらを見てくる。
「あ、あのー。もし宜しければもう一度召喚獣さんを見せてもらうことってできるのでしょうか?」
召喚することによって野生のモンスターではなく、本当に安心できる召喚獣かどうかを確認したいようだ。
俺は召喚するから驚くなよと一言言ってトラックを召喚する。トラックは「ドスン」と音を立て少女の目の前に現れる。少女はその事に少し驚き尻もちをついたが見なかったことにする。
「っと。とても大きいですね。しかしなぜでしょう、全く動く気配がありませんわね」
「召喚獣みたいなもの と言った通りだ。例えるならこれは自分で操縦する超大型の馬車といったところだね。ちょっと動かすから少し離れててくれ」
ユズルはそういって少女に使っていた布団をトラックに入れる。
少女は期待を胸にふくらませ、鉄の巨獣を見上げていた。あれほどの威容だ。きっと勇壮な咆哮を放つに違いない。
「ガチャンッ ギュルルル……」
突然聞いたことのない音が耳を駆け抜ける。細かい地響きを感じる。
次の瞬間、巨獣の腹の奥から、間の抜けた声が響いた。
『ピー。ピー。バックします。ご注意ください』
突如、腹の底に響く感情のない声が響き渡る。意味の分からない言葉。
生き物とは思えない冷たい声。
彼女は短い悲鳴を上げ、その場で飛び跳ねた。
(ち、違う……!)
(これは召喚獣の……声?)
理解できない言語は、彼女の想像を一瞬で最悪の方向へと押し流す。
さっきまで感じていた安心感は霧散し、再び胸を締め付けるのはあの時と同じ恐怖だった。少女は、無意識に一歩、トラックから距離を取っていた。
(怖い……このままでは殺されてしまう……)
(お願い……動いて。今動かないと私は死んでしまう…………なんで私の体動いてくれないの!!ねぇ!!!)
少女はトラック、もといユズルから逃げようとしたが恐怖のあまりに体が竦んでしまう。何も出来なく、体を小さくしていると突然地響きが止まった。
「あれ、お前何やってるんだ?腹でも壊したか?」
ユズルは小さくなった少女のもとに近づく。しかし彼女は一向に動こうとしない。
(怯えている……?これは俺に対してか?それともトラックに対してか?)
ユズルは少女を一度落ち着かせようとする。
「あ、悪い。近づきすぎたな。とって食おうなんてしないから安心してくれ」
ユズルはそう言い彼女から1歩離れた。
「怖い思いさせちまったみたいだな。悪かった」
「もう大丈夫だ。襲わないし終わった。怖くない、大丈夫……」
少女はまだ耳を塞いだままだったが、先ほどまで全身を支配していた激しい震えがいつの間にか細かなものに変わっていることに気づいた。
彼はそれ以上近づいてこない。
彼の声もさっきの得体の知れないものとは違い、人の温度があった。
「……あの声は……なに……?」
少女に怖い思いをさせないよう言葉を選びながら説明をする。
「あれはこの召喚獣が後ろ向きで動いてるから気をつけろ、近くにいる人は離れてくれ ということを言ってるんだ。俺の昔住んでた所の言葉だから通じなかったんだと思う。怖い思いさせてすまなかった」
「私は襲われなくて済むの……?殺されたりしない?」
「あぁ、心配するな。もしあの音もう出してほしくないなら出さないように気をつけるし、俺はお前の味方だ」
少女の目には、恐怖から解放された反動なのか大粒の涙が溜まっていた。
それが一つ、また一つと頬を伝い落ちる。
「……っ、……ぅ……」
声を押し殺そうとしたのだろうが、喉の奥で掠れた音が漏れてしまう。
肩が小さく震え、必死に耐えていた感情がとうとう限界を迎えたようだった。
ユズルは一瞬、どうするべきか迷った。
初対面だ。相手は年下の名も知らぬ少女で、さっきまで恐怖に縛られていた。だがこのまま放っておくのも違う気がした。
「……大丈夫だ」
そう短く告げてから、ゆっくりと一歩だけ近づく。
拒まれないことを確かめるように、そっと腕を回し包み込む。抱きしめるというより、風から守るような形だった。
力は込めず、逃げようと思えばいつでも離れられる距離。
「もう平気だ。ここには俺がいる」
ユズルは少女の背中を、一定のリズムで軽く叩いた。
ポン、ポン、と子どもをあやすように……
すると少女は、堪えていたものが切れたようにえぐっ、と小さくしゃくり上げた。
・・・
5分ほど経っただろうか、少女は目を真っ赤にしているが涙は止まったようだ。
「大丈夫か、もう安心していいぞ」
「お見苦しいところお見せして申し訳ございません。えっと…」
「スドウユズルだ。気楽にユズルと呼んでくれたら嬉しい」
「ユズルさんですね!私はリース・アルベルト。アルベルト商会の会長を父に持つ者です。どうかリースとお呼びください」
驚いた。身なりは普通の少女と変わらないような服装だったので迷い子とかと勘違いをしていた。
確かに喋り方は非常に丁寧な物言いだとは思っていたが、俗に言う貴族の娘さんということだろうか。
「王都へ帰る途中だったのですがゴブリンの群れに遭遇してしまって……護衛も雇ってはいたのですが逃げられて困っていたのです」
「なるほど、なら俺が王都まで送るよ。馬車の荷物もそのままだろ、召喚獣は荷物を運ぶための道具として作られたから馬車の荷物も全て運べるんだ。ここで会ったのも何かの縁だ、ぜひ手伝わせてくれ」
「ありがとうございます!荷物はそこまで多くはないのですが、手で持ち運ぶとなると少々つらい量にはなってしまうので非常に助かります」
俺はリースとともに馬車の元へと向かった
読了いただきありがとうございます。
次回投稿は1月25日18時半になります!
1月25日 1:00 少女がトラックに怯える描写を一部変更致しました




