19 添い寝の朝に
いつもよりも温かな布団を感じながら目が覚める。今までに感じたことのない違和感を覚え、あたりを見回すと、すぐ横でリースが寝ていた。
そうだ、確かリースが昨日部屋に来てそのまま寝たんだ。
すーっ、すーっ、とリズム良く寝息を立てている。時計を見ると6時すぎのようだ。
ふとドアの方を見ると、そこには青色に点灯しているボタンがある。レイシアさんもう起きてるのか。
リースの方に再び目を向けると、凄く気持ちよさそうに寝ている。
こうしてみると本当に子供なんだなとあらためて実感するが、普段の行動からするとリースも実は転生者で中身大人なんじゃないかと感じるときもある。本当に不思議な子だ。
寝顔を見ながら髪を撫でてると『んにゅぁ……』となんともだらしのない声をだしてゆっくり目を開けた。
「レイシアまって、あと5分だ……け……」
そういってリースは再び瞼を閉じる。これは起きるまでもう少しかかるかな?
俺はカーテンを開け、窓を開ける。すごく気持ちのいい風が吹いてくる。
外からの風にカーテンが靡く。太陽も少しだけ顔をだし、朝焼けが赤々しく世界を照らす。
うーん、何をしようか。特にやることがない。
ステータス画面開いても特に変化した項目もない。スキルポイントも特段増えては居ない。
昨日の口ぶりからするとリースは今日休みだよな。なら無理に起こす必要もないか。
(二度寝するか)
リースの眠る布団へと入る。流石に慣れないが心地良い暖かさだ。
昨日はよく見えなかったから気が付かなかったけど羊柄のパジャマなのか。リースらしいとてもかわいいパジャマだ。
もこもこパジャマに手が触れる度に緊張してしまうが、そんなことはもうどうでもいい。
今はそれよりも眠くて……
◇ ◇ ◇
んぅ……。
いつものように私は目を覚ます。でも、なんだかいつもと雰囲気が違います。
背中やお腹がぽかぽかと温かくて、包み込まれているような安心感。それに、お日様のような、少し汗の混じったような……男の人っぽい匂い?
まだ半分夢の中にいる私は、その温かい「何か」に顔をうずめ、猫のようにすりすりと頬を擦り付けました。ゴワッとした布の感触。抱き枕にしては少し硬くて、でもトクトクと規則正しい音が聞こえてきて……。
……音? スッと意識が覚醒する。ゆっくりと目を開けると、すぐ目の前に――無防備に眠るユズルさんの寝顔がありました。
「……っ!?」
「すぅ……すぅ……」
声にならない悲鳴を上げ、私はカチコチに固まります。え、え、え!? ユ、ユズルさん!?
混乱する頭で状況を確認します。
私の手はユズルさんのシャツをこれでもかと強く握りしめて……しかも、さっきまで私はこの胸に顔をうずめて……!?
(っぁぁあああ!! 嘘、嘘ですよね!? 私、なんてはしたないことを!!)
体温が一気に沸騰したお湯のように跳ね上がります。
その刹那、昨夜の記憶が全て蘇りました。
昨晩、「一緒に寝てもいいですか」と頼んだのは私です。でも……でもぉ。
あまりの事実に耐えきれず、私はバネ仕掛けのようにベッドから弾け飛びました。ぽふん、と絨毯の上に転げ落ちる私。
「い、痛ったた……」
腰をさすりながら起き上がり、ふと自分の体を見下ろして――さらに血の気が引きました。
「ひ、羊さん……」
視界に入ったのは、ピンク色のもこもこした羊のパジャマ。フードについた垂れ耳が、私の動きに合わせてポヨンと揺れています。
ユズルさんは……見てないですよね? まだ寝てますよね!? もし起きていて、薄目を開けていて、この格好で抱きついてスリスリしていた姿を見られていたとしたら……!
いえ、そうじゃないです。昨夜絶対目に入ってるはずです。
「お嫁に行けません……!」
思い出すだけで顔から火が出そうです! いや、もう全身が燃えています!
お、落ち着くのです、私! 今焦った所で、ユズルさんに抱きついた、羊さんパジャマを見られたという事実は変わりません。一度冷静になりましょう。
……だっぁあっ! ああッ!!! 無理です!!
やだもうお家帰りたい……いや、ここが私の家なんでした。
穴があったら入りたいですが、あいにくこの部屋に穴はありません!
なんで客間に私が丁度良く入れる穴が無いんですか!
もう、一刻も早くこのピンクの羊を脱ぎ捨てなければ……
私は逃げるように立ち上がると、忍び足で……いえ、競歩のような速さで自室へと向かいました。服を着替えたら、きっといつものシャキッとモードに入るはずです!
そう信じないとやってられません!
……私のバカヤロォォオオオオ!!!!!
◇ ◇ ◇
二度寝から目を覚ますと、リースは居なくなっていた。
時計を見ると時刻は8時過ぎ。時間帯も割といい感じだな
鏡を使い、身なりを整える。
寝癖無し。服に変なシワもついてない。至って普通の服装だ。
(今日はリースと出かける日だからな。流石にだらしない格好は出来ない)
リースは大丈夫だろうか。俺の寝てる布団で寝たことで暴れたりしてないかな。
考えても仕方ない。朝ごはんを食べに行こう……
食堂に着くと、既にリースは食事を取っていた。
俺も席について食事をいただくことにする。
食事を始める。始めたのはいいが、非常に気まずい。
何も会話もなく、ただお皿とナイフ・フォークが当たるカチャカチャとした音が食堂に響く。
このままなのは嫌なのでちょっと話しかけてみるか。
「リースおはよう。よく寝れたか?」
リースが露骨に「ビクッ」と体を動かした。やはり緊張しているのだろうか?
彼女はレイシアが普段立っている場所を見るがそこにはレイシアさんが居ない。
おどおどしながら俺とレイシアさんの普段いる場所をキョロキョロするリース。口いっぱいに種を突っ込んだハムスターとかリスみたいでとてもかわいい。
「えっと、おはよう……ございますユズルさん……」
今にも消えそうな声で返事をくれた。そんなに昨夜のこと気にしているのだろうか?
とりあえず、もとに戻ってくれるように色々話しかけてみようかな。
「昨日のことは別に気にしてないから大丈夫だ。いつも通りにしてくれると嬉しいな」
「ユズルさんは良くても私が……いや、だめですね。過ぎたことをくよくよしても始まりません。よし、王都の案内はご飯食べてから行きますか!」
急にすごく元気になりはじめた。ずっとくよくよしてるよりは嬉しいけど、リースって喜怒哀楽がはっきりしていて見てて面白い。
いつの間にか音も立てずにレイシアさんが戻ってきている。
気のせいかな。やけにニヤニヤしてるように見える。……ひょっとしてレイシアさんってすごく色恋沙汰というか、こういう話題好きなんだろうか?
勝手なイメージなんだけど、なんでも完璧すぎる超人というイメージがあったからこういうギャップを見つけるのは少し嬉しい。ただ、ニヤニヤされる対象が俺とリースっていうことを除けばだけど。
◇ ◇ ◇
互いに食事も終わり、庭で待ち合わせしてる所駆け足でリースがやってきた。
「お待たせしましたユズルさん。それでは行きましょうか!」
二人で揃って館の門を出る。
身長の差もあるので、リースの歩幅に合わせるように歩く。
朝もまだ早いのもあり、周りを見渡せば冒険者が多く見られる。
「そういえばユズルさん、戦闘は少し慣れましたか?」
「ミリアのおかげでなんとかな。今まで盗賊とか、魔物とかそういうのが全く居ない世界に住んでたから色々と考えさせられたよ」
「そうなのですね。ミリアはお転婆なので結構適当にやってるように見えますが、根はしっかりとしてますからね。ユズルさんに指南の依頼しておいてよかったです」
リースがニコニコしながら歩く。
2日と短い間だったけどミリアと過ごしてこの世界の怖いところがはっきりと理解が出来た。本当に感謝しか無い……
そのまま進むと服屋が見つかる。リースが言うには、基本的にここの店で服を仕立てているんだそうだ。
「よかったらユズルさん入りませんか? ユズルさんのいろんな格好見てみたいです!」
「俺の服見ても面白くないと思うけど大丈夫か?」
「ユズルさんの服だから見たいんですよ! ほら、いきますよ!」
リースに押されてドアまで運ばれる。
そのまま店に入ると、男性用から女性用の服まで様々なものが置いてある。
日本でよく見たサッパリとした服というのが少なく、どちらかといえば中世で流行ったような服が多く見られる。
あちこち見回すと、ズボンに大きな穴の開いたものや、切り込みが入った帽子まである。
これ何だ? とおもって見てると「これは獣人族用の服ですね。この穴は尻尾や耳を通すためのものなんです」とリースが説明してくれる。
そういえばまだ獣人族には会ってない……というよりたまたまか? まだ見かけてないがやはりそういった種族の者は居るんだな。機会があったら会ってみたいもんだ。
「ユズルさん、獣人族の服も珍しいですけど、今日はユズルさんの服を選びに来たんですよ! こっちです!」
興味深そうに穴あきズボンを眺めていた俺の腕を、リースがグイッと引っ張る。
連れて行かれたのは、店の奥にある紳士服のコーナーだ。
そこには、仕立ての良さそうなジャケットや、手触りの良さそうなシャツがずらりと並んでいる。
「えっと……これと、あとこの色合いも……うん、これなら!」
リースは俺の体型をじろじろと観察しては、棚から次々と服を取り出して唸っている。普段のおっとりした様子とは違う、妙に真剣な眼差しだ。
俺はされるがまま、着せ替え人形のように立ち尽くすしかない。
「お待たせしました。ユズルさん、これに着替えてみてくれませんか?」
満面の笑みでリースが差し出してきたのは、一揃いの衣装だった。俺が着ているような現代的な服とも、さっき見たような奇抜な服とも違う、落ち着いた色合いのセットだ。
肌触りの良さそうな濃紺のチュニック……ていうやつだったか? それに、その上に羽織る深い茶色の革ベスト。ズボンは伸縮性がありそうで、運転席に座っても窮屈じゃなさそうだ。
そして一番上には、少し使い込まれたような風合いのある、カーキ色のマントが添えられている。
「あまり派手な装飾がついているとトラックの操縦の邪魔になると思いましたので、動きやすくて、でもしっかりとした生地のものを選んでみました。……どうでしょう?」
リースが期待と不安の入り混じった瞳で俺を見上げてくる。確かにこれなら王都の街を歩いても浮かないし、何より彼女が俺のために頭を悩ませて選んでくれたというのが嬉しい。
「ありがとう。すごく良い服だ。早速着てみるよ」
「はい! 楽しみに待ってますね!」
俺は服を受け取り、試着室へと向かった。
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