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22 温かな食卓と、館の秘密

「おかーさーん、ユズルさん来たよ!」

「あら、ユズルさんいらっしゃい。ご飯まだでしょ? ユズルさんの分も作ってるから待っててね」


 台所ではリコさんが手際よく料理を作っていた。釜でふっくらとお米を炊き上げつつ、その(かまど)の火を利用して串に刺した川魚を焼いているようだ。

 余熱を無駄にしない生活の知恵。こういう工夫は見ているだけでも面白い。


「はーい、お米炊けたからご飯にしましょう。みんな座って座って」


 リコさんが食事完成の合図を出す。

 炊きたての白米が、木製の茶碗にふんわりとよそわれた。溢れんばかりの湯気が立ち上り、甘い香りが一気に食欲をそそる。

 それと同時に、竃の方から「パチッ」と小気味よい音がした。どうやら魚の脂が炭火に落ちて弾けたようだ。

 鼻だけでなく、耳にまで「準備完了」の合図が届き、俺の空腹は限界を訴え始めた。


「「「いただきまーす!」」」


 三人揃って手を合わせる。質素な食卓だが、今の俺にはどんなご馳走よりも輝いて見えた。


 まずは焼きたての魚を一口。パリッとした皮の食感と共に、凝縮された旨味が口の中に広がる。

 醤油はないようだが、振られた塩加減が絶妙だ。魚本来の甘みと塩気が混ざり合い、無性に白米を欲してしまう。


「んっ、美味い……!」

「ふふ、お口に合ってよかったわ。たくさん食べてね」


 リコさんが嬉しそうに微笑む。その顔色は数日前まで伏せっていたのが嘘のように血色が良く、生き生きとしていた。

 エリクサーで回復してくれて本当に良かった。あの薬が無かったら、この温かい食卓は二度と戻らなかったかもしれない。


「そういえばユズルさん、用事があって王都に戻ったそうなんですが、無事に済みましたか?」

「ああ、帰ったその日に済ませたから大丈夫だ。昨日はリースが『勉強が休みだから』って王都を案内してくれてな。この服もその時に彼女が選んでくれたんだ」

「わぁ、そうだったんですね! ユズルさん、いつもの服装も素敵ですけど、その格好だとベテランの冒険者さんみたいで凄くかっこいいですよ!」

「そ、そうか? ありがとな」


 ミリアに無邪気に褒められ、少し照れくさくなる。

 リコさんも、そんな俺たちのやり取りを、まるで子供を見守るような優しい目で見つめていた。

 なんてことのない会話。けれど、それが何よりも心地いい。


「ふー、ごちそうさま! ご飯のお片付けしてから王都に戻るので、ちょっとだけ待っててください!」

「お粗末様でした。でも片付けは気にしなくていいわよ。早く出ないと暗くなっちゃうから、お母さんに任せなさい」


 リコさんが腕をブンブンと力強く振り回して見せる。その元気な様子に、俺は思わず吹き出しそうになった。よっぽど体力が有り余っているのだろう。


「んー、わかった。甘えさせてもらうよ。また時間が出来たら戻りにくるからね!」

「はいはい。ユズルさん、ミリアをよろしくね」

「必ず王都まで送り届けます。ご飯、本当にごちそうさまでした!」


 リコさんがミリアの頭を愛おしげに撫でてから、俺たちに向かって手を振る。「いってらっしゃい」その言葉の重みを噛み締めながら、俺とミリアはリコさんに手を振り返し、家を後にした。


 ◇ ◇ ◇


 カルディアの門を出て暫く歩いたあと、俺は人気のない場所でスキルを発動した。

 太陽に照らされたそのボディは、まるで自ら発光しているかのような頼もしい輝きを放っている。


「たった二日離れていただけなのに、なんだか凄く久しぶりな気がしますね」


 ミリアは慣れた様子で助手席へと乗り込む。俺も運転席に座りトラックに命を吹き込んだ。


 キュルルルル……ヴォンッ!


 腹の底に響くような元気なエンジン音と共に、心地良い振動が全身を包み込んでくる。

 (また長距離の運転になるけど頼むぞ、トラックよ)

 俺はギアを入れ、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ。


 窓の外を流れる景色を眺めながら、ふと思い出したことを聞いてみる。


「そういえばミリア。リースって何か好きなものあるか知ってるか?」

「リース様の好きなもの……ですか?」

「ああ。この服もリースが贈ってくれたものだし、俺からも何かお礼をしたくて考えてたんだが……何がいいか分からなくてな」


 ミリアは少し考え込むように指を顎に当て、やがてポンと手を叩いた。


「ご自身の好みについてはあまり話さないので詳しくはわからないのですが、『可愛いもの』が大好きというイメージが強いですね」

「可愛いもの?」

「はい。たまたま一度、リース様のパジャマ姿を見てしまったことがあるのですが……それがもう、フワフワの動物さんみたいな凄く可愛らしいものでして!」


……パジャマ。脳裏に、あの時の羊の着ぐるみパジャマ姿が鮮明に蘇る。

 あれは確かに可愛かった。衝撃的すぎるほどに。


「ああ、なるほど。便箋もウサギの絵だったし、ネコエル……雑貨店の猫とも楽しそうに話してたな」

「そうなんです! ですから、可愛い動物の小物とか、そういうのがお好きなんじゃないでしょうか?」

「そうか、可愛い動物か……。ありがとう、凄く参考になったよ」

「どういたしまして! あ、可愛いパジャマの話は内緒でお願いしますね! 特に口止めはされてませんが、リース様が知ったら恥ずかしがっちゃうかもしれないので……」


 ミリアが人差し指を唇に当ててウィンクする。俺は苦笑しながら頷いた。


「大丈夫、告げ口なんてしないよ」


(……羊だけは、俺も記憶の奥にしまっておこう)


 今度、王都のアクセサリーショップでも覗いてみようか。ウサギとか猫のモチーフなら喜んでくれるかもしれない。

 ただ、羊のアクセサリーだけは……あまりにそのままでからかっていると思われそうだからやめておこう。


 そんなことを考えながら、俺は王都へと続く街道をひた走った。



 日も傾きはじめる頃、見慣れた道へとたどり着いた。

 王都周辺の道だ。なんとか暗くなるより前には着いてよかった。

 ミリアと一緒にトラックを降り、王都に向かって歩みを進める。

 昼間には感じない謎の静けさだ。鳥も自分の巣に戻り、冒険者もあまり見当たらず、ただただ風の音と二人の足音が目立って響く。


 門番に身分証を提示し、王都に入る。周りには店じまいをする店主や大きい荷物を持った冒険者が点々とする。

 家の電気もポチポチとついており、夜の始まりを実感する。


「よし、ついたな」


 屋敷のベルを鳴らすと、やはり自動で門が開いた。


「そういえばいつもベルを鳴らすと勝手に門が開くけどこれってなんでか知ってるか?」

「いえ、でも言われてみればそうですね。当たり前のように思ってたので気にしたことも無かったですが……」


 そんな話をしながら2人は玄関を開けるとレイシアさんが迎えてくれた。


「おかえりなさいませ、ミリア様、ユズル様。お食事の準備も出来ておりますので、お時間が出来ましたらいつでも食堂にいらしてください」

「わかったよ、レイシアさんありがとう!」



 ◇ ◇ ◇


 片付けなども終え、食堂に向かうと既にリースとミリアが食事を始めていた。


「ユズルさん運転お疲れ様でした! 無事に帰ってこられたようで安心しました!」

「心配してくれてありがとうな、リース。手紙のお陰で朝からすごく元気出たよ」

「お役に立ったようで嬉しいです」


 リースがニコニコしながらご飯を食べる。

 そこでずっと気になってたアレについてミリアが質問した。


「そういえばリース様、今日ユズルさんとお話した時に疑問に思ったのですが、ベルを鳴らすと自動で門が開くとおもうんですが、防犯とか大丈夫なんでしょうか?」


 リースの手が少し止まる。口の中に入ってるパンをもぐもぐと食べ終え、その答えを教えてくれた。


「それは問題ないですよ! あの門はベルを押した人の魔力を感知するようになっているんです。信用できると判断している人物のみベルで門が開くようになってるので、例え知らない人がベルを押したとしても門は開かないようになっているんです。

 ついでにいうと、玄関もいつも簡単に開くと思いますが、ドアの取手部分全体が魔力を判断する装置となっているため、知らない人が触れても玄関が開かないようになっています。つまり、この館に出入りしても問題ないと判断された人物だけが入れるようになっているので安心してください」


 なるほど、いつも玄関もすぐに開いていた理由が分かった。

 あれ、だけど俺は魔力を提供した覚えが無いが、どうして館に登録されているんだろう?


「なぁリース、俺って魔力を提供した覚えが正直無いんだけど、どうやって魔力提供したとかっていうのはわかるのか?」


 リースが考え込むが、そこまではわからないらしく悩んでいる。そこでレイシアさんが助け舟を出してくれた。


「えっと、ユズル様の場合、初日にこちらに来られた際に浴場の脱衣所にて私を呼ぶためのボタンを押してくださったのを覚えてらっしゃいますでしょうか? その時にユズル様の魔力が一時的に館全体へと仮登録され、後ほど私が一時的に登録されたユズル様の魔力を館の来場許可魔力として本登録させていただいたので問題なく入ることは出来ます」


 なるほど、あのボタンにはそういった機能もついていたんだな。

 そのあと話を聞いてみると、俺が一人で入れる場所は決まっていて

 

 ・応接室

 ・客室

 ・脱衣所と浴場

 ・食堂


 のみ入れて、プライベートゾーンの部屋はレイシアさんか、アルベルト家の誰かの魔力が必要になるそうだ。

 この間お礼言いに行った時リースが居てくれたお陰でフランさんにお礼が言えたのか。なるほど……

 例外的にミリアもプライベートゾーンの部屋に入ることは可能らしいが、それでも入れない部屋自体はあるらしい。


 なんというか、防犯の方法とか日本と違っていて便利すぎるな。

 この場合アルベルト家が特殊すぎるという可能性も無くはないが、つまり鍵無しでも外に出られるということじゃないか。

 いつも鍵をかけたかどうかを家でてしばらくしてから気になる性格の自分からしたら喉から手が出るほど欲しくなるセキュリティだ。


 あらかた食事も終え、みんなで解散することとなった。

 明日は10時からリースのお父さんとの面談? 話し合い? があるんだよな。

 悪いことはしてないから大丈夫だとは思うけど……


 えぇい。なるようになれ!!

読了いただきありがとうございます。

本編投稿は毎週月水金の3日、閑話投稿日は前話の翌日投稿となります。

詳しい投稿日時については活動報告書を参照ください。


投稿時間については全編一括18時半となります

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