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23 給仕係

 翌日。食事を取り、自室にて待機する。

 レイシアさんが言うには、「私が時間になったら迎えに行くので、その時間に客間に居てくだされば大丈夫です」とのことらしいが……非常に胃がキリキリする。

 こういう時にリースが居てくれたら嬉しいんだけど、リースは今日席を外してるから来ることが出来ないとのこと。ミリアでも良いから来てくれ……!


……まぁそう都合よく事が運ぶわけもなく。

 暇つぶしのためにスキルボードを確認してるとレベルは未だ3のまま。スキルポイントも追加されていない。

 スライムの経験値おいしくないのかなぁ。


 時計の針が無常にも「カチッカチッ」と響く。その1分1秒が非常に長く感じた。

 


 9時50分が来たと同時にドアからノックが3回鳴る。


「失礼します、ユズル様。応接室の方へご案内致します」


――ついに来てしまった。念の為に姿見を確認すると、いつもの自分が写っていた。

 レイシアさんと一緒に応接室に向かうが、脚が非常に重く、中々思うように進まない。

 一歩、また一歩と覚悟を決めながら歩く。

 いや違うな。俺は褒められるために行くんだ。怒られること何もしてないし!!

 そりゃぁ、頭撫でたり顔ぐにぐにしたり、添い寝したこともあるし、羊さんパジャマを見たこともあればおんぶしたこともあ……る。けど怒られないよな……?

 

 そんな事を考えているととうとう応接室についてしまった。

 レイシアさんがノックを3回して入る。それと同時に俺も一緒に入る。


「失礼します。はじめまして、スドウユズルといいます。よろしくお願いします」


 見ると、見た目20代後半くらいの茶髪イケメンがそこに座っている。

 この方がリースのお父さんか。


「ユズル君だね、妻のフランから話は聞いているよ。よかったらソファにかけてくれ。あ、レイシア君。お茶をお願いしてもいいかな?」

「畏まりました。ご用意してまいります」


 レイシアさんはすぐに出ていってしまった。

 この部屋に居るのは俺とリースのお父さんだけ。

 非常に重たい空気が流れる。もう胃が痛すぎる。


「初めまして、アルベルト商会会長を務める、ディッツ・アルベルトだ。気軽にディッツと呼んでくれ」

「はい、わかりましたディッツさん。それでいて、お話とは一体……?」

「この度は娘のリースを助けていただいて本当にありがとう。心から礼を言わせてほしくて呼んだんだ」


 怒られる為に呼ばれたわけじゃなかったんだ。気持ちが一気に楽になる。

 鉛のように固くなった体が、まるで魔法が解けたかのように柔らかく動くようになった。

 

「いえ、リースやミリアにも伝えましたが、本当に運が良かっただけです。リースが持ってたから自分が助けに行けたのです」

「だとしてもだよ。最終的に助けてくれたのはユズル君、きみだ。本当に娘を救ってくれてありがとう……」


 ディッツさんの声が少し震える。1人の人間として、実の父親としてこの話を聞いたときは流石に怖かったのだろう。

 このタイミングでレイシアさんがお茶を持ってきた。

 朝食を食べていたときは不安であまり味を感じなかったが、今はお茶の香りが分かる。少し飲んだが味も分かる。

 よかった、今ちゃんと落ち着けているんだな……

 

「そこで、ユズル君には説明する義務があると思ってね、なんでこの様になったかだけ説明させてくれ。当時、リースには護衛を二人つけて商品運搬と搬入ができるかの実地テストを行っていたんだ。護衛も雇っては居たんだがその護衛が逃げた。ここまではユズル君も知ってると思う」


 そうだ、リースが襲われたのは護衛がいきなり消えたからゴブリンに対抗する手段が無かったからだ。

 改めて聞くと腸が煮えくり返るおもいをするが、今は話を聞くことに集中しよう。


「その日の夜、フランから私の方に連絡があり、護衛についてとことん調べ上げた。それで分かったことがひとつ有り、その二人の護衛は『ネイマール商会』という商会に所属している冒険者だということが分かった。恐らくだが、そのネイマール商会会長のヴォルフがリースを事故死させるためにあんな手段を取ったのだろう。リースが居なくなればアルベルト商会もこれまで通りの運用ができるかわからない。残酷な話だよ」


 ディッツさんが言うには、ネイマール商会というのは王都でアルベルト商会に次いで大きい商会のひとつのようだ。

 さらに話を聞いていると、護衛が直接手を出さなかった理由はどのような方法で亡き者にしたとしても必ずその人の魔力がそこに残る という理由から出来なかったという線が濃厚らしい。

 なんか聞けば聞くほど腹が立ってくる。しかし俺にできることが何も無いのが非常に悔しい。

 そんな悔しさから痛くなるほど拳を強く握りしめる。


「ちなみにその冒険者は一体……?」

「安心してくれ、法の下に裁かせたよ。もっと早くユズル君にお礼を言いたかったけどそれが出来なかった理由だ」

「でも本当にリースが無事で良かったです。暫くこちらの館でお世話になってるのですが、本当に良い子すぎて、居なくなったときのことなんて想像したくないんですよね」


 つい本音を話してしまった。他意などはまったくない、全て本音だ。

 リースの明るさに救われたことが何度あるだろうか。こちらの世界に来てからまだ時間はそんなに経ってないが、気付けばそれほどまでリースが俺の中に深く入り込んできていた。

 勇気をだしてあの時トラック走らせて本当によかったよ……


「君が本当に優しい子で助かった。ありがとう。そこでユズル君に今回のお礼をしたいのだが、今日このあと時間あるだろうか?」

「はい、特に予定は入れてないので大丈夫です」

「ならよかった。ちょっと家の外にでないといけないからついてきてくれ」


 館の玄関を抜け、門を抜ける……と思っていた所、門の方へ向かわず庭を曲がり始めた。

 いつ見ても広い庭だ。既に水やりをしたあとなのか、花壇の花が太陽に照らされキラキラと輝いている。


「さぁついたぞ」


 目の前にあるのは少し大きめの家だ。玄関は大通りとも面しており、大通り、庭、どちらからでも入れるようになっている。

 装飾もそこまで派手なものではなく、田舎にある非常に大きな一軒家というのがイメージにピッタリだ。


「ユズル君、この家を君にあげよう。本館よりは一回り二回りは小さいと思うが、ちゃんとした寝床はあるに越したことはないだろう」

「家を……くれる?」


 俺は混乱する。お礼としてはちょっと重すぎないか?

 何より、この家を保つことができるかが不安だ。そしてこれは実質アルベルト家からの追い出しを意味するのではないか……?


「こんなに豪華なお家いただくわけには……しかも、家を開けることも多くなりますし、ちゃんと家主としての体裁を保てるかどうか……」

「何か色々と心配事があるようだね。とりあえず玄関を開けてみてくれないか? 君の魔力を登録しているから鍵無しでも開くだろう」


 扉を開ける。

 中に広がるのは綺羅びやかなシャンデリアにまばゆいばかりの光、所狭しと散りばめられた宝飾の数々……というわけでもなく、非常に落ち着いた洋風の家といった感じだ。

 だが、そんな装飾など些細なことに思えるほど、信じられない光景が目の前にあった。


――そこに、見知った人物が立っていたのだ。


「お……おかえりなさいませ、ユズル……さん」


 リースが給仕服を着て俺の目の前に立っている。

 恥ずかしさからか、照れているからなのか、少しうつむきがちに挨拶をしてくれた。

 その隣には初めて見る方が立っている。この人は誰だろう?

 いや、その前にまずリースへ返事をしなければ。

 

「た、ただいまリース」

「驚いてくれたようで嬉しいよ。リースにはこちらの家で給仕を勉強してもらおうと思ってね。勿論商会の勉強もあるのでつきっきりというわけにはいかないんだが、その代わりに隣りにいるのがこの家の給仕を行うセレナさんだ。」

「はじめましてユズルさん、セレナと申します! こちらの家の給仕をさせていただきますのでよろしくお願いします!」


 なるほど、レイシアさんの代わりとなる方かな?

 屋敷特有の静謐(せいひつ)を破るように彼女の声が響いた。 夕陽をそのまま形にしたようなオレンジブラウンの髪を高い位置で一つに結わえ、彼女は満面の笑みを浮かべる。 その鮮やかな髪色は、厳格な屋敷の空気さえも一瞬で明るく変えてしまうようだった。

 

「あぁ、勿論リースもユズル君も、いつでもアルベルト家本館に戻ってきても大丈夫だ。といってもすぐ隣だからいつでもこられるんだがな」


 早い話、リースの花嫁修業に付き合ってくれということかな? 

 それなら勿論喜んでやらせてもらおう。


「ユズルさん、よろしくお願いしますね!」

「おう、よろしくな」


 俺とリースは何も言わずにグータッチをする。

 アルベルト家を追い出されていない その事実だけでも本当に嬉しいものだ。


「あ、そうだリース、セレナ君。私は今からユズル君と少しお話が残っているので、仕事を始めてもらってもいいかな?」

「「はい!」」


 セレナとリースが何処かに歩き出す。


「さて、もう一つお礼があるんだ。ユズル君の部屋に案内するからきてくれないか」


 ディッツさんが言う。

 この家だけでも十分すぎるほどのお礼なんだが、大丈夫なんだろうか……

 俺は黙ってディッツさんの後ろを歩く。


「ここがユズル君の部屋だ」


 中に入ると立派な机と豪華なベッドにソファ、大きすぎるほどの窓があるので電気をつけなくても非常に明るい。


「机の横に金庫があると思うんだが、その中に2000万ゼル入っている。よかったらユズル君の好きなように使ってほしい」

「2、2000万!?」


 あまりの金額に驚き、一歩、また一歩と後ろへと足を進めてしまう。

 そんな大金、どうすればいいんだ……


「いや、しかし多すぎないですか? この家だけでも十分すぎるほどのお礼ですし……」

「ユズル君、君は一つ勘違いをしている。君からしたら確かに多い金額かもしれないが、もしリースがあの時命を失っていたら2000万ゼル支払ったところでこの世に帰ってこれないんだよ。勿論1億ゼル払おうが100億ゼル払おうが同じだ。失った命は戻ってこないんだ。だから是非受け取ってくれ。これは私の我儘なのだよ」


 ふとリースが服を選んでくれたときのことを思い出す。

『あなたにその服を着ていてほしいという、私のワガママなんですから』

 ほんと、フランさんの破天荒ぶりやディッツさんの誠実さが恐ろしいくらいリースに受け継がれているな。


「わかりました、ではありがたく頂戴しますね」

「では私は帰るとするか。何かあったら気軽に本館にくると良い。君にはミリアと同じ魔力権限を家に登録したから、大体の場所へは行けるようになっているだろう」

「はい、ありがとうございます!」


 ディッツさんはゆっくりと家を後にする。

 まさか持ち家が手に入るとは思わなかったな。お金もありがたく使わせてもらおう。

 念の為1000万だけカバンに入れて、残りは金庫にしまっておく。

読了いただきありがとうございます。

本編投稿は毎週月水金の3日、閑話投稿日は前話の翌日投稿となります。

詳しい投稿日時については活動報告書を参照ください。


投稿時間については全編一括18時半となります

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