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13 リースとミリアの出会い

 ミリアに案内され、東門から外へ出る。


「そういえばユズルさんのトラックってどんな乗り物なんですか?」

「ちょっとまってな、今からミリアにだけ見えるようにトラック出すから大声だすんじゃないぞ」


 俺はあたりを見回す。特に人が多くいるわけでもないので、ミリアにだけトラックが見えるようにトラックを召喚した。


「大きいですね……これが馬車の代わりになる乗り物ですか?」

「そうだな、乗ってもらったほうがはやいか」


 俺はおもむろにトラックの助手席を開ける。ミリアは『お邪魔します』と消えそうな小さい声で言って大人しく座る。

 初めて見るトラックに目を輝かせながらも若干不安の表情が見て取れる。でけぇイノシシだもんな、これ。

 ミリアが挟まれないように注意しながら助手席のドアを閉じる。間違えてドアを開けてしまわないように鍵もかける。


「ちょっと大きい音が出るけど心配するなよ」


 ミリアはまっすぐ正面を向く。ユズルはトラックのエンジンをかけた。

『わっ』とミリアは驚きはしたもののすぐに落ち着いた。そしてリースの時のように窓から顔や手を出さないでと一言伝える。


「今から動くんですね……緊張します」

「カルディアの場所がわからないからすぐは動けないんだけどな。ミリア、カルディアはどっちの方向だ?」


 ミリアははっとした表情を見せる。


「あ、ごめんなさい! カルディアはここから右にまがり、最初の分岐路を左に進んでください。そして暫くは道なりです」

「おっけー。動かすぞ!」


 トラックが動き始めた。普段馬車から見ている風景よりも高い場所から周りを見る光景に興奮を隠せない様子で周りをキョロキョロとしている。

 トラックへの恐怖はあまり無いようで運転する側としてもとても助かる。

 そして、今この一瞬だけでも母親の現状への不安を払拭出来たのであれば万々歳だ。



「そういえばリース様はこのトラックのこと知ってるんですよね?」


 暫く運転しているとミリアが喋りだす。


「そうだな、たまたまだったんだが、昨日ゴブリンに襲われているリースをみつけて、その台車に乗っていた荷物をトラックに入れて運んだんだ。何やら雇っていた護衛が逃げたとかで……本当に運が良かったよ」

「その節は本当にありがとうございます。本来なら私が行きたかったのですが、私とリース様は知り合いなのでテストに向かないという理由から外されておりまして……」

「それこそ運が良かっただけだ、あまり気にするな。そういえばこのトラックが後ろ向きに進む時に昔いた場所の言葉を喋るんだ。その音を聞いたリースが凄く怖がっててあれは少しびっくりしたな」


 ミリアが何かを考え込む。

 少し強張った表情でユズルに相談をする。


「ユズルさん、その音って今聞くこと出来ますか?」

「大丈夫だ、ほら、この音」


『左へ曲がります。ご注意ください』


 ユズルはウインカーをつけた。トラックから左折案内の音声が流れる。


「恐らくですが、リース様は過去のトラウマを思い出したのかもしれないです。多分ですが、リース様は襲われるかと思った……みたいなこと言いませんでしたか?」


 思い出すと確かに言っていた。『私は襲われなくて済むの……? 殺されたりしない?』と。


「確かに言っていた。怯え方も尋常ではなかったから少し不安はあったんだ」

「これは私とリース様が初めて会ったときのことなのですが、リース様が6歳の頃、家族団欒で旅行に行ってたのですが、途中でリース様がはぐれてしまったようで……」


 場の空気が重くなる。ミリアの表情も険しいままで、遠くを見つめる。


「当時、私はグレンフォードという街を拠点としており、まだDランクの冒険者でした」


 ミリアはそう前置きすると、それ以上は言葉を続けなかった。

 トラックの走行音だけが、しばらく車内を満たす。


 ◇ ◇ ◇


 これは8年前に起きた、リースが6歳の頃のお話――


 グレンフォード近郊の森は、その日も異様なほど静かだった。


「お父様、お母様……どこにいったの……」


 声が震える。

 泣いてはいけない。泣いたら魔物に見つかる。

 そう分かっているのに喉の奥が熱くなる。


 私は草木をかき分けながら必死に前へ進んだ。

 生き延びるために。魔物に襲われないために。

 そして何より、みんなのところへ帰るために。


 手が痛い。

 気づけば、指先は泥だらけで、葉に切られた傷がいくつも走っていた。

 お嬢様の手だなんて、誰が信じるだろう。


 その時だった。


 木々の隙間に、崩れかけた石造りの遺構が見えた。

 少しあの建物で休憩しましょう。建物が目印になりますし、なにより、もう歩けないです……

 私は力を振り絞り遺跡へ避難し、石造りの床へ座ることが出来た。


――遶九■蜴サ繧(立ち去れ)


 急に声か音かわからない何かが聞こえて体が震える。

 今の音は何……?

 あたりを見回すも視界には何も映らない。

 直後、『ドスンッ、ドスンッ』と鈍い地鳴りが起きる


――謗帝勁縺吶k(排除する)


 気づけば、目の前には巨大なガーディアンが立ち塞がっていた。

 聞いたこともない咆哮。そして、感情を削ぎ落とした氷のように冷たい声。

 逃げなければいけないのに足が竦んで動けない。

 蓄積した疲労が、鉛のように身体を地面に縫い付けていた。


――謗帝勁縺吶k(排除する)


 逃げないと……でも足が竦んで動けない。先程までの疲れのせいで走れない……

 私は死を覚悟した――その瞬間


「おい、お前大丈夫か?」


 人の声が聞こえます。もしかして私助かるのかな。

 見たことのない女性がこちらに走ってくる。それと同時にゴーレムの拳が振り上がる。


「危ない!!」


 振り上げた拳が私目掛けて落とされましたが、女性が私を抱えて距離を取ってくれました。


――谿コ縺(殺す)


「一旦出るぞ。ここにいたらお前死ぬぞ!」


 私は言われるがまま彼女の腕の中で怯えることしか出来なかった……



 命からがら無事遺跡を抜け出すことが出来た。

 魔物避けのお香を炊いたのか、周りには独特な香りが漂う。


「ここまで来るともう安心だね。大丈夫? 怪我はない?」

「切り傷が多いな。もしかして迷子になってのかな?」


 彼女は無言で私にポーションを使ってくれました。

 みるみるうちに細かい傷が治っていきます。


――その瞬間、張り詰めていたものが、ぷつりと切れた。


「あ……あの……」


 お礼を言おうとしたはずなのに、声が途中で止まる。

 喉が詰まって、息がうまく出てこない。


「よしよし、もう大丈夫だぞ」


 その言葉を聞いた途端、肩が小さく揺れ始めた。

 止めようとしても、どうしても止まらない。

 頬に温かいものが流れ落ちる。


「……こわ、かった……」


 それだけ言うのが、精一杯だった。


「よく頑張ったね。もうガーディアンはいないから、安心していいよ」


 その優しい声が、最後の一線を押し流した。


 「……っ、あ…………う、あぁあああああ!!」


 喉の奥から、言葉にならない絶叫に近い嗚咽がせり上がる。

 肺にある空気をすべて吐き出すような激しい泣き声。

 私は彼女の服を震える指先で掴み、縋り付くようにして泣き続けた。

 冷え切っていた体温が、涙と彼女の温もりで、ようやく生きた心地を取り戻していく――。


 ひとしきり泣きじゃくった後、私は消え入るような声で自分の名を教えた。


読了いただきありがとうございます。

公開日時は毎週「月・水・金」の週3日としていますので、よろしくお願いします

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― 新着の感想 ―
ここからは初見ですわ( ' ꒳ ' ) 文字化けってどうやって打ってるんですか?
文字化けで異質さを表現するの良いなぁ…… ゾクッとする。
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