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25 刺客

 スライムの群生地。俺は黙々と作業をこなしていた。荷物噴射を使えば一瞬だが、それでは俺自身が成長しない。

 一匹、また一匹。スライムの核を突き、確実に数を減らしていく。


――ヒュンッ!!


 突如、鼓膜を裂くような風切り音が鳴った。

 反射的に足を止めた俺のつま先、わずか数センチの地面に、鋭利なクナイが突き刺さる。


「……ッ!?」


 俺が放ったものではない。誰かからの明確な殺意だ。

 背筋が凍るような悪寒。俺は周囲を見渡すが、広がるのは風に揺れる草原のみ。

 いや、違う。風の動きとは違う、不自然な「揺らぎ」が1本の木の陰に見えた。


「おい、木の陰に隠れてるお前! 出てこい!」


 俺の叫びに応えるように、その影がゆらりと動いた。現れたのは、漆黒のローブを纏った小柄な影。

 フードから覗くのは獣の耳と、揺れる尻尾。猫人族の女性だ。

 だが、その愛らしい容姿に反して彼女の首には不釣り合いなほど無骨な「鉄の首輪」が嵌められていた。


「いやだなぁ、ユズルくん。そんなに殺気立たないでよ。キミ、優しい顔してるのに――さッッ!!」


 会話の途中、彼女の手首がブレた。思考より早く体が動く。

 横に飛び退いた瞬間、俺が先ほどまで居た空間を3本のクナイが切り裂いた。


 速い……! スライム相手とは次元が違う!


「避けるねぇ。でも、いつまで保つかな?」


 彼女が地面を蹴る。疾風のような速度で、一気に距離を詰めてきた。 逃げられない。このままでは確実に殺される。

 考えろ、今の俺にできる対抗手段は――!


(トラック召喚!!!)


 俺と彼女の間に、巨大な鉄の塊――トラックが現れる。

 突然出現した壁に彼女は驚愕し、急ブレーキをかけてたじろいだ。


「なっ、何だいこれは!?」

「ただの鉄の箱だよ! ……そこだッ!」


 彼女が動揺した今が好機。 俺はトラックに向けて意識を集中させる。

 できるかわからないがやるしか無い。イメージするのは、あのケーブルだ。


(行けッ! HDMIケーブル!!)


 トラックから黒い線が蛇のように飛び出した。


「なっ――!?」


 彼女が反応して飛び退こうとする。だがもう遅い。

 HDMIケーブル特有のコネクタ部分の重量。それが遠心力を生み出し、予測不可能な軌道を描いて彼女の手足へと絡みつく!

 そのケーブルは彼女の自由を瞬時に奪い、その体を地面へと縫い留めた。


「ぐっ……!? なんだいこの黒い紐は……!」

「映像を美しく伝えるためのケーブルだが、拘束用にも使えるようだな」


 俺はすぐさまロープを取り出し、動けない彼女を完全に縛り上げた。荒い息を吐きながら、彼女を見下ろす。勝った。


……いや、まだだ。

 ここは異世界だ。手足は封じても口は封じられてない。無詠唱で魔法を放つことができるかもしれない。油断はするな。

 

「まいったよ、ボクの負けだ……。キミ、変な術を使うんだね」

「何が目的だ。なぜ俺を殺そうとする?」


 俺の問いに、彼女は悟りを開いたような笑みを浮かべた。

 その視線は、自分の首にある無骨な首輪に向けられている。


「ボクは飼い猫として命令されただけさ。この首にある魔石が見えるだろう?これ、遠隔起爆式の爆弾なんだ」


――爆弾だと?


「主人はヴォルフ。ネイマール商会のトップさ。リース暗殺失敗の原因がキミにあると突き止めて、ボクを差し向けた。……でも、失敗しちゃったからね。ボクはもう用済みだ」


 彼女の声には、生への執着が感じられなかった。死を受け入れている。

 いや、抵抗することすら諦めさせられている、奴隷の目だ。


「お前は……死にたいのか?」

「死にたくなんてないさ! 親の借金で売られて、こんな事するために生まれてきたわけじゃない! ……でも、もう無理なんだよ。今夜にはボクの首は飛ぶ」


 彼女の目から涙が溢れる。またネイマール商会か。あいつらは、どこまで腐っていれば気が済むんだ。


 今俺は1人の人間としてこいつを救いたいと思ってしまった。

 リースに話せば怒られるだろうか。褒めてくれるだろうか……

 

「俺の言うことを聞くなら、その爆弾……外せるかもしれないぞ」

「え……?」

「一か八かの賭けだ。だが、このまま死を待つよりはマシだろ?」


 俺はトラックの後部ドアを開け放つ。


「ここに入れ。これは生物は収納できない収納魔法がある。前試しに俺が入ったら装備や服などが全て収納されたことがあってな。……つまり、お前がここに入れば、その首輪が『装備』として外れ、アイテムとして収納される可能性がある」

「……わかった。どうせ死ぬ命だ、キミに預けるよ」


 彼女は震える足で、トラックの荷台へと乗り込んだ。


 ……静寂。 爆発音はしない。


「……おい、どうだ? 生きているか?」


 恐る恐る声をかけると、中から「ひゃうっ!?」という間の抜けた声が聞こえた。

――そこには、首輪がなくなり、服まで脱げてしゃがみ込んだ彼女の姿があった。

 そうだ、さっき説明したばかりじゃないか。『全て』収納されると。

 急いでトラックのない方向に視界を動かし、謝罪をする。

 

「おっと、すまない。心配になってつい一瞬見てしまった。爆弾、無事取れたんだな」

「う……うん、爆弾……なくなったよ……」


 背中越しに、鼻をすする音と、押し殺したような啜り泣きが聞こえてきた。

 自由になった自分の首元を、信じられないという様子で何度も確かめているのだろう。


 俺は安堵のため息をつくと、彼女に見えないようにそっと冷や汗を拭った。

 ついでに彼女の装備品や服等を荷台の入口に配置させ、彼女が落ち着くのを待つことにする。



 暫くたった後、彼女がこちらへとくる。


「恥ずかしい所みせちゃったね。どうしてキミはボクを助けてくれたんだい? 少なからずとも、ボクはキミを本気で殺そうとしたんだよ?」

「どうして助けたか? お前が『助けてほしい』という表情をしていたからだ。それ以上でもそれ以下でもない。困ってる人が居たら助けるのが当たり前だからな」


 そうだ。日本では困ってる人が居たら助けなさい。情けは人のためならずという言葉があるように、誰かを助ければ巡り巡って自分を助けてくれる人が現れるんだ。


「さて、これからお前をどうし――」

「ルカだよ。ボクの名前だ。ルカと呼んでほしいな」

「そうか。知ってるとは思うが俺はユズルだ。だけど、ルカがやったことがやったことだ。俺一人で『もう解決だ』というわけにはいかないから、アルベルト商会の偉い人のところに顛末を話ししたい。協力してくれるか?」

「もちろんだよ。ボクが知ってることはすべて話す。命は助かったんだ。罪は償わせてもらうよ」


 俺とルカはその足で王都へ戻ることにする。


「ルカ、申し訳ないけど、一旦俺の奴隷になってもらってもいいか?このまま話に行くのは相手も不安だと思うんだ」

「奴隷にはもう慣れてるからね。それに、キミの奴隷になれるなら一時的じゃなくてずっとでもいいよ」


 王都にもどると、相変わらずの賑やかさが俺達を出迎えてくれる。


「そういえば奴隷商ってどこにあるかわかるか? あまり王都の地理に詳しくなくてな」

「今から奴隷になる人にそれを聞くのかい? キミらしいね。こっちさ」


 ルカについていくと一軒の大きい店が出迎えてくれた。


「ついたよ、ここだ」


 案内されたのは、意外にも貴族街の一角にある立派な屋敷だった。

 清掃の行き届いたエントランス。愛想の良い受付。まるで高級ブティックか宝石店のような店構えだ。

 だが、ショーウィンドウの代わりに置かれたガラスの向こうには、宝石ではなく、首輪をつけた少女たちが無表情で座らされていた。


(……冗談だろ。まるでペットショップかマネキンみたいだ)


 彼女たちの目には光がない。絶望すら通り越して、ただそこに「在る」だけの物体として扱われている。汚い地下牢を見せられるよりも、こうやって綺麗に売られている光景の方が俺には数倍おぞましく感じられた。


 意を決して受付に話をする。


「すまない、彼女を俺の奴隷にしたいのだが、そういった奴隷契約はどのようにすればいいだろうか?」


 受付は慣れたように案内をしてくれる。


「彼女が過去に奴隷として売られた経験や、誰かの奴隷になった経験があるかどうかで対応が変わりますが、彼女はそういった経験ありますか?」

「あぁ、元々奴隷だったが別の人物に買われてな。ただ、その人物は彼女を殺そうとしていたからそれを救いたいんだ」

「その場合ですと、奴隷紋の強制上書きとなるので少々お値段が張るのですが、500万ゼルほどあれば可能です。いかがなさいますか?」


 手持ちに金庫から取り出した1000万があるから足りるな。お願いしてもらおう。


「現金で500万の支払いになるが問題ないか?」

「えぇ、問題ないです。ではこちらの規約をよくお読みになってからサインのほどをお願いしたいのですが、代筆は必要ですか?」


 すっかり忘れていた。文字の訓練まだやってなかった。


「申し訳ない。代筆お願いするよ」


 規約を読んでみると、一つだけ気になる文言がある。

 『強制奴隷紋上書きを行った場合、どこの街や店で上書きしたかを公開してはならない』というものだった。

 特に自慢するものでもないのでどこでやったかなど言うつもりもないんだが、何か過去にトラブルでもあったのだろう。他にも「奴隷とはいえ生きているため、意図的に殺してはいけない」なども書いてある。


 諸々の手続きを終え、ルカと一緒に施術室へと足を運ぶ。

 部屋中が清潔で、少し油断をすると本当にここが奴隷商の一室なのかがわからなくなるレベルだ。


「ではルカ様、リラックスしてこちらの椅子にお座りください」


 施術室中央にある、なんとも言えない無機質な椅子にルカは座り込む。

 その後、ルカは首を下に向け、指示を待つ。なるほど、首の後ろに奴隷紋があるのか。

 先生が奴隷紋に向かって何やら呪文を唱えると、青白い光がルカの首筋を襲う。


「ぐっ……ガァッッ……!!!」


 突然ルカが大きい声を出し始めた。

 痛みを伴なってるのか、その表情はすこしつらくて直視することが出来ない。

 しかし、一瞬声を上げたもののすぐに声は止み、「はい、ルカさんおつかれさまでした」と先生の声が聞こえた。


「ルカ、大丈夫か!?」


 ルカは笑って応える。


「何泣きそうな顔してるんだいキミ。見ての通りボクは平気さ。爆弾を首に巻いてた心の痛みに比べたら、こんなの痛いうちに入らないよ」

「そうか、よく頑張ったな、ルカ。もう大丈夫だからな」


 ルカは立ち上がり、一緒に受付の元へと戻る。

 最初フラフラとしていたが、すぐに普通に歩けるようになったようだ。

 肩を貸そうとすると「大丈夫だよ」とあしらわれてしまった。


「ではユズルさん、身分証をお借りしますね」


 受付が身分証に機械のようなものを通している。

 主人登録みたいなものだろうか?


「はい、ではこちらをお返しします。身分証にルカ様の名前が刻まれていると思います。これにて奴隷契約が終了となりました」

「そうか、本当にありがとう。支払いは現金でも構わないか?」

「勿論大丈夫ですよ。500万ゼルのお支払いをお願い致します」


 俺はカバンから100万ゼル硬化の大白金貨5枚を取り出し、受付に渡す。

 日本でも使ったことのない大金。持つ手が少し震える……


「確認致しました。この度はご利用いただき、ありがとうございました」



「それじゃぁ行こうか。アルベルト家へ」

読了いただきありがとうございます。

本話から物語が大きく動きましたね……!これからも是非お楽しみください!

本編投稿は毎週月水金の3日、閑話投稿日は前話の翌日投稿となります。

詳しい投稿日時については活動報告書を参照ください。


投稿時間については全編一括18時半となります

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