24 ユズルの告白
ディッツさんが帰宅し、俺は自分の席に座る。
ふと部屋の入口を見ると青色に輝くボタンがついている。これ、今押したら誰が来るのだろうか……
リースが来るのか、セレナさんが来るのか、それともレイシアさんが来るのか。
とりあえずボタンを押してみよう。
(…………?)
暫く経っても誰も来る気配が無い。
まだ魔力の登録が終わってないとかかな?
登録が終わっていたとしてもリースは初めての給仕だ。無駄に焦らせることもない。
時刻は12時半を回り、お腹が空いてきたので食堂に向かおうか。
本館よりも狭いおかげで、どこに何があるのか、どの場所が何の部屋なのかということがすぐ覚えられるのが凄く良い。
リースにとっては少し手狭になるかもしれないが、俺としてはこのくらいの広さが本当に落ち着く。
本館に居た時なんか、前俺が住んでた部屋よりも幅の広い廊下だったからな……
丁寧に磨き上げられた飴色のフローリングの廊下を一歩、また一歩と歩みを進む。
すると前方からリースが迎えに来てくれた。
「ユズルさーん、ご飯できましたよ! 一緒にたべましょ!」
「丁度お腹すいたなって思ってたんだ。給仕さん、食堂まで案内おねがいします」
「はい!」とリースが言うと、食堂まで一緒に歩いていく。
食堂に近づくにつれて、焼きたてのパンの香りがほのかに香ってくる。
「もしお口に合わなかったら言ってくださいね! あまり料理をしたことがないので……」
リースが作ってくれたのか。すこしうつむきがちだったので俺はリースの頭を撫でる。
「気にするな。リースの作ってくれたもんなんか全部美味しいに決まってるからな、すごく楽しみだ」
「えへへ」
とその瞬間、「ピンポーン」と家のチャイムらしき音が鳴る。
リースといっしょに玄関に行くと、そこにはミリアが立っていた。
「ユズルさん、リース様、聞きましたよ! おめでとうございます!」
「ミリアですね、こんにちは! 良ければこれからお食事なので一緒に食べていきませんか?」
「え、いいんですか!? ぜひぜひいただきます!」
急に玄関が華やかな声に包まれながら3人で一緒に食堂へと進む。
「ユズルさん、リースさん食事の準備出来ましたよ! あ、そちらの方ははじめましてですね。こちらの家で給仕をさせて頂いてるセレナと申します!」
「はじめましてセレナさん。私はリース様の専属護衛を務めているミリアです。よろしくね!」
「では少々お待ち下さい、ミリアさんの分もすぐご用意しますので!」
そういうとセレナさんとリースが一緒にキッチンへ向かう。
余分に料理を作っていたためか、すぐにミリアの料理も運ばれてきた。
美味しそうな料理が並べられる。手伝ってもらってるとは思うがリースの手料理だ、存分に楽しもう。
「それじゃあ全員分の料理用意出来ましたので一緒に食べましょう!」
「「「「いただきます!」」」」
まずはパンを一口ちぎって食べる。作り慣れてないとは思えないほど小麦の味がしっかりとしており、外がカリッと、中もふわっともちっとしてとても美味しい。
サラダにかかっているドレッシングも絶妙な加減で作られており、まるで野菜そのものがまだ活き活きとしてるかのような野菜本来の味を引き出してくれる。じゃがいものクリームスープを一口飲むと、今まで飲んだどんなスープよりも味わい深く喉を刺激し、もう一口、もう一口と食べているのにお腹が空いてくるような錯覚さえも覚える。
「そういえばユズルさん。雑貨店の店主が言っていたので気になってたのですが……『ニホン』っていうのは、どういった場所なんですか?」
セレナさんが首を傾げる。ミリアも興味津々といった顔でこちらを見ていた。
……いい機会かもしれないな。今後もトラックを使う以上、俺の「常識」が彼女たちと違うことは隠しきれない。
「そうだな……。話すと少し長くなるし、信じてもらえないかもしれないけれど」
俺は一度箸を置き、3人を見回した。
「俺は、この世界の人間じゃないんだ」
「……え?」
「ええっ!?」
驚くセレナとミリア。リースだけは薄々感づいていたのか、静かに俺の言葉を待ってくれている。
「俺がいたのは『地球』という世界にある、『日本』という国だ。そこには魔物もいなければ、魔法も存在しない」
「魔法がない……? じゃあ、生活はどうするんですか? 火を起こすのも、水を出すのも大変じゃないですか」
ミリアが不思議そうに尋ねてくる。当然の反応だ。
俺は分かりやすく説明するために、少し意地悪な質問をしてみることにした。
「そこで発達したのが『科学』なんだ。ミリア、ちょっと質問なんだけど、魔法で出す『ファイアーボール』って、どういう仕組みで燃えてるか分かるか?」
「えっ? 仕組み……ですか? イメージして、魔力を込めればボッと出るものなので仕組みと言われると……」
ミリアが答えに悩んで唸る。俺は助け舟を出した。
「そう、こちらの世界だと『魔法だから』で済むけど、魔法のない日本じゃそうはいかない。だから俺たちは徹底的に何かしらの現象の『ルール』を調べたんだ。物が燃えるには『燃える素材』と『高い温度』、そして『酸素』が必要だ……とかね」
「さん……そ?」
「空気の中にある成分のことだ。みんなは息を吸って、息を吐く。息を止めると苦しくなると思うんだけど、それは『酸素』を体に取り込むことで生活出来るように体が作られているんだ。そういったいろんなものの原理を詳しく調べたおかげで、日本には『水の中でも消えない火』なんてものもあったりするね」
「水の中でも!? すごい、魔法よりすごいじゃないですか!」
3人とも目を丸くして驚いてくれてる。よし、食いつきは悪くない。
「そうやって、魔法がない代わりに『知識』と『道具』を発達させた世界なんだよ。俺が乗ってるトラックも、その科学で作られた道具の一つだ」
「なるほど……。だからあんなに精巧な鉄の箱が走るんですね……」
リースが納得したように頷く。ここまで話せば、俺がここに来た経緯も話しやすい。
「俺はその日本で、仕事としてトラックを運転してたんだ。そうしたら、急に目の前に女神様が現れてね」
「め、女神様!?」
「ああ。『貴方を異世界へ招待します』って言われて……気がついたらトラックごとあの森の中にいたんだ。そこでリースの悲鳴が聞こえて、慌ててゴブリンの群れに突っ込んだ……というのが事の真相かな」
――あえて、事故を起こしかけていたことは伏せておく。未遂とはいえ、事故を起こしかけた人のトラックには乗りたくないだろうからな。
「例え私はユズルさんがこの世界の人間じゃなかったとしてもずっとおそばに居たいと思ってますからね! どこから来た人だろうと関係なく、私はユズルさんを大切に思っていますから」
「そうですね、ミリア様の言う通りです。ユズルさんはユズルさんです。そのお話を聞いたからと言ってなにか変わるわけでも無いですよ」
リースとミリアが力説してくれる。
「わ、私は今日会ったばかりなのでお二人以上に何もユズルさんのことはわかりませんが、私も同じです。今のお話を聞いて怖いと感じる所なんて一つも有りませんし……困ったことがあったらとりあえず何でも言ってくださいね!」
「おう、その時になったら十分頼らせてもらうわ!」
◇ ◇ ◇
食事を終え、俺はミリアに聞いてみる。
「そういえば冒険や探索をするにあたって持っておいたほうが良いアイテムとかを買いに行きたいんだけど、何がオススメとかあるか?」
「そうですね……持っておいたほうが良いのはポーションと魔除けの御香とロープ、食料はあったほうが良いかな? 暗いところに行くなら松明やランタンもあると便利ですね!」
魔除けの御香なんてものがあるのか。この後時間あるから探しに行こう。
「ちなみにポーションってどうやって使うのが一般的なんだ?俺のイメージでは飲むのかなって思ったんだけど、患部にかけることでも利用出来たりする?」
「その時によりますね……患部にかけると治りが早いですが一部分しか治癒が出来ません。飲むと全身が治療されますがその分ゆっくり治療されるので、その時の傷の受け方に寄って変わったりもします。とはいえ、治療が終わったからと言っても流れてしまった血液までもとに戻るわけではないので、そこだけは気をつけてくださいね? あくまで傷を治すだけなので、貧血までは治りませんから!」
なるほど、説明がわかりやすくて助かるな。
勿論一番なのは怪我しないことだけど、万が一のこともある。ポーションも買っておこう。
「ありがとう、助かったよ」
「いえいえ。では私は用事があるので先に失礼しますね!」
いそいそと玄関を出るミリア。
こういう時冒険者仲間がいると本当にありがたい。
「リース、すまない。ちょっと探索用のアイテムとか色々探してくるから家を少し空けるな」
洗い物をしているであろうリースがひょっこり顔だけ出してこちらを見てくる。
「はーい、行ってらっしゃい、ユズルさん!」
◇ ◇ ◇
街に出て、色々お店を見て回る。
そういえばネコエルの居る雑貨店ってこの辺にあった気が――!?
(なんだこれは!?)
雑貨店のあった場所が更地になっている。
元からそこには何もなかったと言わんばかりの場所だ。
隣にパン屋さんがあるので店主さんに聞いてみた所、昨日見た時には既に更地になっていたという。
店が残ってて閉店してますとかなら分かるが、こんな短期間で更地にできるものなのか?
喋る猫、ワープする店主、金の出てくる不思議なフルーツ。
不思議なことばかり起きてたな。一体何だったんだろうここは……
ふときになり俺はアイテムバッグを開くと、あの時にもらったウエハースが残っていた。
袋を見ると「ゴールデンフルーツ味」と書いてある。香りはただのウエハースだ。
意を決して食べてみたが正直よく分からなかった。
(そもそもゴールデンフルーツってなんだよ……)
袋の中には1枚のカードが入っていた。
ネコエルや店主の絵柄の入ったカードが入ってると言っていたな。
カードを確認すると――そこにはネコエルと遊ぶリースの姿、そしてそれを見守る俺の姿が写っていた。
写真なんて技術は無いだろうし、念写のスキルでも使ったのだろうか?
カードの裏を見ると、何か文字が書いてある。
――――
須藤結弦さん、この間は楽しい時間をありがとうございました。
ちょっとばかりお喋りしすぎちゃった私とネコエルは、元の場所へ帰ります。
またいつか、どこかの『記憶』の中で。あなたの旅路に、幸あらんことを……
――――
なんか不思議なことが有りすぎて逆にこれが普通なんじゃないかと思い始めてきた。
お喋りしすぎたといっても世間話程度だったと思うが一体……。
なんとも不思議な店だった。願わくば『おれは猫じゃねえ!』の声をもう一度聞きたかったな。
更地になっていたインテリアショップを通り過ぎ、たまたま目についた冒険者ショップに入店する。
並べられてる商品を見ると、本当に役に立ちそうなアイテムが非常に多い。
魔力だけで明るくなるランタンや自動折りたたみテントをはじめ、ただの調理器具から高級なポーションなど多岐にわたる。
えっと、確か食料と松明、魔除けの御香と縄とポーションだったな。
ポーションが意外と安く、800ゼルで売っていた。命を守る対価としては非常に安くてありがたいな。
携帯食料、松明、魔除けの御香も売っていたのでそれぞれ購入することにした。
携帯食料……どう見ても乾パンだけど、まぁ無いよりはマシだろう。
異世界といえば干し肉だけど、生憎この店には売っていなかった。
とりあえずポーションと魔除けの御香を10個ずつ購入し、携帯食料2個、松明と長めのロープを1個ずつ購入した。
とはいえ全てバッグに入るから持ち運びは楽なんだけどな。
今日もスライム倒しに行こう。
活気あふれる中、俺は王都の門を出る。
読了いただきありがとうございます。
本編投稿は毎週月水金の3日、閑話投稿日は前話の翌日投稿となります。
詳しい投稿日時については活動報告書を参照ください。
投稿時間については全編一括18時半となります




